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5章
記憶
しおりを挟む「ユーリアス殿下、お待ちしておりました」
俺はスヴェン、イグリム、サイラスに続いてユーリアスが生徒会室に入ってきたのを見て言った。
「貴様…」
ユーリアスが俺を睨みつけてくる。
「皆さんが欲しがっているものはよく分かっています。このジャグワールの毒の解毒剤でしょう」
俺はそう言って懐から小さな青い瓶を取り出し、開放された窓のサッシの部分にゆっくりと置いた。
「皆さんならお分かりでしょうが、ここは魔法遮断空間。当然、魔法は使えませんので正々堂々とお話いたしましょう。私の要望を聞いてくだされば、素直にこの解毒剤は渡します。しかし、聞いてくださらなければこの解毒剤は窓の外へ落とします。そうなれば、当然シュレイさんは助かりません。お分かりですね?」
「それで、要望はなんなんだよ!?」
サイラスが急かすようにして聞いてきた。
「大して難しいことではありません。ユーリアス・クライン、あなたが持っている懐中時計を私に返してください」
「……」
ユーリアスはやはりそれか、という表情を浮かべた。
「懐中時計ぃ?」
サイラスが予想と違った要望だったのか、拍子抜けしたような声を出した。
「ユーリアスの持ってる懐中時計って、いつも大事に持ってるあの古い懐中時計だよな?なんであいつがユーリアスのもん欲しがるんだ?」
「さぁ…。ユーリアスは心当たりがあるのか?」
イグリムがユーリアスに問いかけた。
「……いや」
ユーリアスは、下を向いて頭を横に振った。
「あなた達に心当たりがなくてもどうでも良いです。懐中時計を渡さなければ、シュレイさんは助からない。単純な話です。それで、懐中時計を返してくれるんですか?ユーリアス・クライン」
「…っ…」
眉尻をピクリと動かし、ユーリアスは俺を睨みつけてきた。
「どうしたんだ?ユーリアス。あいつに懐中時計を渡すと何かまずいことがあるのか?」
「でも、渋ってる場合じゃないよ。とにかく今は、シュレイを助けることを優先しないと」
「そうだな。ユーリアス、あなたがそれを大事にしていることは僕も知っている。でも…今はシュレイを助ける方法がそれしか…」
サイラス、スヴェン、イグリムが順番にユーリアスに声をかけた。
やはり、旧知の友であるこの3人は本当のユーリアスを知らないのだ。マウロと繋がり、俺を嵌めようとしていたもう1つの顔を持つユーリアスのことを。
不実を嫌い、頑固な義人で女神の教えを忠実に守る完全無欠なヒーロー。この3人にすら、そんな仮面をずっとこいつは被ってきたのだ。
だが、それは今の状況では完全に裏目に出ている。
だからこそ、この場所でこの演出を俺は思いついたのだ。ここで彼は自分で仮面を破り、愛しのシュレイを見捨てるなんて選択肢を取るはずがない。
「……分かった。この懐中時計は貴様に渡す」
ギリッと歯を食いしばり、ユーリアスは決意したようだ。
彼はブレザーの内ポケットから懐中時計を取り出し、床に置き、俺の足元へ滑らせてきた。
俺は警戒しながら、屈んで懐中時計をゆっくりと手にした。
「…確かに。それでは、さようなら」
俺はそう言って笑って見せて、窓枠に足をかけ一気にそこから外へ身を投げた。
「シアン…!」
いち早くユーリアスが驚き、叫んだ声が後ろから聞こえた。
風を切る音と共に、両手で握った懐中時計が金色に光を発した。
それを合図に俺は目を瞑って、懐中時計が記録していたシアン・シュドレーの記憶の中へと入りこんだ。
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