31 / 32
4章
女神の夢
しおりを挟む
目を開けると、そこは黒い虚空の空間だった。
「…ここは?」
周りを見渡しながら発した言葉は淋しく谺した。
「ここはあなたの夢の中です」
背後から声がして後ろを振り向くと、美しい女性がいた。髪も肌も身に纏う服も全てが真っ白で、輝きを放っていた。
「あなたは?」
「私は女神リース。あなたをずっと待っていました」
「なぜ、女神が俺を?」
「…どうしてもあなたに伝えなければいけないことがあり、私はあなたの夢の中へ入りました」
伝えたいこととは何だろうか?いや、それよりも女神って本当に存在したのか、など思うことは色々とあった。
「あなたが今後どのような選択をしていくかは分かりません…。しかし、ユーリアス・クラインが持つあの懐中時計だけはなんとしてでも取り返すのです」
「ま、待ってください。取り返す、と仰いましたか?まさか、あの懐中時計は本当に…」
「えぇ。あなたが推測している通りです。あの懐中時計は、私がシアン・シュドレーに与えた時空を操る能力を覚醒させるためのアイテムで、元はあなたが持っていたものです。いえ…正しくはあなたの本当の身体の持ち主が持っていたもの…。しかし、彼は時計を手放し、今はあの男が持っている…非常に厄介なことです」
「どういうことですか?時計を持っていないと、なにか問題があるのですか?」
「時空を操る能力を使うにあたって、最も重要なことは記憶です。実は、あの懐中時計は時空を操る能力を使った時に記憶を呼び起こすためのものでもあります。だからこそ、あの懐中時計を手放してしまえば能力に覚醒したこともそれに関する記憶も忘れ、そもそも能力を使うことが出来なくなるのです。いえ、出来なくなるはずだったのですが…」
女神リースは神妙な面持ちで目を瞑った。
「…大丈夫ですか?」
「えぇ…」
「あの…では、つまり…私は今懐中時計を持っていないから、あなたからいただいた能力のことを忘れていたということですか?」
「まさに、その通りです」
しかし、そうなると…シアン・シュドレーはいつ時空を操る能力を覚醒させ、使ったのだろうか?それに、ユーリアスに懐中時計を渡したタイミングも分からない。謎は生まれていくばかりだ。
「…そろそろ時間のようです。ごめんなさい。私の口からあなたに全てを話すことは出来ません。ただ、あなたが元の世界へ戻りたいか、それともこの世界でシアン・シュドレーとして生きるかいずれかの選択を選ぶとしても、必ずあの懐中時計を取り戻し記憶を呼び起こす必要があります。これだけは絶対に忘れてはなりません…お願い…どうか、彼の分まで…」
「待ってくれ、元の世界って…」
俺の言葉に耳を傾ける様子はなく、女神リースは蝋燭の火がフッと消えるように姿を消してしまった。
そして、目を開け飛び起きると、そこは朝日が差し込む寮の自分の部屋だった。
「シアン?」
隣でイブリンが起き上がって、心配そうに声をかけてくれた。
「…大丈夫だ。少し、夢を見ていた…。起こして悪い」
「ううん、もう起きてたから大丈夫」
「そうか…」
「シアン、おはよ」
ちゅ、と不意にイブリンが俺の頬にキスを落としてきた。
「な…にすんだ、お前」
「ふふ、昨日の上書き足りなかったかなと思って…」
「っ…!離れろ!許可してないことを勝手にするな!!」
俺はこの異常な近さを見て今更になって正気を取り戻した。枕をイブリンの顔に押し付け、距離を取らせる。
「可愛かったなぁ、昨日のシアン」
「反芻するな。もう出てけ!」
「まぁまぁ、そう怒らず。一夜を共にしたんだから、もっとイチャイチャしようよ」
「変な言い方をするな!」
「ふふっごめん。つい楽しくなっちゃって…。お願い、顔見せて」
耳が溶けそうな程優しい声色が聞こえて、俺はイブリンの顔に押し付けていた枕を渋々退かした。
イブリンは俺の顔に手を触れて、まじまじと見てきた。
「眠れた?」
「ん、まぁ…」
「なら良かった。さ、一緒に朝ごはん食べよう」
イブリンはそう言って、ベッドから降りて俺に手を差し伸べた。
夢で見たことは鮮明に覚えていた。これからの不安は、きっとこいつにも勘づかれている。それぐらい彼は、俺のことをよく見ている。けれど、いつだって彼は俺の不安を払い除けようとしてくれるのだ。
今なら、その優しさがよく分かる。そして、なぜそうしてくれるのかも…。
だから、俺は彼が差し伸べてくれたその手を掴もう。
「ありがとな…」
ありふれた言葉だが、自分が今感じている心からの思いを彼に伝えた。
「…ここは?」
周りを見渡しながら発した言葉は淋しく谺した。
「ここはあなたの夢の中です」
背後から声がして後ろを振り向くと、美しい女性がいた。髪も肌も身に纏う服も全てが真っ白で、輝きを放っていた。
「あなたは?」
「私は女神リース。あなたをずっと待っていました」
「なぜ、女神が俺を?」
「…どうしてもあなたに伝えなければいけないことがあり、私はあなたの夢の中へ入りました」
伝えたいこととは何だろうか?いや、それよりも女神って本当に存在したのか、など思うことは色々とあった。
「あなたが今後どのような選択をしていくかは分かりません…。しかし、ユーリアス・クラインが持つあの懐中時計だけはなんとしてでも取り返すのです」
「ま、待ってください。取り返す、と仰いましたか?まさか、あの懐中時計は本当に…」
「えぇ。あなたが推測している通りです。あの懐中時計は、私がシアン・シュドレーに与えた時空を操る能力を覚醒させるためのアイテムで、元はあなたが持っていたものです。いえ…正しくはあなたの本当の身体の持ち主が持っていたもの…。しかし、彼は時計を手放し、今はあの男が持っている…非常に厄介なことです」
「どういうことですか?時計を持っていないと、なにか問題があるのですか?」
「時空を操る能力を使うにあたって、最も重要なことは記憶です。実は、あの懐中時計は時空を操る能力を使った時に記憶を呼び起こすためのものでもあります。だからこそ、あの懐中時計を手放してしまえば能力に覚醒したこともそれに関する記憶も忘れ、そもそも能力を使うことが出来なくなるのです。いえ、出来なくなるはずだったのですが…」
女神リースは神妙な面持ちで目を瞑った。
「…大丈夫ですか?」
「えぇ…」
「あの…では、つまり…私は今懐中時計を持っていないから、あなたからいただいた能力のことを忘れていたということですか?」
「まさに、その通りです」
しかし、そうなると…シアン・シュドレーはいつ時空を操る能力を覚醒させ、使ったのだろうか?それに、ユーリアスに懐中時計を渡したタイミングも分からない。謎は生まれていくばかりだ。
「…そろそろ時間のようです。ごめんなさい。私の口からあなたに全てを話すことは出来ません。ただ、あなたが元の世界へ戻りたいか、それともこの世界でシアン・シュドレーとして生きるかいずれかの選択を選ぶとしても、必ずあの懐中時計を取り戻し記憶を呼び起こす必要があります。これだけは絶対に忘れてはなりません…お願い…どうか、彼の分まで…」
「待ってくれ、元の世界って…」
俺の言葉に耳を傾ける様子はなく、女神リースは蝋燭の火がフッと消えるように姿を消してしまった。
そして、目を開け飛び起きると、そこは朝日が差し込む寮の自分の部屋だった。
「シアン?」
隣でイブリンが起き上がって、心配そうに声をかけてくれた。
「…大丈夫だ。少し、夢を見ていた…。起こして悪い」
「ううん、もう起きてたから大丈夫」
「そうか…」
「シアン、おはよ」
ちゅ、と不意にイブリンが俺の頬にキスを落としてきた。
「な…にすんだ、お前」
「ふふ、昨日の上書き足りなかったかなと思って…」
「っ…!離れろ!許可してないことを勝手にするな!!」
俺はこの異常な近さを見て今更になって正気を取り戻した。枕をイブリンの顔に押し付け、距離を取らせる。
「可愛かったなぁ、昨日のシアン」
「反芻するな。もう出てけ!」
「まぁまぁ、そう怒らず。一夜を共にしたんだから、もっとイチャイチャしようよ」
「変な言い方をするな!」
「ふふっごめん。つい楽しくなっちゃって…。お願い、顔見せて」
耳が溶けそうな程優しい声色が聞こえて、俺はイブリンの顔に押し付けていた枕を渋々退かした。
イブリンは俺の顔に手を触れて、まじまじと見てきた。
「眠れた?」
「ん、まぁ…」
「なら良かった。さ、一緒に朝ごはん食べよう」
イブリンはそう言って、ベッドから降りて俺に手を差し伸べた。
夢で見たことは鮮明に覚えていた。これからの不安は、きっとこいつにも勘づかれている。それぐらい彼は、俺のことをよく見ている。けれど、いつだって彼は俺の不安を払い除けようとしてくれるのだ。
今なら、その優しさがよく分かる。そして、なぜそうしてくれるのかも…。
だから、俺は彼が差し伸べてくれたその手を掴もう。
「ありがとな…」
ありふれた言葉だが、自分が今感じている心からの思いを彼に伝えた。
117
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
蔑まれ王子と愛され王子
あぎ
BL
蔑まれ王子と愛され王子
蔑まれ王子
顔が醜いからと城の別邸に幽閉されている。
基本的なことは1人でできる。
父と母にここ何年もあっていない
愛され王子
顔が美しく、次の国大使。
全属性を使える。光魔法も抜かりなく使える
兄として弟のために頑張らないと!と頑張っていたが弟がいなくなっていて病んだ
父と母はこの世界でいちばん大嫌い
※pixiv掲載小説※
自身の掲載小説のため、オリジナルです
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
使命を全うするために俺は死にます。
あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。
とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。
だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった
なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。
それが、みなに忘れられても_
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!
あ
BL
16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。
僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。
目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!
しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?
バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!
でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?
嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。
◎体格差、年の差カップル
※てんぱる様の表紙をお借りしました。
転生場所は嫌われ所
あぎ
BL
会社員の千鶴(ちずる)は、今日も今日とて残業で、疲れていた
そんな時、男子高校生が、きらりと光る穴へ吸い込まれたのを見た。
※
※
最近かなり頻繁に起こる、これを皆『ホワイトルーム現象』と読んでいた。
とある解析者が、『ホワイトルーム現象が起きた時、その場にいると私たちの住む現実世界から望む仮想世界へ行くことが出来ます。』と、発表したが、それ以降、ホワイトルーム現象は起きなくなった
※
※
そんな中、千鶴が見たのは何年も前に消息したはずのホワイトルーム現象。可愛らしい男の子が吸い込まれていて。
彼を助けたら、解析者の言う通りの異世界で。
16:00更新
不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる