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4章

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鳥の鳴き声と、差し込んだ朝日の光で俺はパチリと目を覚ました。

頭を突っ伏した状態から起き上がると、ベッドで呼吸器を付けて眠る彼の姿を見た。

また俺は彼に肝心なことを言うことが出来ずに目を覚ましてしまったのだと気づく。

眠る彼を長いこと見た。あの世界の中でのあなたなら、こんなに長いこと見てしまえば見るなと猫のように睨みつけるだろう。けれど、今目の前にいるあなたをどれだけ見やしたって帰ってくるのは沈黙だけだった。それが現実なのだと思うと、俺はまた彼に触れて体温を確認して、「大丈夫、彼は生きているから」と、無理に自分を安心させる他ない。

「絶対にあなたをこの世界に戻してみせる…」

俺は彼の手を強く握って、再び眠りについた。






-----------------------------------



「シアン、おっはよー」

俺は朝から大好きな人の後ろ姿を見て、思わず飛びついた。

「お、まえなぁ…!重いんだよ!」

彼は、そう言って俺を睨みつけてきた。
その憎たらしくも可愛らしいその怒った表情がたまらなく俺は彼の頭を撫でる。

「撫でるな!」

「そんなに怒らないでよ。あまりに可愛くてさ」

「ほんっと、うざいな」

「ふふ、口悪いところもほんと可愛いなぁ」

「……なんか、今日のお前いつにも増してうざい」

「えぇ?うーん、久しぶりに学園生活が始まって、またシアンといられるのが嬉しいからかな」

「いや、エルネにいた時もほとんどずっと一緒だっただろ」

「まぁ確かに!また、学園で頑張ろうね」

「…ん」

シアンは小さく頷いてくれた。

そう、エルネで過ごした長期休暇は終わり、今日から再び学園生活が始まった。

俺たちは早くも2年に飛び級し、新しいクラスへと向かっていた。

「でも、2年に上がったのにクラス替えがないのが残念。シアンと同じクラスになりたかったから」

「はいはい、そうですね」

「あっ、ちょっと!テキトーにあしらわないでよ」

俺はシアンの顔を除きこんで言った。

「相変わらずだな、君たちは」

そう俺たちの目の前に現れて声をかけてきたのは、オーリーだ。

「オーリー、なんか日に焼けたか?」

俺は彼のこんがりとした肌の焼け具合を見て聞いた。

「今更だな。エルネに行って、散々ハルノにいろんな所へ連れ回されて、こんな風になってしまったんだ」

「なるほど…。エルネは比較的気温の低い国だけど、太陽の光は強いから長く外に出るなら日焼け止め塗っとかないとすぐ焼けちゃうんだ」

「くそっ…それを早く聞きたかったものだ」

オーリーが悔しそうに拳を握ってそう言った。

「それで、ハルノは?」

「今日はまだ見てないよ」

「見たら報告してくれ。一言いってやる」

「わかったよ」

オーリーはそう言って、ハルノを探しに去っていった。

「いつの間にか2人、仲良くなってるね」

「仲良くなってる…のか?」

「エルネにいた時、ハルノに実は頼んでたんだよね。なるべくシアンといたいから、オーリーと出かけてくれない?って。あ、もちろん無理には頼んでないからね」

「第二王子にそんなお願いされたら、ハルノも断ろうにも断れないだろ…」

「あー、そっか…。ごめん、そこまでは考えいたらなかったな。後でハルノに感謝しないとね…。でも、4人で何回か遊んだ時は楽しかったな。湖に行った時とかさ、オーリーが小舟から落ちちゃって…」

「…あぁ、確かにあれは面白かった。足がつく浅いところだったのにあいつ…ははっ」

シアンが笑った。
彼の笑顔はとても貴重で、そんなに見られるものじゃなかった。
しかし、エルネにいた期間彼は本当に笑うことが増えた。それは、アルティアに戻ってきても変わらない様で、彼の笑顔を見て俺も思わず笑みが零れてしまう。

この囁かに咲く花のように綺麗な笑顔を俺は守りたいと思った。

しかし…この世界はそう簡単に上手くはいかないのだ。

「聞きまして?なんでも、シュドレー公爵が議会で信仰調査を報告して、リース教の解散を求めたそうよ」

「ああ、聞いたさ。だが、信仰調査の結果には驚かされたなぁ。リース教信仰の貴族の5割が棄教をしたそうだ。こんな最悪な結果は何年ぶりだ?」

「だけれど、シュドレー公爵がまたなにか手を回したんじゃないかと噂になっているわ」

「まさか。流石にシュドレー公爵もそんなことはしないだろう。無理矢理棄教させるなんて、いくら公爵家でも許されないことだ」

戻って早々、学園はしばらくこの話題で持ちきりだ。
また、ビケの森の魔獣討伐大会のようにシナリオの進みが早まっている。
ここにきて、シュドレー公爵が本格的に動きはじめたのだ。

本来のシナリオでは、シュレイたちが3年に上がってすぐにシュドレー公爵家は議会であることを報告しにいった。信仰調査という、一年に一度貴族に向けて行われるリース教信仰を調べる調査だ。簡単な〇‪✕‬‪‪問題の調査で、無信仰の家門も調査の対象になるそうだ。例年、リース教の信仰は落ちることはなく数値としては右肩上がりか横波が普通だ。しかし、今年の調査ではなんと数値がガクンと落ちてしまい、元々信仰していた貴族の5割がリース教を棄教するという最悪な結果が調査で明かされた。

これは、歴代調査を遡っても類を見ない割合らしく国は騒然となり、シュドレー公爵が狙ったようなタイミングで議会でリース教解散の要求を国王に申し立てたのだ。
この出来事から、どんどんこの王国はリース教と国王への疑惑や不信を募らせていくことになる。

だが、そんな疑惑や不信は結局主人公たちの力によって一転していくのだが…そうなると、シアンはもう取り返しようのない最悪な結末に辿りつくことになってしまう。
それだけは絶対に、避けなければいけないのだ。

「シアン、シュドレー公爵のことだけど…」

「俺とあの人は関係ない。父上が何をしてても、俺が手を貸すようなことは絶対にないから安心しろ」

「うん、大丈夫。分かってるよ」

「でも…それでも、どうしようも無くなったとき…また助けを求めてもいいか?」

彼が俺のブレザーの裾を掴んで、そう聞いてきた。そのギュッと子供のように掴んだ手を見て、俺は胸が締め付けられるようだった。

「もちろんだよ。絶対に助けるから、安心して」

彼の右手を両手で包んで、俺はそう返した。

彼は、本当に変わりつつあった。
自分の心に耳を傾けるようになり、顔にも言葉にもその心は分かりやすく現れるようになっていた。

そうやって、どんどん彼が自分の心を、自分自身を分かるようになっていければ俺はそれ以上に嬉しいことは無かった。
そして、あわよくば俺を好きになって…なんて下心が全くないかと問われれば嘘になるけど、でも彼が幸せになること、彼が求めることに対して俺は手を貸していきたいと思う。

チラッと可愛らしく上目遣いで俺を見てくるので、俺は微笑んでみせた。彼は少し照れたようにして目線を外し、俺の手を力なく握り返してくれた。




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