悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ

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2章

ビケの森

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彫像損壊事件から早2週間が経った。
あの事件は、6人が結託して彫像を破壊したと結論づけられ、彼らは2ヶ月の停学処分と6点の彫像の修理を負担することを言い渡された。
魔石はシュドレー公爵家が用意したということばかりは覆すことが出来ない事実であるため、俺は「友人たちに売るために持ち込んだがいつの間にか盗まれていた」と証言した。加えて、「はじめ6名を庇ったことは、ただ友人として素直に彼らが言っていたことを信用し無実を晴らそうとしただけ。だから、彫像を破壊した件とは無関係だ」と話した。

もちろん盗まれたなんて全くの嘘だが、あいつらも嘘を言っていたわけだしおあいこということで良いだろうと思った。
この証言に加え、シュドレー公爵である父が押し切って俺は彫像損壊事件には関与していないということになった。

しかし、学園の理事長が言うには、学園に魔石を持ち込んだことと人工的な石持ちであることを隠していたことは流石に無視できないとのことなので、俺は2週間の停学を食らった。父からは、その間実家へ戻るようにと言われたが何をされるか分かったもんじゃないので無視して、寮に留まることにした。

そして今日、ひたすらただ引きこもってやっと2週間ぶりに学園に戻ってきたのだが…登校してからずっと周りの生徒は俺をジロジロと見て陰口を叩いている。

(今回の件どうにか出来たと思ったが、周りから見れば事実を公爵家の力でねじ伏せたみたいにそりゃ映るだろうな。いや、実際そういうことになるか…)

まぁ使える権力は使わねば勿体ない。今回は自分の身を守るために使ったということにしようと気を紛らわした。

「シアン、おはよー!」

うるさい奴がきた。

「あっ、煩わしいみたいな顔しないでよー!シアンが2週間もいないから寂しかったんだよ」

朝からうるさくて、ベタベタくっついてくるこいつは、イブリン・ヴァレントというまだ謎多き男。

「寂しかったって、お前ここ2週間ほぼ毎日俺の部屋に押し入ってきてただろ」

「いやいや、でも学園で会えないのとはまた違うでしょ!だから、本当に戻ってきてくれて嬉しい」

そう言ってイブリンは人懐っこい笑顔を見せた。うっ…今日は注目されている分周りからの視線が痛い…。

俺は、とっとと自分の教室に行くことにする。

「あっシアン待って」

「なんだよ」

「1年生の中間実技試験、無くなったの知ってる?」

「ああ…今回の騒動で試験どころじゃなくなったんだっけ?」

「そう。でも、その代わりに別の試験を1年生はやることになったらしい」

「別の試験?」

「…ビケの森魔獣討伐大会に参加すること」

「ビケの森…」

ビケの森とは、学園からは割と近い所に位置する魔獣のみが潜む森だ。昔、この王国が対立していた時魔獣はあちこちに生息し人を襲っていた。そのあまりの危険性から、女神が魔獣を付き従わせビケの森へ閉じ込めた。今は、魔獣を森から外へ出さないために魔法庁が定期的に魔法陣を貼り替えているという。
魔獣討伐大会は、そんな魔獣が山のように潜むジャングル、ビケの森で年に1度行われる。討伐大会と言われているが、討伐数が重要ではなく早く森を出た者が優勝とされる。と言うのも、魔獣は人を見ると襲う性質故、戦うことは避けられない。だからこそ、最も早く外へ出られた者が多くの魔獣を相手に難なく応戦できたということであり、最も優秀であることを意味する。
もちろん、ゲームでこの大会イベントはシナリオに入っている。しかし…。

「魔獣討伐大会に参加できるのは、2年生からじゃなかったのか?」

「ああ、俺もそう聞いてた。だけど今回は特例として1年生も参加することを許して、前期の成績をつけるんだって」

「だが、まだ魔法を覚えたての奴らもいる中で魔獣討伐は早すぎるんじゃないか?」

「俺もそう思う。そのリスクから、大会へ参加した1年生は2年へすぐ進級できることになるんだって」

「はぁ?なんだそれ…。特例にも程があるだろ。ちなみに、大会に参加しないっていう手段はあるのか?」

「うん、まぁ…学科試験があってそれを受ければ普通に前期の成績が決まってたんだけど…。その…シアンが停学中に終わっちゃったんだ」

「………はぁ。つまり、大会に出なければいけない訳だな」

「で、でもねシアン、安心して!俺も大会出るから!中間実技試験で一緒にペア組もうって約束したんだから、絶対俺が守るよ」

「約束した覚えはないけどな。でも、そうだな…仕方ない。お前とペアになって大会出るよ」

「ほんと!?シアンーー!」

またデカい図体に抱きしめられ、俺はやめろと言わんばかりにイブリンの脇腹を軽くグーで殴った。

それにしても不思議だった。
2年生になって起こるはずのイベントが何故このタイミングで行われることになったのか…。
俺がシナリオを変えてしまったことが原因なのか?疑問はたくさん生まれた。しかし、何よりも大きな問題がこの先待ち受けているかもしれない。
もし、この大会が2年生のときのシナリオ通りで進められるのだとしたら、俺はまた悪役として巻き込まれる可能性があるからだ。この大会はシュレイにとっては非常に重要なイベントであり、シアンの悪事によって彼の運命が変わる。

そうなると、今回シュレイの運命を動かすために悪役令息としてシナリオ通りに動くか動かないか、考えてしまう。

だが結局、深く考えるのを止めて…

「シアン、大会の参加届出しに行こ!」

こいつの、イブリンの顔を見て、不思議と安心感が出てきて…俺は「まぁ、今回も何とかなるかもしれない」という漠然とした思いを抱いて、歩みを進めた。
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