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【ジング】成長と奴隷
小西 16話
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「西羽内では段位が存在します。1から10の段位は番号が若くなればなる程に西羽団体での地位や発言力が上がります。そして西羽団体の職務の内容上、純粋な戦闘力が求められる事から西羽団体での段位番号が若い人は、│国士《こくし》 と呼ばれる国の純粋な戦力と数えられる程の実力の持ち主が数名います。ここまではよろしいでしょうか?」
俺が想像していた伝令を担う鳥のイメージを数段飛び越える形で、今俺は西羽の連絡係である、仕鳥に「口頭」で伝令を受けていた。もはや元の世界の人工知能とやらも、凌いでいるかもしれない。俺が宿泊している部屋の窓枠に可愛らしく佇み、光が跳ねる程の白の体に凛とした黒の瞳を持つ掌サイズの小鳥は、規則的に知性を感じる瞳を俺に向けた。
「あぁ、大体は大丈夫だ。ある程度は昨日貰った規則板に目を通してる」
昨日目を通す様にと渡された規則板は、白く軽い石板でできており、触れると薄く光る文字が浮かび上がる不思議な物だった。この世界の文字を書く事はできなくとも、読む事ができる俺は昨日の夜遅くまで指先で触れる度に、ページを捲るが如く変化する不思議な板に釘付けになった事を思い出す。
「それでは、コニシさんの段位の審査結果をお伝えします。西羽団体での審査結果は段位【単独8段】です。隊での登録は無い為にコニシさん一人での評価になりますが、私の記録に基づいて西羽団体内での段位だけを見ると、一人前一歩手前と言った所ですね。これから西羽ジング支店で証を受け取る為の、要請が出ていますので準備が整い次第向かって下さい」
「そうか、ありがとう。すぐに向かうよ」
「宜しくお願いします」
店主にもう一泊する事と、残り僅かになったオーファを渡して西羽へと向かった。
到着すると昨日と同じ様に眼鏡の男性が声を掛けてくれ、黒い腕輪を差し出されたので受け取り礼を言う。
「腕輪に白い線があるのが分かりますか?それは単独での段位を表す物です。コニシさんは単独8段なので、2本あります。他の街でもその腕輪一つで、コニシさんの情報が分かるので大切にして下さいね」
「無くさない様にするよ。それと、悪さもしない」
「はい、お願いします。西羽に不利益な悪行を働くと、本当にデメリットしかないので辞めた方がいいですね」
「どうなるか、想像したくもないな。それで、早速仕事が欲しい。恥ずかしい話だが、オーファが底を尽きそうだ」
「では、初任任務も兼ねて私が斡旋しますがよろしいですか?」
「お願いするよ。規則的な事以外は何も分からないからな」
「ではこの街から、徒歩で東に──」
それから目立った暇を作る日もなく、仕事を眼鏡の男性──タクトさんに世話になった。年は若く見えるが、面倒見が良く丁寧な仕事をするタクトさんに、この施設に来た時からの縁もあって担当の様になってもらっていた。
未だに間違った物も摘んできてしまう、薬草の採取やまだ改善の余地が多く見られる魔物の肉を目的とした狩り等、目立つ仕事は無かったが使い道を決めているオーファは目に見えて貯まっていった。
自主的にできる魔力と発現の鍛練や肉体的な鍛練は欠かさなかったが、地道に進む毎日に本当の目的を忘れるなと、自身に言い聞かせている内に暑い暑いと言っていた毎日が終わり、西羽から厚手の上着を支給される季節になった。
「俺から西羽に依頼を出したい」
「あの件ですね、分かりました。、すぐに手配できますよ」
「いつもありがとう。本当に助かるよ」
「いえいえ、これで討伐依頼をコニシさんにも回せそうです。人手はいくらあっても、足りないですから」
──「仕事」として、俺に魔力の扱い方を教えてくれる人を探してほしい。
そう言った俺に嫌な顔一つ見せずに、快諾してくれたタクトさんには頭が上がらない。
コツコツと貯め続けたオーファの大半を、タクトさんに渡すと「確かに」と言い、明日の昼にこの場所で俺の依頼を受託した人物と落ち合う段取りを付ける事を言い残し、忙しそうに職員用と思われる部屋へと入っていった。
「あんた、弟子が師匠待たしてどうすんのさ」
翌日昼前に指定場所に行くと、地毛であると疑いようのない光を通す金の髪を肩口で切り揃えた女性がいた。金の髪が良く映える白い肌に着込んだ、地に付きそうな毛皮のローブが妙に女性を感じさせた。
「申し訳ない。これでも早すぎるかと思ったんだが」
「言い訳しない!」
俺を指差す細い腕に着けている黒い腕輪には、白い線が6本刻まれていた。恐らくは10代半ばであろう見た目の女の子が、自身より数段上の世界に位置する事に妙な劣等感を得た。
「まあまあ、これから一時的にですけど師弟関係を結ぶんですから、仲良くやって下さいよ、クララさん」
「タクトさんは甘いんだよ! まあでも1回目だし、もういい。はい、クララ・シュシュ」
一方的に差し出された小さな手を慌てて握る。
「コニシ・ミツネです。宜しくお願いします」
「気味悪い喋り方しないで。ミツネ、私の事は師匠と呼びなさい。シショーよ、分かった?」
この人には波を立ててはいけないと、直感が強く働いた。
「分かったよ、師匠。宜しく頼む」
ふっと噛み殺した笑顔を見て、自身が苦手とするタイプの人間だと理解できた。最も得意なタイプの女性も存在しないのだが。
細々とした手続きを済ませ、師匠に言われるがまま世話になっている宿に明日から暫く街を出る事を伝え、街を出て寒さに凍えながらも歩き続けた。場は森の中へと移り、ひたすら歩いていくと、不意に拓けた場所に出て師匠は歩みを止めた。目の前には壁の様に巨大な岩があるこの場所が目的地なのか、それとも別の理由があるのか華奢な背中からは読み取れなかった。
「これで雨風はある程度防げるね。ここが今日からあなたの拠点。近くに水場もあるし、魔物や野生動物も寄り付かない様にしてある。衣類も持ってきてるよね。なら後は、寝る場所だけだね」
そう言い終え、細い腕で目の前の岩を殴り付けた。その光景に、何故か背が震えた。
──これが、4段の実力か
ほんの少し小突いただけで、妙な音を立てながら岩が削れた。いや、削れたというよりは、大きな穴が空いたと言った方が適切かもしれない。
「重さを操れる、それが私の能力。軽くは苦手だけど、重くするのは得意。今のは岩の一部を押し潰しただけ。それで、あなたの能力は?」
迷った。未だに俺は発現を人に見せた事がない。魔力の扱いを教えて貰うだけで良かったのだが、この目の前の人は間違いなく中途半端を嫌う人間だ。
「能力を易々と見せるのは、確かに良くないね。でも私は信用してる」
とても10代とは思えない深みのある瞳で、俺を見ていた。
「勘違いしないでね。まだ、あなた自身を私は信用してない。私は、タクトさんが信用しているあなたを、信用している。あなたもタクトさんが信用した私を信じて。あなたが貯めたオーファの価値を、私はタクトさんから聞いている」
俺は、何を戸惑っていたのか。目の前の人間がどういった人間かも分からない程に、目的に目が眩んでいた。
早く、一刻も早く強く──
「確かに、言う通りだ」
掌に青く光る雷を纏い、先程の大穴とは別の位置に掌打を繰り出したが、以前とは明らかに違う練度の雷を纏った一撃は、岩に手形の穴を開けただけだった。肘まで岩に埋まった腕を抜き、自身の黒髪を隠している帽子に手を掛ける。
──この人には、隠す意味もないだろう。
「それでよし。でも見た事ない能力ね」
帽子に手を掛けた俺を見て、何故か目の前の女性が慌てているのが見てとれた。
「もう隠し事はしないよ、師匠」
「いや、そこまでしなくてもいいって! 辞めて!」
大きさな静止を無視して帽子を取ると、マノ村で切り揃えた筈の髪も随分と伸び、支えを失った前髪が目に掛かった。
「俺は神の遣いだ」
「え、なんで……? 禿げて、ない?」
俺はやはりこの人が少し苦手だ。
俺が想像していた伝令を担う鳥のイメージを数段飛び越える形で、今俺は西羽の連絡係である、仕鳥に「口頭」で伝令を受けていた。もはや元の世界の人工知能とやらも、凌いでいるかもしれない。俺が宿泊している部屋の窓枠に可愛らしく佇み、光が跳ねる程の白の体に凛とした黒の瞳を持つ掌サイズの小鳥は、規則的に知性を感じる瞳を俺に向けた。
「あぁ、大体は大丈夫だ。ある程度は昨日貰った規則板に目を通してる」
昨日目を通す様にと渡された規則板は、白く軽い石板でできており、触れると薄く光る文字が浮かび上がる不思議な物だった。この世界の文字を書く事はできなくとも、読む事ができる俺は昨日の夜遅くまで指先で触れる度に、ページを捲るが如く変化する不思議な板に釘付けになった事を思い出す。
「それでは、コニシさんの段位の審査結果をお伝えします。西羽団体での審査結果は段位【単独8段】です。隊での登録は無い為にコニシさん一人での評価になりますが、私の記録に基づいて西羽団体内での段位だけを見ると、一人前一歩手前と言った所ですね。これから西羽ジング支店で証を受け取る為の、要請が出ていますので準備が整い次第向かって下さい」
「そうか、ありがとう。すぐに向かうよ」
「宜しくお願いします」
店主にもう一泊する事と、残り僅かになったオーファを渡して西羽へと向かった。
到着すると昨日と同じ様に眼鏡の男性が声を掛けてくれ、黒い腕輪を差し出されたので受け取り礼を言う。
「腕輪に白い線があるのが分かりますか?それは単独での段位を表す物です。コニシさんは単独8段なので、2本あります。他の街でもその腕輪一つで、コニシさんの情報が分かるので大切にして下さいね」
「無くさない様にするよ。それと、悪さもしない」
「はい、お願いします。西羽に不利益な悪行を働くと、本当にデメリットしかないので辞めた方がいいですね」
「どうなるか、想像したくもないな。それで、早速仕事が欲しい。恥ずかしい話だが、オーファが底を尽きそうだ」
「では、初任任務も兼ねて私が斡旋しますがよろしいですか?」
「お願いするよ。規則的な事以外は何も分からないからな」
「ではこの街から、徒歩で東に──」
それから目立った暇を作る日もなく、仕事を眼鏡の男性──タクトさんに世話になった。年は若く見えるが、面倒見が良く丁寧な仕事をするタクトさんに、この施設に来た時からの縁もあって担当の様になってもらっていた。
未だに間違った物も摘んできてしまう、薬草の採取やまだ改善の余地が多く見られる魔物の肉を目的とした狩り等、目立つ仕事は無かったが使い道を決めているオーファは目に見えて貯まっていった。
自主的にできる魔力と発現の鍛練や肉体的な鍛練は欠かさなかったが、地道に進む毎日に本当の目的を忘れるなと、自身に言い聞かせている内に暑い暑いと言っていた毎日が終わり、西羽から厚手の上着を支給される季節になった。
「俺から西羽に依頼を出したい」
「あの件ですね、分かりました。、すぐに手配できますよ」
「いつもありがとう。本当に助かるよ」
「いえいえ、これで討伐依頼をコニシさんにも回せそうです。人手はいくらあっても、足りないですから」
──「仕事」として、俺に魔力の扱い方を教えてくれる人を探してほしい。
そう言った俺に嫌な顔一つ見せずに、快諾してくれたタクトさんには頭が上がらない。
コツコツと貯め続けたオーファの大半を、タクトさんに渡すと「確かに」と言い、明日の昼にこの場所で俺の依頼を受託した人物と落ち合う段取りを付ける事を言い残し、忙しそうに職員用と思われる部屋へと入っていった。
「あんた、弟子が師匠待たしてどうすんのさ」
翌日昼前に指定場所に行くと、地毛であると疑いようのない光を通す金の髪を肩口で切り揃えた女性がいた。金の髪が良く映える白い肌に着込んだ、地に付きそうな毛皮のローブが妙に女性を感じさせた。
「申し訳ない。これでも早すぎるかと思ったんだが」
「言い訳しない!」
俺を指差す細い腕に着けている黒い腕輪には、白い線が6本刻まれていた。恐らくは10代半ばであろう見た目の女の子が、自身より数段上の世界に位置する事に妙な劣等感を得た。
「まあまあ、これから一時的にですけど師弟関係を結ぶんですから、仲良くやって下さいよ、クララさん」
「タクトさんは甘いんだよ! まあでも1回目だし、もういい。はい、クララ・シュシュ」
一方的に差し出された小さな手を慌てて握る。
「コニシ・ミツネです。宜しくお願いします」
「気味悪い喋り方しないで。ミツネ、私の事は師匠と呼びなさい。シショーよ、分かった?」
この人には波を立ててはいけないと、直感が強く働いた。
「分かったよ、師匠。宜しく頼む」
ふっと噛み殺した笑顔を見て、自身が苦手とするタイプの人間だと理解できた。最も得意なタイプの女性も存在しないのだが。
細々とした手続きを済ませ、師匠に言われるがまま世話になっている宿に明日から暫く街を出る事を伝え、街を出て寒さに凍えながらも歩き続けた。場は森の中へと移り、ひたすら歩いていくと、不意に拓けた場所に出て師匠は歩みを止めた。目の前には壁の様に巨大な岩があるこの場所が目的地なのか、それとも別の理由があるのか華奢な背中からは読み取れなかった。
「これで雨風はある程度防げるね。ここが今日からあなたの拠点。近くに水場もあるし、魔物や野生動物も寄り付かない様にしてある。衣類も持ってきてるよね。なら後は、寝る場所だけだね」
そう言い終え、細い腕で目の前の岩を殴り付けた。その光景に、何故か背が震えた。
──これが、4段の実力か
ほんの少し小突いただけで、妙な音を立てながら岩が削れた。いや、削れたというよりは、大きな穴が空いたと言った方が適切かもしれない。
「重さを操れる、それが私の能力。軽くは苦手だけど、重くするのは得意。今のは岩の一部を押し潰しただけ。それで、あなたの能力は?」
迷った。未だに俺は発現を人に見せた事がない。魔力の扱いを教えて貰うだけで良かったのだが、この目の前の人は間違いなく中途半端を嫌う人間だ。
「能力を易々と見せるのは、確かに良くないね。でも私は信用してる」
とても10代とは思えない深みのある瞳で、俺を見ていた。
「勘違いしないでね。まだ、あなた自身を私は信用してない。私は、タクトさんが信用しているあなたを、信用している。あなたもタクトさんが信用した私を信じて。あなたが貯めたオーファの価値を、私はタクトさんから聞いている」
俺は、何を戸惑っていたのか。目の前の人間がどういった人間かも分からない程に、目的に目が眩んでいた。
早く、一刻も早く強く──
「確かに、言う通りだ」
掌に青く光る雷を纏い、先程の大穴とは別の位置に掌打を繰り出したが、以前とは明らかに違う練度の雷を纏った一撃は、岩に手形の穴を開けただけだった。肘まで岩に埋まった腕を抜き、自身の黒髪を隠している帽子に手を掛ける。
──この人には、隠す意味もないだろう。
「それでよし。でも見た事ない能力ね」
帽子に手を掛けた俺を見て、何故か目の前の女性が慌てているのが見てとれた。
「もう隠し事はしないよ、師匠」
「いや、そこまでしなくてもいいって! 辞めて!」
大きさな静止を無視して帽子を取ると、マノ村で切り揃えた筈の髪も随分と伸び、支えを失った前髪が目に掛かった。
「俺は神の遣いだ」
「え、なんで……? 禿げて、ない?」
俺はやはりこの人が少し苦手だ。
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