妄想少女は鏡に願う

蒼星 創

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 朝の光がカーテン越しに部屋に差し込むと、ユミは静かに目を覚ました。彼女はベッドからすっと起き上がり、窓際まで歩いていく。外の景色を一瞥した後、彼女は深呼吸をして、新しい一日の始まりを迎えた。



 ユミは身支度を整えるために鏡の前に立つ。鏡に映る自分の姿を見つめながら、彼女はぼんやりとした表情で、長い黒髪を手櫛で整える。



「また今日も同じことの繰り返し……」ユミは心の中でつぶやいた。彼女の心の声は自身に深く響いている。朝の支度をする間、彼女の心は遠く、夢のような別の世界に飛んでいく。



 ユミが制服に袖を通すと、彼女はベッドサイドの写真を一瞥した。写真には笑顔の家族が写っていたが、ユミの心はどこか寂しさを感じる。彼女は深く息を吐き出し、写真に向かって小さく「行こうか」と呟いた。



 朝食をとるためにキッチンへと向かうと、彼女は母親に向かって静かに「おはよう」と声をかける。母親は忙しそうに朝食を準備しており、「おはよう、ユミ。今日も一日頑張ってね」と返した。その言葉にユミは小さく頷き、心の中であらためて一日の始まりを受け入れた。



 朝食を終え、ユミは通学カバンを持つと、家を出た。家の門をくぐりながら、彼女は一日の予定を心の中で反芻する。学校への道のりは、彼女にとって毎日同じ風景と同じ感覚の繰り返しであった。



 ♤♥♢♣



 ユミが門を抜けると、朝の涼やかな空気が彼女を包み込んだ。歩道を進む彼女の足取りは軽やかで、しかし表情はどこか遠くを見つめている。通学路は、桜の花がほころび始める風景に彩られていたが、ユミの心はそれにほとんど惹かれなかった。



 途中、他の学生たちがグループで話しながら歩いているのを横目に見ながら、ユミは自分だけが静かに一人で歩いていることに気づく。「みんなとは違うのかな……」と彼女はふと思い、しかしすぐにその考えを振り払った。



 ユミはいつものように、自分の世界に没頭していった。彼女の想像力豊かな心は、学校への道中、さまざまな物語を紡ぎ出している。彼女は心の中で、冒険家として遠い国を旅する自分を想像したり、異星の探検家として宇宙を旅する自分を描いたりしていた。



「ユミ、おはよう!」突然、クラスメイトの声が彼女の空想を中断した。ユミは少し驚いて顔を上げ、小さく「おはよう」と返す。その交流は短く、クラスメイトはすぐに前を歩く他の友人の元へ駆けていった。ユミはまた一人で歩き始め、心の中での物語に戻っていく。



 ユミの歩みは、周囲の世界から切り離されてるように見えた。学校への道を歩きながら、彼女は自分だけの世界に深く没入していく。その世界では、彼女は自由で、無限の可能性に満ちていた。



 ♤♥♢♣



 ユミが教室に入ると、彼女は静かに最後列の席に着く。先生の声が教室に響く中、ユミの目は窓の外の青い空に釘付けになっていた。教室の喧騒は彼女には遠い世界でしかない。



 授業が始まると、ユミはノートに落書きを始めた。紙の上には、奇妙な生き物や幻想的な風景が描かれていく。ユミの手は自然と動き、彼女の心はその創造的な行為に没頭していく。



 隣の席のアヤがユミにそっと声をかけた。「ユミ、この問題わかる?」アヤの声には、隣の席の少し孤立しているユミを気遣う優しさが含まれていた。ユミは一瞬戸惑いながらも、ノートから顔を上げ、問題を解決する手助けをする。その短い交流の後、ユミは再び自分の世界へと戻っていったが、アヤの心配りには内心感謝していた。



 時々、彼女は先生の声に耳を傾けるが、すぐにまた窓の外や自分の想像の世界に心が飛んでいく。授業中のユミの心は、いつも現実から逃避し、夢のような異世界に浮遊していた。



 授業の終わり先生が立ち去ると、ユミは安堵の息をつく。彼女はノートを閉じ、周囲の生徒たちが賑やかに話し始めるのを静かに眺める。アヤはユミにもう一度話しかけようとしたが、ユミの心は授業中に描いた幻想的な世界にまだ留まっており、彼女はその創造物に心を寄せていた。



 ♤♥♢♣



 放課後になると、ユミはすぐに教室を後にする。彼女の帰り道は、いつものように静かで孤独だった。学校を出ると、彼女は自然と周りの生徒たちと距離を置いて歩き始める。



 途中、アヤが彼女に声をかけた。「ユミ、今日はありがとう」アヤの表情には、ユミへの優しい気遣いが見える。ユミは少し微笑みながら、「うん」とだけ答え、その短い会話の後、二人は違う帰り道を歩いていった。



 ユミの心は、帰り道でも想像力をいっぱいに広げる。彼女は頭の中で、創り出した幻想の世界に没頭する。その世界では、ユミは自由で、強く、何でもできる存在だった。



 家に近づくにつれ、ユミの歩みは少し重くなる。彼女は自室での静かな時間を心待ちにしていたが、同時に、現実を意識し始める。ユミは、現実の世界と自分の内面の世界とのギャップで、心が揺れ動いていることを感じていた。



 家の門をくぐると、ユミは一息ついて、「ただいま」と小さく呟く。彼女は家の中に入り、すぐに自室に向かう。部屋に入ると、ユミはベッドに座り、一日の出来事を静かに振り返る。その部屋は、彼女にとって安心できる唯一の場所であり、自分だけの世界を思い描く場所だった。



 ♤♥♢♣



 自室に入ったユミは、すぐに日常からの逃避を始める。彼女の部屋には、古くて大きな鏡が一つあった。彼女はその鏡の前に立ち、ゆっくりと自分の姿を見つめる。



 鏡に映る自分を見ながら、ユミは想像の翼を広げた。彼女の心は、現実を離れ、幻想的な世界に飛び込んでいく。鏡の中では、ユミは異なる世界の冒険家になったり、未知の星を探検する科学者になったりしていた。



 彼女は静かにつぶやく。「もし、本当にそんな世界があったら……」その言葉は部屋の中で静かに消えていった。ユミの目は輝き、彼女の表情は夢中になっている様子を示している。



 その瞬間、ユミの母親が部屋に入ってきた。「ユミ、夕食よ。」母親の声は優しく、しかし現実への呼び戻しでもある。ユミは現実に戻り、鏡から目を離し、「わかった、すぐに行くね」と答えた。



 夕食を終えて部屋に戻ると、ユミは再び鏡の前に立つ。彼女は、現実と夢の間で揺れ動く心を感じながら、もう一度幻想の世界に思いを馳せる。鏡の中の世界は、彼女にとって現実よりも魅力的で、心地よい場所だった。



 ♤♥♢♣



 お風呂の後、ユミは自室の静かな空間に戻る。部屋の灯りをつけると、彼女はベッドに腰を下ろし、一日の終わりを実感した。ユミにとっては、それが心が安らぐ瞬間である。



 彼女の手は本棚に伸び、一冊の本を取り出した。ページをめくるたびに、ユミは物語の世界に没入していく。彼女は、読書を通じて異なる世界へと旅をし、新たな発見を楽しんでいた。



 部屋の隅に置かれた画材を手に取ると、ユミは今度はスケッチブックを開く。彼女は線を引き始め、心の中に浮かんだ幻想的な風景を紙の上に描いていった。その創造過程には、ユミの情熱と夢が込められていく。



 ユミの部屋からは、静かな音楽が流れていた。メロディに合わせて、ユミは思考を巡らせ、自分の内面の世界を探求していく。絵を描きながら、彼女は時折、窓の外を見つめ、月の美しさに心を奪われていた。



 ユミは深いため息をつきながら、絵筆を置く。彼女の心は、現実と夢想の間の行き来を繰り返す。眠りにつく前、ユミは自分の心の中に残る無限の可能性に思いを馳せ、静かに目を閉じる。夜の静寂の中、彼女は自分だけの世界に包まれながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。






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