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竜の花嫁

二人の竜の花嫁

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「父上、私はバードリバーの人間であるメアリー・ウェンガーを妻に迎えたいと思い……」

 ワインは「思いますが……」と弱気な発言をしそうになったところで口を止め、メアリーをちらっと見た。メアリーの眼差しは何の迷いも無くまっすぐにジェラルドに向けられている。
 ここで決めなければ男では無いとワインは唾を飲み込んで力強く断言した。

「メアリーと結婚すると決めました」

 竜の国の王となる男が人間の女と結婚することなど許されるのか? もし、ダメだと言われたら王の座を捨ててでも……という覚悟の上での力強い言葉。ジェラルドの答えは…… 

「そうか、ティアに続いてめでたい話だな。だが、お前はまだ若い。式はもう少し立派になってからだな」

 ジェラルドはその話をあっさり受け入れた。自分の覚悟はいったい何だったんだ? という顔のワインにジェラルドは言った。

「ワイン、実はドラゴニア王妃って、意外と人間の女性が多かったりするのだぞ」

「はあっ!?」

 思いっきりコケそうになるワイン。ジェラルドによると人間が作った『悪い竜が人間の女性を攫って妻とした』という伝説は事実無根で、実際は人間の姿となった竜が人間の女性としっかり愛を温めた上で一緒になったのだそうだ。ちなみにワインの母、ジェラルドの妻は人間では無く、竜らしい。

「何代かに一人現れるらしいからな、お前みたいなヤツが。だからあの時、お前達を会わせない様にしようとしてたんだ」

 ジェラルドは笑いながら言った。もちろん『お前みたいなヤツ』と言うのは人間の女性に惚れてしまう竜のことで、『あの時』とはメアリーがドラゴニアに来た時の事だ。ジェラルドはこうなる事を予見していたのかもしれない。

「メアリー殿、竜の国に嫁ぐという事は人間の貴女にとって辛い事もあるかもしれませんが、覚悟は出来てますかな?」

 あらためてジェラルドが問いかけると、メアリーは迷う事無く頷いた。

「毒に冒されていた私はドラゴニアで助けられました。恩返し……というわけではありませんが、ドラゴニアがより良い国になる様に努めるつもりです。ワインと一緒に」

 言葉と共に一筋の涙を流すメアリーをワインが優しく抱き寄せる。

「じゃあ、二人に乾杯ね!」

 ティアが笑顔でみんなに配ろうと、グラスをトレイに載せた。

「あらあらティア、バードリバーの次期王妃がそんな事、それにあなたは昨日の主役、花嫁なんなんだから、そういうのは私達に任せて……」

 ジュリアがトレイを奪い取ろうとするが、ティアはそれを拒んだ。

「だって私はメアリーのお兄さん、ガルフの奥さんなんだから」

 この上なく幸せそうな顔のティアにジュリアは心底羨ましい様で、思わずとんでもない事を口走った。

「はいはい、すっかり気分は新妻なんですね、ごちそう様です。今度エプロンをプレゼントするわね、裸エプロンにピッタリなのをね」

 新妻=裸エプロンの図式は世界共通の様だ。「そんな事しません!」と頬を赤く染めながらティアはガルフにグラスを渡そうとした。その時、ガルフは残念そうな顔でぼそっとティアに囁いた。

「……しないの?」

 ティアは意味がわからなかった。するとガルフはもう一度、今度ははっきりと言った。

「……しないの? 裸エプロン」

 ガルフも健康な成人男性だった様だ。身体中の血が顔に集まったのではないかと思うほど真っ赤になったティア。

「ガルフがどうしてもって言うなら……」

 ティアの言葉にガルフは即座に答えた。

「どうしても!」

「こらこら、そんな事を人前で言うものじゃありませんよ。特に女の子のお父様の前ではね」

 困りきった顔のブレイザーが言うとジェラルドは声高らかに笑った。

「これはすぐ孫の顔を見れそうだな」


 こうしてガルフのところには竜が嫁ぎ、メアリーは竜に嫁ぐことになった。意味合いは違うが、竜の花嫁が二人誕生したのだ。辺境の地ドラゴニアと南の片田舎バードリバーは姻戚関係となり、二つの国は遠く離れながらも強固に結び付き、バードリバーはドラゴニアの文化を少しずつ取り入れ、徐々に豊かな国となっていった。大臣がガルフとメアリーを陥れてまで描いた夢が実現したのだった。

 幸い、結婚した後にティアが竜の姿になった事は今のところ無い様だ。しかし、ドラゴニアとバードリバーが強く結び付いたという事で、大陸にはそれを危惧する不穏な空気も流れていると聞く。今後、他国が攻めてくる事も考えられるだろう。だが、ガルフ達なら乗り越えられる筈。

 願わくば、二人の竜の花嫁に幸あらんことを。
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みんなの感想(2件)

キョン
2018.09.11 キョン

ありがちな設定ですが面白かったです。ただ、少しストーリーが急に進むことが気になりました。読者を置いてきぼりにしてる感がありますのでもう少しゆっくり話を進めた方が良いと思います。

すて
2018.09.12 すて

キョンさん、ありがとうございます。

確かにありがちな設定ですね。そこは王道だと思って見てやっていただけたらと。

ストーリーが急に進みすぎるとのご指摘は、今後の課題とさせていただきます。貴重なご意見をありがとうございます。今後もよろしくお願いします。

解除
アルバ
2018.09.10 アルバ

ティアちゃん、かわいいですね。こんな彼女が欲しいです。

すて
2018.09.10 すて

ライフ様、ありがとうございます。ティアは王女様の上に健気で、とても良い子です。私もこんな彼女が欲しいです。

今後ともよろしくお願いします。

解除

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