上 下
38 / 40
竜の花嫁

ワイン、試練の日

しおりを挟む
 翌日、晴天の下、剣を手に向かい合うガルフとワイン。剣と言っても刃は潰してあるので切れはしないが殴られれば鉄の棒で殴られるのと同じ。骨の一本や二本は折れるかもしれない。もっとも二人共無茶はしないだろうが、見守るティアとメアリーは心配な顔。それに対しギャラリー達はガーデンパーティーさながらグラスを手に盛り上がっている。昨日の二次会に出席していた若い者に混じり、デュークとジェラルド、そしてコルドの顔も見える。ガルフが見に来る様、声をかけたのだった。ワインが試練を乗り越えられたら正式に発表させるつもりなのだろうか?

「じゃあ、始めようか。料理が無くなる前に終わらせよう」

 ガルフはギャラリーの後ろのテーブルに目をやり、剣を構えた。

「そうですね、とっとと終わらせてパーティーと洒落込みましょうよ」

 テーブルの上の料理をチラ見して、ワインも剣を構える。二人共妙に料理に拘るのは余裕を見せているつもりなのだろう。 

「ガルフ、早く終わらせないとお前の好きなローストチキンは全部食っちまうぞ!」

 コルドがフォークを手にヤジを飛ばす。

「ワイン、バードリバー名物の串焼き、無くなっちまうぞ!」

『バードリバー名物の串焼き』五十センチはあろうかという長い金串に鳥肉と野菜を交互に差して直火で焼いた、
言ってみれば大きなネギま、あるいはシュラスコの様な料理で、ジェラルドはこれを気に入ったらしく、早くも一本目の串を食べ終え二本目の串を振り回しながら楽しそうに言う。
 二人の王は呑気そのもの。無理も無い。二人はただ『来てくれ』と言われただけで、この立会いに秘められた意味を聞かされていないのだ。

「ジェラルド様、その串を投げ入れて下さいますか。串が地面に落ちた瞬間から勝負です」

 ガルフが頼むと、ジェラルドは何も刺さっていない一本目の串を手に取ると二人の間に投げ入れた。金串はくるくる回りながら弧を描き、ガルフとワインの間の地面に突き刺さった。それと同時に二人は踏み込み、壮絶な打ち合いが始まった。

「やれやれ! ワイン君、義理の兄貴なんざぶっ倒しちまえ!」

「ガルフ君、義理の弟に負ける様ではティアを任せられんぞ!」

 完全に見物人気分の二人の王はなぜだか自分の息子を応援するつもりは全く無い様だ。

 二人の実力は拮抗している様で、お互い一歩も引かない打ち合いが続く。

「ワイン、なかなかやるじゃないか」

「義兄さんこそその剣さばき、風使いとは思えませんね」

 鍔迫り合いとなり、言葉を交わす二人。するとガルフが悪い顔になって言った。

「じゃあ、そろそろ奥の手出させてもらおうかな~」

 ガルフの言う『奥の手』もちろん風の力である。ワインは一歩下がって身構えるが、局地的な突風にあえなく吹き飛ばされてしまった。そこに風の力を使ってガルフが突っ込んで来る。さすがに無防備なワインに思い切り剣を振り下ろす事はせず、ガルフはワインの頭を刀身で軽く叩いた。

「はい、これで一回死んだ」

「まだです、もう一本!」

 ワインは諦めず、もう一度剣を構える。

「ほう、上等だ」

 口元に笑みを浮かべたガルフは、すうっと宙に浮かんだ。そこから一気に距離を詰めた。このまま切先から突っ込めば、ワインを串刺しに出来そうなものだったが、ガルフは見得を切るかの如く大きく剣を振り上げた。これは果し合いでも殺し合いでも無いのだ。「上からの斬撃ですよ」と解り易く伝えた上で思いっきり剣を振り下ろす。これで受けるとか躱すとか出来ない者に剣を持つ資格など無い。

 ガキン!

 激しく鉄と鉄がぶつかる音が響いた。

「義兄さん、こんなのが受けられない様じゃ男じゃないっすよ」

「誰が義兄さんだ、まだメアリーと一緒になれるって決まったワケじゃ無ぇ!……って、そっか、お前ティアの弟だから、俺ってお前の義兄なんだよな」

 軽口を叩くワインにボケをかますガルフ。二人は痺れる手に力を込め、そのまま両者はまた拮抗する。

「やっぱ剣だけだったら互角ってトコだな」

 ガルフはまた風の力を使ってワインを吹き飛ばし、体制が崩れたところを狙って喉元に剣を突きつける。

「ほら、これで二回死んだ」

 ワインは何度も剣を振り上げ立ち向かうが、風の力を駆使して戦うガルフに為す術も無かった。吹き飛ばされては頭を叩かれ、吹き飛ばされては胴を討たれ、吹き飛ばされては喉元に剣を突き付けられ……とボロボロにされていった。

「おいガルフ、お前だけ風の力使うのはズルいんじゃないか」

 コルドが口を出すが、ジェラルドは涼しい顔で言う。

「ガルフ君、いいぞ、その調子でやっちまえ! ワインどうした、だらしないぞ!」

 ワインは無責任な父の言葉に毒づきながら立ち上がった。

「うっせぇな、今日は竜の力は使わないんだよ。そういう取り決めなんだよ」

 ワインの言葉はジェラルドには届かなかったが、ガルフには届いた様だ。

「良い根性してるじゃないか。だが、根性だけではなぁ……」

 ガルフは悪役の様な言葉を吐くと、風の力で宙に舞った。また上空から突っ込むつもりなのだろう。

「残念だが、それじゃ不合格だ!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ディメオ~首切り魔術師は返り咲く~

わらべ
ファンタジー
ここは魔導大国・リザーナ帝国。 上級貴族の嫡男として生まれたジャック・グレースは、魔力が庶民程度しかなく、一族の者から『疫病神』と呼ばれていた。 誰からも存在を認められず、誰からも愛されない……。ずっと孤独と向き合いながら生きてきた。 そんなある日、ジャックが街を散歩していると、ある魔導具店のおっさんが声をかけてきた。すると、おっさんは『ディメオ』という魔石をジャックに紹介する。この出会いによって、ジャックの運命は大きく変わっていく。

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶
ファンタジー
【シリアス悪役令嬢モノ(?)。分からないことがあるのは幸せだ】 ある日目覚めたらずっと大好きな乙女ゲーの、それも悪役令嬢のレヴィアナに転生していた。 全てが美しく輝いているセレスティアル・ラブ・クロニクルの世界。 ヒロインのアリシア視点ではなく未知のイベントに心躍らせる私を待っているのは楽しい世界……のはずだったが? 「物語」に翻弄されるレヴィアナの運命はいかに!? カクヨムで先行公開しています https://kakuyomu.jp/works/16817330668424951212

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

豹の獣人騎士は鼬の魔法使いにご執心です。

yu-kie
ファンタジー
小さなお姫様は逃げてきた神殿に祭られたドラゴンの魔法で小さな鼬になってしまいました。 魔法を覚えて鼬の魔法使いになったお姫様は獣人との出会いで国の復興へ向けた冒険の旅にでたのでした。 獣人王子と滅びた国の王女の夫婦の冒険物語 物語の構想に時間がかかるため、不定期、のんびり更新ですm(__)m半年かかったらごめんなさい。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...