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ティアとガルフ、二人でバードリバーへ

二人でバードリバーの街を散策。これってデート?

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 そうこうしている間に食事の準備が整い、料理が運ばれてきた。ガルフにとっては懐かしい味、ティアにとっては初めて見るバードリバーの料理。

「口に合うと良いんだけど」

 シルフィの言葉にガルフが緊張した面持ちでティアをちらっと見る。ドラゴニアの料理はとても美味しかった。まさか不味いと口に出すことは無いだろうが、ティアはバードリバーの料理をどう思うだろうか?

「わあっ、美味しそう! いただきます」

 まずは百点と言って良いティアのリアクション。そして彼女はスープに手を付ける。

「美味しい!」

 彼女の表情を見る限り、お世辞とか社交辞令では無いと思われる。ほっとして、胸をなでおろすガルフ。別に自分の国の料理を卑下しているわけでは無い。ただ、バードリバーは文字通り『鳥と川の国』、クセのある川魚の料理がティアの口に合うかどうか不安だったのだ。しかしよく考えてみればドラゴニアには湖が有る。つまり淡水魚は食べ慣れているという事だ。ちなみにティアが作ったスープにも湖の魚が使われていた。ガルフが初めて食べるドラゴニアの料理をなぜか懐かしく感じたのはこの為だったのだ。

 食事を終えたティアは、せっかく来たのだからとガルフにバードリバーを案内してもらう事になった。ガルフは風に乗って山や川、風光明媚な観光スポットを何箇所か回るが、ティアには他に見たいものがあった。

「綺麗な景色も良いけど、ガルフが普段暮らしてる町を見てみたいな」

 ティアが小さな声で言うと、ガルフは尻込みしながらも町に飛んだ。

「ここがガルフの国なんだ」

 珍しそうにキョロキョロするティアにガルフは恥ずかしそうに答える。

「何にも無いところだよ」

 確かにドラゴニアに比べて小さな店しか無く、これといって見るべきものも無い。だから彼は町を案内するのを尻込みしたのだが、ティアは笑顔で返した。

「いいの。ガルフが普段どんな暮らしをしているかが見たかったから」

 ガルフは思った。

《さすがは王女様。他国の暮らしぶりを見て勉強しようとしてるんだ。ボクも見習わなくっちゃ》

……女心というものが全くわかっていない残念なガルフだった。

 二人で町を歩いていると、あちこちから視線が注がれる。当然だろう、王子が女の子と二人で歩いているのだ。ティアの事を末来の王妃だと思って見ているに違い無い。しかしそんな事には全く気付いていないやっぱり残念なガルフ。彼はまだ十六歳、そこまで考えが及ばなくても仕方が無いのかもしれないが。


「あっ、このお店かわいい」

 ティアは一軒の小物屋に入りたいと言う。その店には鳥をモチーフにした女の子の好きそうな小物が並べられていた。

「ドラゴニアって、竜のグッズばっかりだから……」

 ティアはポーチやらマグカップやらを物色しながら苦い顔で言う。そんな彼女の動きが止まった。何やら好みの物を見つけた様だ。
 ティアが見入っていた物は、白い小鳥のマスコット。彼女はそれを買おうと思い、店員のお姉さんに金貨を渡し、使えるかどうか確認した。

「凄い! これ、ドラゴニアの金貨ですよね? お釣り足りるかしら?」

 ちょっと前に聞いた様なフレーズが帰って来た。遥か離れたバードリバーでも通用するとはさすがはドラゴニアと言ったところだ。

「じゃあ、ボクが買ってあげるよ」

 ガルフが声をかけると店員のお姉さんはティアに微笑んで言った。

「あら良かったわね、彼氏さんかな?」

 そしてガルフの顔を見た途端、驚きの声を上げた。

「ガ、ガルフ様?」

 まさか王子が女の子を連れて買い物に来るとは思ってもみなかったのだろう、彼女は驚きの声を上げた。ガルフは思わず苦笑い。店員のお姉さんは恐る恐る尋ねた。

「もしかしたら、こちらの方はご婚約者様ですか?」

 この質問にティアの頭は真っ白、顔は真っ赤になって何も喋れなくなってしまい、ガルフは慌ててそれを否定する。

「ち、違いますよ。彼女はドラゴニアの王女、ティア様です。お忍びでバードリバーにいらしてるんですよ」

 その言葉を聞いてティアは我に返った。

《やっぱりガルフも私の事、王女としか見てないのかな……》


「はい、ティア」

 そんな彼女の思いも知らず、ガルフは笑顔でマスコットを手渡した。頑張って笑顔を作り、それを受け取るティア。ガルフはティアが寂しい目をしていたのに気付いたのだろうか? 


 店を出て歩いていると、ガルフは突然背中を叩かれた。

「ようガルフ、久し振り。ずっと学校来てないけど、何かあったのか?」

 振り返るとガルフの悪友ジムが手を振っている。

「先生は事情を教えてくれないし、心配してたんだぜ。大臣が捕まったとかいう話だしよ、クーデターでも起きそうだったのか?」

 一方的にしゃべり続けるジムに怯えているのか、ガルフの袖をちょこっと摘むティア。そんな彼女にジムが気付いた様だ。真剣な顔で話をしていたジムの態度が、コロっと変わった。

「ガルフ、そのかわいい子、誰?」

「聞いて驚け、ドラゴニアの王女、ティア様だ!」

 ガルフは言おうと思ったが、彼はさっきの店でティアが一瞬寂しそうな目をした事に気付いていた。そして以前彼女が自分の事を王女としてしか見てもらえないと寂しげに言っていたのを思い出した。ガルフは唾を飲み込むと思い切って言ってみた。

「彼女はティア。ボクのガールフレンドだよ」

 ガルフの意外な言葉に顔を赤くしながらぴょこんとお辞儀をするティアの姿にジムの動きが一瞬止まった。

「そ、そうか。じゃあ、邪魔したら悪いな」

 硬直から解放されたジムはティアを横目で見ながらそそくさと行ってしまった。

「そっか……ガルフのヤツ、学校休んで見合いでもしてたんだな……ってコトは、あの子が王妃様になるのか……」

 歩きながらブツブツひとり言を呟くジム。残されたガルフは彼の反応に苦笑い。

「ちょっと変な言い方しちゃったかな? ごめんね、ティア」

 謝られたティアだが、またドラゴニアの王女だと紹介されるとばかり思っていたのが『ガールフレンド』などと言われたものだから、真っ赤になって固まってしまい、ガルフの言葉は耳に入っていなかった。


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