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まさかとは思ったが……
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カレーを食べ終わったトシヤとハルカはお勘定(もちろん支払いは別々にだ)を済ませて店を出た。
「さて、ご飯も食べたし、これからどうしようか?」
トシヤが尋ねるとハルカはそれはもう楽しそうに微笑んで答えた。
「うん、じゃあちょっと走っていこうか」
言うとハルカはママチャリを来た方向、北に向かって走らせた。逆行になってしまうのはローディーとして心苦しいが、交差点の信号までだろう。そう思いながらトシヤはハルカの後を着いて走った。そして少し走って交差点に到達、西へ進む為に信号待ちをするのだろうというトシヤの予想とは裏腹にハルカは右手を真っ直ぐ横に伸ばすと信号を渡って右に曲がり、東に進んだのだ。
――ハルカちゃん、まさか……――
トシヤの背中がゾクっとした。このクソ暑いというのにだ。
この交差点を東へ進むルートはトシヤがいつも渋山峠へ向かう時のルートだ。そう、トシヤはハルカの「ちょっと走っていこう」というのは渋山峠を上ることではないかと考えたのだ。
ちなみに国道から東に進んだ時点で既に上りは始まっている。ロードバイクだと然程でもない坂だが、車重が重く変速も無いママチャリだと地味に体力が削られてしまう。だが、こんなところで弱音など吐けるわけが無い。ハルカが乗っているのもママチャリ、条件は同じなのだから。
そして間も無くいつも休憩している『麓のコンビニ』が見えた。そこでハルカは左手でコンビニを指し、一瞬だけ振り返って後ろを走るトシヤに向かって言った。
「トシヤ君、コンビニ寄るよ!」
「おっけー、わかった」
トシヤはハルカがいつものコンビニに寄ってジュースでも飲んで帰るつもりなのだと思って軽く返事をし、二人はコンビニの駐車場へとママチャリを乗り入れた。
このコンビニでトシヤやハルカが買うものと言えば基本的にスポーツドリンクだ。だが、今日はいつもとは違う。ヒルクライムを終えて死ぬほど喉が渇いているわけでは無いのだ。そこでトシヤはコーラを手に取った。やはり夏は冷たいコーラでスカッと爽やかに……と思ったのだが、そんなトシヤにハルカがボソッと言った。
「そんなの飲んで大丈夫? 後で辛いわよ」
後が辛い? トシヤはハルカが何を言ってるのかわからなかった。だが、ハルカがいつものようにスポーツドリンクを手にしているのを見て嫌な予感がした。
「ハルカちゃん、まさかとは思うけど……」
トシヤは恐る恐る口を開いた。しかし、その後に言おうとした言葉は飲み込んでしまった。それは口に出して言うにはあまりにも非現実的な言葉だったからだ。するとハルカはこの上なく楽しそうな顔で言った。
「うん。行くわよ、渋山峠」
いやいやいや…… 何度も上っているハルカなら足着き無しで上れるのだろうが、まだ一回しか足着き無しを達成していないトシヤは次に上った時も足着き無しで上れるとは限らない。しかもそれはロードバイクでの話だ。ママチャリで渋山峠に挑もうなんて、上る前から無謀なチャレンジだとわかりきっている。
「いや……でも……なあ……」
「何言ってるの、私だって上れるとは思ってないわよ。でも、ママチャリでドコまで上れるか…… そんなのも夏休みの思い出作りに面白いんじゃない?」
ブツブツ言って尻込みするトシヤにハルカは言うと凄く良い笑顔を見せた。こんな笑顔を見てしまっては、男としては断ることなんて出来る筈が無い。
「腹が減っては戦が出来ぬ……って、戦ってのはヒルクライムのことだったんだな」
トシヤは諦めた顔で言い、コーラを冷蔵ケースに戻し、スポーツドリンクを手に取った。
お金を払い、コンビニから出たトシヤとハルカは並んでペットボトルのキャップを開け、ゴクゴクとスポーツドリンクを喉に流し込んだ。今日みたいな暑い日は冷たいスポーツドリンクが最高だ……? いや、こんなクソ暑い日に渋山峠に上ろうと言うのだ、しかもママチャリで。水分をしっかり摂っておかないとぶっ倒れてしまう……もちろん途中での水分補給も必要不可欠だ。トシヤは四分の一ほどスポーツドリンクを飲み、キャップをしっかり閉めてママチャリのカゴに放り込んだ。
するとハルカが言った。
「さ、行こっか」
まるでゆるポタにでも行くかの様に言うハルカだが、向かう先は渋山峠だ。トシヤは不安を抱えつつママチャリのスタンドを上げ、サドルに跨った。
コンビニを後にしたトシヤとハルカは東へ向かって走った。渋山峠に行く時のいつものルートだ。ロードバイクならギアを二枚ほど残して楽々と上れる緩い上り坂がママチャリだと結構キツい。もちろん『人力のみで効率的に速く走る為の自転車』と『普段使いに便利な自転車』なのだから当然、もしロードバイクとママチャリの違いがそんなに無かったら大問題だ。それだけの価格差があるのだから。
突き当たりを左に曲がり、少し走って渋山峠のスタート地点とされている交差点に出た。この交差点を右に曲がれば渋山峠ヒルクライムが始まる。いつもなら心が踊る地点だが、今日のトシヤは『本当にママチャリで上るのかよ……』という途方に暮れた様な気分でしか無かった。対してハルカの気分は上々、『無謀な挑戦』が楽しみで仕方が無いみたいだ。
目の前の信号は青。トシヤとハルカは交差点を右折(二段階右折では無く、信号手前から少し逆行して交差点を通過し、すぐ右に曲がったのだがそこは目を瞑って欲しい)し、二人のママチャリによる渋山峠ヒルクライムが始まった。
「さて、ご飯も食べたし、これからどうしようか?」
トシヤが尋ねるとハルカはそれはもう楽しそうに微笑んで答えた。
「うん、じゃあちょっと走っていこうか」
言うとハルカはママチャリを来た方向、北に向かって走らせた。逆行になってしまうのはローディーとして心苦しいが、交差点の信号までだろう。そう思いながらトシヤはハルカの後を着いて走った。そして少し走って交差点に到達、西へ進む為に信号待ちをするのだろうというトシヤの予想とは裏腹にハルカは右手を真っ直ぐ横に伸ばすと信号を渡って右に曲がり、東に進んだのだ。
――ハルカちゃん、まさか……――
トシヤの背中がゾクっとした。このクソ暑いというのにだ。
この交差点を東へ進むルートはトシヤがいつも渋山峠へ向かう時のルートだ。そう、トシヤはハルカの「ちょっと走っていこう」というのは渋山峠を上ることではないかと考えたのだ。
ちなみに国道から東に進んだ時点で既に上りは始まっている。ロードバイクだと然程でもない坂だが、車重が重く変速も無いママチャリだと地味に体力が削られてしまう。だが、こんなところで弱音など吐けるわけが無い。ハルカが乗っているのもママチャリ、条件は同じなのだから。
そして間も無くいつも休憩している『麓のコンビニ』が見えた。そこでハルカは左手でコンビニを指し、一瞬だけ振り返って後ろを走るトシヤに向かって言った。
「トシヤ君、コンビニ寄るよ!」
「おっけー、わかった」
トシヤはハルカがいつものコンビニに寄ってジュースでも飲んで帰るつもりなのだと思って軽く返事をし、二人はコンビニの駐車場へとママチャリを乗り入れた。
このコンビニでトシヤやハルカが買うものと言えば基本的にスポーツドリンクだ。だが、今日はいつもとは違う。ヒルクライムを終えて死ぬほど喉が渇いているわけでは無いのだ。そこでトシヤはコーラを手に取った。やはり夏は冷たいコーラでスカッと爽やかに……と思ったのだが、そんなトシヤにハルカがボソッと言った。
「そんなの飲んで大丈夫? 後で辛いわよ」
後が辛い? トシヤはハルカが何を言ってるのかわからなかった。だが、ハルカがいつものようにスポーツドリンクを手にしているのを見て嫌な予感がした。
「ハルカちゃん、まさかとは思うけど……」
トシヤは恐る恐る口を開いた。しかし、その後に言おうとした言葉は飲み込んでしまった。それは口に出して言うにはあまりにも非現実的な言葉だったからだ。するとハルカはこの上なく楽しそうな顔で言った。
「うん。行くわよ、渋山峠」
いやいやいや…… 何度も上っているハルカなら足着き無しで上れるのだろうが、まだ一回しか足着き無しを達成していないトシヤは次に上った時も足着き無しで上れるとは限らない。しかもそれはロードバイクでの話だ。ママチャリで渋山峠に挑もうなんて、上る前から無謀なチャレンジだとわかりきっている。
「いや……でも……なあ……」
「何言ってるの、私だって上れるとは思ってないわよ。でも、ママチャリでドコまで上れるか…… そんなのも夏休みの思い出作りに面白いんじゃない?」
ブツブツ言って尻込みするトシヤにハルカは言うと凄く良い笑顔を見せた。こんな笑顔を見てしまっては、男としては断ることなんて出来る筈が無い。
「腹が減っては戦が出来ぬ……って、戦ってのはヒルクライムのことだったんだな」
トシヤは諦めた顔で言い、コーラを冷蔵ケースに戻し、スポーツドリンクを手に取った。
お金を払い、コンビニから出たトシヤとハルカは並んでペットボトルのキャップを開け、ゴクゴクとスポーツドリンクを喉に流し込んだ。今日みたいな暑い日は冷たいスポーツドリンクが最高だ……? いや、こんなクソ暑い日に渋山峠に上ろうと言うのだ、しかもママチャリで。水分をしっかり摂っておかないとぶっ倒れてしまう……もちろん途中での水分補給も必要不可欠だ。トシヤは四分の一ほどスポーツドリンクを飲み、キャップをしっかり閉めてママチャリのカゴに放り込んだ。
するとハルカが言った。
「さ、行こっか」
まるでゆるポタにでも行くかの様に言うハルカだが、向かう先は渋山峠だ。トシヤは不安を抱えつつママチャリのスタンドを上げ、サドルに跨った。
コンビニを後にしたトシヤとハルカは東へ向かって走った。渋山峠に行く時のいつものルートだ。ロードバイクならギアを二枚ほど残して楽々と上れる緩い上り坂がママチャリだと結構キツい。もちろん『人力のみで効率的に速く走る為の自転車』と『普段使いに便利な自転車』なのだから当然、もしロードバイクとママチャリの違いがそんなに無かったら大問題だ。それだけの価格差があるのだから。
突き当たりを左に曲がり、少し走って渋山峠のスタート地点とされている交差点に出た。この交差点を右に曲がれば渋山峠ヒルクライムが始まる。いつもなら心が踊る地点だが、今日のトシヤは『本当にママチャリで上るのかよ……』という途方に暮れた様な気分でしか無かった。対してハルカの気分は上々、『無謀な挑戦』が楽しみで仕方が無いみたいだ。
目の前の信号は青。トシヤとハルカは交差点を右折(二段階右折では無く、信号手前から少し逆行して交差点を通過し、すぐ右に曲がったのだがそこは目を瞑って欲しい)し、二人のママチャリによる渋山峠ヒルクライムが始まった。
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