上 下
133 / 135

カレーと言えばココが一番?

しおりを挟む
「えっ……まさか今の、聞こえた?」

 あんな小さな呟きを聞き逃さなかったのかと驚いたトシヤだったがそうでは無かった。ハルカは後ろを走っているトシヤの姿を確認するとすぐに前に向き直って言った。

「お昼ご飯、何でも良いよね?」

 何の事はない、ハルカは昼ご飯をどうするか聞きたかったのだった。もちろんトシヤとしてはハルカと一緒だったら何を食べてもご馳走だ。

「ああ」

 ここからだとフレンドリー・ジェニファーズカフェか? それともいつも休憩している峠の麓のコンビニでお握りとかパンでも買って食べるのか? などと考えて軽く答えたトシヤにハルカは思いもよらないことを言い出した。

「じゃあ、カレーでも大丈夫?」

 ハルカの言う『カレー』とは正確にはカレーライス、男子に大人気のメニューでトシヤもご多分に漏れず大好きな食べ物だ。しかし、女の子のハルカの口から『カレーで大丈夫?』という言葉が出るとは…… そう言えばハルカはボーイッシュな女の子だという設定だったっけ(ヲイ)。

「おっけー、わかった」

 トシヤが快諾するとハルカは国道を東へ渡ったところでママチャリを止めた。この交差点を真っ直ぐ東へ走り、突き当たりを左切して北に少し走ると渋山峠のスタート地点となる交差点だ。だが、ハルカが信号を渡ってそのまま進まずに止まったということは右に曲がる、所謂『二段階右折』をするということだ。

 国道を右に曲がるということはフレンドリー・ジェニファーズカフェにでも行くのか? でも、フレンドリー・ジェニファーズカフェのメニューにカレーは無かったよな……などと思いつつトシヤはハルカの隣にママチャリを止めた。

「ねぇハルカちゃん、カレーってドコで?」

 トシヤが尋ねるとハルカは『あれっ?』といった顔で答えた。

「トシヤ君、この道何回も通ってるよね? 覚えてないの?」

『覚えてないの?』と事言われても、トシヤはこの国道を南へ走ることがほとんど無かった。何しろこの国道は道幅が広く、交通量が多い上に路肩には砂が大量に落ちていてロードバイクで走るにはあまりにも劣悪な環境なのだ。はっきり言ってフレンドリー・ジェニファーズカフェに行く時ぐらいしか走っていない。しかもその時は周りの風景など見てなかったものだから、途中にどんな店があったかなんて全く覚えていない。

「うん……覚えてない」

 トシヤが恥ずかしそうに言った時、信号が変わった。

「まあ、すぐソコだから」

 言うとハルカはペダルを踏み、ママチャリを発進させた。

 広い国道を南に走る。大量の砂が落ちているので走りにくいが、ハンドルが高く安定性の高いママチャリだとスピードこそ出せないものの安心して走ることが出来るので少しばかり気が楽だ。
 広い国道の路肩を少し走ったところ、フレンドリー・ジェファーズカフェの手前でトシヤは気付いた。目の前に日本で最も有名だと言っても過言では無い全国チェーンのカレー屋の大きな看板が立っていることに。

「こんな所にカレー屋が」

 思わず呟いたトシヤの前でハルカは左手を横に水平に伸ばした。
左折の合図だ。という事はハルカが行こうとしていたのはあのカレー屋だ。トシヤがそう思ったのと同時にハルカはカレー屋の駐輪場へと入って行った。そしてトシヤもハルカに続いて駐輪場に入り、ママチャリから降りた。

 駐輪場にママチャリを停め、店に入ると食欲をそそるカレーの匂いが二人の鼻と胃袋を刺激した。お昼時はとっくに過ぎているので店内には他のお客さんは数えるほどしかいない。トシヤとハルカはテーブル席に向かい合って座り、メニューを広げた。
 このカレー屋はカレーソースとご飯の量、そしてトッピングを選んで自分好みのカレーをオーダー出来るのが売りな上に、季節によって期間限定のカレーも充実している。
 ハルカはメニューを見ながら楽しそうに言った。

「私、フィッシュフライカレーにエビフライをトッピングしようっと。ご飯と辛さは普通で良いかな。トシヤ君は?」

 フィッシュフライカレーにエビフライをトッピングだと海産物×海産物、しかも揚げ物×揚げ物だ。ハルカもなかなかヘビーなオーダーをするものだと思いながらもトシヤは言った。

「じゃあ、俺はハンバーグカレーにしようかな。ご飯の量と辛さは俺も普通で良いや」

 前述の通り、このカレー屋は自分好みのカレーをオーダー出来るのが売りだ。だからと言って調子に乗ってトッピングをガンガン追加すると結構な金額になってしまう。トシヤにとって昼食に千円は厳しい。本当は普通のカレーライスでよかった。にもかかわらずハンバーグカレーをオーダーしたのはトシヤにとって精一杯の頑張りだったのだ。

 しばらくして二人が注文した品が運ばれてきた。

「わーっ、美味しそう。いっただっきまーす!」

 ハルカが両手を合わせて言い、早速カレーを食べ始めた。よっぽどお腹が空いていたのか、はたまたそんなにカレーが食べたかったのか……

「んじゃ俺も。いただきます」

 トシヤもハルカに続いて食べ始めた。それを見てハルカが言った。

「腹が減っては戦が出来ぬってね」

「はあっ? 戦? 誰が? 誰と?」

 おっさん臭いことを言うハルカにトシヤが突っ込んだ。だが、ハルカは意味ありげにニヤリと笑って言った。

「まあまあ良いじゃない、ヤボなことは言いっこ無しで」

 ハルカは何かを企んでいる……そう思わずにいられないトシヤだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜合体編〜♡

x頭金x
恋愛
♡ちょっとHなショートショートつめ合わせ♡

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

婚約破棄されましたが、お兄様がいるので大丈夫です

榎夜
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 あらまぁ...別に良いんですよ だって、貴方と婚約なんてしたくなかったですし。

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

処理中です...