ヒルクライム・ラバーズ ~初心者トシヤとクライマーの少女~

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トシヤの決意

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 ハルカと竹内君の仲を誤解して茫然自失となり、思考が止まってしまったトシヤ。そしてハルカはトシヤがそんな風になっているなどとは露知らず、トシヤからメッセージが入らないのを気に病みながらも自分からはトシヤに連絡を取るに取れずにいる。この調子だと高校一年生の夏休みを棒に振ることになってしまう。それだけは何としても避けたいところだが、トシヤもハルカもこの局面を乗り切る術なんて持ち合わせてはいない。
 そんなうちに時間が経ち、そろそろ晩ご飯という時にトシヤのスマホがブルブルと震え出した。そう、メッセージを受信したのだ。

 ハルカからか? トシヤの胸は一瞬高鳴った。しかし竹内君と楽しそうに話すハルカの姿を思い出し、また気持ちが萎えてしまった。

 ――いまさら俺なんかに何の用があるってんだ? 他の男と遊びに行くってのによ……――

 トシヤはボヤく様に、嘆く様に言いながらスマートホンに手を伸ばし、メッセージを確認した。

『明日、どーすんだ?』

 残念ながらメッセージの送り主はハルカでは無くマサオだった。何のことは無い、明日はハルカの補習が終った後で一緒に遊ぶ(もちろんルナも)段取りはつけてあるんだろうなという確認してきたのだ。まあ実のところ、確認と言うよりほとんど催促なのだが。

『悪い、何も決まってないわ』

 トシヤはやる気が全く感じられない返信を送った。まあ、今のトシヤの心境からすると仕方が無いことなのだが、トシヤの心境など知る由もないマサオとしては納得がいかなかったのだろう、今度はトシヤのスマートホンに電話をかけてきた。

「おいトシヤ、何も決まってないってな、どーゆーことだよ!?」

 開口一番クレームを付けるマサオだが、トシヤに罪は無い。と言うか、そもそもマサオにそんな事を言う権利など無い。だがトシヤは律儀にもマサオに今日見てしまった衝撃の事実を話した。

「……ってな感じでさ。だから、ちょっとハルカちゃんとは……」

 もしかしたらトシヤはマサオに聞いて欲しかったのかもしれない……衝撃の事実を一人で抱え込むのは辛すぎるから。だが、トシヤは自分が見た客観的な事実を話し、自分の気持ちを口にしようとしたところで言葉に詰まってしまった。するとマサオは優しい声で諭す様に言った。

「何言ってんだ、途中までしか見てないんだろ?」

「……ああ、まあな」

「クラスのヤツと遊びに行くことぐらいあるじゃんかよ」

 マサオが言うが、トシヤの態度はいつまでも煮え切らないままだ。すると遂にマサオは驚くべき言葉を口にした。

「わかった、俺はもう何も言わん」

 諦めたのか? いや、違う。マサオは突き放す様な言葉を放った後、真剣な声で一言付け加え、そして問いかけた。

「お前がそれで良いんならな。で、お前は本当にそれで良いのか?」

 これはトシヤの心に刺さった。もちろん『良い』わけが無い。しかし……

「でも……」

「デモも体験版も無ぇ! 大事なのはお前の気持ちだ! 竹内にハルカちゃんを取られても良いのか? お前はハルカちゃんをあきらめられるのか?」

 マサオが珍しく声を荒らげた。どうやら今回ばかりはガチらしい。さすがにこれはトシヤの心に響いた様だ。

「……それは嫌だ」

「だろ? ンな事ぁ俺にだってわかんだよ。だったらどーすんだ? お前がするべき事は何だ?」

「ちゃんと話する……ハルカちゃんと」

「おう、そうしろ。ダメだったら美味いモン奢ってやっからよ」

「バッカ野郎、そんな不吉な事言うんじゃ無ぇよ」

 電話越しだからマサオにはわからないが、死んだ魚の目の様だったトシヤの目に光が宿り、マサオの軽口にも付き合う余裕が出来た。いつも空気など読まず、自分の思うがままに行動し、場をかき乱すマサオ。普段ならちょっと困ったヤツなのだが、今回ばかりは彼の言動がトシヤに一歩踏み出させる引き金となった。これでトシヤとハルカの仲が決定的なものになれば万々歳なのだが、事はそう上手く運ぶのだろうか?

「じゃあ、早速ハルカちゃんにメッセージ送るわ」

「おう、頑張れよ。朗報を待ってるぜ」

 マサオがトシヤに激励の言葉を送り、二人の通話は終った。

 マサオとの通話を終えたトシヤはベッドに転がるとハルカに送るメッセージを打ち始めた。しかし、色々と考え過ぎてしまい、どうにも上手い具合に言葉が浮かんでこない。

「うーん、ダメだ……」

 考えれば考えるほど気取った様な、格好付けた様な文面になってしまう。これでは伝わるものも伝わらない。そこでトシヤはごちゃごちゃ考えるのはやめて、自分の気持ちを素直に文字に起こした。そして出来上がった文を敢えて見直すことをせず、送信のアイコンをタップした。


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