上 下
116 / 135

ヒルクライマーは坂を見ると斜度が気になって仕方が無い

しおりを挟む
 そんなこんなでトシヤ達はウォータースライダーの乗り口にやって来た。一般向けのウォータースライダーはお金を取るだけあって無料の子供用滑り台とは違い、山を模した建物が結構な高さ(もっとも子供用滑り台がそんな高さだったら危なっかしくて安心して子供を遊ばせられたものでは無いのだが)でそそり立っていて、カラフルなスロープが伸びている。

「斜度はどれぐらいかなぁ?」

「そうねぇ……上の方のカーブは10%、最後の直線は凄くキツくなってるわね……30%ってトコじゃないかしら?」

「渋山峠の平均斜度が9%で一番キツいところで14%ぐらいでしたよね? これは楽しめそうですね」

 ヒルクライムを好むローディーは傾斜を見て斜度がどれぐらいあるのか考えるという習性がある(無ぇよ、そんなの)。楽しそうな顔で話すハルカとルナ。ちなみに今の勾配の見立ては完璧、ルナは無駄スキルの持主だった。 

 ハルカとルナがコースを見上げていた時、マサオは料金の支払をしようとプールのスタッフに声をかけ、二言三言話してお金を払った後、トシヤに向かって手招きした。

「どーした?」

 マサオの手招きに応じて歩いてきたトシヤはプールのスタッフから何やら大きな8の字型の物体を渡された。

「何だこりゃ? ゴムボートか?」

「『何だよ』って、決まってんじゃねぇか。コレで滑るんだよコースを」

「コレで滑るって……じゃあ何か? 穴が二つあるってコトは……」

 トシヤが言った時、マサオの目がギラリと怪しく光った。

「ああ。もちろん二人乗りだ」

 それはもう嬉しそうな顔で言うマサオだが、その『二人乗り用ゴムボート』の『お尻を入れる穴』は結構離れていて、ご丁寧に振り落とされない様に握っておく為の持ち手も付いている。だから二人で乗ったとしても身体が密着するコトは無いだろう。残念と言えば残念だが、コレはコレで良かったのかもしれない。もし身体が密着する乗り物だったらルナはマサオと二人で乗るのを拒否するかもしれないのだから。

 トシヤとマサオはプールのスタッフから受け取ったゴムボートを一つずつ持ってハルカとルナのところへと戻った。するとトシヤとマサオがゴムボートを持っているのに気付いたハルカが尋ねた。

「あれっ、トシヤ君、それは?」

「ああ、ウォータースライダー用のゴムボートだって」

「へー、そうなんだ。じゃ、行こうよ!」

 トシヤの説明にハルカは軽い感じで答えるとゴムボートに手を伸ばし、トシヤを引っ張る様に歩き出した。どうやらハルカはトシヤと二人で滑る気満々みたいだ。それを見たルナがマサオに声をかけた。

「私達も行きましょ」

 これは見事なまでに期待通りの展開だ。マサオは思わずほくそ笑み、更なる期待に胸を躍らせた。
その期待とは、トシヤが持っている浮き輪をハルカが引っ張った様にルナもマサオの持っている浮き輪を引っ張り、二人で浮き輪を持って……というモノだった。だがしかし、世の中そんなに甘くは無かった。ルナはマサオの持っているゴムボートに手を伸ばすこと無くトシヤとハルカの後を追ってしまったのだ。だが、いつもならスタスタとマサオを置いて一人で行ってしまうルナが今は少し歩いた所でマサオが近くに来るまで待ってくれている。

 それだけでも幸せだ…… マサオはそう気持ちを切り替え、急いでルナに追いつき、肩を並べてトシヤとハルカの後を追って歩いた。

 ウォータースライダーのスタート地点は当然の事ながら高い場所にある。そしてウォータースライダーの利用者はその『高い場所』まで浮き輪を持って行かなければならないのだが、残念な事にこの施設にはエレベーターやエスカレーターなど設置されてはいない。お客様にクソ暑い中を浮き輪片手に階段を上らせるなんてどういう事だ……などと思ったりもするが、ココはそういうシステムなのだから甘んじて受け入れなければならない。とは言えこの暑さだ、愚痴のひとつもこぼしたくなるのが人情ってものだ。

「う~、暑い……」

「何言ってるのよ。山上ってる時はもっと暑いじゃない」

 階段の途中で立ち止まり、弱音を漏らしたトシヤにハルカがあっさりと言った。

 ハルカの言う通り、トシヤ達は山をロードバイクで上っているのだからこれぐらいはどうってコトは無い……筈が無かろう。ロードバイクでのヒルクライムの目的、それはガチ勢にとってはタイムを縮めることであり、トシヤ達『ヒルクライムラバーズ』にとっては苦しい思いをした先にある達成感だ。そしてこの両者に共通するのは目的がヒルクライムそのものだということ。だから彼等は苦しい顔をしながらもロードバイクで山を上るのを厭わない。
 しかし今は違う。トシヤ達は浮き輪を持って階段を上りたいのでは無い。単にウォータースライダーを楽しみたいだけだ。

「いや……それとこれは関係無いと思う……」

 トシヤはハルカの一方的な見解に溜息を吐いた後、こんなトコでグダグダしててもしょうが無いと気を取り直して階段をまた上り始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

碓氷唯
恋愛
公爵令嬢のシェイラは王太子に婚約破棄され、前世の記憶を思い出す。前世では両親を亡くしていて、モフモフの猫と暮らしながらチョコレートのお菓子を作るのが好きだったが、この世界ではチョコレートはデザートの横に適当に添えられている、ただの「飾りつけ」という扱いだった。しかも板チョコがでーんと置いてあるだけ。え? ひどすぎません? どうしてチョコレートのお菓子が存在しないの? なら、私が作ってやる! モフモフ猫の獣人と共にショコラカフェを開き、不思議な力で人々と獣人を救いつつ、モフモフとチョコレートを堪能する話。この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

【完結保証】R-15 信じられるのは貴方だけ

遥瀬 ひな《はるせ ひな》
恋愛
イェイツ帝国の宮廷貴族、ハークト侯爵家の長女として生を受けたレフィア・ハークト。 シーヴァス王国で【王国の盾】と呼ばれるアーガン伯爵家の嫡男として生を受けたオレイアス・アーガン。 異なる国で同じ年に産まれ、それぞれの人生を歩んできた二人。やがて避けようもない時代のうねりに巻き込まれたレフィアとオレイアス。二人が望み掴む未来とは。 *エロいシーンは力入れて書いてます。(当社比) *全ての性描写には、☆もしくは★が表示されております。 *同意を得ないケースは★で表示してありますので苦手な方はご自衛下さい。 《完結まで書き終えています》 《今作は初回予約投稿から毎日毎時間予約投稿します》 《物語は大きく二部構成となっております》 《一部終了後二部開始までインターバルを頂きます》 《二部開始から完結まで毎日毎時間予約投稿します》 ♯♯♯!いいね&エール祭り開催します!♯♯♯ なんじゃそら?とお思いの皆様へ。 試験的に❤️と🎉の数で二部開始の予約投稿を早めようと思います。次の投稿をお待ち頂けてるの?だったらもう始めちゃおうかしら?と言う指標にしたいと思います。早く続きが読みたい!と思って頂けると嬉しいです。その時は是非、ポチッとお願いします。作者が小躍りして早めることがあります。(注:他の作品に❤️と🎉を付けて下さった場合も早めるかも?知れません。あまり反応が無ければ予定通りインターバルを置きます。) ♪ こちらは【私はお兄様を愛している】の完結から十三年後を描いた《次世代編》です。その為、本編と番外編未読の方はネタバレに繋がる描写があります。何卒ご注意下さい♪

転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア
ファンタジー
 とある真っ黒な会社に入社してしまった無気力主人公は、赤信号をかっ飛ばしてきた車に跳ねられて死亡してしまった。神様によってチート能力満載のエルフとして、剣と魔法の異世界に転生した主人公の願いはただ一つ。「自堕落を極めます」  どこまでもマイペースを貫く主人公と、それに振り回される魔王達の異世界ファンタジーコメディー開幕です。

処理中です...