109 / 136
ハルカを襲った悲劇
しおりを挟む
「お待たせ」
5分も経たず店から出てきたトシヤがマサオに声をかけた。もちろん手には買ったばかりの冷たいスポーツドリンクのペットボトルが握られている。
「早かったな。もう良いのか?」
マサオは驚いた様に声を上げた。それほどトシヤは短時間で店から出てきたのだ。もう少し店内で涼んでも良さそうなものなのに……
「ああ。暑かったろ? お前も早く行ってこいよ」
笑顔で言うトシヤにマサオは意味ありげな笑顔を返して言った。
「おう。んじゃ、ちょろっと涼んでくるわ」
マサオが言ったと同時にトシヤのサイクルジャージの背中ポケットでスマホがブルブルと震え出し、トシヤが慌ててスマホを取り出した。
期待のこもった目でマサオが見ている前でトシヤがスマホを確認すると、画面には『ハルカちゃん』と表示されている。お待ちかねのハルカからのメッセージだ。トシヤは晴れ晴れしい顔でメッセージの本文を確認したのだが、その顔はみるみるうちに暗くなっていった。
「ハルカちゃん、暫くロードバイク乗れなくなったって……」
「ええっ!? ハルカちゃん、どうしたんだ?」
しょぼくれた声でボソッと言ったトシヤに素っ頓狂な声でマサオが尋ねた。それにしても『暫くロードバイクに乗れない』とは穏やかではない。いったいハルカに何があったというのだ……?
「実はハルカちゃんな……」
トシヤが難しい顔で口を開いた。
何のことはない、ハルカは夏休みに補習を受けなければならないほど成績が悪かったのを親御さんに怒られて、ペナルティとして補習期間中はロードバイクに乗る事を禁じられただけだった。
「なんだそんな事かよ、びっくりさせやがって」
呆れた声のマサオにトシヤはこの世が終わるかの様な悲愴な声で言った。
「でもよ、一週間は一緒に走れないんだぜ」
マサオはトシヤの言葉を聞き、ますます呆れてしまった。いや、気持ちはわからないでもない。しかし、夏休みは始まったばかり、まだまだこれからなのだ。最初の数日間一緒に走れないからと言ってそこまで悲観するコトは無いだろう。
そして根本的な事をマサオはトシヤに尋ねた。
「一緒に走れないったって、会えないワケじゃ無いんだろ?」
そう、別にロードバイクに拘る必要は無い。せっかくの夏休みなのだ、楽しみ方は幾らでもある。だが、トシヤは所在なさげに答えた。
「そんな事言ってもよ、何て誘えば良いかわかんねぇよ」
トシヤはロードバイク無しだとハルカを誘えないと言うのだ。何を情けない事を言ってるんだ……とトシヤの答えにマサオは深いため息を吐き、呆れた声で言った。
「あのなぁ、夏休みなんだから自転車乗る以外にもするべきことは山ほどあるだろうが」
『夏休みにするべきこと』それはトシヤはハルカと、マサオはルナとの仲を深めることだ。その為には会う機会を作らなければならないのだが、マサオはルナに連絡先をまだ教えてもらっていない。だからトシヤの協力が無ければ夏休み中にルナを誘えない、ルナと会うことが出来無いのだ。
もちろんそれはトシヤも重々承知ではある。しかし、良い感じになっているとはいえ、まだ告白していない……いや、良い感じになっているからこそハルカをロードバイク以外の名目で誘うなんて事は『彼女いない歴=年齢』のトシヤには恐ろしく高いハードルだ。
「そんなん言われてもなぁ……」
依然としてウダウダ言い続けるトシヤ。するとマサオは焦れた様に語気を強めた。
「何言ってんだよ、せっかくハルカちゃんと良い感じになってるんだ、山以外にも行きたいトコがあるだろーが。例えばプールとか」
トシヤも健康な男子だから女の子の水着姿を見たいと思うのは当然だ。恥ずかしがる事は無いのだが、トシヤは煮え切らない態度で言った。
「簡単に言ってくれるけどな、どんな風に誘えば良いんだよ?」
それを言われると辛い。返す言葉が無く首を捻るマサオだったが、ここで引き下がってしまうと今後の展開に期待が持てなくなってしまう。そこでマサオはトシヤの欲望を呼び起こす作戦に出た。
「お前はハルカちゃんの水着姿を見たくないのか?」
思いっきりストレートに言ったマサオにトシヤは一瞬たじろいだが、マサオ相手に格好つけても仕方が無い。
「そりゃ、見たいに決まってるだろ」
トシヤとハルカが同じクラスだったら水泳の時間にトシヤはハルカの水着姿を見る事が出来ただろう。しかし残念な事に二人は違うクラスだ。だからトシヤはハルカの水着姿を見た事が無い。馬鹿正直に答えたトシヤにマサオは更に煽る様な事を言った。
「そりゃそうだろうな。それに考えてみろよ、二組の男共は見てるんだぜ、お前がまだ見た事が無いハルカちゃんの水着姿を。悔しいと思わないか?」
これまた妙な事を言い出したマサオだが、その言葉によってトシヤの心に変化が生まれた。
「そうだな。よし、プール行くぞ! ハルカちゃんとルナ先輩誘って!!」
トシヤの嫉妬心(あるいは独占欲)、そしてスケベ心を上手い具合に突いたマサオの作戦勝ちだ。それにしても何とまあトシヤは単純な男なのだろう……って、男なんてこんなモノか。ともかく事が思惑通りに進んだマサオはうんうんと頷きながら仕上げに入った。
「そう来なくっちゃな! よし、早速ハルカちゃんを誘えよ。『プールのタダ券が四枚あるんだけど行かないか?』ってよ」
「タダ券が四枚? マジか!?」
思いっきり食いついたトシヤにマサオはドヤ顔で頷いた。
この提案が無かったら打つ手が思いつかないままに大事な夏休み最初の一週間を無駄に過ごしてしまったかもしれない……そう思ったトシヤは素直に従うことにした。
「じゃあ早速メッセージ送るわ」
言うとトシヤはスマホを取り出し、ハルカに向けてメッセージを打ち、送信アイコンをタップした。
5分も経たず店から出てきたトシヤがマサオに声をかけた。もちろん手には買ったばかりの冷たいスポーツドリンクのペットボトルが握られている。
「早かったな。もう良いのか?」
マサオは驚いた様に声を上げた。それほどトシヤは短時間で店から出てきたのだ。もう少し店内で涼んでも良さそうなものなのに……
「ああ。暑かったろ? お前も早く行ってこいよ」
笑顔で言うトシヤにマサオは意味ありげな笑顔を返して言った。
「おう。んじゃ、ちょろっと涼んでくるわ」
マサオが言ったと同時にトシヤのサイクルジャージの背中ポケットでスマホがブルブルと震え出し、トシヤが慌ててスマホを取り出した。
期待のこもった目でマサオが見ている前でトシヤがスマホを確認すると、画面には『ハルカちゃん』と表示されている。お待ちかねのハルカからのメッセージだ。トシヤは晴れ晴れしい顔でメッセージの本文を確認したのだが、その顔はみるみるうちに暗くなっていった。
「ハルカちゃん、暫くロードバイク乗れなくなったって……」
「ええっ!? ハルカちゃん、どうしたんだ?」
しょぼくれた声でボソッと言ったトシヤに素っ頓狂な声でマサオが尋ねた。それにしても『暫くロードバイクに乗れない』とは穏やかではない。いったいハルカに何があったというのだ……?
「実はハルカちゃんな……」
トシヤが難しい顔で口を開いた。
何のことはない、ハルカは夏休みに補習を受けなければならないほど成績が悪かったのを親御さんに怒られて、ペナルティとして補習期間中はロードバイクに乗る事を禁じられただけだった。
「なんだそんな事かよ、びっくりさせやがって」
呆れた声のマサオにトシヤはこの世が終わるかの様な悲愴な声で言った。
「でもよ、一週間は一緒に走れないんだぜ」
マサオはトシヤの言葉を聞き、ますます呆れてしまった。いや、気持ちはわからないでもない。しかし、夏休みは始まったばかり、まだまだこれからなのだ。最初の数日間一緒に走れないからと言ってそこまで悲観するコトは無いだろう。
そして根本的な事をマサオはトシヤに尋ねた。
「一緒に走れないったって、会えないワケじゃ無いんだろ?」
そう、別にロードバイクに拘る必要は無い。せっかくの夏休みなのだ、楽しみ方は幾らでもある。だが、トシヤは所在なさげに答えた。
「そんな事言ってもよ、何て誘えば良いかわかんねぇよ」
トシヤはロードバイク無しだとハルカを誘えないと言うのだ。何を情けない事を言ってるんだ……とトシヤの答えにマサオは深いため息を吐き、呆れた声で言った。
「あのなぁ、夏休みなんだから自転車乗る以外にもするべきことは山ほどあるだろうが」
『夏休みにするべきこと』それはトシヤはハルカと、マサオはルナとの仲を深めることだ。その為には会う機会を作らなければならないのだが、マサオはルナに連絡先をまだ教えてもらっていない。だからトシヤの協力が無ければ夏休み中にルナを誘えない、ルナと会うことが出来無いのだ。
もちろんそれはトシヤも重々承知ではある。しかし、良い感じになっているとはいえ、まだ告白していない……いや、良い感じになっているからこそハルカをロードバイク以外の名目で誘うなんて事は『彼女いない歴=年齢』のトシヤには恐ろしく高いハードルだ。
「そんなん言われてもなぁ……」
依然としてウダウダ言い続けるトシヤ。するとマサオは焦れた様に語気を強めた。
「何言ってんだよ、せっかくハルカちゃんと良い感じになってるんだ、山以外にも行きたいトコがあるだろーが。例えばプールとか」
トシヤも健康な男子だから女の子の水着姿を見たいと思うのは当然だ。恥ずかしがる事は無いのだが、トシヤは煮え切らない態度で言った。
「簡単に言ってくれるけどな、どんな風に誘えば良いんだよ?」
それを言われると辛い。返す言葉が無く首を捻るマサオだったが、ここで引き下がってしまうと今後の展開に期待が持てなくなってしまう。そこでマサオはトシヤの欲望を呼び起こす作戦に出た。
「お前はハルカちゃんの水着姿を見たくないのか?」
思いっきりストレートに言ったマサオにトシヤは一瞬たじろいだが、マサオ相手に格好つけても仕方が無い。
「そりゃ、見たいに決まってるだろ」
トシヤとハルカが同じクラスだったら水泳の時間にトシヤはハルカの水着姿を見る事が出来ただろう。しかし残念な事に二人は違うクラスだ。だからトシヤはハルカの水着姿を見た事が無い。馬鹿正直に答えたトシヤにマサオは更に煽る様な事を言った。
「そりゃそうだろうな。それに考えてみろよ、二組の男共は見てるんだぜ、お前がまだ見た事が無いハルカちゃんの水着姿を。悔しいと思わないか?」
これまた妙な事を言い出したマサオだが、その言葉によってトシヤの心に変化が生まれた。
「そうだな。よし、プール行くぞ! ハルカちゃんとルナ先輩誘って!!」
トシヤの嫉妬心(あるいは独占欲)、そしてスケベ心を上手い具合に突いたマサオの作戦勝ちだ。それにしても何とまあトシヤは単純な男なのだろう……って、男なんてこんなモノか。ともかく事が思惑通りに進んだマサオはうんうんと頷きながら仕上げに入った。
「そう来なくっちゃな! よし、早速ハルカちゃんを誘えよ。『プールのタダ券が四枚あるんだけど行かないか?』ってよ」
「タダ券が四枚? マジか!?」
思いっきり食いついたトシヤにマサオはドヤ顔で頷いた。
この提案が無かったら打つ手が思いつかないままに大事な夏休み最初の一週間を無駄に過ごしてしまったかもしれない……そう思ったトシヤは素直に従うことにした。
「じゃあ早速メッセージ送るわ」
言うとトシヤはスマホを取り出し、ハルカに向けてメッセージを打ち、送信アイコンをタップした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる