101 / 136
夏休み初日。さあ、渋山峠ヒルクライムだ!
しおりを挟む
夏休みが始まった。だがハルカは朝から補習だ。二人で渋山峠に向かうことにしたトシヤとマサオは自宅近くのコンビニで待ち合わせた。
「今日も暑いなー。まだ十時だってのに」
ぼやく様にマサオが言った。暑いのが嫌ならもっと早く出れば良いのにと思うが、朝早く起きるのは辛い。それに早朝に渋山峠に行くと所謂『ガチ勢』に出くわしてしまうかもしれない。ゆっくりとしか上れないトシヤとマサオにとって急な上り坂を駆け抜ける剛脚達は畏怖の対象であり、そんな猛者達の邪魔になってはいけないという思いがあるのだ。もっとも渋山峠は一般公道なのでそんな気遣いは不要かもしれないが。
「今日は昼から三十五度越えるらしいぞ。とっとと上って帰って来ようぜ」
トシヤが言うが、とっとと上れる様なら苦労はしない、へろへろと上るだけだ。だがそれで良い。今日の目標は二人共足着き無しで渋山峠を上りきる事なのだから。
合流したトシヤとマサオは早速渋山峠に向けて出発した。暑い中、背中に汗を滲ませた二人は渋山峠の麓のコンビニに到着したのは数十分後だった。
「思うんだけどさー、俺達ちょっとは速くなったんじゃないか?」
左のクリートを外しながらマサオが言った。何を厚かましい事を……などと思うトシヤだったが、サイコンの時計を見る限りマサオの言う事はあながち嘘でも無かった。集合場所のコンビニからココまでの所要時間がかなり短くなっているのだ。
「ああ、本当だな。前よりだいぶ早く着く様になったな」
素直に認めたトシヤにマサオは機嫌の良い顔で笑うと右のクリートも外し、プリンスから降りた。
「こう暑くちゃかなわねぇな。とりあえず冷たいモノでも飲もうぜ」
マサオが呑気な事を言うが、ゆっくりすればするほど日は高くなってしまう。日が高くなるという事はつまり気温が上がるという事だ。はっきり言って今でも十分暑い。正直言ってこの暑さだと途中で力尽きて足を着いてしまうかもしれない。だが自宅近くのコンビニから数十分走っているのだから水分補給をしておかないとヒルクライムの途中で脱水症状を起こす危険がある。って言うか、喉はカラカラに渇いているから冷たい飲み物は思いっきり飲みたい。
ちなみに水分補給はこまめに喉の渇きを感じる前に行うのが良いらしいが、なかなかそうもいかないのが現実だ。
「俺、見とくから先に買ってこいよ」
ワイヤーロックを掛けるのが面倒臭いのでトシヤはマサオが冷たいドリンクを買っている間ロードバイクの番をする事にした。そしてマサオが買い物を終えて店から出てくると交代し、店の中へと入った。
「うー、涼しい。エアコンは人類の素晴らしい叡智だなぁ……」
店に入るなりトシヤは呟いた。蒸し暑い外に比べ、コンビニの店内はエアコンが効いて涼しく、快適な事この上ない。だが、そう長居はしていられない。こうしている間にも太陽は高く上り、気温は更に上昇するのだ。トシヤは冷蔵ケースの扉を開け、スポーツドリンクに手を伸ばした。いつもなら500ミリリットルのペットボトルを買うところだが、今日手に取ったのは一番小さいサイズだ。お金が無いわけでは無い。マサオと違って沢山あるわけでも無いが、500ミリリットルのペットボトルを買うぐらいのお金は持っている。
いつもなら喉の渇きを癒して残った分は途中での水分補給を行う為にボトルに入れておく。しかし今日のトシヤは途中で止まって水分補給をするつもりは無い。頑張ってゴールの展望台まで足着き無しで上るつもりだ。その為に少しでも車体を軽くしておきたかったのだ。それなら500ミリリットルも必要無い。300ミリリットルもあれば十分だということだ。
対してマサオが買ったのは500ミリリットルのペットボトルだ。半分飲んで残った半分をボトルに入れたとしたら250グラム強の重量増加だ。この250グラムを大きいと見るかどうか……まあ、それでもトシヤのリアクトよりマサオのプリンスの方が軽いのだが。
「さて、そんじゃ行きますか」
水分補給を終えた二人は渋山峠に向かって走り出した。これから辛い時間が始まるのだ。漫画やアニメの様に派手なシーンなど全く無い、ただひたすらにペダルを回し続ける地味でしんどい時間が。
「今日も暑いなー。まだ十時だってのに」
ぼやく様にマサオが言った。暑いのが嫌ならもっと早く出れば良いのにと思うが、朝早く起きるのは辛い。それに早朝に渋山峠に行くと所謂『ガチ勢』に出くわしてしまうかもしれない。ゆっくりとしか上れないトシヤとマサオにとって急な上り坂を駆け抜ける剛脚達は畏怖の対象であり、そんな猛者達の邪魔になってはいけないという思いがあるのだ。もっとも渋山峠は一般公道なのでそんな気遣いは不要かもしれないが。
「今日は昼から三十五度越えるらしいぞ。とっとと上って帰って来ようぜ」
トシヤが言うが、とっとと上れる様なら苦労はしない、へろへろと上るだけだ。だがそれで良い。今日の目標は二人共足着き無しで渋山峠を上りきる事なのだから。
合流したトシヤとマサオは早速渋山峠に向けて出発した。暑い中、背中に汗を滲ませた二人は渋山峠の麓のコンビニに到着したのは数十分後だった。
「思うんだけどさー、俺達ちょっとは速くなったんじゃないか?」
左のクリートを外しながらマサオが言った。何を厚かましい事を……などと思うトシヤだったが、サイコンの時計を見る限りマサオの言う事はあながち嘘でも無かった。集合場所のコンビニからココまでの所要時間がかなり短くなっているのだ。
「ああ、本当だな。前よりだいぶ早く着く様になったな」
素直に認めたトシヤにマサオは機嫌の良い顔で笑うと右のクリートも外し、プリンスから降りた。
「こう暑くちゃかなわねぇな。とりあえず冷たいモノでも飲もうぜ」
マサオが呑気な事を言うが、ゆっくりすればするほど日は高くなってしまう。日が高くなるという事はつまり気温が上がるという事だ。はっきり言って今でも十分暑い。正直言ってこの暑さだと途中で力尽きて足を着いてしまうかもしれない。だが自宅近くのコンビニから数十分走っているのだから水分補給をしておかないとヒルクライムの途中で脱水症状を起こす危険がある。って言うか、喉はカラカラに渇いているから冷たい飲み物は思いっきり飲みたい。
ちなみに水分補給はこまめに喉の渇きを感じる前に行うのが良いらしいが、なかなかそうもいかないのが現実だ。
「俺、見とくから先に買ってこいよ」
ワイヤーロックを掛けるのが面倒臭いのでトシヤはマサオが冷たいドリンクを買っている間ロードバイクの番をする事にした。そしてマサオが買い物を終えて店から出てくると交代し、店の中へと入った。
「うー、涼しい。エアコンは人類の素晴らしい叡智だなぁ……」
店に入るなりトシヤは呟いた。蒸し暑い外に比べ、コンビニの店内はエアコンが効いて涼しく、快適な事この上ない。だが、そう長居はしていられない。こうしている間にも太陽は高く上り、気温は更に上昇するのだ。トシヤは冷蔵ケースの扉を開け、スポーツドリンクに手を伸ばした。いつもなら500ミリリットルのペットボトルを買うところだが、今日手に取ったのは一番小さいサイズだ。お金が無いわけでは無い。マサオと違って沢山あるわけでも無いが、500ミリリットルのペットボトルを買うぐらいのお金は持っている。
いつもなら喉の渇きを癒して残った分は途中での水分補給を行う為にボトルに入れておく。しかし今日のトシヤは途中で止まって水分補給をするつもりは無い。頑張ってゴールの展望台まで足着き無しで上るつもりだ。その為に少しでも車体を軽くしておきたかったのだ。それなら500ミリリットルも必要無い。300ミリリットルもあれば十分だということだ。
対してマサオが買ったのは500ミリリットルのペットボトルだ。半分飲んで残った半分をボトルに入れたとしたら250グラム強の重量増加だ。この250グラムを大きいと見るかどうか……まあ、それでもトシヤのリアクトよりマサオのプリンスの方が軽いのだが。
「さて、そんじゃ行きますか」
水分補給を終えた二人は渋山峠に向かって走り出した。これから辛い時間が始まるのだ。漫画やアニメの様に派手なシーンなど全く無い、ただひたすらにペダルを回し続ける地味でしんどい時間が。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる