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夏休み初日。さあ、渋山峠ヒルクライムだ!
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夏休みが始まった。だがハルカは朝から補習だ。二人で渋山峠に向かうことにしたトシヤとマサオは自宅近くのコンビニで待ち合わせた。
「今日も暑いなー。まだ十時だってのに」
ぼやく様にマサオが言った。暑いのが嫌ならもっと早く出れば良いのにと思うが、朝早く起きるのは辛い。それに早朝に渋山峠に行くと所謂『ガチ勢』に出くわしてしまうかもしれない。ゆっくりとしか上れないトシヤとマサオにとって急な上り坂を駆け抜ける剛脚達は畏怖の対象であり、そんな猛者達の邪魔になってはいけないという思いがあるのだ。もっとも渋山峠は一般公道なのでそんな気遣いは不要かもしれないが。
「今日は昼から三十五度越えるらしいぞ。とっとと上って帰って来ようぜ」
トシヤが言うが、とっとと上れる様なら苦労はしない、へろへろと上るだけだ。だがそれで良い。今日の目標は二人共足着き無しで渋山峠を上りきる事なのだから。
合流したトシヤとマサオは早速渋山峠に向けて出発した。暑い中、背中に汗を滲ませた二人は渋山峠の麓のコンビニに到着したのは数十分後だった。
「思うんだけどさー、俺達ちょっとは速くなったんじゃないか?」
左のクリートを外しながらマサオが言った。何を厚かましい事を……などと思うトシヤだったが、サイコンの時計を見る限りマサオの言う事はあながち嘘でも無かった。集合場所のコンビニからココまでの所要時間がかなり短くなっているのだ。
「ああ、本当だな。前よりだいぶ早く着く様になったな」
素直に認めたトシヤにマサオは機嫌の良い顔で笑うと右のクリートも外し、プリンスから降りた。
「こう暑くちゃかなわねぇな。とりあえず冷たいモノでも飲もうぜ」
マサオが呑気な事を言うが、ゆっくりすればするほど日は高くなってしまう。日が高くなるという事はつまり気温が上がるという事だ。はっきり言って今でも十分暑い。正直言ってこの暑さだと途中で力尽きて足を着いてしまうかもしれない。だが自宅近くのコンビニから数十分走っているのだから水分補給をしておかないとヒルクライムの途中で脱水症状を起こす危険がある。って言うか、喉はカラカラに渇いているから冷たい飲み物は思いっきり飲みたい。
ちなみに水分補給はこまめに喉の渇きを感じる前に行うのが良いらしいが、なかなかそうもいかないのが現実だ。
「俺、見とくから先に買ってこいよ」
ワイヤーロックを掛けるのが面倒臭いのでトシヤはマサオが冷たいドリンクを買っている間ロードバイクの番をする事にした。そしてマサオが買い物を終えて店から出てくると交代し、店の中へと入った。
「うー、涼しい。エアコンは人類の素晴らしい叡智だなぁ……」
店に入るなりトシヤは呟いた。蒸し暑い外に比べ、コンビニの店内はエアコンが効いて涼しく、快適な事この上ない。だが、そう長居はしていられない。こうしている間にも太陽は高く上り、気温は更に上昇するのだ。トシヤは冷蔵ケースの扉を開け、スポーツドリンクに手を伸ばした。いつもなら500ミリリットルのペットボトルを買うところだが、今日手に取ったのは一番小さいサイズだ。お金が無いわけでは無い。マサオと違って沢山あるわけでも無いが、500ミリリットルのペットボトルを買うぐらいのお金は持っている。
いつもなら喉の渇きを癒して残った分は途中での水分補給を行う為にボトルに入れておく。しかし今日のトシヤは途中で止まって水分補給をするつもりは無い。頑張ってゴールの展望台まで足着き無しで上るつもりだ。その為に少しでも車体を軽くしておきたかったのだ。それなら500ミリリットルも必要無い。300ミリリットルもあれば十分だということだ。
対してマサオが買ったのは500ミリリットルのペットボトルだ。半分飲んで残った半分をボトルに入れたとしたら250グラム強の重量増加だ。この250グラムを大きいと見るかどうか……まあ、それでもトシヤのリアクトよりマサオのプリンスの方が軽いのだが。
「さて、そんじゃ行きますか」
水分補給を終えた二人は渋山峠に向かって走り出した。これから辛い時間が始まるのだ。漫画やアニメの様に派手なシーンなど全く無い、ただひたすらにペダルを回し続ける地味でしんどい時間が。
「今日も暑いなー。まだ十時だってのに」
ぼやく様にマサオが言った。暑いのが嫌ならもっと早く出れば良いのにと思うが、朝早く起きるのは辛い。それに早朝に渋山峠に行くと所謂『ガチ勢』に出くわしてしまうかもしれない。ゆっくりとしか上れないトシヤとマサオにとって急な上り坂を駆け抜ける剛脚達は畏怖の対象であり、そんな猛者達の邪魔になってはいけないという思いがあるのだ。もっとも渋山峠は一般公道なのでそんな気遣いは不要かもしれないが。
「今日は昼から三十五度越えるらしいぞ。とっとと上って帰って来ようぜ」
トシヤが言うが、とっとと上れる様なら苦労はしない、へろへろと上るだけだ。だがそれで良い。今日の目標は二人共足着き無しで渋山峠を上りきる事なのだから。
合流したトシヤとマサオは早速渋山峠に向けて出発した。暑い中、背中に汗を滲ませた二人は渋山峠の麓のコンビニに到着したのは数十分後だった。
「思うんだけどさー、俺達ちょっとは速くなったんじゃないか?」
左のクリートを外しながらマサオが言った。何を厚かましい事を……などと思うトシヤだったが、サイコンの時計を見る限りマサオの言う事はあながち嘘でも無かった。集合場所のコンビニからココまでの所要時間がかなり短くなっているのだ。
「ああ、本当だな。前よりだいぶ早く着く様になったな」
素直に認めたトシヤにマサオは機嫌の良い顔で笑うと右のクリートも外し、プリンスから降りた。
「こう暑くちゃかなわねぇな。とりあえず冷たいモノでも飲もうぜ」
マサオが呑気な事を言うが、ゆっくりすればするほど日は高くなってしまう。日が高くなるという事はつまり気温が上がるという事だ。はっきり言って今でも十分暑い。正直言ってこの暑さだと途中で力尽きて足を着いてしまうかもしれない。だが自宅近くのコンビニから数十分走っているのだから水分補給をしておかないとヒルクライムの途中で脱水症状を起こす危険がある。って言うか、喉はカラカラに渇いているから冷たい飲み物は思いっきり飲みたい。
ちなみに水分補給はこまめに喉の渇きを感じる前に行うのが良いらしいが、なかなかそうもいかないのが現実だ。
「俺、見とくから先に買ってこいよ」
ワイヤーロックを掛けるのが面倒臭いのでトシヤはマサオが冷たいドリンクを買っている間ロードバイクの番をする事にした。そしてマサオが買い物を終えて店から出てくると交代し、店の中へと入った。
「うー、涼しい。エアコンは人類の素晴らしい叡智だなぁ……」
店に入るなりトシヤは呟いた。蒸し暑い外に比べ、コンビニの店内はエアコンが効いて涼しく、快適な事この上ない。だが、そう長居はしていられない。こうしている間にも太陽は高く上り、気温は更に上昇するのだ。トシヤは冷蔵ケースの扉を開け、スポーツドリンクに手を伸ばした。いつもなら500ミリリットルのペットボトルを買うところだが、今日手に取ったのは一番小さいサイズだ。お金が無いわけでは無い。マサオと違って沢山あるわけでも無いが、500ミリリットルのペットボトルを買うぐらいのお金は持っている。
いつもなら喉の渇きを癒して残った分は途中での水分補給を行う為にボトルに入れておく。しかし今日のトシヤは途中で止まって水分補給をするつもりは無い。頑張ってゴールの展望台まで足着き無しで上るつもりだ。その為に少しでも車体を軽くしておきたかったのだ。それなら500ミリリットルも必要無い。300ミリリットルもあれば十分だということだ。
対してマサオが買ったのは500ミリリットルのペットボトルだ。半分飲んで残った半分をボトルに入れたとしたら250グラム強の重量増加だ。この250グラムを大きいと見るかどうか……まあ、それでもトシヤのリアクトよりマサオのプリンスの方が軽いのだが。
「さて、そんじゃ行きますか」
水分補給を終えた二人は渋山峠に向かって走り出した。これから辛い時間が始まるのだ。漫画やアニメの様に派手なシーンなど全く無い、ただひたすらにペダルを回し続ける地味でしんどい時間が。
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