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地獄のポンピングで汗だくのトシヤをハルカが……
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ロードバイクのタイヤの適正空気圧は車重や体重、あとタイヤ幅等の条件によって変わるが、クリンチャーと呼ばれるチューブ式のタイヤだと7バール前後といったところだろう。もっとも小柄でスリムなハルカだと6バールぐらいかもしれないが。
まあ適正空気圧が何バールだろうと空気圧計など持って来ていないのだからタイヤの硬さを目安にするしか無い。とにかく今から携帯用の小さなポンプでタイヤに空気を入れなければならないのだ。さて、このクソ暑い中、何度ポンピングをしなければならないのだろう……100回? 200回? それとも300回か?
世の中にはCO2インフレーターと言う二酸化炭素のボンベを使い一瞬にしてタイヤを膨らませる便利なモノもあるのだが、高校生のトシヤやハルカにとっては贅沢品だ。財力は体力でカバーするというのが若さの成せる技、トシヤは自分で空気を入れようとするハルカからポンプを奪い取り、元気良くポンピングを始めた。
ポンピングを行うトシヤの額から汗が滴り落ちる。最初のうちはシュコシュコと軽快な音を立てて空気を入れていたのだが、時間が経つと共にポンプを動かす手が重くなり、ポンピングのスピードが落ちてくる。
「トシヤ君、私もやるよ」
ハルカが言うがトシヤは「大丈夫だから」と言ってポンピングを続けた。きっとチューブの交換ではあまり役に立てなかった分を挽回するつもりなのだろう。
「もう良いんじゃない?」
トシヤがポンピングを始めて五分程経った頃、ハルカがタイヤを指で押しながら言った。
「こんなモンで良いの?」
トシヤもタイヤを指で押してみるが、思ったよりもタイヤは柔らかく、空気圧が足りない様に思えた。もちろんコレはトシヤとハルカの体重差もあるが、携帯ポンプで適正空気圧にするのは辛いだろうというハルカの思いやりだ。リム打ちパンクしない程度まで空気圧を高めたら走る事は出来る。
「うん。ありがとうトシヤ君、お疲れ様」
言うとハルカはホイールを持ち、ひっくり返されたエモンダのチェーンを少し持ち上げ、クイックを通すとディレイラーをずらしてカシャャコンっと嵌めた。外した時と同様、流れる様な一連の動作にトシヤは感嘆の声を上げた。
「凄い、上手いもんだなぁ」
「だから言ったじゃない慣れよ、慣れ。トシヤ君だってそのうち出来る様になるわよ」
言うとハルカはサイクルジャージの背中のポケットからポケットサイズのウェットテッシュを取り出した。
「はい、トシヤ君。手、真っ黒でしょ」
一枚をトシヤに渡すハルカ。やはりこういうところは女の子だ。
「あ、ありがとう」
トシヤはそれを受け取り、タイヤのカスや埃で汚れた手を拭った。
トシヤはこの暑さの中、携帯ポンプでタイヤに空気を入れていたのだ。手の汚れを落としながらサイクルジャージの袖で拭いても拭いても額から汗が噴き出してくる。するとそんなトシヤを見かねたのか、ハルカが今度はサイクルジャージの背中ポケットからタオルを取り出してトシヤの額の汗をそっと拭いた。
だが、予想外のハルカの行動に面食らったトシヤはハルカのタオルから逃げる様に顔を背けてしまった。
「ご……ごめん、余計な事しちゃったかな……」
せっかく汗を拭いてあげたのに……それを拒まれてしまってしょんぼりするハルカだが、もちろんトシヤはそれが嫌で逃げたワケでは無い。
「そんな事無いよ。でも、俺もタオル持ってるから……」
言いながらトシヤは慌てて手をタオルを取り出してゴシゴシと顔を拭った。
トシヤのタオルは駐車場に入った時に拭いた汗で湿っていた。それに比べてハルカのタオルはまだ使われていないらしく、乾いていて良い匂いがした。それを思い出したトシヤの顔が赤くなった。
――ハルカちゃんのタオル、良い匂いがしたな……アレってハルカちゃんの匂いなのかな……? ――
そんな事を考えたトシヤだったが、それは恐らく洗剤若しくは柔軟剤の匂いだ。残念。まあ、ハルカの身に着けているサイクルジャージも多分同じ匂いだろうからそれがハルカの匂いだと言っても良いかもしれないが、少なくともハルカ自身の匂いでは無い……って、どうでも良いか、そんな事は。ともかくトシヤの顔が赤くなった事でハルカは汗を拭いてあげたのを拒まれたのでは無くトシヤが照れてしまったのだと理解した。そして同時に自分が取った何気ない行動がトシヤにとって深い意味を持つ事に気付き、ハルカもまた頬を赤く染めた。
二人して顔を赤くしたトシヤとハルカを沈黙が包んだ。もちろん展望台の駐車場には数台の車が停まっていてトシヤとハルカの二人きりだというワケでは無いが、誰も二人の事など気にしてはいない。ココはチャンズだ。駐車場に入ってすぐトシヤはハルカに好きだと言ってるも同然なセリフを吐き、ハルカもその気持ちに応える様な態度を示したが、まだお互いにはっきりした意思表示はしていない。ハルカも女の子、きっと待っている筈だ。トシヤの口から『好きだ』という言葉が出るのを。
まあ適正空気圧が何バールだろうと空気圧計など持って来ていないのだからタイヤの硬さを目安にするしか無い。とにかく今から携帯用の小さなポンプでタイヤに空気を入れなければならないのだ。さて、このクソ暑い中、何度ポンピングをしなければならないのだろう……100回? 200回? それとも300回か?
世の中にはCO2インフレーターと言う二酸化炭素のボンベを使い一瞬にしてタイヤを膨らませる便利なモノもあるのだが、高校生のトシヤやハルカにとっては贅沢品だ。財力は体力でカバーするというのが若さの成せる技、トシヤは自分で空気を入れようとするハルカからポンプを奪い取り、元気良くポンピングを始めた。
ポンピングを行うトシヤの額から汗が滴り落ちる。最初のうちはシュコシュコと軽快な音を立てて空気を入れていたのだが、時間が経つと共にポンプを動かす手が重くなり、ポンピングのスピードが落ちてくる。
「トシヤ君、私もやるよ」
ハルカが言うがトシヤは「大丈夫だから」と言ってポンピングを続けた。きっとチューブの交換ではあまり役に立てなかった分を挽回するつもりなのだろう。
「もう良いんじゃない?」
トシヤがポンピングを始めて五分程経った頃、ハルカがタイヤを指で押しながら言った。
「こんなモンで良いの?」
トシヤもタイヤを指で押してみるが、思ったよりもタイヤは柔らかく、空気圧が足りない様に思えた。もちろんコレはトシヤとハルカの体重差もあるが、携帯ポンプで適正空気圧にするのは辛いだろうというハルカの思いやりだ。リム打ちパンクしない程度まで空気圧を高めたら走る事は出来る。
「うん。ありがとうトシヤ君、お疲れ様」
言うとハルカはホイールを持ち、ひっくり返されたエモンダのチェーンを少し持ち上げ、クイックを通すとディレイラーをずらしてカシャャコンっと嵌めた。外した時と同様、流れる様な一連の動作にトシヤは感嘆の声を上げた。
「凄い、上手いもんだなぁ」
「だから言ったじゃない慣れよ、慣れ。トシヤ君だってそのうち出来る様になるわよ」
言うとハルカはサイクルジャージの背中のポケットからポケットサイズのウェットテッシュを取り出した。
「はい、トシヤ君。手、真っ黒でしょ」
一枚をトシヤに渡すハルカ。やはりこういうところは女の子だ。
「あ、ありがとう」
トシヤはそれを受け取り、タイヤのカスや埃で汚れた手を拭った。
トシヤはこの暑さの中、携帯ポンプでタイヤに空気を入れていたのだ。手の汚れを落としながらサイクルジャージの袖で拭いても拭いても額から汗が噴き出してくる。するとそんなトシヤを見かねたのか、ハルカが今度はサイクルジャージの背中ポケットからタオルを取り出してトシヤの額の汗をそっと拭いた。
だが、予想外のハルカの行動に面食らったトシヤはハルカのタオルから逃げる様に顔を背けてしまった。
「ご……ごめん、余計な事しちゃったかな……」
せっかく汗を拭いてあげたのに……それを拒まれてしまってしょんぼりするハルカだが、もちろんトシヤはそれが嫌で逃げたワケでは無い。
「そんな事無いよ。でも、俺もタオル持ってるから……」
言いながらトシヤは慌てて手をタオルを取り出してゴシゴシと顔を拭った。
トシヤのタオルは駐車場に入った時に拭いた汗で湿っていた。それに比べてハルカのタオルはまだ使われていないらしく、乾いていて良い匂いがした。それを思い出したトシヤの顔が赤くなった。
――ハルカちゃんのタオル、良い匂いがしたな……アレってハルカちゃんの匂いなのかな……? ――
そんな事を考えたトシヤだったが、それは恐らく洗剤若しくは柔軟剤の匂いだ。残念。まあ、ハルカの身に着けているサイクルジャージも多分同じ匂いだろうからそれがハルカの匂いだと言っても良いかもしれないが、少なくともハルカ自身の匂いでは無い……って、どうでも良いか、そんな事は。ともかくトシヤの顔が赤くなった事でハルカは汗を拭いてあげたのを拒まれたのでは無くトシヤが照れてしまったのだと理解した。そして同時に自分が取った何気ない行動がトシヤにとって深い意味を持つ事に気付き、ハルカもまた頬を赤く染めた。
二人して顔を赤くしたトシヤとハルカを沈黙が包んだ。もちろん展望台の駐車場には数台の車が停まっていてトシヤとハルカの二人きりだというワケでは無いが、誰も二人の事など気にしてはいない。ココはチャンズだ。駐車場に入ってすぐトシヤはハルカに好きだと言ってるも同然なセリフを吐き、ハルカもその気持ちに応える様な態度を示したが、まだお互いにはっきりした意思表示はしていない。ハルカも女の子、きっと待っている筈だ。トシヤの口から『好きだ』という言葉が出るのを。
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