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チェーンのメンテナンスをしよう!
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梅雨明け宣言が出されて晴天続きの日々をトシヤ達は日曜日を指折り数えて過ごしていた。そして遂に土曜日となった。
「やっと明日は日曜だな。この一週間、長かったぜ」
朝一番、トシヤの顔を見るなりマサオが鼻息も荒く言った。レーシングゼロの性能を早く試したくてうずうずしている様だ。
「そうだな。明日も晴れそうだし、絶好のヒルクライム日和だな」
トシヤも楽しみで仕方が無いみたいだ。だが、良い天気だからと言って明日は『ヒルクライム日和』とは言い難い。何せ梅雨明け直後の日曜日、蒸し暑い事は間違い無いのだから。だがトシヤもマサオもそんな事は丸っきり考えていない。トシヤは忘れてしまったのだろうか? 五月の気候の良い時期に初めて渋山峠を上ってトップチューブに汗が滴るぐらい汗だくになった事を。いや、覚えていようがいまいが関係無いのだろう。
暑かろうが寒かろうが晴れれば自転車日和。それが若さというモノだ。
退屈な授業が終わり、やっと放課後となった。
「トシヤ、帰りにお前チェーンのメンテとかやってるか?」
突然マサオが言い出した。メンテナンスなんてトシヤは全くしていない。もちろん走った後は水拭きぐらいはしているが、チェーンなんて動きが悪くなったり錆びたりしてきたら油を差せば良いかぐらいにしか思っていなかった。
「チェーンが汚れてたら抵抗になるんだってよ」
どうやらまたマサオが本で知識を得た様だ。
もちろんマサオの得た知識は正しい。高いチェーンを買ってもノーメンテだとその性能が生かせず、しっかりメンテナンスした安いチェーンの方が軽く回せるという話もあるぐらいだ。
「今日、ショップにメンテグッズ買いに行こうぜ」
マサオが言うが、トシヤにそんなお金など無い。
「いや……そんな金無ぇよ」
渋るトシヤにマサオはいつもの様に太っ腹な事を言った。
「心配するな。俺が買うから、お前も使えば良いじゃんかよ」
まあ、チェーンオイルを使う量なんてたかが知れている。パーツクリーナーは結構使うのだが、一人でセコセコとチェーンを磨くより二人でやった方が楽しいとマサオは考えたのだろう。
「そっか、じゃあ甘えるわ」
トシヤが頷いて話は決まった。先週日曜日にホイールを買いに行ったばかりなのに……まあ、こういうのも彼等にとっては楽しみの一つなのかもしれない。
トシヤとマサオは制服のままで電車に乗り、いつものロードバイクショップに向かった。
マサオがパーツクリーナーとチェーンオイルそしてワイヤーブラシを購入し、今日はすぐに店を出て電車に乗った。
「じゃあ、すぐ行くわ」
「おう、待ってるぜ」
自宅近くの駅の改札を出たトシヤとマサオは軽いノリの挨拶を交わし、それぞれの家へと帰った。
家に帰ったトシヤは急いで着替えを済ませた。着替えたと言ってもサイクルジャージビブタイツというローディーの正装では無い。普通にジーパンとTシャツだ。
「さて、行くか」
安全を考えてヘルメットとグローブは着用したが、靴はビンディングシューズでは無く普通のスニーカーだ。SPD‐SLのペダルでもちょっと滑り易い事に気を付けさえすればスニーカーでも普通に走れる。さすがに攻めた走りは出来無いが、街中を走るぐらいなら何ら問題は無い。トシヤはリアクトに跨り、マサオの家を目指してスタートした。
「やっぱ出だしが軽くなってるな」
ホイールを交換した効果は最初の踏み出しから感じられた。まあ、これからはこの感覚が当たり前になってしまうのだが。そしてお金のある人はココから『軽量化』という『沼』にズブズブとハマってしまうわけだ。もっとも高校生のトシヤにはそんなお金など無い。だからロードバイクのエンジンである自分の身体を鍛える事でカバーしなければならない……って、違う!
『高い機材を買うお金が無いから身体を鍛える』のでは無い。『身体を鍛えた上で更に良い走りをする為に機材にお金をかける』のがあるべき姿なのだ。
想像してみて欲しい。エントリーモデルに乗って、ハイエンドに乗った人よりも速く走り、さらっと言うのだ。「足と心臓はデュラエースっすから」うーん、格好良い様にも思えるが、何か嫌なヤツみたいでもあるな……
それはさて置き、トシヤはマサオの家に到着した。
トシヤがインターホンを鳴らすと、待っていたかの様にマサオが玄関ドアを開けて顔を出した。
「おう、入れ入れ」
マサオの声にトシヤが玄関ドアを開けて敷地内に入ると、マサオもプリンスを押しながら玄関から出て来た。
「スタンドが1台分しか無いから、シャッターにでも立てといてくれ」
マサオはプリンスを中には高級会社が鎮座しているであろう駐車場のシャッターに立てかけると、また家に中に入りスタンドとメンテ用具一式を手に戻ってきた。だが、トシヤはシャッターに傷でも付けたらと思ってリアクトを手で支えたまま動けない。
「何だ、そんな気を遣う事無いのによ」
言いながらマサオはプリンスをスタンドで立てると、トシヤの代わりにリアクトをシャッターに立て掛けてやった。
「さて、始めようぜ」
まずはプリンスからだ。マサオはチェーンにウェスを宛てがいながらさっき買ったばかりのパーツクリーナーを景気よく吹き付けると、こびり付いていた汚れが溶けてウェス見る見るうちにウェスが黒くなっていき、黒ずんでいたチェーンは銀色に戻っていく。
「うわっ、冷てぇ」
ウェスが吸収しきれなかったパーツクリーナーでマサオの手がベタベタになってしまった様だ。
「ちょっと噴き過ぎじゃないのか?」
トシヤが言うが、マサオは平気な顔だ。
「大丈夫だって。フレームにかかったら塗装が痛むらしいから気を付けてる」
いや、問題はソコじゃ無いだろと思いながらトシヤはパーツクリーナーで汚れたコンクリートの床を見た。
「後で怒られないか?」
「大丈夫だろ。後で拭きゃ何とかなるさ」
気楽そうな顔で答えるマサオにトシヤは「リアクトのチェーンを洗浄する時はパーツクリーナーは控えめに噴こう」と密かに思った。
「やっと明日は日曜だな。この一週間、長かったぜ」
朝一番、トシヤの顔を見るなりマサオが鼻息も荒く言った。レーシングゼロの性能を早く試したくてうずうずしている様だ。
「そうだな。明日も晴れそうだし、絶好のヒルクライム日和だな」
トシヤも楽しみで仕方が無いみたいだ。だが、良い天気だからと言って明日は『ヒルクライム日和』とは言い難い。何せ梅雨明け直後の日曜日、蒸し暑い事は間違い無いのだから。だがトシヤもマサオもそんな事は丸っきり考えていない。トシヤは忘れてしまったのだろうか? 五月の気候の良い時期に初めて渋山峠を上ってトップチューブに汗が滴るぐらい汗だくになった事を。いや、覚えていようがいまいが関係無いのだろう。
暑かろうが寒かろうが晴れれば自転車日和。それが若さというモノだ。
退屈な授業が終わり、やっと放課後となった。
「トシヤ、帰りにお前チェーンのメンテとかやってるか?」
突然マサオが言い出した。メンテナンスなんてトシヤは全くしていない。もちろん走った後は水拭きぐらいはしているが、チェーンなんて動きが悪くなったり錆びたりしてきたら油を差せば良いかぐらいにしか思っていなかった。
「チェーンが汚れてたら抵抗になるんだってよ」
どうやらまたマサオが本で知識を得た様だ。
もちろんマサオの得た知識は正しい。高いチェーンを買ってもノーメンテだとその性能が生かせず、しっかりメンテナンスした安いチェーンの方が軽く回せるという話もあるぐらいだ。
「今日、ショップにメンテグッズ買いに行こうぜ」
マサオが言うが、トシヤにそんなお金など無い。
「いや……そんな金無ぇよ」
渋るトシヤにマサオはいつもの様に太っ腹な事を言った。
「心配するな。俺が買うから、お前も使えば良いじゃんかよ」
まあ、チェーンオイルを使う量なんてたかが知れている。パーツクリーナーは結構使うのだが、一人でセコセコとチェーンを磨くより二人でやった方が楽しいとマサオは考えたのだろう。
「そっか、じゃあ甘えるわ」
トシヤが頷いて話は決まった。先週日曜日にホイールを買いに行ったばかりなのに……まあ、こういうのも彼等にとっては楽しみの一つなのかもしれない。
トシヤとマサオは制服のままで電車に乗り、いつものロードバイクショップに向かった。
マサオがパーツクリーナーとチェーンオイルそしてワイヤーブラシを購入し、今日はすぐに店を出て電車に乗った。
「じゃあ、すぐ行くわ」
「おう、待ってるぜ」
自宅近くの駅の改札を出たトシヤとマサオは軽いノリの挨拶を交わし、それぞれの家へと帰った。
家に帰ったトシヤは急いで着替えを済ませた。着替えたと言ってもサイクルジャージビブタイツというローディーの正装では無い。普通にジーパンとTシャツだ。
「さて、行くか」
安全を考えてヘルメットとグローブは着用したが、靴はビンディングシューズでは無く普通のスニーカーだ。SPD‐SLのペダルでもちょっと滑り易い事に気を付けさえすればスニーカーでも普通に走れる。さすがに攻めた走りは出来無いが、街中を走るぐらいなら何ら問題は無い。トシヤはリアクトに跨り、マサオの家を目指してスタートした。
「やっぱ出だしが軽くなってるな」
ホイールを交換した効果は最初の踏み出しから感じられた。まあ、これからはこの感覚が当たり前になってしまうのだが。そしてお金のある人はココから『軽量化』という『沼』にズブズブとハマってしまうわけだ。もっとも高校生のトシヤにはそんなお金など無い。だからロードバイクのエンジンである自分の身体を鍛える事でカバーしなければならない……って、違う!
『高い機材を買うお金が無いから身体を鍛える』のでは無い。『身体を鍛えた上で更に良い走りをする為に機材にお金をかける』のがあるべき姿なのだ。
想像してみて欲しい。エントリーモデルに乗って、ハイエンドに乗った人よりも速く走り、さらっと言うのだ。「足と心臓はデュラエースっすから」うーん、格好良い様にも思えるが、何か嫌なヤツみたいでもあるな……
それはさて置き、トシヤはマサオの家に到着した。
トシヤがインターホンを鳴らすと、待っていたかの様にマサオが玄関ドアを開けて顔を出した。
「おう、入れ入れ」
マサオの声にトシヤが玄関ドアを開けて敷地内に入ると、マサオもプリンスを押しながら玄関から出て来た。
「スタンドが1台分しか無いから、シャッターにでも立てといてくれ」
マサオはプリンスを中には高級会社が鎮座しているであろう駐車場のシャッターに立てかけると、また家に中に入りスタンドとメンテ用具一式を手に戻ってきた。だが、トシヤはシャッターに傷でも付けたらと思ってリアクトを手で支えたまま動けない。
「何だ、そんな気を遣う事無いのによ」
言いながらマサオはプリンスをスタンドで立てると、トシヤの代わりにリアクトをシャッターに立て掛けてやった。
「さて、始めようぜ」
まずはプリンスからだ。マサオはチェーンにウェスを宛てがいながらさっき買ったばかりのパーツクリーナーを景気よく吹き付けると、こびり付いていた汚れが溶けてウェス見る見るうちにウェスが黒くなっていき、黒ずんでいたチェーンは銀色に戻っていく。
「うわっ、冷てぇ」
ウェスが吸収しきれなかったパーツクリーナーでマサオの手がベタベタになってしまった様だ。
「ちょっと噴き過ぎじゃないのか?」
トシヤが言うが、マサオは平気な顔だ。
「大丈夫だって。フレームにかかったら塗装が痛むらしいから気を付けてる」
いや、問題はソコじゃ無いだろと思いながらトシヤはパーツクリーナーで汚れたコンクリートの床を見た。
「後で怒られないか?」
「大丈夫だろ。後で拭きゃ何とかなるさ」
気楽そうな顔で答えるマサオにトシヤは「リアクトのチェーンを洗浄する時はパーツクリーナーは控えめに噴こう」と密かに思った。
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