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おっさんは財力で体力をカバーする

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 前に来た事のあるサイクルラックが設置してあるカフェに到着した。今日も既に数台のロードバイクがラックに掛けられている。そのうちの二台を見て、ハルカとルナが声を上げた。

「あらっ、タイムのVXRSじゃない」

「もう一台はルックの695ね。こんな所で往年の名車を見られるなんて」

 二台ともフランスの高額なロードバイクで、クライマー垂涎の逸品だ。

「すごーい、見て見て! このタイム、カンパのスーパーレコードで組んであるわよ」

「ルックはデュラエースね。一度で良いからこんなの乗ってみたいわね」

 ハルカが騒ぐのはいつもの事だが、珍しくルナも興奮して他人様のロードバイクを舐め回す様に観察している。マサオのプリンスも合わせるとピナレロにタイムにルックと言う中々お目にかかれないブランドのロードバイクが三車種揃っているのだ。ここにコルナゴとかデローザとかが現れてもしたら大騒ぎになるかもしれない。

 するとカフェのドアが開き、二人の中年男が出て来た。二人共サイクルジャージに身を包んだローディーだ。ハルカとルナがそれに気付き、タイムとルックから離れると、二人の男は笑顔で話しかけてきた。

「お嬢ちゃん達もロード乗りなんだね。エモンダに乗ってるって事はクライマーかな?」

「おっ、そっちのお兄ちゃんはリアクトにプリンスか。やっぱり飛ばし屋かい?」

 乗っている車種で決め付けるのはどうかとは思うが、やはり普通はそう思うだろう……もっともロードバイクに興味の無い人からすれば軽量ロードもエアロロードも一緒だと思うのだろうが。

「はい。渋山峠上ってます!」

 ハルカが元気良く答えると男達は目を細めた。

「そうか。若いから元気に上るんだろうな」

「まったく。若い者は羨ましいねぇ。おっと、ゴメンよ。今、場所空けるから」

 言うと男達がサイクルラックから下ろしたロードバイクはタイムとルックだった。

「凄く良いロードバイクに乗ってらっしゃるんですね」

 ルナが言うと男達はニヤリと笑った。

「おっさんだから機材頼りなだけだよ」

「そうそう。若い者はクロスバイクでも上るからな」

『クロスバイク』とはマウンテンバイクのコンポを積み、舗装路用のタイヤを履いたフラットバーハンドルの自転車だ。乗り易く、ロードバイクよりも安価なので若い人に人気がある。この男は『クロスバイクでも上る』と言うが、マウンテンバイクのコンポを積んでいるのでキア比が低いのでスピードこそ出ないものの意外と山は上れたりする……重くてしんどいけれども。まあ、ロードバイクでもしんどいのだが。

「じゃあ、気を付けてな」

 言い残して二人の中年男はタイムとルックに跨り、走り去って行った。

「格好良いなあ。ウチの親父とは大違いだ」

 マサオがボヤく様に言った。マサオの父は会社経営をしていて、忙しくて運動などする暇が無いのか、正に『ザ・中年』と言った雰囲気だ。ルナが「そんな事を言うものじゃ無いわよ」と咎めるが、やはり自分の父親と同じぐらいの年齢の人が颯爽とロードバイクに乗っているのを見てしまうと、どうしても比べてしまう。だが、続くルナの言葉にマサオは黙って頷くしか無かった。

「でも、そのお父さんのおかげでプリンスに乗れてるのよ。感謝しないとね」



 
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