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ホイール交換の効果 ~ホイールを替えれば走りが変わる4~
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愛車を押して店の外に出るとルナとハルカは自分達のエモンダをサイクルラックから下ろし、ヘルメットをかぶってグローブを着けた。
「じゃあ行きましょうか」
「そうだな。ちょっと走るか」
ハルカの声にトシヤが応えると、ハルカは楽しそうな顔で恐ろしいコトを言い出した。
「良いわね。このまま渋山峠に行っちゃおうか」
ロードバイクのショップはトシヤ達の家から西、正反対の方角だ。という事は、ココから渋山峠に行くとなると結構な距離を走らなければならないのだ。ただでさえ足着き無しでは上れないのだから、今から行っても上れるビジョンなど全く見え無い。
「うーん、それも良いんだけど、今日はフラットな道が良いな。レーゼロにも慣れたいし」
マサオが言い訳がましく言うと、ルナが案を出した。
「じゃあ、川沿いのサイクリングロードでも走りましょうか」
『川沿いのサイクリングロード』マサオがプリンスの納車日に置いてきぼりを食ったコースだ。この提案にマサオは大喜び、諸手を挙げて賛成した。
「サイクリングロード、良いっすね! よし、そうしましょう!」
話が決まり、トシヤがリアクトに跨って一漕ぎした瞬間、ホイール交換の効果がはっきりとわかった……わけでは無かった。
「あれっ、前とそんなに変わらないな」
トシヤの正直な感想だった。
ホイールを交換すれば、特に完成車の『鉄下駄』と言われるホイールからちょっと良いホイールに交換すればその違いはすぐに感じられると言う。ではそれを感じられないトシヤは鈍いのか? だがサイコンに示された速度を見てトシヤは目を疑った。
「うわ、もうこんなスピードが出てる」
以前と同じ感覚でペダルを回しても以前よりスピードの乗りが格段に違う。という事は、以前より軽い力で以前と同じスピードが出せるという事だ。
「凄い、これがホイール替えた効果か」
驚くトシヤに後ろからハルカの声が聞こえた。
「ちょっとトシヤ君、ペース速すぎよ。街中なんだからもっと抑えて走らないと!」
レーシング5でこれだけの効果だ。レーシングゼロならもっと凄いんだろうな。思いながらトシヤは足を緩め、サイコンの数字を二十まで落とした。
ハルカの後ろを走っていたマサオもホイールを替えた効果に驚いていた。レーシング5に比べて硬いレーシングゼロはペダルを踏めば即座に反応し、速度をぐいぐい上げてくれ、前を走るハルカに楽々と着いて行ける。それに乗り心地も硬くなり、路面情報を事細かに伝えてくる。と言うか、振動が凄く激しくて手が痺れるし、尻も痛い。
「レーゼロ……コイツは凄ぇな」
スペシャライズドのフューチャーショックにトレックのアイソスピード、ピナレロのDSSとロードレースの世界でも乗り心地が重視される時代だが、往年のロードレーサーを思わせるハードな乗り心地にマサオは酔いしれるばかりだった。
*
トシヤを先頭に市内を少し走った後、道を知らないトシヤに代わってルナが先頭を切り、川沿いのサイクリングロードに出たトシヤ達は時速三十キロ弱のペースで走った。
目指すは以前に訪れた海の近くのカフェだ、トシヤは軽々とペダルを回してルナの走りに着いて行くが、何か違和感を憶えていた。スピードが乗り易くなった反面、その速度を維持しにくくなったのだ。
「おかしいな……前はこんな事無かったのに……」
呟くトシヤだが、実はこれはおかしくも何とも無い、当然の事なのだ。動いているものには動き続けようとする力である『慣性』が働き、これは質量が大きい物程大きい。早い話が軽いホイールより重いホイールの方が回り続けようとする。つまりホイールは高速巡航という点では重いホイールの方が有利なのだ。
とは言ってもこの程度の速度であればペダルを回しさえすれば落ちてしまった速度もすぐに取り戻せる。トシヤはルナの後を追う為にクルクルとペダルを回し続けた。
マサオの方はホイールの軽量化がトシヤ程では無い為に巡航については違和感はほとんど無かった。ただ、市街地を走っていた時と同様にソリッドでゴツゴツした乗り心地が少し辛くなってきたというのが本音だった。まあ、コレは慣れの問題なのだろうが。
走り続けると潮の香りが漂ってきた。海が近い、となればゴールはもうすぐだ。マサオの足にも俄然力が入り、暫くすると観覧車が見えた。
「おっ、アレがULJの観覧車だな」
ココまで来ればもうゴールに着いたも同然だ。ほっとしてマサオは呟いた。
更に少し走り、トシヤ達は港に到着、自転車トラップを抜けて広場をゆっくりと走った。
――前に来た時は子供に手を振られたっけ……――
まだほんの二ヶ月程前の事だが、トシヤはあれから随分経った様な気がした。高校生になって欲しかったロードバイクを買って、渋山峠でハルカとルナに出会い、悪友のマサオもロードバイクに乗り出して、今は四人で走っている。ただそれだけの事がトシヤは凄く嬉しかった。
「じゃあ行きましょうか」
「そうだな。ちょっと走るか」
ハルカの声にトシヤが応えると、ハルカは楽しそうな顔で恐ろしいコトを言い出した。
「良いわね。このまま渋山峠に行っちゃおうか」
ロードバイクのショップはトシヤ達の家から西、正反対の方角だ。という事は、ココから渋山峠に行くとなると結構な距離を走らなければならないのだ。ただでさえ足着き無しでは上れないのだから、今から行っても上れるビジョンなど全く見え無い。
「うーん、それも良いんだけど、今日はフラットな道が良いな。レーゼロにも慣れたいし」
マサオが言い訳がましく言うと、ルナが案を出した。
「じゃあ、川沿いのサイクリングロードでも走りましょうか」
『川沿いのサイクリングロード』マサオがプリンスの納車日に置いてきぼりを食ったコースだ。この提案にマサオは大喜び、諸手を挙げて賛成した。
「サイクリングロード、良いっすね! よし、そうしましょう!」
話が決まり、トシヤがリアクトに跨って一漕ぎした瞬間、ホイール交換の効果がはっきりとわかった……わけでは無かった。
「あれっ、前とそんなに変わらないな」
トシヤの正直な感想だった。
ホイールを交換すれば、特に完成車の『鉄下駄』と言われるホイールからちょっと良いホイールに交換すればその違いはすぐに感じられると言う。ではそれを感じられないトシヤは鈍いのか? だがサイコンに示された速度を見てトシヤは目を疑った。
「うわ、もうこんなスピードが出てる」
以前と同じ感覚でペダルを回しても以前よりスピードの乗りが格段に違う。という事は、以前より軽い力で以前と同じスピードが出せるという事だ。
「凄い、これがホイール替えた効果か」
驚くトシヤに後ろからハルカの声が聞こえた。
「ちょっとトシヤ君、ペース速すぎよ。街中なんだからもっと抑えて走らないと!」
レーシング5でこれだけの効果だ。レーシングゼロならもっと凄いんだろうな。思いながらトシヤは足を緩め、サイコンの数字を二十まで落とした。
ハルカの後ろを走っていたマサオもホイールを替えた効果に驚いていた。レーシング5に比べて硬いレーシングゼロはペダルを踏めば即座に反応し、速度をぐいぐい上げてくれ、前を走るハルカに楽々と着いて行ける。それに乗り心地も硬くなり、路面情報を事細かに伝えてくる。と言うか、振動が凄く激しくて手が痺れるし、尻も痛い。
「レーゼロ……コイツは凄ぇな」
スペシャライズドのフューチャーショックにトレックのアイソスピード、ピナレロのDSSとロードレースの世界でも乗り心地が重視される時代だが、往年のロードレーサーを思わせるハードな乗り心地にマサオは酔いしれるばかりだった。
*
トシヤを先頭に市内を少し走った後、道を知らないトシヤに代わってルナが先頭を切り、川沿いのサイクリングロードに出たトシヤ達は時速三十キロ弱のペースで走った。
目指すは以前に訪れた海の近くのカフェだ、トシヤは軽々とペダルを回してルナの走りに着いて行くが、何か違和感を憶えていた。スピードが乗り易くなった反面、その速度を維持しにくくなったのだ。
「おかしいな……前はこんな事無かったのに……」
呟くトシヤだが、実はこれはおかしくも何とも無い、当然の事なのだ。動いているものには動き続けようとする力である『慣性』が働き、これは質量が大きい物程大きい。早い話が軽いホイールより重いホイールの方が回り続けようとする。つまりホイールは高速巡航という点では重いホイールの方が有利なのだ。
とは言ってもこの程度の速度であればペダルを回しさえすれば落ちてしまった速度もすぐに取り戻せる。トシヤはルナの後を追う為にクルクルとペダルを回し続けた。
マサオの方はホイールの軽量化がトシヤ程では無い為に巡航については違和感はほとんど無かった。ただ、市街地を走っていた時と同様にソリッドでゴツゴツした乗り心地が少し辛くなってきたというのが本音だった。まあ、コレは慣れの問題なのだろうが。
走り続けると潮の香りが漂ってきた。海が近い、となればゴールはもうすぐだ。マサオの足にも俄然力が入り、暫くすると観覧車が見えた。
「おっ、アレがULJの観覧車だな」
ココまで来ればもうゴールに着いたも同然だ。ほっとしてマサオは呟いた。
更に少し走り、トシヤ達は港に到着、自転車トラップを抜けて広場をゆっくりと走った。
――前に来た時は子供に手を振られたっけ……――
まだほんの二ヶ月程前の事だが、トシヤはあれから随分経った様な気がした。高校生になって欲しかったロードバイクを買って、渋山峠でハルカとルナに出会い、悪友のマサオもロードバイクに乗り出して、今は四人で走っている。ただそれだけの事がトシヤは凄く嬉しかった。
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