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レーゼロ! ~ホイールを替えれば走りが変わる3~
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四人が向かったのはショップの近くにあるチェーンのコーヒーショップ。そう、マサオがプリンスを買った時にトシヤと二人で入った店だ。あの時は普通のスニーカーだったのだが、今日はビンディングシューズだ。足を滑らさない様、そして何と言ってもクリートを減らさない様に踵に体重を乗せてペンギンみたいな歩き方でカチャカチャと歩く四人の姿は一般の通行人の目にはさぞ奇異に映ったことだろう。
「私ねー、ケーキセット! オレンジジュースとチーズケーキが良い!」
遠慮というものを微塵も感じさせないハルカにマサオは嫌な顔ひとつしない。それどころかルナとトシヤにもケーキセットを勧めるが、さすがにそこまで甘えるわけにはいかないとルナはジンジャーエール、トシヤはアイスコーヒーを注文した。するとマサオは妙な拘りを見せた。
「ルナ先輩とトシヤがドリンクだけなのに俺とハルカちゃんだけケーキセットを頼めないっすよ」
そう言ってマサオはルナとトシヤの分もケーキセットに注文し直した。まったく友達思いなんだか、ただのボンボンなのか……
チーズケーキを頬張りながらハルカが言った。
「マサオ君、結局レーゼロにしたよね」
「おう、そうだな。それがどうかしたか?」
やはりチーズケーキを頬張りながらマサオが返事をするとハルカの目がギラリと怪しく光った。
「ルナ先輩が『レー3にしといた方が良いんじゃない』って言ったのに、それを聞かずにレーゼロにしたわよね? それじゃ私とルナ先輩は何の為に来たのかな? って」
思いっきり痛いところを突かれたマサオの動きが止まった。そんなもの、答えは決まっている。ルナと一緒に居たいからだ。もちろんハルカも薄々それを感づいた上で言っているのだが、マサオにはそれをこの場で言う根性は無い。
「いや、それを言われたら辛いんだけど……やっぱ実物見たら欲しくなっちゃうじゃんか」
パッと見ただけでもレーシングゼロはレーシング3に比べてスポークが太く(これはスポークの材質の違いによるのだが)てゴツいし、リムの模様(と言ってもシールが貼ってあるだけだが)も格好良い。だからレーシングゼロを選んだのだと苦しい言い訳をするマサオをハルカは冷めた目で一瞥してからルナに視線を向けた。
「まあまあハルカちゃん。そりゃ他人の意見も大事だけど、自分が本当に欲しい物を買うのが一番なんだから」
ルナは目を細めて微笑んだ。ルナの言う事ももっともだが、今はそういう事を言っているのでは無い。ルナは鈍いのか? 或いはマサオに男の子としての興味が全く無いのか? マサオもココで腹を決めて「ルナ先輩と一緒に居たいからだ」とか爆弾発言をすれば少しは状況も変わったかもしれないのに……って、まだ時期尚早過ぎるか。
ケーキセットを平らげ、ロードバイク談義に花を咲かせているうちに時は過ぎ、そろそろ作業が終わる時間となった。
「んじゃ行くか」
「マサオ君、ごちそーさま!」
マサオの声に何故かハルカが一番に椅子から立ち、歩き出した。何のかんの言ってもマサオの新しいホイールに興味があるのだろう。トシヤもマサオのお下がりとは言えホイールが変わったのだ、早く乗ってみたいという衝動に駆られながらもそれを見せない様に敢えてゆっくりと席を立った。
*
トシヤ達がロードバイクショップに戻ると、作業は既に終了していた。完成車の状態でさえ存在感を示すプリンスが、レーシングゼロを履いた事によって更に凄みを増している。
「うわー、ピナレロプリンスにレーゼロ、悔しいけどやっぱり格好良いわね!」
ハルカが珍しく素直に感嘆の声を上げた。それはそうだろう、目の前にあるのは社会人でもそうそう手が出せない代物、高校生のマサオには贅沢過ぎる逸品なのだから。
トシヤはプリンスの横に置かれたリアクトに手を伸ばし、持ち上げてみた。
「軽い……」
リアクト400のノーマルホイールの重量は2400グラムらしい。それに対してレーシング5の重量は1650グラム。つまり750グラムもの軽量化が成されたのだ。
ちなみにレーシングゼロの重量は1518グラム、マサオのプリンスは132グラムの軽量化となる。もちろんホイール交換の効果は重量減だけで無い。レーシングゼロのベアリングはフルクラムが誇るUSB(ウルトラ・スムーズ・ベアリング)だ。最高峰のCULT(セラミック・アルティメット・レベル・テクノロジー)には及ばないものの、とてつもない回転性能を誇っている。これでマサオのプリンスとトシヤのリアクトの戦闘力は格段に跳ね上がった。
「リアクトに付いていたホイールはどうします?」
ショップスタッフが尋ねた。
そこで困ったのはトシヤだ。ロードバイクで来ているので今持って帰る事は不可能だし、家に送ってもらったとしても置く場所に困ってしまう。
「しゃあねぇな、俺が預かっといてやるよ」
悩むトシヤに救いの手が差し伸べられた。マサオがリアクトのノーマルホイールを預かってくれると言うのだ。しかも、トシヤがマサオの申し出を受けなければレーシング5を送ってもらわなければならないのだからと送料まで持ってくれると。
「えっ、マジで良いのか?」
「おう、良いってコトよ」
恐縮するトシヤにマサオは笑顔を見せ、支払いと発送手続きを済ませた。まったくマサオ様々だ。
「私ねー、ケーキセット! オレンジジュースとチーズケーキが良い!」
遠慮というものを微塵も感じさせないハルカにマサオは嫌な顔ひとつしない。それどころかルナとトシヤにもケーキセットを勧めるが、さすがにそこまで甘えるわけにはいかないとルナはジンジャーエール、トシヤはアイスコーヒーを注文した。するとマサオは妙な拘りを見せた。
「ルナ先輩とトシヤがドリンクだけなのに俺とハルカちゃんだけケーキセットを頼めないっすよ」
そう言ってマサオはルナとトシヤの分もケーキセットに注文し直した。まったく友達思いなんだか、ただのボンボンなのか……
チーズケーキを頬張りながらハルカが言った。
「マサオ君、結局レーゼロにしたよね」
「おう、そうだな。それがどうかしたか?」
やはりチーズケーキを頬張りながらマサオが返事をするとハルカの目がギラリと怪しく光った。
「ルナ先輩が『レー3にしといた方が良いんじゃない』って言ったのに、それを聞かずにレーゼロにしたわよね? それじゃ私とルナ先輩は何の為に来たのかな? って」
思いっきり痛いところを突かれたマサオの動きが止まった。そんなもの、答えは決まっている。ルナと一緒に居たいからだ。もちろんハルカも薄々それを感づいた上で言っているのだが、マサオにはそれをこの場で言う根性は無い。
「いや、それを言われたら辛いんだけど……やっぱ実物見たら欲しくなっちゃうじゃんか」
パッと見ただけでもレーシングゼロはレーシング3に比べてスポークが太く(これはスポークの材質の違いによるのだが)てゴツいし、リムの模様(と言ってもシールが貼ってあるだけだが)も格好良い。だからレーシングゼロを選んだのだと苦しい言い訳をするマサオをハルカは冷めた目で一瞥してからルナに視線を向けた。
「まあまあハルカちゃん。そりゃ他人の意見も大事だけど、自分が本当に欲しい物を買うのが一番なんだから」
ルナは目を細めて微笑んだ。ルナの言う事ももっともだが、今はそういう事を言っているのでは無い。ルナは鈍いのか? 或いはマサオに男の子としての興味が全く無いのか? マサオもココで腹を決めて「ルナ先輩と一緒に居たいからだ」とか爆弾発言をすれば少しは状況も変わったかもしれないのに……って、まだ時期尚早過ぎるか。
ケーキセットを平らげ、ロードバイク談義に花を咲かせているうちに時は過ぎ、そろそろ作業が終わる時間となった。
「んじゃ行くか」
「マサオ君、ごちそーさま!」
マサオの声に何故かハルカが一番に椅子から立ち、歩き出した。何のかんの言ってもマサオの新しいホイールに興味があるのだろう。トシヤもマサオのお下がりとは言えホイールが変わったのだ、早く乗ってみたいという衝動に駆られながらもそれを見せない様に敢えてゆっくりと席を立った。
*
トシヤ達がロードバイクショップに戻ると、作業は既に終了していた。完成車の状態でさえ存在感を示すプリンスが、レーシングゼロを履いた事によって更に凄みを増している。
「うわー、ピナレロプリンスにレーゼロ、悔しいけどやっぱり格好良いわね!」
ハルカが珍しく素直に感嘆の声を上げた。それはそうだろう、目の前にあるのは社会人でもそうそう手が出せない代物、高校生のマサオには贅沢過ぎる逸品なのだから。
トシヤはプリンスの横に置かれたリアクトに手を伸ばし、持ち上げてみた。
「軽い……」
リアクト400のノーマルホイールの重量は2400グラムらしい。それに対してレーシング5の重量は1650グラム。つまり750グラムもの軽量化が成されたのだ。
ちなみにレーシングゼロの重量は1518グラム、マサオのプリンスは132グラムの軽量化となる。もちろんホイール交換の効果は重量減だけで無い。レーシングゼロのベアリングはフルクラムが誇るUSB(ウルトラ・スムーズ・ベアリング)だ。最高峰のCULT(セラミック・アルティメット・レベル・テクノロジー)には及ばないものの、とてつもない回転性能を誇っている。これでマサオのプリンスとトシヤのリアクトの戦闘力は格段に跳ね上がった。
「リアクトに付いていたホイールはどうします?」
ショップスタッフが尋ねた。
そこで困ったのはトシヤだ。ロードバイクで来ているので今持って帰る事は不可能だし、家に送ってもらったとしても置く場所に困ってしまう。
「しゃあねぇな、俺が預かっといてやるよ」
悩むトシヤに救いの手が差し伸べられた。マサオがリアクトのノーマルホイールを預かってくれると言うのだ。しかも、トシヤがマサオの申し出を受けなければレーシング5を送ってもらわなければならないのだからと送料まで持ってくれると。
「えっ、マジで良いのか?」
「おう、良いってコトよ」
恐縮するトシヤにマサオは笑顔を見せ、支払いと発送手続きを済ませた。まったくマサオ様々だ。
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