上 下
68 / 136

皆が納得するデザインって難しい…… ~オリジナルジャージを作ろう! 2~

しおりを挟む
 トシヤ達はショッピングモールの一階に入っているチェーンのコーヒーショップに行き、テーブル席に座った。

「さて、んじゃ始めっか」

 飲み物を注文するや否やマサオは買ったばかりのレポート用紙を適当に引き千切り、ルナとハルカ、そしてトシヤに配ると色鉛筆をテーブルに広げた。とりあえず、各々が自分でデザイン画を描いて見せ合おうと言うのだ。

「俺、絵なんか画けないぞ」

 トシヤが言うが、マサオは「イメージだよイメージ」と軽いノリでレポート用紙に色鉛筆を走らせた。
 それを見たハルカも色鉛筆を手に取り何やら描き始めたのでトシヤも色鉛筆を一本手にし、まずジャージの形を線で描いた。問題はココからだ。

「まずは文字からだな」

 チームジャージに必須なのは何と言ってもチーム名だ。もちろんチーム名は『ヒルクライムラバーズ』だ。もっともコレはチームでも何でも無いのだけれどが、他に付けるべき名前など無いのだ。先に描き始めたマサオとハルカも『ヒルクライムラバーズ』の文字を入れているに違い無い。
 トシヤがちらっとマサオの手元を覗うと、ツールやジロのレースチームのジャージをイメージしているのだろう、派手な色使いの中にアルファベットが踊っている。もちろん『ヒルクライムラバーズ』と書いてあるのだが、何か違和感を憶えたトシヤがよく見てみると『HILL CRIME LOVERS』と書いてあるではないか。

「おいマサオ、お前は丘の上で犯罪を犯すのが好きなのか?」

 そう、山を上るクライムは『CLIMB』だ。『CRIME』では犯罪になってしまう。お約束と言えばお約束のボケだが、残念な事にマサオはボケたつもりは全く無いらしい。

「えっ、マジでか!?」

 言いながらマサオは慌ててシャーペンに付いている消しゴムで消そうとするが、線画はともかく色鉛筆で塗ったところは消す事が出来無い。

「ああっ、やり直しじゃねぇか!」

 マサオは腹立だしそうにレポート用紙を破り、丸めるとまた一から描き直し始めた。

 苦笑いしながらトシヤがハルカの手元に視線を移すと、そこにはネコがロードバイクに乗っている可愛らしいイラストが描かれていた。

「へえ、ハルカちゃんって絵心あるんだな」

 感心するトシヤだったが、やはりまた何とも言えない違和感を憶えた。ネコの顔が正面を向いているのに対し、ロードバイクの車体が横を向いているのだ。つまり、このネコは真横を向きながらロードバイクに乗っているのだ。まあ、ヒルクライムの途中で景色を見る為に横を向いたり、後方を確認する際に顔が真横を向く時もあるからそれは良いとして、問題はその角度だ。そのネコは、目分量で約三十度の坂を上っているのだ。
 三十度と言えば約57.7%の勾配だ。何と言う豪脚! だがまあ、10%勾配だと度数にして六度弱だから絵にしたところで平地を走っているイラストとほとんど見分けが付かないだろう。言いだしたらネコの姿もデフォルメされているし、そもそもネコがロードバイクに乗っている事自体がファンタジーなのだからこれはこれで良いのかもしれない。

 それと問題がもう一つ。ネコが乗っているロードバイクのダウンチューブにはしっかりと『TREK』の文字が書かれている。まあ、コレも実際にこのイラストを採用した時に文字だけを消せば良いだけの話だから大した問題では無いのだが。だが、あまりにもファンシーなイラストのジャージを着るとなると男子高校生のトシヤとしては抵抗がある。

「何とかあのネコのイラストだけは阻止しないと……」

 トシヤは頭を振り絞り、デザインを考えた。だが、トシヤがいくら考えてもマサオと同じくレースチーム風のジャージにしかならない。完成度で言えばハルカのイラストの方が遥かに上だ。こうなれば一つ年上のルナの大人のセンスに期待するしか無い。
 トシヤがルナの手元を見てみると、実に残念な事にルナのレポート用紙は線画すら描かれていない白紙のままだった。やる気が無いのか? いや違う。よくよく見ると何度か挑戦はしたのだろう、何本もの線が消された跡が残っている。ジャージの形すら描けないとは……
 ルナは絵心と言うものを母親の胎内に置いてきてしまったのだろう。優しくて美人で、山も上れると完全無欠だと思っていたルナの意外な一面にトシヤは微笑みながらもこのままではネコのイラスト入りジャージを着るハメになってしまうと、必死になってデザインを考え続けた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

島流しされた役立たず王女は前世の知識で無双する〜海の恵みでぼろ儲け、第二の人生を始めます〜

●やきいもほくほく●
恋愛
──目が覚めると海の上だった!? 「メイジー・ド・シールカイズ、あなたを国外に追放するわ!」 長年、虐げられてきた『役立たず王女』メイジーは異母姉妹であるジャシンスに嵌められて島流しにされている最中に前世の記憶を取り戻す。 前世でも家族に裏切られて死んだメイジーは諦めて死のうとするものの、最後まで足掻こうと決意する。 奮起したメイジーはなりふり構わず生き残るために行動をする。 そして……メイジーが辿り着いた島にいたのは島民に神様と祀られるガブリエーレだった。 この出会いがメイジーの運命を大きく変える!? 言葉が通じないため食われそうになり、生け贄にされそうになり、海に流されそうになり、死にかけながらもサバイバル生活を開始する。 ガブリエーレの世話をしつつ、メイジーは〝あるもの〟を見つけて成り上がりを決意。 ガブリエーレに振り回されつつ、彼の〝本来の姿〟を知ったメイジーは──。 これは気弱で争いに負けた王女が逞しく島で生き抜き、神様と運を味方につけて無双する爽快ストーリー!

処理中です...