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男女四人でロードバイクショップへ。これがデートだったら良いのにな
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そして迎えた日曜日。トシヤとマサオは精一杯おしゃれをして待ち合わせのコンビニ……では無く、駅に居た。おしゃれと言ってもトシヤもマサオもTシャツの上に半袖の開襟シャツを羽織っただけだが、普通の高校生の夏のファッションなどこんなものだろう。それに今日行くのはロードバイクのショップ、変にドレスアップしたところでも浮いてしまうだけだ。
「あっ、居た居た。トシヤ君、マサオ君、お待たせ」
待つ事三十分、ルナとハルカが現れた。『お待たせ』と言っても、ルナとハルカが遅刻した訳では無い。大体わかるだろうが、トシヤとマサオが約束の時間の三十分程前から待っていただけだ。
「いえいえ『お待たせ』だなんて。オレ等もさっき来たトコっすよ」
平然と事実に反する事を言うマサオにトシヤは呆れたが、まさか『来るのが早過ぎて三十分待った』などと恥ずかしい事を言える筈も無く、話を逸らすかの様に言った。
「そうですよ。じゃあ、行きましょうか」
言いながらもトシヤの視線はハルカに向いていた。当然だが、今日のルナとハルカは制服でもサイクルジャージでも無い。初めて見る二人の私服姿は新鮮だった。ちなみにルナはブルージーンズに白いTシャツの上に薄いブルゾンを羽織り、ハルカはデニムのハーフパンツにボーダーのTシャツ、そしてデニムのジャケットを合わせている。二人共、キュートでスポーティーなスタイルだ。
「今日行くショップって、有名な全国チェーンのトコだよね?」
「ああ。トシヤがリアクト、俺がプリンスを買った店だよ。車体以外にもパーツとか揃ってるからな、やっぱり愛車にはオリジナリティを出したいじゃんかよ」
ハルカが言うとマサオがまるで自分が見付けた様な言い草で答えた。するとトシヤは文句を言う訳でも無く、驚いた顔で言った。
「いきなりカスタムするのかよ、金持ちは羨ましいねぇ」
ロードバイクのカスタムと言えば、まずホイールやサドルの交換が思い浮かぶが、そんな事をすれば安くても数万円はかかる。ステムやハンドルの交換にしてもアルミ製なら数千円だが、カーボン製となるとやはり数万円コースだ。
「まあ今日はとりあえず下見ってトコだけどな」
マサオが笑いながら言った。そう、ショップに行こうというのはルナ達と出かける口実でしか無いのだ。だが、ハルカは笑顔で言った。
「安い金額でオリジナリティを出したいのなら、コラムスペーサーの色を変えるのが定番よね」
『コラムスペーサー』とはハンドルの高さを調整する輪っかみたいなモノで、数百円で買える。一般的に完成車には黒いモノが付けられているので、それを社外品の色の付いたモノに交換して個性を出そうという訳だ。
「そうなんだ、それぐらいなら何とかなるかな」
「よし、俺もやってみよう」
トシヤが嬉しそうに答えるとマサオも大きく頷いた。
電車を降りた四人は傘を差して連れ立って歩く事数分、ショップに到着した。
「すごーい、綺麗なお店ね」
「本当。それに凄く広いわね。完成車がこんなに展示してあると圧巻ね」
ルナとハルカは初めて来た大手の全国チェーンの広くて綺麗な店内を物珍しそうにキョロキョロしながら見て回った。
「あっ、エモンダのSLR9だ! 良いなー、欲しいなー」
ハルカが展示してある一台を見て感嘆の声を上げた。
『エモンダSLR9』トレックの超軽量バイク『エモンダ』の最高峰で、プロライダーが実際にレースで使用しているバイクで、レースのレギュレーションを無視すれば車両重量は6キロを切る事も可能なヒルクライマー垂涎の一台だ。だが、お値段は100万オーバー。高校生のハルカに買える代物では無い。もちろん社会人でも手が出せる者は限られている。
「いつかは乗ってみたいわね。でも、まずは今のALRをもっと乗り込まないとね。」
ルナが苦笑しながら言うとハルカはすごすごとSLR9から離れた。
トシヤは多くの完成車を見ながらも、今は自分のリアクト400に満足している様で早々と足をパーツコーナーへと向けた。
「これがコラムスペーサーよ」
ルナがプラスチックで出来た何の変哲もない輪っかをトシヤに手渡した。
「そう言えばトシヤ君、ポジションの調整とか、しっかりしてるの?」
ルナが尋ねたが、トシヤは納車の時にサドルの高さを合わせてもらっただけで調整など何もしていない。
「いいえ、何もやってないです。そもそもどうやれば良いかわかりませんし」
それはマサオも同じ事だった。
「ポジションなんて納車の時に合わせてもらってから変えて無いっすよ。自分で変えちゃって良いんですか?」
マサオの言葉にハルカが呆れた様に言った。
「『変えちゃって良いんですか』って、慣れてきたら変えなきゃダメでしょ。納車の時なんか、初心者でも乗り難く無い様にセットしてあるんだから」
ロードバイクはフレームのみで販売しているものと、完成車として売られているものがある。もちろんフレームのみでは乗る事が出来無いので必要な部品を選び、組み上げる(所謂『バラ完』)のだが、こんな買い方をする者は経験者しか居ない(多分)のでポジションは大体出ている。それに対し完成車の場合は初心者が乗る事も考えてハンドルが高く組まれている。
「とりあえず、5ミリのスペーサーを二枚程買っとけば良いんじゃないかしら。色は好みでね」
ルナのアドバイスに従ってトシヤは赤いコラムスペーサーを二枚手に取った。黒と赤の車体に赤のコラムスペーサー、定番と言えば定番の組み合わせだ。
「トシヤ君、付け方とかわかる?」
ハルカが心配そうに尋ねた。ロードバイクのハンドル回りは六角レンチ二本で整備ある程度の整備は出来る。だが、やり方を知らないとハンドルにガタが出たり、逆にハンドルが重くなってしまったりする。いい加減な作業を行うと、走りにくくなるだけでは済まず、安全性まで損なってしまうのだ。
「うーん、本で見て知ってはいるから何とかなるんじゃないかな」
トシヤが答えると、ルナが難しい顔で言った。
「知ってるのと出来るのとでは大違いよ」
ルナの言葉にトシヤとマサオはコラムスペーサーを持ったまま立ち竦んでしまった。せっかく数百円で愛車をドレスアップ出来ると思ったのに、工賃を払うとなると数千円になってしまう。これはマサオにとってはともかくトシヤには痛い出費だ。手にしたコラムスペーサーを棚に戻そうかとも考えたトシヤだったが、救いの手が差し伸べられた。
「じゃあ、手伝ってあげようか?」
なんとハルカが作業を手伝ってくれると言うのだ。するとルナもそれに賛同する様に言った。
「そうね、ハンドル回りだからヘタに触っちゃ危ないわね。それにトルクレンチなんか持って無いだろうから、来週にでも私の家で作業しましょうか」
ルナの家で作業を行うという事は、ルナの家に行けるという事だ。これはもう、救いの手が差し伸べられたと言うより神様が舞い降りた様なものだ。
「はい! よろしくお願いします!」
「じゃあ今日はお礼に昼ご飯、ご馳走させてもらいますよ!」
トシヤが喜んだ声を上げる横で、金持ちらしい事を言うマサオにルナは苦笑いしながら答えた。
「お礼だなんて大袈裟な。それじゃショップに工賃払った方が安くつくわよ」
もちろんマサオにとってはお金の問題では無い。ルナに作業を手伝ってもらえる上にルナの家に行けるのだ。その価値は正にプライスレス、昼食代など安いものだと言えよう。「後輩に奢ってもらうなんて」とルナは固辞したが、マサオの熱意に押されて結局はマサオの奢りで昼ご飯を食べる事になった。もちろんルナだけで無く、ハルカとトシヤの分もだ。一人千円として、四千円。高校生としてはかなりの金額だが、マサオは心配するルナを安心させる様に説明した。
「ウチ、自営業なんで、領収書をもらえば親父が経費として上げてくれるんですよ。友達は一生の宝だから大事にしろって親父にいつも言われてますから」
ルナはそれを聞いて目を細めた。
「そう、良いお父さんね。それなら安心してご馳走になろうかしら」
「へへっ、一応相手は選んでますけどね」
言いながらマサオはチラッとトシヤを見た。これはトシヤがマサオにとってかけがえのない友達だという事だ。バカな様でもマサオはマサオなりに色々と考えているのだろう。
「あっ、居た居た。トシヤ君、マサオ君、お待たせ」
待つ事三十分、ルナとハルカが現れた。『お待たせ』と言っても、ルナとハルカが遅刻した訳では無い。大体わかるだろうが、トシヤとマサオが約束の時間の三十分程前から待っていただけだ。
「いえいえ『お待たせ』だなんて。オレ等もさっき来たトコっすよ」
平然と事実に反する事を言うマサオにトシヤは呆れたが、まさか『来るのが早過ぎて三十分待った』などと恥ずかしい事を言える筈も無く、話を逸らすかの様に言った。
「そうですよ。じゃあ、行きましょうか」
言いながらもトシヤの視線はハルカに向いていた。当然だが、今日のルナとハルカは制服でもサイクルジャージでも無い。初めて見る二人の私服姿は新鮮だった。ちなみにルナはブルージーンズに白いTシャツの上に薄いブルゾンを羽織り、ハルカはデニムのハーフパンツにボーダーのTシャツ、そしてデニムのジャケットを合わせている。二人共、キュートでスポーティーなスタイルだ。
「今日行くショップって、有名な全国チェーンのトコだよね?」
「ああ。トシヤがリアクト、俺がプリンスを買った店だよ。車体以外にもパーツとか揃ってるからな、やっぱり愛車にはオリジナリティを出したいじゃんかよ」
ハルカが言うとマサオがまるで自分が見付けた様な言い草で答えた。するとトシヤは文句を言う訳でも無く、驚いた顔で言った。
「いきなりカスタムするのかよ、金持ちは羨ましいねぇ」
ロードバイクのカスタムと言えば、まずホイールやサドルの交換が思い浮かぶが、そんな事をすれば安くても数万円はかかる。ステムやハンドルの交換にしてもアルミ製なら数千円だが、カーボン製となるとやはり数万円コースだ。
「まあ今日はとりあえず下見ってトコだけどな」
マサオが笑いながら言った。そう、ショップに行こうというのはルナ達と出かける口実でしか無いのだ。だが、ハルカは笑顔で言った。
「安い金額でオリジナリティを出したいのなら、コラムスペーサーの色を変えるのが定番よね」
『コラムスペーサー』とはハンドルの高さを調整する輪っかみたいなモノで、数百円で買える。一般的に完成車には黒いモノが付けられているので、それを社外品の色の付いたモノに交換して個性を出そうという訳だ。
「そうなんだ、それぐらいなら何とかなるかな」
「よし、俺もやってみよう」
トシヤが嬉しそうに答えるとマサオも大きく頷いた。
電車を降りた四人は傘を差して連れ立って歩く事数分、ショップに到着した。
「すごーい、綺麗なお店ね」
「本当。それに凄く広いわね。完成車がこんなに展示してあると圧巻ね」
ルナとハルカは初めて来た大手の全国チェーンの広くて綺麗な店内を物珍しそうにキョロキョロしながら見て回った。
「あっ、エモンダのSLR9だ! 良いなー、欲しいなー」
ハルカが展示してある一台を見て感嘆の声を上げた。
『エモンダSLR9』トレックの超軽量バイク『エモンダ』の最高峰で、プロライダーが実際にレースで使用しているバイクで、レースのレギュレーションを無視すれば車両重量は6キロを切る事も可能なヒルクライマー垂涎の一台だ。だが、お値段は100万オーバー。高校生のハルカに買える代物では無い。もちろん社会人でも手が出せる者は限られている。
「いつかは乗ってみたいわね。でも、まずは今のALRをもっと乗り込まないとね。」
ルナが苦笑しながら言うとハルカはすごすごとSLR9から離れた。
トシヤは多くの完成車を見ながらも、今は自分のリアクト400に満足している様で早々と足をパーツコーナーへと向けた。
「これがコラムスペーサーよ」
ルナがプラスチックで出来た何の変哲もない輪っかをトシヤに手渡した。
「そう言えばトシヤ君、ポジションの調整とか、しっかりしてるの?」
ルナが尋ねたが、トシヤは納車の時にサドルの高さを合わせてもらっただけで調整など何もしていない。
「いいえ、何もやってないです。そもそもどうやれば良いかわかりませんし」
それはマサオも同じ事だった。
「ポジションなんて納車の時に合わせてもらってから変えて無いっすよ。自分で変えちゃって良いんですか?」
マサオの言葉にハルカが呆れた様に言った。
「『変えちゃって良いんですか』って、慣れてきたら変えなきゃダメでしょ。納車の時なんか、初心者でも乗り難く無い様にセットしてあるんだから」
ロードバイクはフレームのみで販売しているものと、完成車として売られているものがある。もちろんフレームのみでは乗る事が出来無いので必要な部品を選び、組み上げる(所謂『バラ完』)のだが、こんな買い方をする者は経験者しか居ない(多分)のでポジションは大体出ている。それに対し完成車の場合は初心者が乗る事も考えてハンドルが高く組まれている。
「とりあえず、5ミリのスペーサーを二枚程買っとけば良いんじゃないかしら。色は好みでね」
ルナのアドバイスに従ってトシヤは赤いコラムスペーサーを二枚手に取った。黒と赤の車体に赤のコラムスペーサー、定番と言えば定番の組み合わせだ。
「トシヤ君、付け方とかわかる?」
ハルカが心配そうに尋ねた。ロードバイクのハンドル回りは六角レンチ二本で整備ある程度の整備は出来る。だが、やり方を知らないとハンドルにガタが出たり、逆にハンドルが重くなってしまったりする。いい加減な作業を行うと、走りにくくなるだけでは済まず、安全性まで損なってしまうのだ。
「うーん、本で見て知ってはいるから何とかなるんじゃないかな」
トシヤが答えると、ルナが難しい顔で言った。
「知ってるのと出来るのとでは大違いよ」
ルナの言葉にトシヤとマサオはコラムスペーサーを持ったまま立ち竦んでしまった。せっかく数百円で愛車をドレスアップ出来ると思ったのに、工賃を払うとなると数千円になってしまう。これはマサオにとってはともかくトシヤには痛い出費だ。手にしたコラムスペーサーを棚に戻そうかとも考えたトシヤだったが、救いの手が差し伸べられた。
「じゃあ、手伝ってあげようか?」
なんとハルカが作業を手伝ってくれると言うのだ。するとルナもそれに賛同する様に言った。
「そうね、ハンドル回りだからヘタに触っちゃ危ないわね。それにトルクレンチなんか持って無いだろうから、来週にでも私の家で作業しましょうか」
ルナの家で作業を行うという事は、ルナの家に行けるという事だ。これはもう、救いの手が差し伸べられたと言うより神様が舞い降りた様なものだ。
「はい! よろしくお願いします!」
「じゃあ今日はお礼に昼ご飯、ご馳走させてもらいますよ!」
トシヤが喜んだ声を上げる横で、金持ちらしい事を言うマサオにルナは苦笑いしながら答えた。
「お礼だなんて大袈裟な。それじゃショップに工賃払った方が安くつくわよ」
もちろんマサオにとってはお金の問題では無い。ルナに作業を手伝ってもらえる上にルナの家に行けるのだ。その価値は正にプライスレス、昼食代など安いものだと言えよう。「後輩に奢ってもらうなんて」とルナは固辞したが、マサオの熱意に押されて結局はマサオの奢りで昼ご飯を食べる事になった。もちろんルナだけで無く、ハルカとトシヤの分もだ。一人千円として、四千円。高校生としてはかなりの金額だが、マサオは心配するルナを安心させる様に説明した。
「ウチ、自営業なんで、領収書をもらえば親父が経費として上げてくれるんですよ。友達は一生の宝だから大事にしろって親父にいつも言われてますから」
ルナはそれを聞いて目を細めた。
「そう、良いお父さんね。それなら安心してご馳走になろうかしら」
「へへっ、一応相手は選んでますけどね」
言いながらマサオはチラッとトシヤを見た。これはトシヤがマサオにとってかけがえのない友達だという事だ。バカな様でもマサオはマサオなりに色々と考えているのだろう。
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