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トシヤ、大チャンス?
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トシヤは一つの事に引っかかった。ハルカが「女の子として見てもらえない」と嘆くという事は、逆を返せば
「女の子として見てもらいたい」という事ではないか? だとすれば……
これは大チャンスだ。実際、トシヤはハルカの事を思いっ切り女の子として意識してしまっている。ここで上手くセリフを決められれば……違う、トシヤがハルカの事を女の子として見ていると伝えられれば二人の仲は急接近するかもしれない。
「あの……何て言って良いかわからないけど、無理に変わろうとしなくて良いんじゃないかな? ハルカちゃんはハルカちゃんなんだからさ」
何と言う無難で面白みが微塵も感じられない言葉だろう。トシヤはこんな言葉でハルカが納得するとでも思っているのだろうか? まあ、絶対的に経験値が足りないトシヤだから仕方が無いと言えば仕方が無いのだろうが。
「そうかな……」
ハルカは俯いたまま、上目遣いでトシヤを見た。どことなく寂しげな目で見つめられたトシヤはハルカをその場で抱き締めたい衝動に駆られたが、そんな事をする度胸など持ち合わせている訳が無い。
「うん、そうだよ。ハルカちゃんはハルカちゃんらしいのが一番なんだからさ」
『○○は○○らしいのが一番』本人が変わりたいと思っているというのにそのままで良いだなんて、何とまあ気楽で無責任な言葉だ。しかし、経験値の足りない、と言うか恋愛の経験値が0のトシヤにはそう言ってあげるのが精一杯だった。
「そっか……そうだね」
ハルカは微妙な表情で頷くと顔を上げ、頑張って笑顔を作った。ハルカが微妙な表情をしていた事など知らないトシヤは、ハルカの笑顔を見てほっとしたと同時にハルカが持っているアイスバーが溶けかかっているのに気付いた。
「ハルカちゃん、アイス溶けちゃうよ」
「あっ、本当だ!」
トシヤに言われ、慌ててアイスに口を運ぶハルカを喉の乾きも忘れて見入ってしまったトシヤは思った。
――ハルカちゃん、こんなに可愛いのに……ハルカちゃんのクラスの男子は見る目が無いんだな――
トシヤがそんな事を思っているとは知らないハルカは急いでアイスバーを食べ終わると、買った1リットルのペットボトルのキャップを開けてトシヤに手を差し出した。
「ごめんなさいね、私だけアイス食べちゃって。ボトル貸してちょうだい」
アイスを奢ってもらったお礼なのだろう、ハルカはペットボトルのスポーツドリンクを分けてくれると言う。だが、トシヤはボトルをハルカに渡そうとしなかった。
「どうしたの?」
ハルカが尋ねるが、トシヤはボトルを手にしたまま動こうとしない。
「変なトシヤ君。喉、乾いて無いの?」
不思議そうな顔でハルカが言った。もちろんトシヤは喉が乾いていない訳では無い。むしろ喉はカラカラだ。では何故トシヤは頑なにボトルをハルカに渡そうとしないのか? ハルカは「早く貸して」とばかりにトシヤからボトルを半ば強引に奪い取った。
「何だ、まだ少し残ってるじゃない。こんなのもう温くなっちゃってるから捨てても良いわよね?」
ハルカがトシヤのボトルを振るとチャプチャプと水の音がした。するとトシヤは恥ずかしそうに首を横に振った。
「いや、先に飲んじゃうよ」
ハルカからボトルを取り戻したトシヤは飲み口を少しの間見つめた後、思い切った様に口を付け、一気に中身を飲み干した。買ったばかりの冷たいスポーツドリンクが有るというのに何故トシヤは温くなってしまったボトルの中身を飲み干したのだろう? 不思議に思うハルカの頭に展望台の駐車場での一件が思い出された。
あの時、トシヤはハルカが口を付けたボトルを使われたく無くてマサオに嘘を吐いた。そしてトシヤが今飲み干した温くなってしまったスポーツドリンクはハルカが飲んでいたスポーツドリンクを分けた物なのだ。
この二点から導き出した答えにハルカは顔を赤らめた。『ハルカが導き出した答え』とは、もちろん『トシヤはハルカを女の子だと意識している』という事だ。嬉しくなったハルカは空になったボトルをトシヤから受け取ると、スポーツドリンクをなみなみと注ぎ入れた。トシヤのボトルは約600ミリ。標準的な容量だ。という事は、ペットボトルが1リットルのものだから、400ミリぐらいしか残らない。
「そんなに入れたらハルカちゃんの分が少なくなっちゃうよ」
トシヤが言うが、ハルカは自分はさっきアイスを食べたから大丈夫だと言ってトシヤにたっぷりスポーツドリンクの入ったボトルを渡した。
「あんな温いドリンクじゃ物足りないでしょ? 遠慮せずに飲んでね」
さっきの微妙な表情などまるで無かったかの様な笑顔で言いながらハルカはペットボトルに残ったスポーツドリンクを自分のボトルに移し入れた。
「女の子として見てもらいたい」という事ではないか? だとすれば……
これは大チャンスだ。実際、トシヤはハルカの事を思いっ切り女の子として意識してしまっている。ここで上手くセリフを決められれば……違う、トシヤがハルカの事を女の子として見ていると伝えられれば二人の仲は急接近するかもしれない。
「あの……何て言って良いかわからないけど、無理に変わろうとしなくて良いんじゃないかな? ハルカちゃんはハルカちゃんなんだからさ」
何と言う無難で面白みが微塵も感じられない言葉だろう。トシヤはこんな言葉でハルカが納得するとでも思っているのだろうか? まあ、絶対的に経験値が足りないトシヤだから仕方が無いと言えば仕方が無いのだろうが。
「そうかな……」
ハルカは俯いたまま、上目遣いでトシヤを見た。どことなく寂しげな目で見つめられたトシヤはハルカをその場で抱き締めたい衝動に駆られたが、そんな事をする度胸など持ち合わせている訳が無い。
「うん、そうだよ。ハルカちゃんはハルカちゃんらしいのが一番なんだからさ」
『○○は○○らしいのが一番』本人が変わりたいと思っているというのにそのままで良いだなんて、何とまあ気楽で無責任な言葉だ。しかし、経験値の足りない、と言うか恋愛の経験値が0のトシヤにはそう言ってあげるのが精一杯だった。
「そっか……そうだね」
ハルカは微妙な表情で頷くと顔を上げ、頑張って笑顔を作った。ハルカが微妙な表情をしていた事など知らないトシヤは、ハルカの笑顔を見てほっとしたと同時にハルカが持っているアイスバーが溶けかかっているのに気付いた。
「ハルカちゃん、アイス溶けちゃうよ」
「あっ、本当だ!」
トシヤに言われ、慌ててアイスに口を運ぶハルカを喉の乾きも忘れて見入ってしまったトシヤは思った。
――ハルカちゃん、こんなに可愛いのに……ハルカちゃんのクラスの男子は見る目が無いんだな――
トシヤがそんな事を思っているとは知らないハルカは急いでアイスバーを食べ終わると、買った1リットルのペットボトルのキャップを開けてトシヤに手を差し出した。
「ごめんなさいね、私だけアイス食べちゃって。ボトル貸してちょうだい」
アイスを奢ってもらったお礼なのだろう、ハルカはペットボトルのスポーツドリンクを分けてくれると言う。だが、トシヤはボトルをハルカに渡そうとしなかった。
「どうしたの?」
ハルカが尋ねるが、トシヤはボトルを手にしたまま動こうとしない。
「変なトシヤ君。喉、乾いて無いの?」
不思議そうな顔でハルカが言った。もちろんトシヤは喉が乾いていない訳では無い。むしろ喉はカラカラだ。では何故トシヤは頑なにボトルをハルカに渡そうとしないのか? ハルカは「早く貸して」とばかりにトシヤからボトルを半ば強引に奪い取った。
「何だ、まだ少し残ってるじゃない。こんなのもう温くなっちゃってるから捨てても良いわよね?」
ハルカがトシヤのボトルを振るとチャプチャプと水の音がした。するとトシヤは恥ずかしそうに首を横に振った。
「いや、先に飲んじゃうよ」
ハルカからボトルを取り戻したトシヤは飲み口を少しの間見つめた後、思い切った様に口を付け、一気に中身を飲み干した。買ったばかりの冷たいスポーツドリンクが有るというのに何故トシヤは温くなってしまったボトルの中身を飲み干したのだろう? 不思議に思うハルカの頭に展望台の駐車場での一件が思い出された。
あの時、トシヤはハルカが口を付けたボトルを使われたく無くてマサオに嘘を吐いた。そしてトシヤが今飲み干した温くなってしまったスポーツドリンクはハルカが飲んでいたスポーツドリンクを分けた物なのだ。
この二点から導き出した答えにハルカは顔を赤らめた。『ハルカが導き出した答え』とは、もちろん『トシヤはハルカを女の子だと意識している』という事だ。嬉しくなったハルカは空になったボトルをトシヤから受け取ると、スポーツドリンクをなみなみと注ぎ入れた。トシヤのボトルは約600ミリ。標準的な容量だ。という事は、ペットボトルが1リットルのものだから、400ミリぐらいしか残らない。
「そんなに入れたらハルカちゃんの分が少なくなっちゃうよ」
トシヤが言うが、ハルカは自分はさっきアイスを食べたから大丈夫だと言ってトシヤにたっぷりスポーツドリンクの入ったボトルを渡した。
「あんな温いドリンクじゃ物足りないでしょ? 遠慮せずに飲んでね」
さっきの微妙な表情などまるで無かったかの様な笑顔で言いながらハルカはペットボトルに残ったスポーツドリンクを自分のボトルに移し入れた。
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