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幸せな男マサオ、そしてハルカの困惑
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「なあ、トシヤ」
「なんだ?」
「カオリちゃんだっけ……?」
「ああ、ハルカちゃんの友達な。どうした?」
まさか、惚れたとか言い出すんじゃないだろうな? 確かにまあ可愛い顔はしてたけど、お前ルナ先輩狙いだって言ってたじゃねーか……と思ったトシヤにマサオは深い溜息を吐きながら悲しい現実を口にした。
「俺の事なんか全く眼中に無かったよな」
確かにカオリはハルカの様子を見て二人のどちらがトシヤかすぐに言い当てた後、トシヤで無い方、つまりマサオには微塵も触れようとしなかった。トシヤは落ち込むマサオを面倒臭いと思ったが、放っておく訳にもいかない。
「仕方無ぇだろ、ゆっくり話する時間なんて無かったんだからな」
トシヤの慰めとも取れる言葉にマサオは大きく頷いた。
「それもそうだな。もうちょい時間が有りゃ、俺の話も出たに違い無ぇよな」
実に幸せな男だ。だが、これぐらいの答えは想定の範囲内だった様でトシヤはそれを軽く流すと一つ忠告した。
「まあ、そんなトコじゃ無ぇか? それよりお前の本命はルナ先輩だろ? 他の子の事気にしてる場合じゃ無いだろうが」
そう、マサオはトシヤがロードバイクがきっかけでルナやハルカと仲良くなったのを羨んで、自分もその輪に入る為に高いピナレロプリンスを買ったのだ。
「二兎を追うものは一兎をも得ずって言うだろうが。まずはルナ先輩に集中しろ」
「おっ、トシヤ。って事は応援してくれるんだな、俺とルナ先輩の事を」
トシヤの言葉にマサオが思いっきり食いついた。「うわっ、要らん事言った!」と後悔するトシヤだが時すでに遅し。マサオはご機嫌な顔でトシヤに何か言おうとしたのか擦り寄ったと同時に昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「じゃあ、話の続きは後でな」
マサオの言葉で二人は自分の席へ着いたが、トシヤはふと思った。
「話の続きって何だ? またルナ先輩を誘えって催促じゃ無ぇだろうな?」
一人呟いてマサオの方を見ると、普段なら先生が来るまで後ろの席のヤツと喋くっているマサオが珍しい事に前を向いて大人しく座っている。また変な事考えてんじゃないだろうな……と一抹の不安を憶えるトシヤだった。
同じ頃、ハルカはカオリに対しブチブチと文句を言っていた。
「何であんな変な事言っちゃうのよ!」
『変な事』とは、もちろん学食での一件だ。だが、カオリは悪びれる様子も見せずあっさりと言い返した。
「別に『変な事』じゃ無いでしょ。客観的な事実じゃない」
確かにハルカがクラスの男子から女子扱いされていないのは事実だし、それはハルカ自身が一番よく解っている。だが、問題はそういう事では無い。
「だからと言って、あんな所で言うべき事じゃ無いじゃない! って言うか、客観的な事実だけじゃ無く、思いっきり主観的な事まで言ってたじゃないのよ」
憤りをストレートにぶつけるハルカだったが、カオリは笑顔でさらっと躱し、楽しそうに答えた。
「だって、いつも男子みたいなハルカがトシヤ君の事話す時は女子の顔してるのよ、やっぱり気になるじゃない」
面白がっているだけみたいな気もするが、カオリはハルカの事を案じた上での行動だと言う。そしてカオリはハルカに問いかけた。
「それでトシヤ君の事、本当のところはどう思ってるの?」
あまりにも唐突でストレートな質問にハルカは一瞬固まってしまったが、すぐに我に返り、ブンブンと首を横に振った。
「な、何言ってるのよ! 言ってるでしょ、ロードバイク仲間だって。それがたまたま同じ学校で、同じ学年だっただけの事。それだけの話じゃない」
ハルカはカオリの期待を思いっきり裏切る様な答えを口走ったが、その動揺ぶりからして『それだけの話』な訳が無い。そう察したカオリは強い口調でハルカに詰め寄った。
「あのね、ハルカ。私は冗談や冷やかしで言ってるんじゃ無いのよ。せっかく芽生えた女の子らしい気持ちに蓋しちゃってどうするの!」
カオリの真剣な眼差しをハルカは真っ直ぐ受け止める事が出来ず、俯いてしまい、か細い声で呟いた。
「やっぱり私、トシヤ君の事、男の子として見ちゃってるのかな……よくわからないけど……」
それこそはハルカの偽らざる正直な気持ちだった。男子みたいな性格の女の子が初めて持った気持ちにハルカ自身が一番戸惑い、消化出来ずにいる様だ。
「私、どうしたら良いんだろう……」
蚊の鳴くような声で言うハルカにカオリは優しく微笑みかけた。
「やっと素直になったわね。まったくハルカったら世話焼かすんだから」
まあ、カオリが勝手に世話を焼いているだけなのだが。それはさておきカオリは更に話の深い所へと踏み込んでいった。
「それにしてもどうしてまたトシヤ君に? 今まで男の子になんか全く興味が無いって感じだったのに」
カオリの単なる疑問でしか無い気もするが、確かにトシヤは絶世の美少年という訳でも無ければ超絶ハンサムという訳でも無い。また、マサオの様にお金持ちのボンボンでも無ければ成績優秀で将来有望でも無い。正に『並』とか『普通』とかいう形容がぴったりな男子でしか無い。そんなトシヤに何故いきなりハルカが……?
「やっぱり自転車に乗ってるから?」
カオリがポツリと言った。もちろんカオリの言う『自転車』とは『ロードバイク』の事だ。
「そんな訳無いじゃない。ロードバイク乗りの男の子なんて……あんまり居ないけど」
それはそうだ。ロードバイクに乗っていればモテるなんて、都市伝説にすらなっていない。第一、そんな事ぐらいで男子に興味を示す様なハルカでは無いだろう。
「何でなんだろうね……」
「なんだ?」
「カオリちゃんだっけ……?」
「ああ、ハルカちゃんの友達な。どうした?」
まさか、惚れたとか言い出すんじゃないだろうな? 確かにまあ可愛い顔はしてたけど、お前ルナ先輩狙いだって言ってたじゃねーか……と思ったトシヤにマサオは深い溜息を吐きながら悲しい現実を口にした。
「俺の事なんか全く眼中に無かったよな」
確かにカオリはハルカの様子を見て二人のどちらがトシヤかすぐに言い当てた後、トシヤで無い方、つまりマサオには微塵も触れようとしなかった。トシヤは落ち込むマサオを面倒臭いと思ったが、放っておく訳にもいかない。
「仕方無ぇだろ、ゆっくり話する時間なんて無かったんだからな」
トシヤの慰めとも取れる言葉にマサオは大きく頷いた。
「それもそうだな。もうちょい時間が有りゃ、俺の話も出たに違い無ぇよな」
実に幸せな男だ。だが、これぐらいの答えは想定の範囲内だった様でトシヤはそれを軽く流すと一つ忠告した。
「まあ、そんなトコじゃ無ぇか? それよりお前の本命はルナ先輩だろ? 他の子の事気にしてる場合じゃ無いだろうが」
そう、マサオはトシヤがロードバイクがきっかけでルナやハルカと仲良くなったのを羨んで、自分もその輪に入る為に高いピナレロプリンスを買ったのだ。
「二兎を追うものは一兎をも得ずって言うだろうが。まずはルナ先輩に集中しろ」
「おっ、トシヤ。って事は応援してくれるんだな、俺とルナ先輩の事を」
トシヤの言葉にマサオが思いっきり食いついた。「うわっ、要らん事言った!」と後悔するトシヤだが時すでに遅し。マサオはご機嫌な顔でトシヤに何か言おうとしたのか擦り寄ったと同時に昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「じゃあ、話の続きは後でな」
マサオの言葉で二人は自分の席へ着いたが、トシヤはふと思った。
「話の続きって何だ? またルナ先輩を誘えって催促じゃ無ぇだろうな?」
一人呟いてマサオの方を見ると、普段なら先生が来るまで後ろの席のヤツと喋くっているマサオが珍しい事に前を向いて大人しく座っている。また変な事考えてんじゃないだろうな……と一抹の不安を憶えるトシヤだった。
同じ頃、ハルカはカオリに対しブチブチと文句を言っていた。
「何であんな変な事言っちゃうのよ!」
『変な事』とは、もちろん学食での一件だ。だが、カオリは悪びれる様子も見せずあっさりと言い返した。
「別に『変な事』じゃ無いでしょ。客観的な事実じゃない」
確かにハルカがクラスの男子から女子扱いされていないのは事実だし、それはハルカ自身が一番よく解っている。だが、問題はそういう事では無い。
「だからと言って、あんな所で言うべき事じゃ無いじゃない! って言うか、客観的な事実だけじゃ無く、思いっきり主観的な事まで言ってたじゃないのよ」
憤りをストレートにぶつけるハルカだったが、カオリは笑顔でさらっと躱し、楽しそうに答えた。
「だって、いつも男子みたいなハルカがトシヤ君の事話す時は女子の顔してるのよ、やっぱり気になるじゃない」
面白がっているだけみたいな気もするが、カオリはハルカの事を案じた上での行動だと言う。そしてカオリはハルカに問いかけた。
「それでトシヤ君の事、本当のところはどう思ってるの?」
あまりにも唐突でストレートな質問にハルカは一瞬固まってしまったが、すぐに我に返り、ブンブンと首を横に振った。
「な、何言ってるのよ! 言ってるでしょ、ロードバイク仲間だって。それがたまたま同じ学校で、同じ学年だっただけの事。それだけの話じゃない」
ハルカはカオリの期待を思いっきり裏切る様な答えを口走ったが、その動揺ぶりからして『それだけの話』な訳が無い。そう察したカオリは強い口調でハルカに詰め寄った。
「あのね、ハルカ。私は冗談や冷やかしで言ってるんじゃ無いのよ。せっかく芽生えた女の子らしい気持ちに蓋しちゃってどうするの!」
カオリの真剣な眼差しをハルカは真っ直ぐ受け止める事が出来ず、俯いてしまい、か細い声で呟いた。
「やっぱり私、トシヤ君の事、男の子として見ちゃってるのかな……よくわからないけど……」
それこそはハルカの偽らざる正直な気持ちだった。男子みたいな性格の女の子が初めて持った気持ちにハルカ自身が一番戸惑い、消化出来ずにいる様だ。
「私、どうしたら良いんだろう……」
蚊の鳴くような声で言うハルカにカオリは優しく微笑みかけた。
「やっと素直になったわね。まったくハルカったら世話焼かすんだから」
まあ、カオリが勝手に世話を焼いているだけなのだが。それはさておきカオリは更に話の深い所へと踏み込んでいった。
「それにしてもどうしてまたトシヤ君に? 今まで男の子になんか全く興味が無いって感じだったのに」
カオリの単なる疑問でしか無い気もするが、確かにトシヤは絶世の美少年という訳でも無ければ超絶ハンサムという訳でも無い。また、マサオの様にお金持ちのボンボンでも無ければ成績優秀で将来有望でも無い。正に『並』とか『普通』とかいう形容がぴったりな男子でしか無い。そんなトシヤに何故いきなりハルカが……?
「やっぱり自転車に乗ってるから?」
カオリがポツリと言った。もちろんカオリの言う『自転車』とは『ロードバイク』の事だ。
「そんな訳無いじゃない。ロードバイク乗りの男の子なんて……あんまり居ないけど」
それはそうだ。ロードバイクに乗っていればモテるなんて、都市伝説にすらなっていない。第一、そんな事ぐらいで男子に興味を示す様なハルカでは無いだろう。
「何でなんだろうね……」
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