上 下
25 / 135

幸せな男マサオ、そしてハルカの困惑

しおりを挟む
「なあ、トシヤ」

「なんだ?」

「カオリちゃんだっけ……?」

「ああ、ハルカちゃんの友達な。どうした?」

 まさか、惚れたとか言い出すんじゃないだろうな? 確かにまあ可愛い顔はしてたけど、お前ルナ先輩狙いだって言ってたじゃねーか……と思ったトシヤにマサオは深い溜息を吐きながら悲しい現実を口にした。

「俺の事なんか全く眼中に無かったよな」

 確かにカオリはハルカの様子を見て二人のどちらがトシヤかすぐに言い当てた後、トシヤで無い方、つまりマサオには微塵も触れようとしなかった。トシヤは落ち込むマサオを面倒臭いと思ったが、放っておく訳にもいかない。

「仕方無ぇだろ、ゆっくり話する時間なんて無かったんだからな」

 トシヤの慰めとも取れる言葉にマサオは大きく頷いた。

「それもそうだな。もうちょい時間が有りゃ、俺の話も出たに違い無ぇよな」

 実に幸せな男だ。だが、これぐらいの答えは想定の範囲内だった様でトシヤはそれを軽く流すと一つ忠告した。

「まあ、そんなトコじゃ無ぇか? それよりお前の本命はルナ先輩だろ? 他の子の事気にしてる場合じゃ無いだろうが」

 そう、マサオはトシヤがロードバイクがきっかけでルナやハルカと仲良くなったのを羨んで、自分もその輪に入る為に高いピナレロプリンスを買ったのだ。

「二兎を追うものは一兎をも得ずって言うだろうが。まずはルナ先輩に集中しろ」

「おっ、トシヤ。って事は応援してくれるんだな、俺とルナ先輩の事を」

 トシヤの言葉にマサオが思いっきり食いついた。「うわっ、要らん事言った!」と後悔するトシヤだが時すでに遅し。マサオはご機嫌な顔でトシヤに何か言おうとしたのか擦り寄ったと同時に昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。

「じゃあ、話の続きは後でな」

 マサオの言葉で二人は自分の席へ着いたが、トシヤはふと思った。

「話の続きって何だ? またルナ先輩を誘えって催促じゃ無ぇだろうな?」

 一人呟いてマサオの方を見ると、普段なら先生が来るまで後ろの席のヤツと喋くっているマサオが珍しい事に前を向いて大人しく座っている。また変な事考えてんじゃないだろうな……と一抹の不安を憶えるトシヤだった。


 同じ頃、ハルカはカオリに対しブチブチと文句を言っていた。

「何であんな変な事言っちゃうのよ!」

『変な事』とは、もちろん学食での一件だ。だが、カオリは悪びれる様子も見せずあっさりと言い返した。

「別に『変な事』じゃ無いでしょ。客観的な事実じゃない」

 確かにハルカがクラスの男子から女子扱いされていないのは事実だし、それはハルカ自身が一番よく解っている。だが、問題はそういう事では無い。

「だからと言って、あんな所で言うべき事じゃ無いじゃない! って言うか、客観的な事実だけじゃ無く、思いっきり主観的な事まで言ってたじゃないのよ」

 憤りをストレートにぶつけるハルカだったが、カオリは笑顔でさらっと躱し、楽しそうに答えた。

「だって、いつも男子みたいなハルカがトシヤ君の事話す時は女子の顔してるのよ、やっぱり気になるじゃない」

 面白がっているだけみたいな気もするが、カオリはハルカの事を案じた上での行動だと言う。そしてカオリはハルカに問いかけた。

「それでトシヤ君の事、本当のところはどう思ってるの?」

 あまりにも唐突でストレートな質問にハルカは一瞬固まってしまったが、すぐに我に返り、ブンブンと首を横に振った。

「な、何言ってるのよ! 言ってるでしょ、ロードバイク仲間だって。それがたまたま同じ学校で、同じ学年だっただけの事。それだけの話じゃない」

 ハルカはカオリの期待を思いっきり裏切る様な答えを口走ったが、その動揺ぶりからして『それだけの話』な訳が無い。そう察したカオリは強い口調でハルカに詰め寄った。

「あのね、ハルカ。私は冗談や冷やかしで言ってるんじゃ無いのよ。せっかく芽生えた女の子らしい気持ちに蓋しちゃってどうするの!」

 カオリの真剣な眼差しをハルカは真っ直ぐ受け止める事が出来ず、俯いてしまい、か細い声で呟いた。

「やっぱり私、トシヤ君の事、男の子として見ちゃってるのかな……よくわからないけど……」

 それこそはハルカの偽らざる正直な気持ちだった。男子みたいな性格の女の子が初めて持った気持ちにハルカ自身が一番戸惑い、消化出来ずにいる様だ。

「私、どうしたら良いんだろう……」

 蚊の鳴くような声で言うハルカにカオリは優しく微笑みかけた。

「やっと素直になったわね。まったくハルカったら世話焼かすんだから」

 まあ、カオリが勝手に世話を焼いているだけなのだが。それはさておきカオリは更に話の深い所へと踏み込んでいった。

「それにしてもどうしてまたトシヤ君に? 今まで男の子になんか全く興味が無いって感じだったのに」

 カオリの単なる疑問でしか無い気もするが、確かにトシヤは絶世の美少年という訳でも無ければ超絶ハンサムという訳でも無い。また、マサオの様にお金持ちのボンボンでも無ければ成績優秀で将来有望でも無い。正に『並』とか『普通』とかいう形容がぴったりな男子でしか無い。そんなトシヤに何故いきなりハルカが……?

「やっぱり自転車に乗ってるから?」

 カオリがポツリと言った。もちろんカオリの言う『自転車』とは『ロードバイク』の事だ。

「そんな訳無いじゃない。ロードバイク乗りの男の子なんて……あんまり居ないけど」

 それはそうだ。ロードバイクに乗っていればモテるなんて、都市伝説にすらなっていない。第一、そんな事ぐらいで男子に興味を示す様なハルカでは無いだろう。

「何でなんだろうね……」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

【完結】悪役令嬢になるはずだった令嬢の観察日記 

かのん
恋愛
 こちらの小説は、皇女は当て馬令息に恋をする、の、とある令嬢が記す、観察日記となります。  作者が書きたくなってしまった物語なので、お時間があれば読んでいただけたら幸いです。

【完結】たとえあなたに選ばれなくても

神宮寺 あおい
恋愛
人を踏みつけた者には相応の報いを。 伯爵令嬢のアリシアは半年後に結婚する予定だった。 公爵家次男の婚約者、ルーカスと両思いで一緒になれるのを楽しみにしていたのに。 ルーカスにとって腹違いの兄、ニコラオスの突然の死が全てを狂わせていく。 義母の願う血筋の継承。 ニコラオスの婚約者、フォティアからの横槍。 公爵家を継ぐ義務に縛られるルーカス。 フォティアのお腹にはニコラオスの子供が宿っており、正統なる後継者を望む義母はルーカスとアリシアの婚約を破棄させ、フォティアと婚約させようとする。 そんな中アリシアのお腹にもまた小さな命が。 アリシアとルーカスの思いとは裏腹に2人は周りの思惑に振り回されていく。 何があってもこの子を守らなければ。 大切なあなたとの未来を夢見たいのに許されない。 ならば私は去りましょう。 たとえあなたに選ばれなくても。 私は私の人生を歩んでいく。 これは普通の伯爵令嬢と訳あり公爵令息の、想いが報われるまでの物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 読む前にご確認いただけると助かります。 1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです 2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています よろしくお願いいたします。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字を教えてくださる方、ありがとうございます。 読み返してから投稿しているのですが、見落としていることがあるのでとても助かります。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

処理中です...