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ルナとハルカと走る為の第一歩
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ルナの言葉にマサオは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「いつでも誘って下さいね。それとも、こっちから誘っちゃっても良いですか?」
興奮気味に言うマサオにルナは微笑みながら頷いた。
「トシヤ、こっちから誘ってオッケーだってよ」
マサオが喜んで言うが、トシヤは冷徹に残念な現実をマサオに突きつけた。
「でも、さっきの走り見たろ? 一緒に走るなら、もっと鍛えないとな。千切られたら恥ずかしいぞ」
トシヤの言う通り、ルナとハルカにペースを落としてもらわないと、今のトシヤとマサオではとても着いて行けないだろう。
「お前、先週一緒に走ったんだろ?」
「ああ。でも、あの時は絶対ゆっくり走ってくれてた。今日の下りのスピードとは全然違う。俺は男として恥ずかしい」
男らしく自分の力量不足を認める発言をしたトシヤだが、彼は大きな勘違いをしている。まず一つは先週のライドでルナがゆっくり走った理由。確かにトシヤを気遣いもしていたが、それ以前に一般公道やサイクリングロードで同行者が千切れる程飛ばすなど以ての外。ルナは常識的な走りをしていただけなのだ。そしてもう一つ、ルナとハルカの峠を下りるスピードが速いと思っている様だが、二人にしてみれば、あれでも十分に安全マージンを残して走っていたのだ。峠の下りを限界ギリギリまで攻めて走るなど愚の骨頂、転倒でもしようものなら運が良くて身体と車体がズタボロ、下手すれば骨折して大事なロードバイクは一発廃車、最悪のケースは……。ハルカはトシヤの勘違いを良い事に上から目線で言い放った。
「なかなか解ってきたじゃない。まあ、私達と走りたかったら精々頑張る事ね。じゃあ、また明日学校でね」
そしてヘルメットを被り、サングラスをかけてエモンダに跨ると勝ち誇った顔で付け加えた。
「あ、そうだ。峠の下りの事だけど、アレでもちゃんと抑えて走ってたんだからね」
ルナもトシヤとマサオを諭す様に言った。
「そうよ。ロードバイクは安全が最優先、絶対に無茶な走り方はしちゃダメよ」
マサオはともかくトシヤは無茶な走り方などする気などさらさら無いのだが、今日、実際に走って初めて感じたダウンヒルの怖さを思い起こすと二人共素直に頷くしか無かった。
「わかってくれたら良いの。じゃあ、またね」
優しく微笑んだルナはハルカと共に駐車場から出て行った。残されたトシヤとマサオは駐車場の車止めのブロックにまた座り込み、溜息混じりに話した。
「ルナ先輩もハルカちゃんも速かったよな」
マサオが言うとトシヤは厳しい顔で答えた。
「下りは慣れりゃ速く下れる様になるさ。それより問題は上りだ」
そう、前述の様にルナとハルカは別段飛び抜けて下りが速いという訳では無い。単にトシヤとマサオが初めてのダウンヒルでおっかなびくりだった為、遅すぎたから追い付けなかっただけで慣れればすぐに追い付ける様になるだろう。しかし、上りは違う。峠の上り、所謂『ヒルクライム』は体力勝負だけでは無い。限り有る体力を如何に効率良く使うかがポイントだ。自分を過信して飛ばし過ぎると、トシヤが初めてルナとハルカと出会った時の様に途中でバテてしまう。かと言ってゆっくり走り過ぎても疲れる割に距離が伸びず、結局バテてしまう事になってしまう。そこら辺の塩梅が非常に難しい。ヒルクライムでは「ペダルの一分当たりの回転数(ケイデンス)を90回で上れ」とか「最大心拍数の80%以下を維持しろ」などと言われているが、ケイデンスを計るには『ケイデンスメーター』が、心拍数を計るには『心拍計』が必要となり、お金持ちのマサオはともかくトシヤにはそんな物を買うお金が有る訳が無い。
「何回も上ってトレーニングするしか無いな」
トシヤが言うとマサオも大きく頷いた。
「そうだな。格好悪いトコ、見せられないもんな」
ルナに良いところを見せたいという一念がマサオをやる気にさせた。そこでトシヤが畳み掛ける様に言った。
「んじゃ、今から一本行くか?」
だが、マサオにそんな気力が有る筈が無く、トシヤの申し入れは一蹴された。
「いや、今日はもう止めとこう。長いこと走って疲れちまった」
まあ確かに今日は随分走ったし、何と言ってもフローラルロードとか言うファンシーな名前に騙されて長いアップダウンを走ったのが効いている。今から峠に挑んだところでとてもではないが上りきる事など出来無いだろう。なにしろトシヤは元気な時に上ろうとしても途中で挫折してUターンしてしまっているのだから。
「そうだな。じゃ、今日は帰るか」
「おう、トレーニングは来週からだ」
トシヤが言うと、マサオが威勢良く答えた。どうやらマサオには平日の朝に早起きして走るという考えは無いみたいだ。もっともそれはトシヤも同じだった。
「よし。じゃあ来週日曜日、峠に挑むぞ」
「おう、ルナ先輩に良いトコを……いや、峠を上れる様になる為に頑張ろうぜ!」
思わず本音を漏らしてしまったマサオだが、まあそれはトシヤも解っている事。ともかくトシヤとマサオはこれからヒルクライマーとして切磋琢磨していくのだ。当面の目標は「足を着き無しで上る」という低い目標だが、最初のうちはそんな物だ。さて、二人がそれを達成出来るのはいつになる事やら。
「いつでも誘って下さいね。それとも、こっちから誘っちゃっても良いですか?」
興奮気味に言うマサオにルナは微笑みながら頷いた。
「トシヤ、こっちから誘ってオッケーだってよ」
マサオが喜んで言うが、トシヤは冷徹に残念な現実をマサオに突きつけた。
「でも、さっきの走り見たろ? 一緒に走るなら、もっと鍛えないとな。千切られたら恥ずかしいぞ」
トシヤの言う通り、ルナとハルカにペースを落としてもらわないと、今のトシヤとマサオではとても着いて行けないだろう。
「お前、先週一緒に走ったんだろ?」
「ああ。でも、あの時は絶対ゆっくり走ってくれてた。今日の下りのスピードとは全然違う。俺は男として恥ずかしい」
男らしく自分の力量不足を認める発言をしたトシヤだが、彼は大きな勘違いをしている。まず一つは先週のライドでルナがゆっくり走った理由。確かにトシヤを気遣いもしていたが、それ以前に一般公道やサイクリングロードで同行者が千切れる程飛ばすなど以ての外。ルナは常識的な走りをしていただけなのだ。そしてもう一つ、ルナとハルカの峠を下りるスピードが速いと思っている様だが、二人にしてみれば、あれでも十分に安全マージンを残して走っていたのだ。峠の下りを限界ギリギリまで攻めて走るなど愚の骨頂、転倒でもしようものなら運が良くて身体と車体がズタボロ、下手すれば骨折して大事なロードバイクは一発廃車、最悪のケースは……。ハルカはトシヤの勘違いを良い事に上から目線で言い放った。
「なかなか解ってきたじゃない。まあ、私達と走りたかったら精々頑張る事ね。じゃあ、また明日学校でね」
そしてヘルメットを被り、サングラスをかけてエモンダに跨ると勝ち誇った顔で付け加えた。
「あ、そうだ。峠の下りの事だけど、アレでもちゃんと抑えて走ってたんだからね」
ルナもトシヤとマサオを諭す様に言った。
「そうよ。ロードバイクは安全が最優先、絶対に無茶な走り方はしちゃダメよ」
マサオはともかくトシヤは無茶な走り方などする気などさらさら無いのだが、今日、実際に走って初めて感じたダウンヒルの怖さを思い起こすと二人共素直に頷くしか無かった。
「わかってくれたら良いの。じゃあ、またね」
優しく微笑んだルナはハルカと共に駐車場から出て行った。残されたトシヤとマサオは駐車場の車止めのブロックにまた座り込み、溜息混じりに話した。
「ルナ先輩もハルカちゃんも速かったよな」
マサオが言うとトシヤは厳しい顔で答えた。
「下りは慣れりゃ速く下れる様になるさ。それより問題は上りだ」
そう、前述の様にルナとハルカは別段飛び抜けて下りが速いという訳では無い。単にトシヤとマサオが初めてのダウンヒルでおっかなびくりだった為、遅すぎたから追い付けなかっただけで慣れればすぐに追い付ける様になるだろう。しかし、上りは違う。峠の上り、所謂『ヒルクライム』は体力勝負だけでは無い。限り有る体力を如何に効率良く使うかがポイントだ。自分を過信して飛ばし過ぎると、トシヤが初めてルナとハルカと出会った時の様に途中でバテてしまう。かと言ってゆっくり走り過ぎても疲れる割に距離が伸びず、結局バテてしまう事になってしまう。そこら辺の塩梅が非常に難しい。ヒルクライムでは「ペダルの一分当たりの回転数(ケイデンス)を90回で上れ」とか「最大心拍数の80%以下を維持しろ」などと言われているが、ケイデンスを計るには『ケイデンスメーター』が、心拍数を計るには『心拍計』が必要となり、お金持ちのマサオはともかくトシヤにはそんな物を買うお金が有る訳が無い。
「何回も上ってトレーニングするしか無いな」
トシヤが言うとマサオも大きく頷いた。
「そうだな。格好悪いトコ、見せられないもんな」
ルナに良いところを見せたいという一念がマサオをやる気にさせた。そこでトシヤが畳み掛ける様に言った。
「んじゃ、今から一本行くか?」
だが、マサオにそんな気力が有る筈が無く、トシヤの申し入れは一蹴された。
「いや、今日はもう止めとこう。長いこと走って疲れちまった」
まあ確かに今日は随分走ったし、何と言ってもフローラルロードとか言うファンシーな名前に騙されて長いアップダウンを走ったのが効いている。今から峠に挑んだところでとてもではないが上りきる事など出来無いだろう。なにしろトシヤは元気な時に上ろうとしても途中で挫折してUターンしてしまっているのだから。
「そうだな。じゃ、今日は帰るか」
「おう、トレーニングは来週からだ」
トシヤが言うと、マサオが威勢良く答えた。どうやらマサオには平日の朝に早起きして走るという考えは無いみたいだ。もっともそれはトシヤも同じだった。
「よし。じゃあ来週日曜日、峠に挑むぞ」
「おう、ルナ先輩に良いトコを……いや、峠を上れる様になる為に頑張ろうぜ!」
思わず本音を漏らしてしまったマサオだが、まあそれはトシヤも解っている事。ともかくトシヤとマサオはこれからヒルクライマーとして切磋琢磨していくのだ。当面の目標は「足を着き無しで上る」という低い目標だが、最初のうちはそんな物だ。さて、二人がそれを達成出来るのはいつになる事やら。
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