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出先で食べるコンビニのおにぎりがいつも以上に美味い理由
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「お前なぁ、コンビニ入る時は合図ぐらいしろよな」
駐輪場にリアクトとプリンスを並べて停めてすぐ、トシヤはマサオに文句を言うが、マサオは「だって、このコンビニで止まるって決めてたじゃん」と涼しい顔だ。
「いや、そーゆー問題じゃねーから。解っててもハンドサインを出すのがマナーってモンなんだよ。俺だって曲がる時はちゃんと合図してたろーが」
偉そうに言うトシヤだが、彼が『ハンドサイン』なるモノを知ったのはついこの間。ルナとハルカと三人で走った時だったりする。もちろんうろ覚えで、なんとなく伝わるかな? というレベルではあるが、しないよりは遥かにマシだ。
「わーったよ、とりあえず曲がる方向に手ぇ出しゃ良いんだろ」
他にも減速する時や止まる時、道に障害物が有る事を知らせる等のサインが有るのだが、いきなり「やれ」と言われて出来るものでも無いだろうし、安全な車間距離を取っていれば後ろから突っ込む事も無いだろうと考え、トシヤは頷いた。
「ああ。とりあえず今のところはな。でもマサオ、そーゆールールとかマナーを覚えとかないとルナ先輩やハルカ
ちゃんと一緒に走る時に恥かくぞ」
『馬の鼻先にニンジンをぶら下げる』という言葉通りマサオに言う事を聞かせるにはこんな風に言うのが一番だ。もちろん効果は抜群で、マサオはコロっと態度を変えた。
「そうだな。ロードバイクは紳士のスポーツだからな。マナーは大事にしないといけないな」
トシヤはマサオの豹変ぶりに呆れつつも、予想通りの結果に笑うしか無かった。
休憩と補給を終えたトシヤとマサオは更に東へと進み、無事目的地の五重塔で有名なお寺に到着したのは昼を少し過ぎた頃だった。前回一人で来た時よりも遥かに遅いペースだが、マサオはご満悦の様だ。
「おっ、アレ、日本史の教科書に載ってた塔だよな。凄ぇな、普通なら車とか電車で来る所だぜ、それを俺達は自転車で来たんだからな」
見事にトシヤが初めてココまで来た時と同じ感想を口にするマサオ。トシヤは『してやったり』といった顔でマサオを調子付ける様に言った。
「だろ? 自分の力だけでこんな遠くまで来れる。これもロードバイクの魅力の一つだな」
もちろん世の中には普通の自転車でもっと遠くまで走る者も居るし、ママチャリで日本一周するなんて猛者も存在する。だが、そんな事はどうでも良い。今はマサオにロードバイクの楽しさを実感させる事が重要なのだ。だが、ここで一つロードバイクの抱える大きな問題にマサオは直面する事になる。
「腹減ったと思ったら、もう昼回ってんじゃねぇか。何か食いに行こうぜ、今日は俺が奢るぜ」
さすがは五十万円近くするピナレロプリンスを衝動買いするだけあって気前の良い事を言うマサオ。いつもなら諸手を上げて喜ぶトシヤなのだが、この時ばかりはそうはいかなかった。
「そうしたいトコなんだが、そういう訳にもいかないんだ」
トシヤはマサオがプリンスを買った時にコーヒーショップで奢ってもらっていた様に、お金持ちのマサオに奢ってもらう事は多々有った。だが、今日はそんな訳にはいかないと言う。不可解な顔でマサオが言った。
「なんでだ? 腹の具合でも悪いのか?」
腹具合が悪ければこんな所まで自転車で来れるものでは無い。トシヤは溜息を吐きながらマサオの疑問に答えた。
「ショップの人が言って無かったか? ロードバイクはその辺に置いとけないって」
「いや、別に」
トシヤは「通学に使う」とか言っていたからショップの人が注意しただけで、高級ロードバイクに乗っている人からすれば知っていて当然の事だからマサオは何も言われなかったのだろう。
「ワイヤーロック持ってるから大丈夫だって」
マサオが言うが、携帯用のワイヤーロックなどほんの気休め程度にしかならない。特殊工具を使えばいとも簡単に切られてしまう。そして盗まれたロードバイクはバラバラにされてパーツ単位で売られてしまうのだとトシヤが力説した。
「俺のリアクトならともかく、お前のプリンスなんかあっという間にパクられちまうぞ」
「確かにバイクも簡単に盗まれちまうから、自転車盗むのなんかもっと簡単だろうな」
「だろ? だからロードバイクってのは走る為だけにしか使え無いんだ。解ったらコンビニ行くぞ」
「昼メシもコンビニかよ、なんか悲しくなってきたな」
マサオは不快そうな顔で悲しい現実を嘆いた。目的を果たすまで、ルナやハルカと一緒に走る前にプリンスを盗まれる訳にはいかない(もちろん一緒に走った後でも盗まれる訳にはいかないのだが)のだ、マサオは渋々とトシヤの後に着いてコンビニへと向かった。
コンビニに入っても、当然の事ながら買い物にかける時間は最小限だ。そんなに心配なら、二人居るのだから一人が買い物をしている間はもう一人がロードバイクの番をするとかすれば良いのにと思うのだが、どういう訳かそんな風にしている人は殆ど見かけない。これは一緒に走っていても走っている間は一人なので、休憩する時は誰かと一緒に居たいという人間の心理の現れなのだろうか? それはさておき二人はさっさと食べ物と飲み物を調達して店を出ると、駐車場脇のネットフェンスに立てかけた(もちろんワイヤーロックで二台とネットフェンスを繋いでいる)ロードバイクの横に座り込んだ。
「まあ、たまにはこーゆーのも良いもんだな」
「だろ? コレも長距離ライドの醍醐味ってヤツの一つだ」
おにぎりを頬張りながら言うマサオにトシヤは大きく頷いた。家の近くにも有る全国チェーンのコンビニのおにぎりも一味違う気がする。『長距離ライド』と言うのは大袈裟だが、確かに走った後のメシは格別だ。これは遠くまで来たと言う高揚感と、いつもとは違う景色。そして何と言っても適度な運動から来るものなのだろう。当然の事ながら『適度な』と言うのがポイントだ。ハードに走り過ぎて消耗しきってしまうと食事どころでは無い。喉ばかり渇いて食欲など失せてしまう。だからと言って食べないでいると最悪の場合、極端な低血糖により身体が動かなくなる『ハンガーノック』を起こしてしまう危険も有る。ツールやジロ等のロードレースで走りながら補給食を食べたりしているのはこれを防ぐ為なのだ。もっともトシヤやマサオには縁の無い話ではあるが。
駐輪場にリアクトとプリンスを並べて停めてすぐ、トシヤはマサオに文句を言うが、マサオは「だって、このコンビニで止まるって決めてたじゃん」と涼しい顔だ。
「いや、そーゆー問題じゃねーから。解っててもハンドサインを出すのがマナーってモンなんだよ。俺だって曲がる時はちゃんと合図してたろーが」
偉そうに言うトシヤだが、彼が『ハンドサイン』なるモノを知ったのはついこの間。ルナとハルカと三人で走った時だったりする。もちろんうろ覚えで、なんとなく伝わるかな? というレベルではあるが、しないよりは遥かにマシだ。
「わーったよ、とりあえず曲がる方向に手ぇ出しゃ良いんだろ」
他にも減速する時や止まる時、道に障害物が有る事を知らせる等のサインが有るのだが、いきなり「やれ」と言われて出来るものでも無いだろうし、安全な車間距離を取っていれば後ろから突っ込む事も無いだろうと考え、トシヤは頷いた。
「ああ。とりあえず今のところはな。でもマサオ、そーゆールールとかマナーを覚えとかないとルナ先輩やハルカ
ちゃんと一緒に走る時に恥かくぞ」
『馬の鼻先にニンジンをぶら下げる』という言葉通りマサオに言う事を聞かせるにはこんな風に言うのが一番だ。もちろん効果は抜群で、マサオはコロっと態度を変えた。
「そうだな。ロードバイクは紳士のスポーツだからな。マナーは大事にしないといけないな」
トシヤはマサオの豹変ぶりに呆れつつも、予想通りの結果に笑うしか無かった。
休憩と補給を終えたトシヤとマサオは更に東へと進み、無事目的地の五重塔で有名なお寺に到着したのは昼を少し過ぎた頃だった。前回一人で来た時よりも遥かに遅いペースだが、マサオはご満悦の様だ。
「おっ、アレ、日本史の教科書に載ってた塔だよな。凄ぇな、普通なら車とか電車で来る所だぜ、それを俺達は自転車で来たんだからな」
見事にトシヤが初めてココまで来た時と同じ感想を口にするマサオ。トシヤは『してやったり』といった顔でマサオを調子付ける様に言った。
「だろ? 自分の力だけでこんな遠くまで来れる。これもロードバイクの魅力の一つだな」
もちろん世の中には普通の自転車でもっと遠くまで走る者も居るし、ママチャリで日本一周するなんて猛者も存在する。だが、そんな事はどうでも良い。今はマサオにロードバイクの楽しさを実感させる事が重要なのだ。だが、ここで一つロードバイクの抱える大きな問題にマサオは直面する事になる。
「腹減ったと思ったら、もう昼回ってんじゃねぇか。何か食いに行こうぜ、今日は俺が奢るぜ」
さすがは五十万円近くするピナレロプリンスを衝動買いするだけあって気前の良い事を言うマサオ。いつもなら諸手を上げて喜ぶトシヤなのだが、この時ばかりはそうはいかなかった。
「そうしたいトコなんだが、そういう訳にもいかないんだ」
トシヤはマサオがプリンスを買った時にコーヒーショップで奢ってもらっていた様に、お金持ちのマサオに奢ってもらう事は多々有った。だが、今日はそんな訳にはいかないと言う。不可解な顔でマサオが言った。
「なんでだ? 腹の具合でも悪いのか?」
腹具合が悪ければこんな所まで自転車で来れるものでは無い。トシヤは溜息を吐きながらマサオの疑問に答えた。
「ショップの人が言って無かったか? ロードバイクはその辺に置いとけないって」
「いや、別に」
トシヤは「通学に使う」とか言っていたからショップの人が注意しただけで、高級ロードバイクに乗っている人からすれば知っていて当然の事だからマサオは何も言われなかったのだろう。
「ワイヤーロック持ってるから大丈夫だって」
マサオが言うが、携帯用のワイヤーロックなどほんの気休め程度にしかならない。特殊工具を使えばいとも簡単に切られてしまう。そして盗まれたロードバイクはバラバラにされてパーツ単位で売られてしまうのだとトシヤが力説した。
「俺のリアクトならともかく、お前のプリンスなんかあっという間にパクられちまうぞ」
「確かにバイクも簡単に盗まれちまうから、自転車盗むのなんかもっと簡単だろうな」
「だろ? だからロードバイクってのは走る為だけにしか使え無いんだ。解ったらコンビニ行くぞ」
「昼メシもコンビニかよ、なんか悲しくなってきたな」
マサオは不快そうな顔で悲しい現実を嘆いた。目的を果たすまで、ルナやハルカと一緒に走る前にプリンスを盗まれる訳にはいかない(もちろん一緒に走った後でも盗まれる訳にはいかないのだが)のだ、マサオは渋々とトシヤの後に着いてコンビニへと向かった。
コンビニに入っても、当然の事ながら買い物にかける時間は最小限だ。そんなに心配なら、二人居るのだから一人が買い物をしている間はもう一人がロードバイクの番をするとかすれば良いのにと思うのだが、どういう訳かそんな風にしている人は殆ど見かけない。これは一緒に走っていても走っている間は一人なので、休憩する時は誰かと一緒に居たいという人間の心理の現れなのだろうか? それはさておき二人はさっさと食べ物と飲み物を調達して店を出ると、駐車場脇のネットフェンスに立てかけた(もちろんワイヤーロックで二台とネットフェンスを繋いでいる)ロードバイクの横に座り込んだ。
「まあ、たまにはこーゆーのも良いもんだな」
「だろ? コレも長距離ライドの醍醐味ってヤツの一つだ」
おにぎりを頬張りながら言うマサオにトシヤは大きく頷いた。家の近くにも有る全国チェーンのコンビニのおにぎりも一味違う気がする。『長距離ライド』と言うのは大袈裟だが、確かに走った後のメシは格別だ。これは遠くまで来たと言う高揚感と、いつもとは違う景色。そして何と言っても適度な運動から来るものなのだろう。当然の事ながら『適度な』と言うのがポイントだ。ハードに走り過ぎて消耗しきってしまうと食事どころでは無い。喉ばかり渇いて食欲など失せてしまう。だからと言って食べないでいると最悪の場合、極端な低血糖により身体が動かなくなる『ハンガーノック』を起こしてしまう危険も有る。ツールやジロ等のロードレースで走りながら補給食を食べたりしているのはこれを防ぐ為なのだ。もっともトシヤやマサオには縁の無い話ではあるが。
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