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翌日、学校で2
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「ハルカちゃんもトシヤ君もちょっと意識し過ぎじゃない?」
ルナが苦笑いを浮かべた。もしトシヤが女の子だったら、あるいはルナとハルカが男だったらこんな風にうだうだする事も無く月曜日に学校で肩を並べて笑い合っていただろう。しかしトシヤはハルカを女の子として、ハルカはトシヤを男子として見てしまった。トシヤがハルカを女の子として見てしまうのは年頃の健康な男子として自然な事なのだが、いつもはサバサバした性格で男女関係無く接しているハルカのこんな姿を見るのはルナにとっても初めての事だった。もちろんそれはハルカ自身が今までに抱いた事の無い気持ちに戸惑いを感じているのは言うまでも無い。
「だって……」
ハルカは言いにくそうに口を開いたが、すぐにまた口篭ってしまった。ハルカが初めて『男の子』を意識したものの、まったくアクションを起こして来ない事で忘れかけていたトシヤが突如ルナの手引きによって目の前に現れたのだ、どんな対応をすれば良いものかわからないのだ。それはトシヤも同じな様で、思ってもみなかった事をハルカが言っていたと知り、またハルカの反応からして少なくともハルカがトシヤに対して悪い印象を持ってはいない事は明らかだと悟り、嬉しさと恥ずかしさで何も言えなくなってしまった。
そんな二人を見てルナは呆れ果てた顔で溜息を吐いた。
「あのね、二人共……私達は男の子とか女の子とか言う前に同じローディー、ロードバイク仲間なんだから、もっと自然体になれないのかしら?」
――いや、ロードバイク仲間だと言う前に男の子と女の子なんですけど――
トシヤは思ったが、そんな事を言っていては前に進めない。ここはルナの言葉に従うのが得策だと考え、精一杯の笑顔を作った。
「そうですね、ちょっと意識し過ぎちゃいましたね」
もちろん「あわよくば二人のどちらかと良い関係になりたい」と言うのがトシヤの本音なのだがそれは心の奥に押し隠してハルカに右手を差し出した。
「学校でもよろしく、ハルカ先輩」
フレンドリーに言いながらもハルカを『ロードバイクの先輩』として立てる、トシヤにしてはなかなかナイスな言葉だった。するとハルカが差し出されたトシヤの手を取った。
「学校じゃハルカで良いわよ、同じ学年なのに『先輩』だなんておかしいでしょ」
ぼそっと答えたハルカは、まだ照れているのか差し出された手を取りながらもまだトシヤの顔を見れないでいる。
「そっか、わかったよハルカ……ちゃん」
トシヤはトシヤで『ハルカ』と呼ぶ事を許されたと言うのに『ちゃん付け』でしか呼ぶ事が出来ないでいる。なんとも微笑ましい二人だが、この調子ではいつまでたっても話が進まない。そこでルナが笑顔で口を開いた。
「うん、これで学校でもお友達ね。それで早速なんだけど、今度の日曜に軽くライド、一緒にどうかな?」
『軽くライド』早い話がサイクリングのお誘いだ。これを断るヤツなど居る訳が無いだろう。だが、トシヤは不安そうにルナに尋ねた。
「ライドって……峠ですか?」
トシヤは日曜日以来メリダには何度か乗ってはいるが、その辺を走るぐらいでスキルアップなどまったく出来ていない。一緒に峠に行っても付いて行ける訳が無い、一緒に峠に行くのはもっと練習してからだという思いがあったのだ。ルナは、トシヤの不安そうな顔からそれを敏感に察知した。
「ああ、今度は峠じゃ無くって河川敷のサイクリングロードをまったり走ろうかなって。トシヤ君、そういう道知
らないでしょ?」
サイクリングロードを女の子とまったり走る……トシヤの夢の一つが早くも実現しようとしている。ちなみにトシヤの夢はあと二つ。レースに出場して優勝する事、もう一つは峠を足着き無しで上る事だ。
「行く! 行きます! 何時にドコに集合ですか?」
喜び勇んで声を上げるトシヤ。対してハルカは冷静だ。
「まあ、平坦路ばかりのコースなら初心者のトシヤ君でも着いて来れるわよね」
と、微妙に酷い事を言っている。ついさっきまで顔を赤らめていた少女と同一人物とは思えない言葉だが、それは照れ隠しの要素が占める割合が高いのであろう事は容易に想像出来る。なにしろ口では酷い事を言っているが、ハルカの口元には笑みが隠しきれないでいるのだから。
「じゃあ決まりね。集合場所はこの間のコンビニ……じゃ遠いわね、考えておくから連絡先を教えてもらっておこ
うかな」
ルナは言いながらスマートフォンを取り出し、メールの新規作成画面を開くとトシヤに手渡した。それを受け取り、自分のメールアドレスを打ち込んで返したトシヤのスマートフォンにメールが一通入った。確認するまでも無い、ルナからのメールだ。
「もう授業始まっちゃうから空メでごめんね。じゃあ、また連絡するから。あっ、ハルカちゃんもトシヤ君とメア
ドの交換しとかないとダメよ」
言い残してルナは去って行った。何と言う素晴らしい展開! トシヤがすぐにハルカともメールアドレスを交換したところ授業開始のチャイムが鳴った。
「おっと、俺も教室に戻らないと。じゃあまたな」
「うん、またね」
トシヤとハルカは簡単な言葉で別れると、お互いの教室へと戻った。
ルナが苦笑いを浮かべた。もしトシヤが女の子だったら、あるいはルナとハルカが男だったらこんな風にうだうだする事も無く月曜日に学校で肩を並べて笑い合っていただろう。しかしトシヤはハルカを女の子として、ハルカはトシヤを男子として見てしまった。トシヤがハルカを女の子として見てしまうのは年頃の健康な男子として自然な事なのだが、いつもはサバサバした性格で男女関係無く接しているハルカのこんな姿を見るのはルナにとっても初めての事だった。もちろんそれはハルカ自身が今までに抱いた事の無い気持ちに戸惑いを感じているのは言うまでも無い。
「だって……」
ハルカは言いにくそうに口を開いたが、すぐにまた口篭ってしまった。ハルカが初めて『男の子』を意識したものの、まったくアクションを起こして来ない事で忘れかけていたトシヤが突如ルナの手引きによって目の前に現れたのだ、どんな対応をすれば良いものかわからないのだ。それはトシヤも同じな様で、思ってもみなかった事をハルカが言っていたと知り、またハルカの反応からして少なくともハルカがトシヤに対して悪い印象を持ってはいない事は明らかだと悟り、嬉しさと恥ずかしさで何も言えなくなってしまった。
そんな二人を見てルナは呆れ果てた顔で溜息を吐いた。
「あのね、二人共……私達は男の子とか女の子とか言う前に同じローディー、ロードバイク仲間なんだから、もっと自然体になれないのかしら?」
――いや、ロードバイク仲間だと言う前に男の子と女の子なんですけど――
トシヤは思ったが、そんな事を言っていては前に進めない。ここはルナの言葉に従うのが得策だと考え、精一杯の笑顔を作った。
「そうですね、ちょっと意識し過ぎちゃいましたね」
もちろん「あわよくば二人のどちらかと良い関係になりたい」と言うのがトシヤの本音なのだがそれは心の奥に押し隠してハルカに右手を差し出した。
「学校でもよろしく、ハルカ先輩」
フレンドリーに言いながらもハルカを『ロードバイクの先輩』として立てる、トシヤにしてはなかなかナイスな言葉だった。するとハルカが差し出されたトシヤの手を取った。
「学校じゃハルカで良いわよ、同じ学年なのに『先輩』だなんておかしいでしょ」
ぼそっと答えたハルカは、まだ照れているのか差し出された手を取りながらもまだトシヤの顔を見れないでいる。
「そっか、わかったよハルカ……ちゃん」
トシヤはトシヤで『ハルカ』と呼ぶ事を許されたと言うのに『ちゃん付け』でしか呼ぶ事が出来ないでいる。なんとも微笑ましい二人だが、この調子ではいつまでたっても話が進まない。そこでルナが笑顔で口を開いた。
「うん、これで学校でもお友達ね。それで早速なんだけど、今度の日曜に軽くライド、一緒にどうかな?」
『軽くライド』早い話がサイクリングのお誘いだ。これを断るヤツなど居る訳が無いだろう。だが、トシヤは不安そうにルナに尋ねた。
「ライドって……峠ですか?」
トシヤは日曜日以来メリダには何度か乗ってはいるが、その辺を走るぐらいでスキルアップなどまったく出来ていない。一緒に峠に行っても付いて行ける訳が無い、一緒に峠に行くのはもっと練習してからだという思いがあったのだ。ルナは、トシヤの不安そうな顔からそれを敏感に察知した。
「ああ、今度は峠じゃ無くって河川敷のサイクリングロードをまったり走ろうかなって。トシヤ君、そういう道知
らないでしょ?」
サイクリングロードを女の子とまったり走る……トシヤの夢の一つが早くも実現しようとしている。ちなみにトシヤの夢はあと二つ。レースに出場して優勝する事、もう一つは峠を足着き無しで上る事だ。
「行く! 行きます! 何時にドコに集合ですか?」
喜び勇んで声を上げるトシヤ。対してハルカは冷静だ。
「まあ、平坦路ばかりのコースなら初心者のトシヤ君でも着いて来れるわよね」
と、微妙に酷い事を言っている。ついさっきまで顔を赤らめていた少女と同一人物とは思えない言葉だが、それは照れ隠しの要素が占める割合が高いのであろう事は容易に想像出来る。なにしろ口では酷い事を言っているが、ハルカの口元には笑みが隠しきれないでいるのだから。
「じゃあ決まりね。集合場所はこの間のコンビニ……じゃ遠いわね、考えておくから連絡先を教えてもらっておこ
うかな」
ルナは言いながらスマートフォンを取り出し、メールの新規作成画面を開くとトシヤに手渡した。それを受け取り、自分のメールアドレスを打ち込んで返したトシヤのスマートフォンにメールが一通入った。確認するまでも無い、ルナからのメールだ。
「もう授業始まっちゃうから空メでごめんね。じゃあ、また連絡するから。あっ、ハルカちゃんもトシヤ君とメア
ドの交換しとかないとダメよ」
言い残してルナは去って行った。何と言う素晴らしい展開! トシヤがすぐにハルカともメールアドレスを交換したところ授業開始のチャイムが鳴った。
「おっと、俺も教室に戻らないと。じゃあまたな」
「うん、またね」
トシヤとハルカは簡単な言葉で別れると、お互いの教室へと戻った。
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