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翌日、学校で1
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楽しい日曜日が終わると否が応でも月曜日はやってくる。いつもなら学校に行くのが面倒臭いと思うトシヤだが、今日のトシヤは一味違った。朝、自分で起きて顔を洗い、朝食をさっさと済ませると意気揚々と家を出たのだ。母親は珍しい事もあるものだと目を丸くするばかりだった。トシヤはリアクトに目を遣ると、古いママチャリに跨った。
教室に入ったトシヤに何人かのクラスメイトから声をかけるが、残念な事にその中には女の子は居なかった。これはいつもの光景であり、女の子と楽しそうに話すイケメン男子を横目で羨ましそうに見ながら男だけで盛り上がるのがトシヤの日常だった。
「おいトシヤ、昨日はどうだったんだよ?」
入学して以来ウマが合って、いつもツルンでいるマサオが話を振ってきた。マサオはから日曜日にロードバイクで初のロングライドに出ると何度も聞かされていたのだ。
「おう、五十キロ程走ったけど楽しかったぜ」
トシヤは興奮気味に答えた。もちろん峠でへばった事は秘密だ。そして出先で二人の少女と出会った話をしようとした時、マサオは話の腰をぶち折る様な言葉を口にした。
「へえ、そんなに楽しいもんかね、サイクリングって」
『ロードバイクでのロングライド』と言えば凄い事っぽいが、ありていに言うと『サイクリング』子供の頃からよく耳にする言葉だ。マサオはロードバイクよりオートバイの方に憧れているのでトシヤが十万円以上する自転車つまりロードバイクを買った神経が解らないのだ。
「ああ。一つ世界が広がったぜ」
大層な答えを返して不敵に笑うトシヤにマサオは何があったんだと尋ねるが、トシヤは二人の少女と出会った事は秘密にしようと考え直し、ただニヤニヤするばかりだった。
その頃、ハルカも自分の教室で友人とお喋りに興じていた。その中には男子の姿も見受けられるが、話の中身はたわいないバカ話。もちろん高校生の教室での話などそんなものだろうが、ふとハルカの頭にトシヤの目が浮かんだ。それは実際に周囲でばか話をしている男子達のどこを見ているのか解らない様な目とは違い、真っ直ぐにハルカを見ていた。ハルカは自分の頬が少し熱を帯びているのに気付いて面食らった。
――なんで私、あんな人の事を思い出してこんな風にならなきゃいけないのよ! ――
また、同時にこんな事も考えた。
――たしか、トシヤ君だったっけ、三組だって言ってたよね。もし、ウチのクラスに来たらどうしよう……――
その日、一日ドキドキしたハルカだったが、トシヤが二組の教室に来る事はもちろん、廊下ですれ違うことすら無かった。もちろんトシヤはトシヤでハルカの居る二組、ひいては二年のルナのところに行きたかったのだが、そんな勇気は無かったのだ。次の日も、その次の日もトシヤとハルカは顔を合わせる事が無く、ハルカの頭からトシヤの存在が消えかかり、トシヤの頭の中では逆にハルカとルナが占める割合が大きくなっていった。
そして木曜日、トシヤが思い切って二組の教室を窓から覗いてみると、ハルカが何人かの友人と楽しそうに喋っているのが見えた。だが、中に入って声をかける勇気など持ち合わせているわけが無い、トシヤが無言で窓から離れた時だった。
「あれっ、君って……えっと、トシヤ君だっけ?」
驚いたトシヤが声の方に目を向けるとそこには黒髪の少女が立っていた。
「あ、ルナ先輩」
思いがけないルナの登場に喜び、彼女の名前を口にしたトシヤにルナは眩しい程の微笑みを見せた。
「ちゃんと覚えてたんだね。偉い偉い」
「どうしたんですか、こんなところに?」
二年だと言っていたルナが一年の教室に来るという事は一年の誰かに用事があるという事だ。かと言って、まさかトシヤに会いに来たわけではあるまい。いや、しかしもしかして……
期待度は限りなくゼロに近いが、ほんの僅かな期待を込めてトシヤが尋ねると、その期待は一瞬にして打ち砕かれた。
「ええ、ハルカちゃんにちょっとね」
――解ってた、解ってたんだよそんな事は。あんな美人の先輩が俺なんかに会いに来る訳無いじゃないか。仲間だって言ってもらって夢見ちゃったんだ――
自分で自分を慰めるトシヤの耳に信じられない言葉が届いた。
「トシヤ君と上手くやってるかな……ってね」
それは冗談で言っているのか? トシヤがルナの表情からその心意を読み取ろうとしたところ、ルナは穏やかに微笑んでいて、冗談を言ったり悪戯を仕掛けたりする様な顔では無い。どう動くべきか悩むトシヤ。ここでルナは一つ不自然な事に気付いた。ハルカとトシヤは違うクラスで、ここはハルカの教室の前だという事に。
「トシヤ君こそどうしてハルカちゃんの教室の前に? あっ、もしかしてハルカちゃんに会いに来たのかな?」
ストレートに言われてトシヤは動揺してルナから目を逸らしてしまった。それはルナの言葉を肯定している事にほかならなかった。
「そっか……あれからまだ顔を合わせて無いのね」
ルナは目を逸らしたトシヤの表情からトシヤがハルカに会いに来たものの、声をかける勇気が無く、窓からハルカの様子を伺っていたという事までも読み取った様だ。ルナはトシヤの手を取ると、ハルカの教室の入口の引き戸をガラっと開けると教室を見廻した。
「あっ、居た居た。ハルカちゃーん!」
ハルカの姿を見つけたルナは、トシヤを置き去りにしてズカズカと教室へと足を踏み入れ、ハルカに歩み寄った。そしてハルカに一言二言話しかけると、ハルカの手を取って廊下へと連れ出した。
「うわっ!」
廊下に出て、トシヤの顔を見たハルカの第一声がこうだった。まあ、ハルカとしてはまさかトシヤが居るとは思っていなかったのだから仕方が無いかもしれないが、トシヤとしては良い気がしないのも頷ける。
「『うわっ』は酷いんじゃないかな?」
悲しそうにトシヤが言うとハルカは気まずそうに視線を逸らした。そんな二人を見てルナは困った顔で口を開いた。
「あなた達、まだ学校では会って無いんですって? これは様子を見に来て正解だったわね」
いくらローディー仲間になったとは言えコンビニで少し会話しただけ。同じ学年ではあるが、違うクラスで男子と女子なのだ、これが同じクラスだったら話は違うのだが、あまり異性に慣れていないトシヤとハルカにとってクラス間の壁は途方も無く高かったのだ。しかしルナのおかげでその壁は排除された。これからは気軽にハルカに声をかけられると思ったトシヤだったが、世の中はそんな甘いものでは無かった。
「トシヤ君とはローディー仲間と言うだけで、友達と言う訳ではありませんから」
ハルカの冷淡な言葉がトシヤの耳に突き刺さった。すっかり意気消沈、しょんぼりしてしまったトシヤだったが、ルナの一事によって空気は一変した。
「あれっ? ハルカちゃん、学校でロードバイクの話が出来る人が出来たって喜んでたじゃない」
「うああぁぁぁぁ!」
真っ赤になって声にならない声をあげるハルカ。さっきの素っ気ない言葉は本音では無いのだろう。と言うか、その表情やルナの口ぶりからすると心とは真逆の事を言っている様に思えてならない。ハルカはもしかしたらツンデレなのかもしれない。
教室に入ったトシヤに何人かのクラスメイトから声をかけるが、残念な事にその中には女の子は居なかった。これはいつもの光景であり、女の子と楽しそうに話すイケメン男子を横目で羨ましそうに見ながら男だけで盛り上がるのがトシヤの日常だった。
「おいトシヤ、昨日はどうだったんだよ?」
入学して以来ウマが合って、いつもツルンでいるマサオが話を振ってきた。マサオはから日曜日にロードバイクで初のロングライドに出ると何度も聞かされていたのだ。
「おう、五十キロ程走ったけど楽しかったぜ」
トシヤは興奮気味に答えた。もちろん峠でへばった事は秘密だ。そして出先で二人の少女と出会った話をしようとした時、マサオは話の腰をぶち折る様な言葉を口にした。
「へえ、そんなに楽しいもんかね、サイクリングって」
『ロードバイクでのロングライド』と言えば凄い事っぽいが、ありていに言うと『サイクリング』子供の頃からよく耳にする言葉だ。マサオはロードバイクよりオートバイの方に憧れているのでトシヤが十万円以上する自転車つまりロードバイクを買った神経が解らないのだ。
「ああ。一つ世界が広がったぜ」
大層な答えを返して不敵に笑うトシヤにマサオは何があったんだと尋ねるが、トシヤは二人の少女と出会った事は秘密にしようと考え直し、ただニヤニヤするばかりだった。
その頃、ハルカも自分の教室で友人とお喋りに興じていた。その中には男子の姿も見受けられるが、話の中身はたわいないバカ話。もちろん高校生の教室での話などそんなものだろうが、ふとハルカの頭にトシヤの目が浮かんだ。それは実際に周囲でばか話をしている男子達のどこを見ているのか解らない様な目とは違い、真っ直ぐにハルカを見ていた。ハルカは自分の頬が少し熱を帯びているのに気付いて面食らった。
――なんで私、あんな人の事を思い出してこんな風にならなきゃいけないのよ! ――
また、同時にこんな事も考えた。
――たしか、トシヤ君だったっけ、三組だって言ってたよね。もし、ウチのクラスに来たらどうしよう……――
その日、一日ドキドキしたハルカだったが、トシヤが二組の教室に来る事はもちろん、廊下ですれ違うことすら無かった。もちろんトシヤはトシヤでハルカの居る二組、ひいては二年のルナのところに行きたかったのだが、そんな勇気は無かったのだ。次の日も、その次の日もトシヤとハルカは顔を合わせる事が無く、ハルカの頭からトシヤの存在が消えかかり、トシヤの頭の中では逆にハルカとルナが占める割合が大きくなっていった。
そして木曜日、トシヤが思い切って二組の教室を窓から覗いてみると、ハルカが何人かの友人と楽しそうに喋っているのが見えた。だが、中に入って声をかける勇気など持ち合わせているわけが無い、トシヤが無言で窓から離れた時だった。
「あれっ、君って……えっと、トシヤ君だっけ?」
驚いたトシヤが声の方に目を向けるとそこには黒髪の少女が立っていた。
「あ、ルナ先輩」
思いがけないルナの登場に喜び、彼女の名前を口にしたトシヤにルナは眩しい程の微笑みを見せた。
「ちゃんと覚えてたんだね。偉い偉い」
「どうしたんですか、こんなところに?」
二年だと言っていたルナが一年の教室に来るという事は一年の誰かに用事があるという事だ。かと言って、まさかトシヤに会いに来たわけではあるまい。いや、しかしもしかして……
期待度は限りなくゼロに近いが、ほんの僅かな期待を込めてトシヤが尋ねると、その期待は一瞬にして打ち砕かれた。
「ええ、ハルカちゃんにちょっとね」
――解ってた、解ってたんだよそんな事は。あんな美人の先輩が俺なんかに会いに来る訳無いじゃないか。仲間だって言ってもらって夢見ちゃったんだ――
自分で自分を慰めるトシヤの耳に信じられない言葉が届いた。
「トシヤ君と上手くやってるかな……ってね」
それは冗談で言っているのか? トシヤがルナの表情からその心意を読み取ろうとしたところ、ルナは穏やかに微笑んでいて、冗談を言ったり悪戯を仕掛けたりする様な顔では無い。どう動くべきか悩むトシヤ。ここでルナは一つ不自然な事に気付いた。ハルカとトシヤは違うクラスで、ここはハルカの教室の前だという事に。
「トシヤ君こそどうしてハルカちゃんの教室の前に? あっ、もしかしてハルカちゃんに会いに来たのかな?」
ストレートに言われてトシヤは動揺してルナから目を逸らしてしまった。それはルナの言葉を肯定している事にほかならなかった。
「そっか……あれからまだ顔を合わせて無いのね」
ルナは目を逸らしたトシヤの表情からトシヤがハルカに会いに来たものの、声をかける勇気が無く、窓からハルカの様子を伺っていたという事までも読み取った様だ。ルナはトシヤの手を取ると、ハルカの教室の入口の引き戸をガラっと開けると教室を見廻した。
「あっ、居た居た。ハルカちゃーん!」
ハルカの姿を見つけたルナは、トシヤを置き去りにしてズカズカと教室へと足を踏み入れ、ハルカに歩み寄った。そしてハルカに一言二言話しかけると、ハルカの手を取って廊下へと連れ出した。
「うわっ!」
廊下に出て、トシヤの顔を見たハルカの第一声がこうだった。まあ、ハルカとしてはまさかトシヤが居るとは思っていなかったのだから仕方が無いかもしれないが、トシヤとしては良い気がしないのも頷ける。
「『うわっ』は酷いんじゃないかな?」
悲しそうにトシヤが言うとハルカは気まずそうに視線を逸らした。そんな二人を見てルナは困った顔で口を開いた。
「あなた達、まだ学校では会って無いんですって? これは様子を見に来て正解だったわね」
いくらローディー仲間になったとは言えコンビニで少し会話しただけ。同じ学年ではあるが、違うクラスで男子と女子なのだ、これが同じクラスだったら話は違うのだが、あまり異性に慣れていないトシヤとハルカにとってクラス間の壁は途方も無く高かったのだ。しかしルナのおかげでその壁は排除された。これからは気軽にハルカに声をかけられると思ったトシヤだったが、世の中はそんな甘いものでは無かった。
「トシヤ君とはローディー仲間と言うだけで、友達と言う訳ではありませんから」
ハルカの冷淡な言葉がトシヤの耳に突き刺さった。すっかり意気消沈、しょんぼりしてしまったトシヤだったが、ルナの一事によって空気は一変した。
「あれっ? ハルカちゃん、学校でロードバイクの話が出来る人が出来たって喜んでたじゃない」
「うああぁぁぁぁ!」
真っ赤になって声にならない声をあげるハルカ。さっきの素っ気ない言葉は本音では無いのだろう。と言うか、その表情やルナの口ぶりからすると心とは真逆の事を言っている様に思えてならない。ハルカはもしかしたらツンデレなのかもしれない。
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