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ルナとハルカ
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峠から少し離れたところにコンビニがあったので、また休憩を取る事にしたトシヤが店先に置かれていたベンチに座り、自分の甘さに打ちひしがれていると二台のロードバイクが入ってきた。
「ふうっ、今日も頑張ったわね」
「はい。キツかったですけど、展望台から見る景色は何回見ても良いですよね」
喋りながらロードバイクを降りた二人はトシヤのリアクトに気付いた様だ。
「あれっ、このメリダって……」
「ああ、あの時の。上って来ないと思ってたら、途中で諦めちゃったんですね」
二人はさっきの女の子だった。彼女達の会話にトシヤは思わず顔を伏せてしまった。彼は自分がギブアップした峠を上りきった二人に大きな劣等感を感じたのだ。もっともトシヤはまだロードバイクに乗り始めたばかりなのでヒルクライムを途中で諦めたのは仕方が無い。劣等感など感じる必要は無いのだが、二人が女の子だという事もあり、いたたまれない気持ちになったのだった。
「こんにちは、今日は良い天気ですね」
そんなトシヤに黒髪の女の子が話しかけた。これは彼にとって予想外だった。その声に顔を上げたトシヤの前にはサイクルジャージのフロントジッパーを胸元まで下ろし、ぴっちりしたレーパンですらりと伸びた足を惜しげもなく晒している美少女が立っていた。
「あ、こんにちは」
いきなり美少女に話しかけられてそれだけしか返せないトシヤに彼女は穏やかに笑いかけた。
「峠で抜いていったメリダ、あなたよね?」
「途中で抜き返されたけどね」
トシヤは彼女の言った事を正直に認め、苦笑いしながらその後の情けない結果を口にした。
「綺麗に乗ってるのね、メリダも喜んでるわ」
彼女がトシヤのリアクトに目をやりながら言うとトシヤは答えた。
「まだ買ったばかりだから」
するとトシヤの言葉にもう一人の茶髪の少女が食いついた。
「え~っ、買ったばかり? それでよく峠を上ろうなんて考えたわね!」
リアクトは買ったばかりでも、実は他にもロードバイクを持っているという考えは無かったのだろうか? まあ、リアクト400は入門車だし、また、途中で峠を上るのを諦めた事から彼女はトシヤを初心者だと判断したのだろう。それは初めに話しかけた黒髪の女の子も同じな様でトシヤを諭す様に言った。
「ヒルクライムは自分をよく知らないとダメよ。飛ばしたい気持ちは解るけど、峠の序盤であんなスピードで走って頂上までもつ訳が無いじゃない」
彼女によると、ヒルクライムはダウンヒルや平坦路と違い、重力に逆らって進まなければならない。言うまでも無いだろうが、上り坂ではペダルを止めるとあっという間に失速してしまう。つまりヒルクライム中は休む事無く延々とペダルを回し続けなければならないのだ。その為にはペース配分が重要で、よほど体力がある人間なら話は別だが普通の人間なら心拍数やケイデンスと呼ばれるペダルの回転数を考えないと一気にこの峠を上りきる事は難しいらしい。トシヤは知らなかったが、この峠はこの地方のローディーの間で『ヒルクライムの聖地』と呼ばれる厳しい峠だったのだ。
「まあ、初心者君には勉強になったかな?」
そう言って微笑む黒髪の女の子はとても可愛い。可愛くて、峠も上れる先輩ローディーにトシヤが見蕩れていると、彼女は彼の顔を見て、ある事に気付いた。
「君、年齢いくつ? 見たところ私と変わらないみたいだけど」
彼女はトシヤに年齢を聞いてきたのだ。これって逆ナン? 彼女いない歴=年齢のトシヤはドキッとしながら答えた。
「あ、俺、トシヤって言います。十五歳、七尾高校の一年っす」
聞かれてもいないのに名前と通っている高校まで答えたトシヤ。それを聞いた黒髪の女の子は驚いた。
「えっ、七尾高校? じゃあ私の後輩じゃない」
茶髪の少女の反応は少し違った。
「うわっ、同級だって!? でも、あんなのウチのクラスには居なかったわよね。じゃあ一組か三組か……しかしルナ先輩、なんでそんな事言っちゃうかなぁ……」
どうやら茶髪の少女はトシヤと同じ七尾高校一年らしい。
「私、二年の津森ルナ。この子は……」
そこまで言った時、茶髪の少女が割って入る様に叫んだ。
「ちょっとルナ先輩! 初対面の人間にそんな個人情報を晒してどういうつもりなんですか!?」
しかし黒髪の女の子ルナは涼しい顔で言い返した。
「でも、どのうちこの峠で顔見知りになるだろうし、同じ学校だって解ったんだから仲良くしないとね」
トシヤにとってなんという僥倖! 茶髪の女の子にとっては青天の霹靂。だが、同じ学校だという事は身元がはっきりしている。どこの馬の骨とも解らない男よりは遥かにマシだと考えた様だ。
「私、遠山ハルカ、一年二組よ」
茶髪の少女も渋々名前とクラスを明かした。
「君、二組なんだ。俺、三組。隣のクラスにローディーが居るなんて嬉しいな。俺、ロードバイク始めたばっかりだから、色々教えて欲しいな」
二人に劣等感を抱いていたトシヤだったが、同じ学校だと聞いて彼女達とお近付きになりたいという気持ちの方が強くなった様だ。なにしろルナは黒髪の清楚系美少女で、ハルカもよく見れば可愛い顔立ちをしているのだから。するとハルカが不満そうな顔で言い返した。
「言葉遣いがなって無いわね。初心者がベテランに教えを乞おうと言うんでしょ、ならもっと別の言い方があるんじゃないかしら?」
「ふうっ、今日も頑張ったわね」
「はい。キツかったですけど、展望台から見る景色は何回見ても良いですよね」
喋りながらロードバイクを降りた二人はトシヤのリアクトに気付いた様だ。
「あれっ、このメリダって……」
「ああ、あの時の。上って来ないと思ってたら、途中で諦めちゃったんですね」
二人はさっきの女の子だった。彼女達の会話にトシヤは思わず顔を伏せてしまった。彼は自分がギブアップした峠を上りきった二人に大きな劣等感を感じたのだ。もっともトシヤはまだロードバイクに乗り始めたばかりなのでヒルクライムを途中で諦めたのは仕方が無い。劣等感など感じる必要は無いのだが、二人が女の子だという事もあり、いたたまれない気持ちになったのだった。
「こんにちは、今日は良い天気ですね」
そんなトシヤに黒髪の女の子が話しかけた。これは彼にとって予想外だった。その声に顔を上げたトシヤの前にはサイクルジャージのフロントジッパーを胸元まで下ろし、ぴっちりしたレーパンですらりと伸びた足を惜しげもなく晒している美少女が立っていた。
「あ、こんにちは」
いきなり美少女に話しかけられてそれだけしか返せないトシヤに彼女は穏やかに笑いかけた。
「峠で抜いていったメリダ、あなたよね?」
「途中で抜き返されたけどね」
トシヤは彼女の言った事を正直に認め、苦笑いしながらその後の情けない結果を口にした。
「綺麗に乗ってるのね、メリダも喜んでるわ」
彼女がトシヤのリアクトに目をやりながら言うとトシヤは答えた。
「まだ買ったばかりだから」
するとトシヤの言葉にもう一人の茶髪の少女が食いついた。
「え~っ、買ったばかり? それでよく峠を上ろうなんて考えたわね!」
リアクトは買ったばかりでも、実は他にもロードバイクを持っているという考えは無かったのだろうか? まあ、リアクト400は入門車だし、また、途中で峠を上るのを諦めた事から彼女はトシヤを初心者だと判断したのだろう。それは初めに話しかけた黒髪の女の子も同じな様でトシヤを諭す様に言った。
「ヒルクライムは自分をよく知らないとダメよ。飛ばしたい気持ちは解るけど、峠の序盤であんなスピードで走って頂上までもつ訳が無いじゃない」
彼女によると、ヒルクライムはダウンヒルや平坦路と違い、重力に逆らって進まなければならない。言うまでも無いだろうが、上り坂ではペダルを止めるとあっという間に失速してしまう。つまりヒルクライム中は休む事無く延々とペダルを回し続けなければならないのだ。その為にはペース配分が重要で、よほど体力がある人間なら話は別だが普通の人間なら心拍数やケイデンスと呼ばれるペダルの回転数を考えないと一気にこの峠を上りきる事は難しいらしい。トシヤは知らなかったが、この峠はこの地方のローディーの間で『ヒルクライムの聖地』と呼ばれる厳しい峠だったのだ。
「まあ、初心者君には勉強になったかな?」
そう言って微笑む黒髪の女の子はとても可愛い。可愛くて、峠も上れる先輩ローディーにトシヤが見蕩れていると、彼女は彼の顔を見て、ある事に気付いた。
「君、年齢いくつ? 見たところ私と変わらないみたいだけど」
彼女はトシヤに年齢を聞いてきたのだ。これって逆ナン? 彼女いない歴=年齢のトシヤはドキッとしながら答えた。
「あ、俺、トシヤって言います。十五歳、七尾高校の一年っす」
聞かれてもいないのに名前と通っている高校まで答えたトシヤ。それを聞いた黒髪の女の子は驚いた。
「えっ、七尾高校? じゃあ私の後輩じゃない」
茶髪の少女の反応は少し違った。
「うわっ、同級だって!? でも、あんなのウチのクラスには居なかったわよね。じゃあ一組か三組か……しかしルナ先輩、なんでそんな事言っちゃうかなぁ……」
どうやら茶髪の少女はトシヤと同じ七尾高校一年らしい。
「私、二年の津森ルナ。この子は……」
そこまで言った時、茶髪の少女が割って入る様に叫んだ。
「ちょっとルナ先輩! 初対面の人間にそんな個人情報を晒してどういうつもりなんですか!?」
しかし黒髪の女の子ルナは涼しい顔で言い返した。
「でも、どのうちこの峠で顔見知りになるだろうし、同じ学校だって解ったんだから仲良くしないとね」
トシヤにとってなんという僥倖! 茶髪の女の子にとっては青天の霹靂。だが、同じ学校だという事は身元がはっきりしている。どこの馬の骨とも解らない男よりは遥かにマシだと考えた様だ。
「私、遠山ハルカ、一年二組よ」
茶髪の少女も渋々名前とクラスを明かした。
「君、二組なんだ。俺、三組。隣のクラスにローディーが居るなんて嬉しいな。俺、ロードバイク始めたばっかりだから、色々教えて欲しいな」
二人に劣等感を抱いていたトシヤだったが、同じ学校だと聞いて彼女達とお近付きになりたいという気持ちの方が強くなった様だ。なにしろルナは黒髪の清楚系美少女で、ハルカもよく見れば可愛い顔立ちをしているのだから。するとハルカが不満そうな顔で言い返した。
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