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初めてのライド
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日曜日、いつもなら昼まで寝ているトシヤが朝早く目覚めた。いよいよ今日は本格的にリアクトに乗れる。今日の為に何度もビンディングペダルの付け外しの練習を兼ねてちょこちょこ走ったが、幸い立ちゴケする事も無く、その機動性に酔いしれるばかりだった。
ルートは既に決めてある。家から少し走った国道に出て川沿いの道を走り、隣の県に出るルートだ。遠回りだが、このルートなら山を迂回出来るので峠を越えなくて済む。さすがにいきなり峠越えは厳しいだろうと判断しての事だ。
レーパンを履き、サイクルジャージを羽織ってビンディングシューズに足を入れると気分はいやがうえにも盛り上がる。右足のクリートをビンディングに嵌め、漕ぎ出して左足をペダルに乗せる。カチっと音がして左足のクリートも無事ビンディグに嵌った。あとは進むだけだ。早朝の車の少ない道をまずは国道目指してトシヤは走った。
四月も中旬だとはいえ、早朝はまだ肌寒い。半袖のサイクルジャージの下に長袖のインナーを着てはいるが、ロードバイクのスピードだと風は容赦無くトシヤの体温を奪っていく。薄いウィンドブレーカーでもあれば良かったのだが、そこまではお金が回らなかったのだ。まあ、入っているうちに体温が上がってくるだろうし、陽が昇って気温も高くなるだろう。冬で無くて良かったとトシヤは調子良くペダルを回して行く。市街地を抜け、山が近くなってきた。このまま山に向かって東に進めば短い距離で隣の県に行く事が出来るのだろうが、険しい峠道を走らなければならない。ヒヨっ子ローディーのトシヤは山の麓の旧街道を右に折れ、南へと進路を取った。
旧街道に入るとロードバイクとすれ違う事が多くなった。
「あの人達、峠に行くのかな……?」
トシヤは呟いた。そう、トシヤは峠を避けて南へ向かったが、北へ向かう彼等は峠を目指しているのだ。「いつかは俺も」と思いながらトシヤは更にペダルを回した。
出発して一時間程が経ち、もうすぐ川沿いの道に入ろうかというタイミングでコンビニを発見したトシヤは小休止を取る事にした。体力的にはまだまだ走れそうなのだが、疲れてしまう前に休憩を取るのが鉄則だ。はやる心を抑えてトシヤはコンビニの駐車場にリアクトを滑り込ませた。
今までなら駐輪場に自転車を置くのだが、今日はそうはいかない。なにしろスタンドと言うモノがロードバイクには付いていないのだから。アーチ型の車止めにリアクトを立て掛け、細い携帯用のワーヤーロックでフレームと車止めを繋ぐと、トシヤは飲み物を買う為に店内へ入った。
SPD‐SLのビンディングシューズは実に歩きにくい。普通に歩けない事も無いのだがプラスティックのクリートは滑りやすいし、何よりクリートが削れてしまうのが困る。踵でペンギンの様によちよちと歩いてスポーツドリンクを手に取ると、レジに向かった。
スポーツドリンクを飲みながらメリダを見ると気分は最高だ。スマホに入れたナビで現在位置とルートを確認し、三分の二程残ったペットボトルをサイクルジャージの背中のポケットに押し込むとワイヤーロックを外し、颯爽とスタートしたトシヤ。気持ちだけはもう一端のローディーだ。
旧街道を更に南に進むとナビで確認した通り川を超えたところで分岐が有り、ここを東へ曲がって山を越えるといよいよ隣の県だ。山を越えると言っても山の裾を通るだけなので斜度は大したことは無い。初心者のトシヤでも楽々と走る事が出来る。
「良い景色だ」
山あいに入り、眼下に流れる川と木々の緑そして吸い込まれる様な空の青に包まれたトシヤは思わず呟いた。自宅を出てからまだ二時間も経っていない。だが、電車も使わずこんなところまで一人で来る事が出来た。彼にとって初めての遠征は上々の滑り出しだった。
無事に山を越え、隣の県に入ったトシヤがサイクルコンピューターで走行距離を見てみると十五キロといったところで、まだまだ足には余裕がある。今回の目的地、五重塔で有名なお寺までもう少し。トシヤはリアクトを快調に走らせた。
市街地に近付くにつれて車が増えてきた。日曜日の観光地だけあって大型の観光バスもちらほら走っている。バスの排気ガスに辟易しながら進むうちに五重塔が見えた。
「着いた」
たかだか二十キロちょっとの走行距離だが、トシヤにとっては見知らぬ土地への大冒険。とりあえず目的地に無事到着した事に安堵したトシヤは五重塔をバックにリアクトを写真に収めるとサイクルジャージの背中のポケットからスポーツドリンクのペットボトルを取り出し、口に含んだ。
「温い……」
当然だ。保冷を謳った二重構造のサイクルボトルでも氷をガンガンに入れておかないと中身はすぐに温くなってしまうのだから。トシヤはまた走り出した。冷たいドリンクと食べ物を求めて。
コンビニを見つけたトシヤは迷うことなくハンドルを向けた。せっかく観光地に来たのだから名物でも食べてお土産の一つも買っていきたい気持ちは山々だが、店員の言葉が頭から離れない。
『走りに行った先でご飯食べる時なんかも出来るだけ目の届く所に停めておかないとね』
またもやリアクトをアーチ型の車止めにしっかりワイヤーロックをかけたトシヤは冷たいドリンクとサンドイッチを買うと、リアクトの横に座り込み、頬張り始めた。他人から見れば奇異な光景かもしれない。しかし他人の目など気にならなかった。それどころかコンビニのサンドイッチがこんなにも美味しいと初めて思ったトシヤだった。
帰りは来たルートを戻るだけだ。別のルートを通りたい気持ちもあったが、他のルートは思いっきり遠回りをするかキツい峠越えをクリアしなくてはならない。今日のところは初めてのロングライド(彼にとっては)なので安全策、確実に帰れるルートを採るのが無難だろう。もちろん川沿いの綺麗な景色を見ながら走るのは気持ちが良いのでルート自体に不満は無いし、行きと違って帰りは心に余裕も有るので同じ景色でも違って見えるかもしれない。軽い食事、ローディーっぽく言うと補給を終えたトシヤはゴミをゴミ箱に放り込むとメリダを走らせた。
ルートは既に決めてある。家から少し走った国道に出て川沿いの道を走り、隣の県に出るルートだ。遠回りだが、このルートなら山を迂回出来るので峠を越えなくて済む。さすがにいきなり峠越えは厳しいだろうと判断しての事だ。
レーパンを履き、サイクルジャージを羽織ってビンディングシューズに足を入れると気分はいやがうえにも盛り上がる。右足のクリートをビンディングに嵌め、漕ぎ出して左足をペダルに乗せる。カチっと音がして左足のクリートも無事ビンディグに嵌った。あとは進むだけだ。早朝の車の少ない道をまずは国道目指してトシヤは走った。
四月も中旬だとはいえ、早朝はまだ肌寒い。半袖のサイクルジャージの下に長袖のインナーを着てはいるが、ロードバイクのスピードだと風は容赦無くトシヤの体温を奪っていく。薄いウィンドブレーカーでもあれば良かったのだが、そこまではお金が回らなかったのだ。まあ、入っているうちに体温が上がってくるだろうし、陽が昇って気温も高くなるだろう。冬で無くて良かったとトシヤは調子良くペダルを回して行く。市街地を抜け、山が近くなってきた。このまま山に向かって東に進めば短い距離で隣の県に行く事が出来るのだろうが、険しい峠道を走らなければならない。ヒヨっ子ローディーのトシヤは山の麓の旧街道を右に折れ、南へと進路を取った。
旧街道に入るとロードバイクとすれ違う事が多くなった。
「あの人達、峠に行くのかな……?」
トシヤは呟いた。そう、トシヤは峠を避けて南へ向かったが、北へ向かう彼等は峠を目指しているのだ。「いつかは俺も」と思いながらトシヤは更にペダルを回した。
出発して一時間程が経ち、もうすぐ川沿いの道に入ろうかというタイミングでコンビニを発見したトシヤは小休止を取る事にした。体力的にはまだまだ走れそうなのだが、疲れてしまう前に休憩を取るのが鉄則だ。はやる心を抑えてトシヤはコンビニの駐車場にリアクトを滑り込ませた。
今までなら駐輪場に自転車を置くのだが、今日はそうはいかない。なにしろスタンドと言うモノがロードバイクには付いていないのだから。アーチ型の車止めにリアクトを立て掛け、細い携帯用のワーヤーロックでフレームと車止めを繋ぐと、トシヤは飲み物を買う為に店内へ入った。
SPD‐SLのビンディングシューズは実に歩きにくい。普通に歩けない事も無いのだがプラスティックのクリートは滑りやすいし、何よりクリートが削れてしまうのが困る。踵でペンギンの様によちよちと歩いてスポーツドリンクを手に取ると、レジに向かった。
スポーツドリンクを飲みながらメリダを見ると気分は最高だ。スマホに入れたナビで現在位置とルートを確認し、三分の二程残ったペットボトルをサイクルジャージの背中のポケットに押し込むとワイヤーロックを外し、颯爽とスタートしたトシヤ。気持ちだけはもう一端のローディーだ。
旧街道を更に南に進むとナビで確認した通り川を超えたところで分岐が有り、ここを東へ曲がって山を越えるといよいよ隣の県だ。山を越えると言っても山の裾を通るだけなので斜度は大したことは無い。初心者のトシヤでも楽々と走る事が出来る。
「良い景色だ」
山あいに入り、眼下に流れる川と木々の緑そして吸い込まれる様な空の青に包まれたトシヤは思わず呟いた。自宅を出てからまだ二時間も経っていない。だが、電車も使わずこんなところまで一人で来る事が出来た。彼にとって初めての遠征は上々の滑り出しだった。
無事に山を越え、隣の県に入ったトシヤがサイクルコンピューターで走行距離を見てみると十五キロといったところで、まだまだ足には余裕がある。今回の目的地、五重塔で有名なお寺までもう少し。トシヤはリアクトを快調に走らせた。
市街地に近付くにつれて車が増えてきた。日曜日の観光地だけあって大型の観光バスもちらほら走っている。バスの排気ガスに辟易しながら進むうちに五重塔が見えた。
「着いた」
たかだか二十キロちょっとの走行距離だが、トシヤにとっては見知らぬ土地への大冒険。とりあえず目的地に無事到着した事に安堵したトシヤは五重塔をバックにリアクトを写真に収めるとサイクルジャージの背中のポケットからスポーツドリンクのペットボトルを取り出し、口に含んだ。
「温い……」
当然だ。保冷を謳った二重構造のサイクルボトルでも氷をガンガンに入れておかないと中身はすぐに温くなってしまうのだから。トシヤはまた走り出した。冷たいドリンクと食べ物を求めて。
コンビニを見つけたトシヤは迷うことなくハンドルを向けた。せっかく観光地に来たのだから名物でも食べてお土産の一つも買っていきたい気持ちは山々だが、店員の言葉が頭から離れない。
『走りに行った先でご飯食べる時なんかも出来るだけ目の届く所に停めておかないとね』
またもやリアクトをアーチ型の車止めにしっかりワイヤーロックをかけたトシヤは冷たいドリンクとサンドイッチを買うと、リアクトの横に座り込み、頬張り始めた。他人から見れば奇異な光景かもしれない。しかし他人の目など気にならなかった。それどころかコンビニのサンドイッチがこんなにも美味しいと初めて思ったトシヤだった。
帰りは来たルートを戻るだけだ。別のルートを通りたい気持ちもあったが、他のルートは思いっきり遠回りをするかキツい峠越えをクリアしなくてはならない。今日のところは初めてのロングライド(彼にとっては)なので安全策、確実に帰れるルートを採るのが無難だろう。もちろん川沿いの綺麗な景色を見ながら走るのは気持ちが良いのでルート自体に不満は無いし、行きと違って帰りは心に余裕も有るので同じ景色でも違って見えるかもしれない。軽い食事、ローディーっぽく言うと補給を終えたトシヤはゴミをゴミ箱に放り込むとメリダを走らせた。
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