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ロードバイクって、意外と面倒臭い乗り物だ
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翌日、授業が終わるや否や教室を飛び出し、家に帰ったトシヤはTシャツとジーンズに着替えるとヘルメットとグローブを抱えてスポーツ自転車のショップへと急いだ。本当はレーパンとサイクルジャージ、そしてビンディングシューズで行きたかったのだが、ビンディングシューズで長距離を歩くなど愚の骨頂、クリートが削れて使えなくなってしまうし、そもそも初めてのビンディングで帰り道を走るのは怖かったのだ。慣れないと上手く嵌める事が出来ない事も有るが、それ以上に外すのに慣れておかないと立ちゴケしてしまう危険性が高いのだから。
ショップに着き、店員に声をかけるとトシヤの愛車となるメリダが運ばれてきた。ちゃんと整備され、防犯登録もされている。簡単な説明を聞き、いよいよ初乗りだ。ヘルメットを被り、グローブを嵌めながらトシヤは嬉しそうに店員に言った。
「明日から通学が楽しみっすよ」
それを聞いた店員はちょっと慌てた顔でトシヤに忠告した。
「コレで通学するの? 駐輪場、大丈夫? 出来たらヤメた方が良いよ」
店員が言うにはロードバイクは軽いので盗まれやすい。固定物にチェーンやワイヤーロックで繋ぐ『地球ロック』が出来るのならともかく『タイヤが回らなくなるだけ』の鍵をかけただけで長時間離れるなど言語道断、買い物に乗っていく事さえしない方が良いらしい。ロードバイクは『ただ走る為にだけ』に使うべきものなのだと。
「……そうなんですか」
驚いた顔のトシヤに店員は更に言った。
「そうだよ。走りに行った先でご飯食べる時なんかも出来るだけ目の届く所に停めておかないとね」
なかなか面倒臭い乗り物なんだなと思ったトシヤだったが、それ以上に楽しい乗り物なのがロードバイクだよと聞き、気を取り直してフレームに跨りハンドルを握った。
ロードバイクのサドルをちゃんと調整すると地面には片足の爪先が着く程度の高さになる。だからトシヤはサドルに座るのでは無くフレームを跨ぎ、十二時の位置に合わせた右のペダルを踏み込みながらサドルに尻を下ろす。
「うわっ、ハンドル低っ!」
昨日跨っただけでは解らなかったが、サドルに尻を置き、ペダルに足を乗せるとハンドルは思っていた以上に低く感じた。無理も無い、実際にロードバイクのハンドルはサドル位置よりも低いのだ。サーキットを走るレース用のオートバイも恐ろしくハンドルが低いが、少なくともシートよりは高い位置に有る。着座位置よりもハンドルが低い乗り物など、なかなか他には見つからないだろう。しかもビンディング用のペダルは小さく、普通のスニーカーでは滑りやすくて漕ぎにくい。だが、戸惑ったのも最初のうちだけで、すぐにトシヤはロードバイクの楽しさの片鱗を見出した。
「軽い。しかもこの加速……」
一般的なママチャリの重量は約20キロらしい。それに対しトシヤのリアクトは10キロ弱、半分程度の重さしか無い。ペダルを踏めば踏む程速度を増すロードバイクにトシヤは感動すら覚えた。それと同時に硬いアルミフレームと8キロという高い空気圧のタイヤがロードインフォメーション、早い話が道路の凸凹を容赦無く伝えて来るハードな乗り心地に驚愕した。
「こりゃ確かに走る為だけの乗り物だな」
呟きながら走るトシヤの目はとても楽しそうだった。
すぐに家に帰るつもりが、ついつい遠回りしてしまったトシヤが家に帰ると母親が物珍しそうに見た。
「コレなの、十万円以上する自転車って。やっぱりモーターか何か付いてるの?」
母親はその値段を聞いて電動自転車と思った様だ。まあ、コレが普通の反応なのかもしれない。
「モーターなんか付いてないよ。これはロードバイク。人間の力だけで速く走る為の乗り物なんだ」
トシヤが言うと、母親は解った様な解らない様な顔で「気を付けて乗る様に」とだけ言うと大事な事を聞いた。
「今までの古い自転車はどうするの?」
もちろん母親としては『処分するの?』と意味で言ったのだし、トシヤもそうするつもりだったのだが、ロードバイクは通学には使わない方が良いと言われたので少し困ってしまった。
「それは通学に使うよ。ロードバイクは走る為だけのモノだから」
「じゃあ、ドコに置くの?」
言いにくそうに言うトシヤに母親が迫る。理想を言えばロードバイクは室内保管が望ましいのだが、トシヤの部屋は二階、狭い階段をリアクトを担いで上り下りするのは難しいだろう。そこでトシヤは駐車場、父の車の後ろに少し空きスペースが有るのに目を付けた。
「駐車場に置いちゃダメかな? お父さんの車の後ろに」
「ぶつけられても知らないわよ。それと自転車出す時に車に傷付けたら怒られるわよ」
「大丈夫だよ」
「お父さんと相談したら?」
「うん!」
とりあえず母親と話は付いた。トシヤは部屋からスタンドを持ってくると父親の車の後ろに置き、リアクトを立てた。
夜、父親が帰ってきたのでロードバイクの置き場所について話をすると父親は笑顔で言った。
「そっか。じゃあそこにアイボルトでも打つか」
アイボルトとは、頭に輪っかが付いているボルトで、それにワイヤーロックをかければ良いと言う。父親は快諾してくれた上に盗難防止の為の対策も考えてくれたのだ。これで全ては解決、後は走るのみだ。「事故には気を付けろよ」という父親の言葉にトシヤは大きく頷いた。
ショップに着き、店員に声をかけるとトシヤの愛車となるメリダが運ばれてきた。ちゃんと整備され、防犯登録もされている。簡単な説明を聞き、いよいよ初乗りだ。ヘルメットを被り、グローブを嵌めながらトシヤは嬉しそうに店員に言った。
「明日から通学が楽しみっすよ」
それを聞いた店員はちょっと慌てた顔でトシヤに忠告した。
「コレで通学するの? 駐輪場、大丈夫? 出来たらヤメた方が良いよ」
店員が言うにはロードバイクは軽いので盗まれやすい。固定物にチェーンやワイヤーロックで繋ぐ『地球ロック』が出来るのならともかく『タイヤが回らなくなるだけ』の鍵をかけただけで長時間離れるなど言語道断、買い物に乗っていく事さえしない方が良いらしい。ロードバイクは『ただ走る為にだけ』に使うべきものなのだと。
「……そうなんですか」
驚いた顔のトシヤに店員は更に言った。
「そうだよ。走りに行った先でご飯食べる時なんかも出来るだけ目の届く所に停めておかないとね」
なかなか面倒臭い乗り物なんだなと思ったトシヤだったが、それ以上に楽しい乗り物なのがロードバイクだよと聞き、気を取り直してフレームに跨りハンドルを握った。
ロードバイクのサドルをちゃんと調整すると地面には片足の爪先が着く程度の高さになる。だからトシヤはサドルに座るのでは無くフレームを跨ぎ、十二時の位置に合わせた右のペダルを踏み込みながらサドルに尻を下ろす。
「うわっ、ハンドル低っ!」
昨日跨っただけでは解らなかったが、サドルに尻を置き、ペダルに足を乗せるとハンドルは思っていた以上に低く感じた。無理も無い、実際にロードバイクのハンドルはサドル位置よりも低いのだ。サーキットを走るレース用のオートバイも恐ろしくハンドルが低いが、少なくともシートよりは高い位置に有る。着座位置よりもハンドルが低い乗り物など、なかなか他には見つからないだろう。しかもビンディング用のペダルは小さく、普通のスニーカーでは滑りやすくて漕ぎにくい。だが、戸惑ったのも最初のうちだけで、すぐにトシヤはロードバイクの楽しさの片鱗を見出した。
「軽い。しかもこの加速……」
一般的なママチャリの重量は約20キロらしい。それに対しトシヤのリアクトは10キロ弱、半分程度の重さしか無い。ペダルを踏めば踏む程速度を増すロードバイクにトシヤは感動すら覚えた。それと同時に硬いアルミフレームと8キロという高い空気圧のタイヤがロードインフォメーション、早い話が道路の凸凹を容赦無く伝えて来るハードな乗り心地に驚愕した。
「こりゃ確かに走る為だけの乗り物だな」
呟きながら走るトシヤの目はとても楽しそうだった。
すぐに家に帰るつもりが、ついつい遠回りしてしまったトシヤが家に帰ると母親が物珍しそうに見た。
「コレなの、十万円以上する自転車って。やっぱりモーターか何か付いてるの?」
母親はその値段を聞いて電動自転車と思った様だ。まあ、コレが普通の反応なのかもしれない。
「モーターなんか付いてないよ。これはロードバイク。人間の力だけで速く走る為の乗り物なんだ」
トシヤが言うと、母親は解った様な解らない様な顔で「気を付けて乗る様に」とだけ言うと大事な事を聞いた。
「今までの古い自転車はどうするの?」
もちろん母親としては『処分するの?』と意味で言ったのだし、トシヤもそうするつもりだったのだが、ロードバイクは通学には使わない方が良いと言われたので少し困ってしまった。
「それは通学に使うよ。ロードバイクは走る為だけのモノだから」
「じゃあ、ドコに置くの?」
言いにくそうに言うトシヤに母親が迫る。理想を言えばロードバイクは室内保管が望ましいのだが、トシヤの部屋は二階、狭い階段をリアクトを担いで上り下りするのは難しいだろう。そこでトシヤは駐車場、父の車の後ろに少し空きスペースが有るのに目を付けた。
「駐車場に置いちゃダメかな? お父さんの車の後ろに」
「ぶつけられても知らないわよ。それと自転車出す時に車に傷付けたら怒られるわよ」
「大丈夫だよ」
「お父さんと相談したら?」
「うん!」
とりあえず母親と話は付いた。トシヤは部屋からスタンドを持ってくると父親の車の後ろに置き、リアクトを立てた。
夜、父親が帰ってきたのでロードバイクの置き場所について話をすると父親は笑顔で言った。
「そっか。じゃあそこにアイボルトでも打つか」
アイボルトとは、頭に輪っかが付いているボルトで、それにワイヤーロックをかければ良いと言う。父親は快諾してくれた上に盗難防止の為の対策も考えてくれたのだ。これで全ては解決、後は走るのみだ。「事故には気を付けろよ」という父親の言葉にトシヤは大きく頷いた。
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