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真白を傷付けたらただではおかん

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 翌日、浩輔が教室に入ると茜が待ちかねたといった顔で近寄ってきた。

「浩輔、信弘のバカの様子がおかしいんだが、何かあったのか?」

 茜に言われて見てみると、信弘はにやけた顔をしては急に難しい顔になったり、笑顔を作ったかと思えば、真剣な顔をしてみたりと一人でせわしなく表情をコロコロ変えている。早い話が気持ち悪い。

「うーん、どうしたんだろうねぇ?」

 苦笑いしながら浩輔が応えると茜は横に回り込んだかと思うと浩輔の耳元で囁いた。

「そうか。仲の良い君達なら何でも分かり合っていると思ったんだが、私の買いかぶり過ぎだったと言う事かな?

 それとも私には言えない男同士の秘密でも……?」

 言葉と共に甘い息が浩輔を襲う。一瞬たじろいだ浩輔だったが、それを顔に出すわけにはいかない。自然な表情でいようとするが、意識すればするほど不自然な表情になってしまう。

「い、いや、本当に何でも無いよ。まあ、春だしねぇ」

 苦し紛れに浩輔が言った言葉に茜が鋭く反応した。

「春? もう初夏だというのに春? そうか、信弘はいつぞやの一年生と上手くいっているというわけだな」

 ――墓穴掘った! ゴメン、信弘――

 青ざめて頭を抱える浩輔に茜は呆れた顔で言った。

「いや、別に隠す様な事でもあるまい。男が女を求め、女が男を求めるのは自然の摂理なのだから」

『男は女を求め、女は男を求める』確かにそれは当然の事であり、浩輔ぐらいの年頃だと尚更のことだ。そこで浩輔は余計な事を口走ってしまった。

「自然の摂理? じゃあ稲葉さんも?」

 それは茜に対する浩輔の素朴な疑問だった。頭脳明晰でスポーツ万能という茜に見合う男などそうそういるものでは無い。そんな茜でも彼氏が欲しいとか思ったりするのだろうか? 浩輔はふとそんな風に思ったのだった。
 茜は浩輔のバカな質問に笑顔で即答した。

「もちろん。私は君を求めてるじゃないか」

「稲葉さんはボクをペットとして求めてるだけでしょ」

「ペットでは不満なのか?」

「そりゃそうだよ! 稲葉さんはボクを何と思ってるんだよ?」

 浩輔も男である以上、いくら相手が頭脳明晰な上にスポーツ万能の美少女だとしてもペット扱いされて嬉しいわけが無い。いや、クラスには茜にペット扱いされている浩輔を羨ましがっている男子もいる様だが、肉食の狼を目指す浩輔としてはいつまでもペットではいられないのだ。だが、茜から返ってきた答えに浩輔は絶句した。

「ペットにしたい男子生徒ナンバー1だが」

「そうなんだ……それはどうもありがとう……って、嬉しくないから」

 大体解ってはいた事ではあるが、こうまではっきり言われると悲しいものがある。落ち込む浩輔に茜は尋ねた。

「それはそうと、信弘の相手っていうのはまさか真白じゃ無いだろうな」

「ち、違うよ。稲葉さんの友達で近藤さんって……うわっ、しまった!」

 慌てて口を押さえる浩輔に、茜は吹き出した。

「はっはっはっ、やっぱり君はペットにしたい男子ナンバー1だな。大丈夫、誰にも言う気は無いし、チャチャを入れる気も無いから」

 笑いながら言う茜の顔は綺麗だった。しかしその綺麗な笑顔は瞬時にしてドスの効いた顔に変わった。

「ただ、真白が相手だったとすれば一言脅しをかけるつもりではあったが。真白を傷付ける様な事をしたらただではおかんとな」

 まるで真白の父親の様な事を言う茜。しかも茜の目は思いっきり本気の目だ。浩輔の背中に冷たいものが走った。が、茜はすぐに笑顔に戻った。

「おっと、もうすぐホームルームが始まるな。今日も一日勉学に励むとしようじゃないか」

 言いたい事だけ言うと茜は自分の席へ戻っていった。

「ふうっ、さっきの稲葉さん、怖かったな……」

 ドスの効いた茜の顔がフラッシュバックの様に蘇り、浩輔が身震いしたと同時にホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。
 
 ――でも、稲葉さん、真白ちゃんの事、大事に思ってるんだな。変な事したら殺されちゃうかもしれないな……? ―― 

 本人には言えないくせに心の中では『真白ちゃん』と名前で呼んでいる浩輔。まさに彼女居ない歴=年齢のチェリーボーイにありがちな行動だ。浩輔が面と向かって真白ちゃんと呼べる日はいつになったら訪れるのだろうか? そして茜の怖さをあらためて感じてしまった浩輔は真白を口説き落とす事が出来るのだろうか? 



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