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郁雄は最高?
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「稲葉さんはどんな服が好きなの?」
浩輔が真白にさりげなく(そうか?)尋ねた。真白が少しぼーっとしていた事に気付き、声をかけたのだ。
「そうですね、私はこんな感じのが好きですね」
白いブラウスを手に取って答えた真白だったが、実は真白の思いは他にあった。
――茜ちゃん、浩輔先輩と親しそうだったな……私、浩輔先輩と一緒に居て良いのかな……? ――
真白のそんな思いを想像だにせず浩輔は
「うん、上品でかわいいね。稲葉さんに似合いそうだ」
と精一杯の褒め言葉を口にした。もちろんそれはお世辞などでは無く、彼が心から思った事だ。すると真白が小さな声で言いにくそうに聞いてきた。
「浩輔先輩って、茜ちゃんと仲良いんですか?」
「えっ、いきなりどうしたの?」
浩輔は突然の質問に驚いた。一般的には女の子が男子に別の女の子について質問するなんて、脈アリと言うか、好意を抱いているものなのだが、残念ながら浩輔にはそんな事を考える余裕など無い。
「うーん、クラスメイトだからねぇ。まあ、親しいって言うか、ボクが稲葉さんにからかわれてばかりなんだけど」
バカ正直に言わなくても良い事まで言ってしまった浩輔。
「そうなんですか……」
真白は一瞬複雑そうな顔をしたが、浩輔はそれに気付かず更に余計な事を言う。
「うん。困ったもんだよ、ボクをいつも愛玩動物扱いするんだから」
真白は浩輔の『いつも』という言葉にピクっと反応したが、それには触れず、別の質問を投げかけた。
「茜ちゃんに愛玩動物扱いされるのって、嫌ですか?」
「そりゃボクだって男だからね」
「そうなんですか」
浩輔の答えに真白はつい数秒前に言ったのと同じ言葉を違う表情・違う口調で口にした。
「そりゃそうだよ」
浩輔は溜息混じりに言うが、浩輔は真白の微妙な変化に気付いたのだろうか?
*
女の子の長い買い物が終わり、気が付けば時計の針は十二時をとっくに回ってしまっていた。
「ごめんなさい、付き合わせちゃって」
「いや、大丈夫だよ。それより少しは真由美ちゃんたちの役に立てたかな?」
謝る真由美に信弘は笑顔で応えるが、郁雄は疲労困憊の表情で言った。
「腹減っちまったよ。とりあえず何か食いに行こうぜ」
「行こ行こ! 私もお腹空いたー!」
奈緒も郁雄に同調する様に声を上げた。だがこの時間、フードコートはまだまだ人がいっぱいで六人で座れるスペースを確保するのは難しいだろう。そこで浩輔が提案した。
「じゃあ、初めてみんなで行ったコーヒーショップに行こうよ。カレーやスパゲティぐらいはあるんじゃないかな?」
フードコートに比べたら少し高く付くが、長時間席が空くのを待ってウロウロするのも嫌だ。まあ、セットメニューもあるだろうし、何より思い出の店だ。全員一致で話は決まった。
コーヒーショップは思っていたよりは混んでいたが、二つのテーブルを引っ付けてもらってなんとか六人がまとまって座る事が出来た。それに幸いランチセットが設定されていて、食事と食後のドリンクが一人千円以内で注文が可能だったのが嬉しかった。
注文を終え、周囲を見回した真由美がぽつりと言った。
「何か懐かしいわねぇ。まだあれから一ヶ月しか経ってないのに」
「まったくだな」
信弘は頷いた後、真由美を見つめて悪戯っぽく笑って言った。
「それにしても、まさか偽名使われるとは思わなかったぜ」
「それについては謝ったじゃない」
しょんぼりして俯く真由美だったが、顔を上げると照れ臭そうに微笑んだ。
「でも、実はちょっと嬉しかったんですよ。校門で声かけられた時」
真由美が言うと、奈緒が横槍を入れてきた。
「そうそう、運命なんか感じちゃったりして」
「な、何言ってるのよ!」
郁雄が突っ込む前に真由美が真っ赤になって声を上げたが、奈緒の口は止まらない。
「照れない照れない。真由美って、意外と乙女なところが有るのよね~」
「そう言う奈緒はどうなのよ?」
楽しそうに笑いながら言う奈緒に真由美が噛み付いた。だが真由美の反応を見ると、奈緒の言う事もあながち口から出まかせと言う事では無さそうだ。
「私? そりゃもう郁雄先輩は最高っすよ!」
真由美の問いかけに臆する事無く奈緒が言い切った。
「えっ、俺が最高だってか?」
郁雄が身を乗り出して奈緒の言葉に食い付いた。女の子に『最高』だと言われたのだ、男子としては当然の反応だろう。だがしかし、それは続く奈緒の言葉で一瞬にしてぬか喜びに変わった。
「ええ。突っ込みのタイミングと言い、適度な力加減と言い、言う事無しです!」
「なんだ、最高ってのは突っ込み要員としてかよ」
不貞腐れ気味に言う郁雄。どうやら彼は奈緒が昨日カラオケボックスで言った事を忘れていた様だ。
『郁雄先輩、ナイス突っ込みです! もしかしたら郁雄先輩は私の探し求めていた人かもしれません!』
奈緒は郁雄を男子としてでは無く、単に突っ込み要員としか見ていないのかもしれない。確かに奈緒と居れば退屈はしないがそれだけでは……郁雄の心に複雑な環状がこみ上げた。
その時奈緒が神妙な顔で言った。
「私にとって突っ込み要員は必要不可欠。郁雄先輩とはずっと一緒に居たいぐらいですよ」
郁雄は喜んで良いのか微妙な顔で奈緒の顔を見た。いつも見せる元気の良い顔では無く、しおらしげに俯き、上目遣いで郁雄を見返す奈緒は紛れもない美少女だった。また、普段とのギャップもあり郁雄の胸がキュンとなった。しかし、次の瞬間奈緒はいつもの調子に戻った。
「そう、二十四時間三百六十五日! 英語で言えばエブリデイエブリタイム!」
ビシっと郁雄を指差して決めポーズまで作った奈緒に郁雄は少し呆然とした後、向けられた奈緒の指をぺしっと払い落とした。
「人を指差してはいけません」
「おっと、そうきましたか。この突っ込みは予想外でしたねー」
元気良く笑顔で返した奈緒。しかし奈緒の目が笑ってなく、心なしか寂しそうな事に気付いたのは浩輔ただ一人だった。
浩輔が真白にさりげなく(そうか?)尋ねた。真白が少しぼーっとしていた事に気付き、声をかけたのだ。
「そうですね、私はこんな感じのが好きですね」
白いブラウスを手に取って答えた真白だったが、実は真白の思いは他にあった。
――茜ちゃん、浩輔先輩と親しそうだったな……私、浩輔先輩と一緒に居て良いのかな……? ――
真白のそんな思いを想像だにせず浩輔は
「うん、上品でかわいいね。稲葉さんに似合いそうだ」
と精一杯の褒め言葉を口にした。もちろんそれはお世辞などでは無く、彼が心から思った事だ。すると真白が小さな声で言いにくそうに聞いてきた。
「浩輔先輩って、茜ちゃんと仲良いんですか?」
「えっ、いきなりどうしたの?」
浩輔は突然の質問に驚いた。一般的には女の子が男子に別の女の子について質問するなんて、脈アリと言うか、好意を抱いているものなのだが、残念ながら浩輔にはそんな事を考える余裕など無い。
「うーん、クラスメイトだからねぇ。まあ、親しいって言うか、ボクが稲葉さんにからかわれてばかりなんだけど」
バカ正直に言わなくても良い事まで言ってしまった浩輔。
「そうなんですか……」
真白は一瞬複雑そうな顔をしたが、浩輔はそれに気付かず更に余計な事を言う。
「うん。困ったもんだよ、ボクをいつも愛玩動物扱いするんだから」
真白は浩輔の『いつも』という言葉にピクっと反応したが、それには触れず、別の質問を投げかけた。
「茜ちゃんに愛玩動物扱いされるのって、嫌ですか?」
「そりゃボクだって男だからね」
「そうなんですか」
浩輔の答えに真白はつい数秒前に言ったのと同じ言葉を違う表情・違う口調で口にした。
「そりゃそうだよ」
浩輔は溜息混じりに言うが、浩輔は真白の微妙な変化に気付いたのだろうか?
*
女の子の長い買い物が終わり、気が付けば時計の針は十二時をとっくに回ってしまっていた。
「ごめんなさい、付き合わせちゃって」
「いや、大丈夫だよ。それより少しは真由美ちゃんたちの役に立てたかな?」
謝る真由美に信弘は笑顔で応えるが、郁雄は疲労困憊の表情で言った。
「腹減っちまったよ。とりあえず何か食いに行こうぜ」
「行こ行こ! 私もお腹空いたー!」
奈緒も郁雄に同調する様に声を上げた。だがこの時間、フードコートはまだまだ人がいっぱいで六人で座れるスペースを確保するのは難しいだろう。そこで浩輔が提案した。
「じゃあ、初めてみんなで行ったコーヒーショップに行こうよ。カレーやスパゲティぐらいはあるんじゃないかな?」
フードコートに比べたら少し高く付くが、長時間席が空くのを待ってウロウロするのも嫌だ。まあ、セットメニューもあるだろうし、何より思い出の店だ。全員一致で話は決まった。
コーヒーショップは思っていたよりは混んでいたが、二つのテーブルを引っ付けてもらってなんとか六人がまとまって座る事が出来た。それに幸いランチセットが設定されていて、食事と食後のドリンクが一人千円以内で注文が可能だったのが嬉しかった。
注文を終え、周囲を見回した真由美がぽつりと言った。
「何か懐かしいわねぇ。まだあれから一ヶ月しか経ってないのに」
「まったくだな」
信弘は頷いた後、真由美を見つめて悪戯っぽく笑って言った。
「それにしても、まさか偽名使われるとは思わなかったぜ」
「それについては謝ったじゃない」
しょんぼりして俯く真由美だったが、顔を上げると照れ臭そうに微笑んだ。
「でも、実はちょっと嬉しかったんですよ。校門で声かけられた時」
真由美が言うと、奈緒が横槍を入れてきた。
「そうそう、運命なんか感じちゃったりして」
「な、何言ってるのよ!」
郁雄が突っ込む前に真由美が真っ赤になって声を上げたが、奈緒の口は止まらない。
「照れない照れない。真由美って、意外と乙女なところが有るのよね~」
「そう言う奈緒はどうなのよ?」
楽しそうに笑いながら言う奈緒に真由美が噛み付いた。だが真由美の反応を見ると、奈緒の言う事もあながち口から出まかせと言う事では無さそうだ。
「私? そりゃもう郁雄先輩は最高っすよ!」
真由美の問いかけに臆する事無く奈緒が言い切った。
「えっ、俺が最高だってか?」
郁雄が身を乗り出して奈緒の言葉に食い付いた。女の子に『最高』だと言われたのだ、男子としては当然の反応だろう。だがしかし、それは続く奈緒の言葉で一瞬にしてぬか喜びに変わった。
「ええ。突っ込みのタイミングと言い、適度な力加減と言い、言う事無しです!」
「なんだ、最高ってのは突っ込み要員としてかよ」
不貞腐れ気味に言う郁雄。どうやら彼は奈緒が昨日カラオケボックスで言った事を忘れていた様だ。
『郁雄先輩、ナイス突っ込みです! もしかしたら郁雄先輩は私の探し求めていた人かもしれません!』
奈緒は郁雄を男子としてでは無く、単に突っ込み要員としか見ていないのかもしれない。確かに奈緒と居れば退屈はしないがそれだけでは……郁雄の心に複雑な環状がこみ上げた。
その時奈緒が神妙な顔で言った。
「私にとって突っ込み要員は必要不可欠。郁雄先輩とはずっと一緒に居たいぐらいですよ」
郁雄は喜んで良いのか微妙な顔で奈緒の顔を見た。いつも見せる元気の良い顔では無く、しおらしげに俯き、上目遣いで郁雄を見返す奈緒は紛れもない美少女だった。また、普段とのギャップもあり郁雄の胸がキュンとなった。しかし、次の瞬間奈緒はいつもの調子に戻った。
「そう、二十四時間三百六十五日! 英語で言えばエブリデイエブリタイム!」
ビシっと郁雄を指差して決めポーズまで作った奈緒に郁雄は少し呆然とした後、向けられた奈緒の指をぺしっと払い落とした。
「人を指差してはいけません」
「おっと、そうきましたか。この突っ込みは予想外でしたねー」
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