いつか死せる彼女に餞けの花束を。

プロローグ:余命３ヶ月の少女、ゲームの世界で「死神」になりますっ！

音無小夜は重度の心臓病である。

西暦2530年、６月６日──看護用奉仕アンドロイド『NARS』の「アイナ」、
介助用奉仕アンドロイド『NEEZ』の「カリン」、を、
小夜の側に侍らせたまま(二人ともが病院からの派遣)小夜は今日正式配信されたばかりのゲームの世界へと医療用ベッドに横たわった一人の痩せこけた少女がいる。

 『音無おとなし様、本日は15時に主治医からの診察が御座います。』
 「…分かっているわ」
 『お嬢様は何も心配等なさらずゲームでも何でも楽しんで居てください』
この時代のVR技術の発達は目覚ましい。
今や手術は兎も角──簡単な診察や問診程度は直接病院まで行かないまでも、“リモート”で出来る時代。
…音無小夜おとなしさよ、14歳の少女は重度の心臓病だ。
それはある日突然に「解ったもの」…気付けば摘出しても転移を繰り返す“ソレ”に。
医師はドナーを見付けて心臓毎交換する必要がある。と。
その“ドナー”が見付からないのだが。
…奇しくも小学生四年生の夏休みの最中に「胸が苦しい」と言って倒れた娘に救急車を手配したのは共に海で遊んでいた(その場には小夜の父の他に母、兄と妹も居た)…小夜の父であった。
恐らく「このまま」ドナーが見付からなければ…余命は残り僅か３ヶ月。
小夜の両親は未だ諦めていない。
……。

諦めたくない、もっと生きたい…そう言えていたのは、2年が過ぎた頃だ。

今はもう──半分以上諦めてる。

仮想現実の世界とアンドロイドの世界は発展したものの…医療分野は依然と20世紀頃と相違なく停滞している。
仮想現実の技術を医療に転用──は、これからだ。

体調の浮き沈みの度、自分は後どれだけの時間残されているのか…そればかり考える。

余命３ヶ月…、14歳の小夜が未来さきを悲観するぐらいには──“音無小夜”の体内はボロボロだ。
“生きている”のが不思議なぐらいには──そして、「自宅療養」が認められるぐらいにはその体調は、病状は…悪い。
…………。