婚約破棄(茶番)の代償は王子自身の実験動物(モルモット)化

アリス

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第1話:公爵令嬢は薬師令嬢

そして始まる第2王子にとっては理不尽、公爵令嬢にとっては僥倖。

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 「ようこそ、第2王子──いや、我が愛しの実験動物ギブリーよ!歓迎しよう──」
大仰に慇懃無礼に大手を広げて、一礼すると。
で“運ばれた”第2王子ギブラスカを見下ろす。
 「──はぁっ!?いや、お前…、その口調……っ」
 「黙れ、実験動物モルモット──誰が口を開けと許可を出した?」
貴族らしい意匠の凝った礼服を着た王家の色──金髪に翠玉の瞳──だが、中身はまるで違う。
4人いる王子の中で最も賢さを余所に盗られた残念王子(笑)──それがギブラスカの周囲からの評判と、アンネ・リーク親衛隊独自調べによる見解──である。

バシーンッ!

手の甲を的確に狙撃したのは──乗馬用の鞭。
振るったのは……アンネ・リーク。

金の髪はポニーテールに、簡素なシャツに短パン、脹ら脛までをすっぽりと覆うような白衣、度のない透明なメガネ…その奥の琥珀色の瞳がギラリと光る。

 「──許可なく囀ずるな、実験動物モルモット
 「──ッ!?痛ッ…た、叩いた……っ!?俺を…?アンネが…ッ!?!?」
バシーンッ!
 「──ッ!!」
 「許可なく囀ずるな、と──私は言った筈だが?」 
白亜の研究所内──床も天井も壁すらも白い室内で…無菌室の中、実験動物ギブラスカは転がされている。
冷たく玲俐に煌めく琥珀色の瞳…能面のような無表情からは少女の感情は読み取れない。
…実はいる事に本人すらも気付いていない。
(…ここに彼女の理解者(家族)が居れば絶対に指摘している)
躊躇なく鞭を振るった事も、身分的に上位(王族だから一応)である王子を打つことも。
“実験動物”の同意書をギブラスカ本人に時も実にいい笑顔を浮かべていた。
“やばい!超楽しい!!”
…そんな自身すらも気付いていない内心を読み切るのは…長年の付き合いがある幼馴染みの──ギブラスカを気付いたのか…引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。

 「は、はは…。久しく見なかったなー俺、選択間違えたか…?」
 「?何を言っている?先ずはこの薬を飲め。そんでその後にこの青い水薬を飲んで──」
 「…え、いや…誰も了承してな──」
 「黙れ、実験動物ギブリー
 「あ、はい──ハッ!?(゜ロ゜)!?」
手渡された錠剤とビーカーに入ったままの青い液体…どちらも怪しい。
なのに瞬間的に受け取ったのは──最早条件反射だ。
幼い頃のだった時の──名残で。

餓鬼大将──アンネ・リークの琥珀色の瞳が光る時、理不尽な暴力が降り掛かる時…そんなにも似た原理が働いてしまうのだ。

だから、怯える。
もうそれは立場的にはギブラスカの方が上でも。

関係ない──下僕で手下で、犬であるギブリーに公爵令嬢アンネ・リークの言を、行動を止められない。拒めない。
…ああ、なんて哀しいさが

~~瞼を閉じれば甦る~~

 『な、なあ…本当にやるのかよ?』
 『何を言っている?お前は私の下僕だろう!…やれ』
 『…ひっ、いやだ…っ!』
王城で飼っている飛竜…その尾を踏めと言われ──踏んだ瞬間に怒った飛竜に投げ飛ばされ…全治3ヶ月~~。
…その時の見舞いの際の彼女アンネの言葉が以下の通り──
 『…ふむ、飛竜にも感情はあるのだな』
 『いつも騎士達が乗りこなしているから…の魔道具か何かだと思っていた』
 『む?怪我をしたのか…鈍臭い奴だな~、風魔法を上手く扱えば着地には成功していた筈だぞ。まったく』
出来るのはお前くらいだ。
第2王子は言い返したけれど、アンネ・リークの心には何も響いていないし、記憶の片隅にも残ってはいない。
それを後に知って憤慨する第2王子を宥めるのは…同じく餓鬼大将アンネ・リークの舎弟扱いされていたお馬鹿四重奏カルテットだ。
騎士爵子息のザッツ・ラルド、魔術師団長子息のエドワード・ハリソン、叔父であり宰相の息子のクード・ヴァンダール、王であり父の専属宮廷付き主治医の息子ハウルアーク・マルグリード…この4人と第2王子は良く連るんでいた。
皆、次男や三男であり家督も継がない“何か”の時のスペアとしても落第点であった所も5人が仲良くなるきっかけであった。
5人纏めて…ゴブリンの巣に捨てられ(女装させられた状態で)たり、
  『…ふむ、ゴブリンってバカではないのか?…それに“男”と知っても襲い掛かるのか…実に興味深い。』
 『…や、やめろ…いやだぁぁっ!!』
 『う、うわぁぁ……っ!?』
 『やめ…いやだぁ…っ!そんなのお尻に入らな──』
ピーーーッ。(自主規制)

 『…ほら、もういないからな?』
 『…ぅっ、ぅぅ…っ!!』
 『お婿に…お婿に行けないよぉ…っ!!』
 『……ッはは…あいつら…僕が男だって知っても…あんな大きく…っ!!』
 『アンネ、リーク…ッ!!お前は…っ、お前は…っ!!俺の…俺達の敵だ…ッ!!』 
 『敵ってお前…まあ、今回は流石に悪かったよ。でもお尻の処女くらいいいじゃないか。将来ゴブリンの巣に行く事があった時に一度経験しているのとしていないのとでは心構えが違うぞ?きっと。たぶん』
『たぶんって言うなーーッ!!俺は…俺達は…っ!』
 『私の舎弟ものだろう?』
 『『『『『違う!!!』』』』』 
 『おお!揃った!!舎弟っぽくて良かったぞ、今の♪』

…またある時は──

 『ね、ねぇ…本当に…この檻は壊れないの?』
 『ああ、大丈夫だアダマンタイト製と謳っている露店に置いてあった伸縮自在の檻だ。魔道具だから壊れたりしない…筈だ』
 『!?ねぇ、なんでそこだけ小さくしゃべるの!?』
 『大丈夫だ…たぶん。』
 『──ッ!!お前…お前…っ!』
 『あん?舎弟が何意見してんだよ。いいから、やれ!──それとも“折檻”の方がお望みか!?ああんっ!?』
輩である。完全なる間違うことなき“いじめッ子”である。──本人にその自覚はない。

因みにその後…檻は壊れませんでした。
良かったね、檻に入れられた哀れなハウルアーク君。
半日捨て置かれて…付近を狩りの為に森へと入った狩人に助けられた。
 『ぅっ、ぅぅ…っ!!死ぬかと…おも゛っだぁ゛~~っ゛!!』
 『大袈裟な…確かに忘れたのは悪いとは思っているよ…謝らないけど。』
……。


……アンネ・リークは隠れドSである。ギブラスカは無自覚M。お馬鹿四重奏カルテットはMよりのノーマル。
…知りたくなかった?あっそう。

ゴクンッ!
飲み込んだ丸い錠剤…グラリ、と眩暈を起こし倒れるギブラスカを正面から抱き止めてアンネ・リークは
 「よし、次はこの青い水だ…飲め。」
 「あ、ああ…」
促されるままに何なのかも知らされず青い水薬を嚥下する…。
 「ぅっ、ぁ、ぁぁ…っ!身体が…熱い……ッ?!」
 「そうか。…ベッドがある支えてやるから歩け」
命令口調ながらもどこか気遣う様子を見せるアンネ・リークにギブラスカは違和感を覚える。
…おかしい…唯我独尊、暴虐武人──違った、傍若無人な餓鬼大将アンネ・リークが?自分を気遣う──?
何故──瞬間、丸い白い錠剤と青い水薬が原因であると気付いたが…がどういう効果をもたらす薬なのか─…ギブラスカはベッドに運ばれるまで恐る恐る恐々と尋ねた。
 「な、なあ…飲ませたんだよ…?」
おかしいな…なぜか、声が…震えるんだ…。
 「…知りたい?知りたいよなぁ~♪」
ニタァ~ッと悪魔は嗤った。
 「…ひっ!?」
や、やっぱり…っ!?
こ、こいつは…俺を……ころっ、殺すつもりで……っ!?
 「…魔力欠乏症を引き起こす薬だよ。最初の丸い錠剤が体内の魔力を外へと発散させる薬、後に飲んだ青い水薬は体外の魔素マナを体の内に取り込めなくなる結界水……ああ、効果はそこまでじゃないから。明日の朝には切れてる」
 「──へっ!?俺の暗殺をするつもりじゃなかったのか……?」
 「ああ?誰が舎弟を殺すか…ッ!──まあ、誤解させた事もないでもないけど…私は薬師で錬金術師だからね。人を救えど人を殺す事はしないよ」
お前が私をどう思っているのかは今の言葉で大体分かったよ、と微苦笑するアンネ・リーク。
…おかしい。やっぱりおかしい。
アンネ・リークが──餓鬼大将でジャイアンな何様俺様公爵令嬢様が……?人を救う、薬師……??毒薬を大量製造して麻薬を世にばら蒔く悪逆非道の裏のボスではなく──??
 「…う、嘘だ…っ!?」
 「ギブリー…確かに子供の頃は餓鬼大将だったけれど…今の私は昔とは違うんだ──まあ、口でいくら言おうとも分からないだろうがな」
微苦笑してやはり、穏やかな笑みを向けるアンネ・リークと昔のアンネ・リークが重ならない。
 「…兎に角、先ほどの薬は一時期に魔力欠乏症──つまり、魔力を限界値まで使った状態になってもらったんだ」
 「…どうして、そんな事を?」
 「──分からないのか?
…まあ、平たく言えば誰でも暗殺が可能…と、言う事だよ──って、冗談だ!冗談だから!」
 「…ひぃっ!?や、やっぱり暗殺されるんだ…ッ!!」
バシーンッ!
乗馬用の鞭で横にさせたギブラスカの額をった。
 「──落ち着け。説明はまだ終わっていないぞ、ギブリー」
そして、始まるのは……“症状”である“魔力欠乏症”──何が原因か、ある日突然…はたまた産まれた瞬間から…魔力が練れられなくなり、魔法の行使も魔術の使用も出来なくなる狂戦士症候群バーサーカーシンドローム と学術名で記される“魔力欠乏症”はその名の通り狂戦士バーサーカーのスキルを持った人間に多く特徴が見られる魔力MP0の表記。
それは発動させると魔力を犠牲に各種能力値パラメーターを大幅に上げる能力向上スキル。
表記には0と出ているが…実際は周囲の魔素マナ
から魔力へと変換し取り入れている為0と出ているからと言って今のギブラスカのように立ち眩みを起こし、自力での歩行が困難になることはないのだが──この患者の多くは今のギブラスカのように魔素を取り込んで活力に出来ない。
これを何とか出来ないものか──と、ギブラスカにその“魔力欠乏症”の症状になって貰った…と言う訳である。
 「つ、つまり…この状態に何故なるのか──調べているってことか?」
 「…ッ!ああ、そうか…っ!そうだったのか…!!」
何かを閃いたのか、アンネ・リークは棚からペンとノートを取り出し書き殴る。
 「魔力欠乏症とは──つまり…で、こうだから……狂戦士症候群は……」

ぶつぶつと呟いてページを何枚も何枚も捲っては書いて捲っては書く。
その横顔はキラキラと輝いて眩しい…そんな邪気も何もない笑顔は久しぶりに見たな、と寝そべったままのギブラスカは思った。
魔力欠乏による倦怠感で未だ起き上がれないまま。
……。
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