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第一章:王都より領地
ハチャメチャな彼女の親戚~妹のばあい~
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「あなたね!私のお姉様の婚約者だと言うのは…!!」
キッと眦を吊り上げた齢12歳のベルフラウ・アンリエッタ・エンハイム…因みにミドルネームは着けたり着けなかったりする。
それも親や名付け親の趣味や嗜好で自由に出来る。
名字──ファミリーネームは婚姻か、王の匠奬爵によってしか、変わらないから…だ。
こちらの少女は朔をまっすぐ睨み付けている…その髪色は母方の祖父の──王族に良く見る深紅の髪に金色の瞳──で面立ちはどこか美貌の彼女の母親の若い頃にに似ている美少女だ。
深紅の髪をツインテールにした少女はふん、と下から見上げる。
「私はアラン兄様のように甘くないですわよ?」
いや、そのアラン兄様とやらは賛成──聞いてくれないや。
そう主張してみた。無駄だったが。
「──私と、金魚すくいで勝負なさい!私に勝ったら『婚約』を認めますわ!!」
「金魚すくい」
金魚すくい。
うっすい紙(ポイ)で金魚を掬うってやつ。
縁日とかである…お祭りの屋台の定番──
「な、なによ…っ!?私とは金魚すくいで遊ん──じゃない、試練をしないって言うの…?」
上目遣いでうるうる攻撃…かわいい。ヤバい。美貌夫婦の娘だけある。
彼女兼婚約者のシャルティエの子供の頃こうだったんじゃないかな~と思うほど、その攻撃は効いた。
「…ふふっ、分かった。俺もシャルの家族に夫として認めて貰いたいからね。その挑戦──受けるよ」
「…!!」
ぱぁ~っと途端に捨てられたチワワのような庇護欲掻き立てられる顔から満開のひまわりが咲いたような笑顔でこちらを見上げてくる…愛しの恋人、シャルの妹様。
「やった~!…はっ!?(゜ロ゜)!?わ、分かればいいのよ…っ!!」
ツン、と慌てて取り澄ましても意味はない。
「ふふ…っ。お手柔らかに、ね。ベル」
ボンッ!と顔を真っ赤に下から睨み付けてくる少女は愛らしい。
「はにゃ…っ!?わ、わた…も、もう…知らないっっ!!」
どもってる。
狼狽えてる。
ツンデレ──カワユスだ。
因みに愛称呼びは愛しの恋人の提案。
『ベルはツンデレなのよ…良く注意深く表情の変化を見ていればすぐ分かるわ。きっと喜ぶから』
と、電話越しに聞いていたのでバッチリだ。
…それに本人も嫌がってないし、小声で
「べ、別に…名前なんて好き呼べばいいじゃないっ!?な、なによ…もう…さ、朔なんて…朔兄様なんて……大好きなんだから…っ!!」
とか、言ってる。
妹、チョロイン…?
……は、ないか。
前(エリック)が酷すぎたから、姉が自分で見つけた──と言うか、長年一緒に活動していた朔が余計に良く見えるのだろう…たぶん。
かわいい。ヤバいっ!妹に惚れそう──は、ないが、この子と遊べるのは楽しみだ。
そして、付いてきなさいと言われた街中──エヴァーガーデン王都の片隅…取り分け市場の端──娯楽が多く立ち並ぶエリア──は古き良き昭和の日本のような有り様だった。
輪投げに射的にヨーヨー釣り…ビンゴコーナーもあるし、型抜きを延々とやるブースもある。
…ここは何処の縁日だ?
「この国は魔法大国…その名の通り魔法に優れた国よ?
当然、創造魔法に特化した人が多く集まるのよ。
クロウ兄さま(エヴァーガーデンの第二王子)は転生者で日本のお祭りを再現したいと言って5歳の頃に花火とこの縁日を作ったのよ」
…エヴァーガーデンの王家は魔境か…っ!
射的にヨーヨー釣りをしているのが獅子獣人(獣寄り)の筋骨隆々とした男性──うん、似合わない。
「…なんか、すいません。」
「?どうして朔兄様が謝るの?皆楽しそうだし、私だって何度も遣ったわ。だから、朔兄様とも遊びたか──×※??○◇☆%!!」
盛大に本音が駄々もれだったようだ。
…かわいい。ヤバい。何この子?こんなかわいい刺客──俺は、俺は今試されているのか…!?
全力で打ち負かそう──
いやいや、女の子に全力は…
泣かしたい──はっ!?
そ、そんな…俺は、俺は年下の女の子をいじめて喜ぶ変態だったのか──!?
真っ赤にどもる妹様の破壊力が半端ない。
…これがっ、
これがっ!
萌えと言うのか──!?
思わずとその深紅の頭をナデナデした。
「!?……はにゃ~~っ♪♪」
鳴いた。
とてもかわいい猫だ。
「萌え…ベルかわいい」
…心なしか、喉がゴロゴロと鳴っている。気がする。
暖かな頭部をナデナデ。ナデナデ。ナデナデ…10分経った頃──金魚すくいの前にたどり着いた。
──そう、器用に移動しながらベルフラウの頭を撫でていた。
ずっと。
うん?
おかしい──?
そんな事はない。
手を離そうとしたら悲しそうな顔するし、また撫でてやると途端にぱぁっと笑顔の花が咲くんだ。
面白くて何度も手を離そうとしたり戻したりを繰り返してた。
「こ、こほん…じゃあ、始めるわよ?このポイが破けるまで──朔兄様、勝負よ…!!」
「ああ、勝負だ。ベル」
そう、屋台の狼獣人(人寄り)の親父さんから受け取ったうっすい紙の…ポイを受け取る。
知ってるか?これ。
こんな薄いのに…魔道具なんだぜ?
これには神級の封印術式が組み込まれている。
その効果は如何なる者の魔法も物理攻撃も無効化する──つまりは魔法によって故意に金魚を掬ったように見せ掛ける事も出来ないし、またスキルも封じる。
…破れるのはそれこそ神でもないと出来ないとか。
持った瞬間に何かを封じられる感覚がする──まるで術者の意思を反映したような執念だ。
術者──件の5歳でこの縁日みたいな市場の通りと目の前の金魚すくいのような光景を作り上げた人物──エヴァーガーデン第二王子、クロウ・クレスト・エヴァーガーデンだ。
金魚すくい。
されど、金魚すくい。
…こんな児戯にも等しい事に情熱を傾けた結果──己の経験と技術のみが試される…それは水色のたらいの中で泳ぐ金魚達にも言える事だ。
…異世界の金魚?
簡単に取れる…?
馬鹿を言っちゃいけない─…。
ほら、証拠にみんな金魚すくいの周りからは離れている。
遠巻きにモニター越しに見守っている。
「──次の犠牲者はなんとエヴァーガーデン国王陛下の姪姫だぁ!」
ウォオオオ──ッツ!!
…凄い歓声だ。
参加するこの“お立ち台”まで聞こえてくるようだ──が、周りには誰もいない。
「しかも、対戦!」
司会のエルフお兄さんがそう煽る。
ウォオオオ──ッツ!!
と、また地響きのような歓声が…!
う、うるさっ!!
「相手は姪姫の姉姫!その婚約者だぁ~~っ!!」
ウ、ウォオオオ~~ッツ!!(泣)
何故だ──っ!!(号泣)
シャルティエ様は我らの慈悲深き女神!(悦)
オナニーの相手に何度お世話になったか…! (妄想中…)
そうだ、そうだ!(それに同意)
…なんか、俺よりもシャルティエの名が出た方が反応すごくねっ?
と言うか、誰だ!
他人の婚約者を不純な瞳で見てやがる奴は…ッ!?
「な、なんか一部不適切発言があったような気がしますが…まあ、良いでしょう。
さあ、いよいよ金魚すくい開始です──っ!!」
カンッ、と甲高いゴングの音が鳴る。
「…なんなんだろうな、このノリ…」
「朔兄様…気にしては負けよ。居ないものと考えましょう」
…それもそれで酷いな。
金魚が入っている水色のたらいからビュンッ、ビュンッ!と飛び出してきた金魚…ウィリア──魚型魔物である。
「うお…っ!?…ととっ、そいっ!」
体長5、6㎝しかないカラフルな赤と白の斑な小魚…瞳はつぶらで空色の瞳がこちらを見る。
「危ないやつだな…お前は」
《……ッ♪》
ぱちん、とウインクされた。
「捕まってくれるのか?」
《…♪♪》
“了承”と言わんばかりに大人しくなる、金魚…水棲魔物、ウィリア。
その身体の模様・色・形は様々で…棲息域や餌の種類、ストレスや性格で変化する謎の多い魔物。
…取り分け、海や河川、湖…と彼らは何処にでも現れるが…愛くるしい見た目からは想像付かない攻撃をしてくる…のだとか。
…まあ、こうして大人しくポイに乗って朔の籠に入ってくれるのだから。
…でないと、ほら、ベルフラウみたいに戦う
羽目になる。
「くっ…!こいつ、なんて生意気な…いいわ、血で血を洗う戦争で決着を着けましょう!」
勇ましく告げるベルフラウ…その手にはポイ。
朔と同じ形状、材質、大きさのそれをまるで聖剣を扱うが如く──
《…ッ!!》
《……ッ!》
《!!!》
《──ッ!》
4匹のウィリア──赤黒斑、黒、赤白斑、赤の金魚が戦闘体勢に入る…。
「行くわよ…ッ!」
ベルフラウがグッと踏み込む──金魚4匹は多段防御陣形を取る。
たった4匹で多段防御陣形と言われても…と誰もが思うが…ウィリアは本気だ。至って真面目に陣形を取る。
《──ッ!!》
《──ッ!!》
《──ッ!!》
《──ッ!!》
配置に付いて──ベルフラウがポイを振り下ろす…!
ブンッ、と風切り音を立ててベルフラウの華奢な手が振り下ろされる…それらは過たず赤黒斑のウィリアに向けられる。
「大人しく捕まりなさい…!」
《…ッ!》
ビューッと口からコイ○ングのように水鉄砲を繰り出した…!
がっ!
「甘い、甘いですわよ!」
カンカンッ!とポイの紙部分で防ぐ。
《…ッ!》
“お主、やりよるな”と言わんばかりにウィリアは瞠目する。
…このポイ、ウィリアの水鉄砲──水攻撃には5回までしか耐性がないように作られている。
5回は防ぐが、6回目には必ず破ける。
「…もう、攻撃は受けないわ!あなたを籠の底に沈めてやるわ!!」
来る──!!
ウィリアは覚悟した。
「そいやっ!そこですわ!おーほっほっほっ!!」
ビュンッ、と飛んできたウィリアの側面をポイで掬って籠にボトッ!
《~~っ?!》
…突進は功を為さなかったようだ。
空しく、赤黒斑のウィリアは籠の中、ビチビチと跳ねている。
「…まずは、1匹!ウフフフッ♪♪」
じとり、と依然陣形を保ったままのウィリアがそのベルフラウに臆する事なく好戦的な眼差しを向ける。
《──ッ!》
《──ッ!》
《──ッ!》
《──ッ!》
…ん?1匹減った所に新たなウィリアが追加して陣形に参加している──凄い好戦的な奴らがベルフラウの方に集まっているな。
「…まあ、こっちはこっちでやたらと好意的なんだがな」
《…ッ♪》
《…♡》
《──ッ♪♪》
ポイポイと籠に無抵抗なウィリアを入れていく。
「おっ、お前も大人しいな~?良いのかよ、そんなんで。」
《~~~♪♪》
赤白斑なヒレが丸くヒラヒラしているウィリアを籠に装ってじっとこちらを見上げる金魚の多さにちょっぴり驚く。
本来はウィリアの抵抗に遇って全身びしょ濡れになったり、ウィリアにあちこち突進されて、死にはしないがちょっとした怪我人が出たりもするのだ。
エールグリーン式“金魚すくい”は。
ベルフラウのように良好的?なバトルや、朔のようにウィリアの方から寄ってくる等──滅多にない。
「ほほほっ!これで後はあなただけですわね?」
…防御陣形を取っていたウィリアがいつの間にか僅か1匹になっていた。
あ。
ベルフラウの籠の中に納まったようだ。
金魚は定期的に店主が転移魔法で生け簀から送っているので随時投下されている。
「おーほっほっほっ!!」
ベルフラウの高笑いにギャラリーが湧く。
ウォオオオッツ!!
流石はベルフラウ姫様だ!!
姫!姫!姫!姫!
姫!姫!姫!姫!!
「…画面越しでもうるせーんだけど…?」
朔が苦笑混じりに毒づくが、意味はない。
彼らはこことは別の会場、場所で観戦しているから、だ。
「ウフフ…あなた達は大人しく捕まるのね?」
《~!~♪♪》
《…♡》
《~~♪♪》
《~!~♪♪~~。》
…そうして戦いは和やかに、穏やかに終わった。
釣果、朔──175匹。
釣果、ベルフラウ──50匹。
「何でよ…!?」
「いや、無意味に水鉄砲を受けすぎだろ。俺のように向かってくるやつは避けて友好的な奴に絞れば勝ててただろうが」
「くっ、殺せ…!」
地団駄を踏んで顔面真っ赤に歯を食い縛るベルフラウに苦笑する。
「勝者、姪姫の姉姫の婚約者だぁ──!!」
ウォオオオッツ!!
何故だぁ~~ッ!?
再戦を要求する~~ッ!!
認めないぞ──!!
そうだ、そうだ──ッ!!
「え、えーっと…これにて今回の金魚すくい対決の実況を終了します。」
司会のエルフお兄さんが困惑気味に締めて、画面がプツリと暗くなった。
「…こんなにも要らねぇし。5匹だけ貰って後は返すわ」
選りすぐった5匹を専用の水槽に入れて、マジックバック(生物可)の中に放り込んで同じようにリリースして10匹ほど水槽に入れて受け取ったベルフラウに手を差し出す。
「…この後は屋台でも見に行くか?腹減ったし。」
「…うん!」
同じようにマジックバック(生物可)に放り込んだベルフラウの手を繋いで娯楽エリアから飲食コーナーへと繰り出したのだった…。
……。
キッと眦を吊り上げた齢12歳のベルフラウ・アンリエッタ・エンハイム…因みにミドルネームは着けたり着けなかったりする。
それも親や名付け親の趣味や嗜好で自由に出来る。
名字──ファミリーネームは婚姻か、王の匠奬爵によってしか、変わらないから…だ。
こちらの少女は朔をまっすぐ睨み付けている…その髪色は母方の祖父の──王族に良く見る深紅の髪に金色の瞳──で面立ちはどこか美貌の彼女の母親の若い頃にに似ている美少女だ。
深紅の髪をツインテールにした少女はふん、と下から見上げる。
「私はアラン兄様のように甘くないですわよ?」
いや、そのアラン兄様とやらは賛成──聞いてくれないや。
そう主張してみた。無駄だったが。
「──私と、金魚すくいで勝負なさい!私に勝ったら『婚約』を認めますわ!!」
「金魚すくい」
金魚すくい。
うっすい紙(ポイ)で金魚を掬うってやつ。
縁日とかである…お祭りの屋台の定番──
「な、なによ…っ!?私とは金魚すくいで遊ん──じゃない、試練をしないって言うの…?」
上目遣いでうるうる攻撃…かわいい。ヤバい。美貌夫婦の娘だけある。
彼女兼婚約者のシャルティエの子供の頃こうだったんじゃないかな~と思うほど、その攻撃は効いた。
「…ふふっ、分かった。俺もシャルの家族に夫として認めて貰いたいからね。その挑戦──受けるよ」
「…!!」
ぱぁ~っと途端に捨てられたチワワのような庇護欲掻き立てられる顔から満開のひまわりが咲いたような笑顔でこちらを見上げてくる…愛しの恋人、シャルの妹様。
「やった~!…はっ!?(゜ロ゜)!?わ、分かればいいのよ…っ!!」
ツン、と慌てて取り澄ましても意味はない。
「ふふ…っ。お手柔らかに、ね。ベル」
ボンッ!と顔を真っ赤に下から睨み付けてくる少女は愛らしい。
「はにゃ…っ!?わ、わた…も、もう…知らないっっ!!」
どもってる。
狼狽えてる。
ツンデレ──カワユスだ。
因みに愛称呼びは愛しの恋人の提案。
『ベルはツンデレなのよ…良く注意深く表情の変化を見ていればすぐ分かるわ。きっと喜ぶから』
と、電話越しに聞いていたのでバッチリだ。
…それに本人も嫌がってないし、小声で
「べ、別に…名前なんて好き呼べばいいじゃないっ!?な、なによ…もう…さ、朔なんて…朔兄様なんて……大好きなんだから…っ!!」
とか、言ってる。
妹、チョロイン…?
……は、ないか。
前(エリック)が酷すぎたから、姉が自分で見つけた──と言うか、長年一緒に活動していた朔が余計に良く見えるのだろう…たぶん。
かわいい。ヤバいっ!妹に惚れそう──は、ないが、この子と遊べるのは楽しみだ。
そして、付いてきなさいと言われた街中──エヴァーガーデン王都の片隅…取り分け市場の端──娯楽が多く立ち並ぶエリア──は古き良き昭和の日本のような有り様だった。
輪投げに射的にヨーヨー釣り…ビンゴコーナーもあるし、型抜きを延々とやるブースもある。
…ここは何処の縁日だ?
「この国は魔法大国…その名の通り魔法に優れた国よ?
当然、創造魔法に特化した人が多く集まるのよ。
クロウ兄さま(エヴァーガーデンの第二王子)は転生者で日本のお祭りを再現したいと言って5歳の頃に花火とこの縁日を作ったのよ」
…エヴァーガーデンの王家は魔境か…っ!
射的にヨーヨー釣りをしているのが獅子獣人(獣寄り)の筋骨隆々とした男性──うん、似合わない。
「…なんか、すいません。」
「?どうして朔兄様が謝るの?皆楽しそうだし、私だって何度も遣ったわ。だから、朔兄様とも遊びたか──×※??○◇☆%!!」
盛大に本音が駄々もれだったようだ。
…かわいい。ヤバい。何この子?こんなかわいい刺客──俺は、俺は今試されているのか…!?
全力で打ち負かそう──
いやいや、女の子に全力は…
泣かしたい──はっ!?
そ、そんな…俺は、俺は年下の女の子をいじめて喜ぶ変態だったのか──!?
真っ赤にどもる妹様の破壊力が半端ない。
…これがっ、
これがっ!
萌えと言うのか──!?
思わずとその深紅の頭をナデナデした。
「!?……はにゃ~~っ♪♪」
鳴いた。
とてもかわいい猫だ。
「萌え…ベルかわいい」
…心なしか、喉がゴロゴロと鳴っている。気がする。
暖かな頭部をナデナデ。ナデナデ。ナデナデ…10分経った頃──金魚すくいの前にたどり着いた。
──そう、器用に移動しながらベルフラウの頭を撫でていた。
ずっと。
うん?
おかしい──?
そんな事はない。
手を離そうとしたら悲しそうな顔するし、また撫でてやると途端にぱぁっと笑顔の花が咲くんだ。
面白くて何度も手を離そうとしたり戻したりを繰り返してた。
「こ、こほん…じゃあ、始めるわよ?このポイが破けるまで──朔兄様、勝負よ…!!」
「ああ、勝負だ。ベル」
そう、屋台の狼獣人(人寄り)の親父さんから受け取ったうっすい紙の…ポイを受け取る。
知ってるか?これ。
こんな薄いのに…魔道具なんだぜ?
これには神級の封印術式が組み込まれている。
その効果は如何なる者の魔法も物理攻撃も無効化する──つまりは魔法によって故意に金魚を掬ったように見せ掛ける事も出来ないし、またスキルも封じる。
…破れるのはそれこそ神でもないと出来ないとか。
持った瞬間に何かを封じられる感覚がする──まるで術者の意思を反映したような執念だ。
術者──件の5歳でこの縁日みたいな市場の通りと目の前の金魚すくいのような光景を作り上げた人物──エヴァーガーデン第二王子、クロウ・クレスト・エヴァーガーデンだ。
金魚すくい。
されど、金魚すくい。
…こんな児戯にも等しい事に情熱を傾けた結果──己の経験と技術のみが試される…それは水色のたらいの中で泳ぐ金魚達にも言える事だ。
…異世界の金魚?
簡単に取れる…?
馬鹿を言っちゃいけない─…。
ほら、証拠にみんな金魚すくいの周りからは離れている。
遠巻きにモニター越しに見守っている。
「──次の犠牲者はなんとエヴァーガーデン国王陛下の姪姫だぁ!」
ウォオオオ──ッツ!!
…凄い歓声だ。
参加するこの“お立ち台”まで聞こえてくるようだ──が、周りには誰もいない。
「しかも、対戦!」
司会のエルフお兄さんがそう煽る。
ウォオオオ──ッツ!!
と、また地響きのような歓声が…!
う、うるさっ!!
「相手は姪姫の姉姫!その婚約者だぁ~~っ!!」
ウ、ウォオオオ~~ッツ!!(泣)
何故だ──っ!!(号泣)
シャルティエ様は我らの慈悲深き女神!(悦)
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そうだ、そうだ!(それに同意)
…なんか、俺よりもシャルティエの名が出た方が反応すごくねっ?
と言うか、誰だ!
他人の婚約者を不純な瞳で見てやがる奴は…ッ!?
「な、なんか一部不適切発言があったような気がしますが…まあ、良いでしょう。
さあ、いよいよ金魚すくい開始です──っ!!」
カンッ、と甲高いゴングの音が鳴る。
「…なんなんだろうな、このノリ…」
「朔兄様…気にしては負けよ。居ないものと考えましょう」
…それもそれで酷いな。
金魚が入っている水色のたらいからビュンッ、ビュンッ!と飛び出してきた金魚…ウィリア──魚型魔物である。
「うお…っ!?…ととっ、そいっ!」
体長5、6㎝しかないカラフルな赤と白の斑な小魚…瞳はつぶらで空色の瞳がこちらを見る。
「危ないやつだな…お前は」
《……ッ♪》
ぱちん、とウインクされた。
「捕まってくれるのか?」
《…♪♪》
“了承”と言わんばかりに大人しくなる、金魚…水棲魔物、ウィリア。
その身体の模様・色・形は様々で…棲息域や餌の種類、ストレスや性格で変化する謎の多い魔物。
…取り分け、海や河川、湖…と彼らは何処にでも現れるが…愛くるしい見た目からは想像付かない攻撃をしてくる…のだとか。
…まあ、こうして大人しくポイに乗って朔の籠に入ってくれるのだから。
…でないと、ほら、ベルフラウみたいに戦う
羽目になる。
「くっ…!こいつ、なんて生意気な…いいわ、血で血を洗う戦争で決着を着けましょう!」
勇ましく告げるベルフラウ…その手にはポイ。
朔と同じ形状、材質、大きさのそれをまるで聖剣を扱うが如く──
《…ッ!!》
《……ッ!》
《!!!》
《──ッ!》
4匹のウィリア──赤黒斑、黒、赤白斑、赤の金魚が戦闘体勢に入る…。
「行くわよ…ッ!」
ベルフラウがグッと踏み込む──金魚4匹は多段防御陣形を取る。
たった4匹で多段防御陣形と言われても…と誰もが思うが…ウィリアは本気だ。至って真面目に陣形を取る。
《──ッ!!》
《──ッ!!》
《──ッ!!》
《──ッ!!》
配置に付いて──ベルフラウがポイを振り下ろす…!
ブンッ、と風切り音を立ててベルフラウの華奢な手が振り下ろされる…それらは過たず赤黒斑のウィリアに向けられる。
「大人しく捕まりなさい…!」
《…ッ!》
ビューッと口からコイ○ングのように水鉄砲を繰り出した…!
がっ!
「甘い、甘いですわよ!」
カンカンッ!とポイの紙部分で防ぐ。
《…ッ!》
“お主、やりよるな”と言わんばかりにウィリアは瞠目する。
…このポイ、ウィリアの水鉄砲──水攻撃には5回までしか耐性がないように作られている。
5回は防ぐが、6回目には必ず破ける。
「…もう、攻撃は受けないわ!あなたを籠の底に沈めてやるわ!!」
来る──!!
ウィリアは覚悟した。
「そいやっ!そこですわ!おーほっほっほっ!!」
ビュンッ、と飛んできたウィリアの側面をポイで掬って籠にボトッ!
《~~っ?!》
…突進は功を為さなかったようだ。
空しく、赤黒斑のウィリアは籠の中、ビチビチと跳ねている。
「…まずは、1匹!ウフフフッ♪♪」
じとり、と依然陣形を保ったままのウィリアがそのベルフラウに臆する事なく好戦的な眼差しを向ける。
《──ッ!》
《──ッ!》
《──ッ!》
《──ッ!》
…ん?1匹減った所に新たなウィリアが追加して陣形に参加している──凄い好戦的な奴らがベルフラウの方に集まっているな。
「…まあ、こっちはこっちでやたらと好意的なんだがな」
《…ッ♪》
《…♡》
《──ッ♪♪》
ポイポイと籠に無抵抗なウィリアを入れていく。
「おっ、お前も大人しいな~?良いのかよ、そんなんで。」
《~~~♪♪》
赤白斑なヒレが丸くヒラヒラしているウィリアを籠に装ってじっとこちらを見上げる金魚の多さにちょっぴり驚く。
本来はウィリアの抵抗に遇って全身びしょ濡れになったり、ウィリアにあちこち突進されて、死にはしないがちょっとした怪我人が出たりもするのだ。
エールグリーン式“金魚すくい”は。
ベルフラウのように良好的?なバトルや、朔のようにウィリアの方から寄ってくる等──滅多にない。
「ほほほっ!これで後はあなただけですわね?」
…防御陣形を取っていたウィリアがいつの間にか僅か1匹になっていた。
あ。
ベルフラウの籠の中に納まったようだ。
金魚は定期的に店主が転移魔法で生け簀から送っているので随時投下されている。
「おーほっほっほっ!!」
ベルフラウの高笑いにギャラリーが湧く。
ウォオオオッツ!!
流石はベルフラウ姫様だ!!
姫!姫!姫!姫!
姫!姫!姫!姫!!
「…画面越しでもうるせーんだけど…?」
朔が苦笑混じりに毒づくが、意味はない。
彼らはこことは別の会場、場所で観戦しているから、だ。
「ウフフ…あなた達は大人しく捕まるのね?」
《~!~♪♪》
《…♡》
《~~♪♪》
《~!~♪♪~~。》
…そうして戦いは和やかに、穏やかに終わった。
釣果、朔──175匹。
釣果、ベルフラウ──50匹。
「何でよ…!?」
「いや、無意味に水鉄砲を受けすぎだろ。俺のように向かってくるやつは避けて友好的な奴に絞れば勝ててただろうが」
「くっ、殺せ…!」
地団駄を踏んで顔面真っ赤に歯を食い縛るベルフラウに苦笑する。
「勝者、姪姫の姉姫の婚約者だぁ──!!」
ウォオオオッツ!!
何故だぁ~~ッ!?
再戦を要求する~~ッ!!
認めないぞ──!!
そうだ、そうだ──ッ!!
「え、えーっと…これにて今回の金魚すくい対決の実況を終了します。」
司会のエルフお兄さんが困惑気味に締めて、画面がプツリと暗くなった。
「…こんなにも要らねぇし。5匹だけ貰って後は返すわ」
選りすぐった5匹を専用の水槽に入れて、マジックバック(生物可)の中に放り込んで同じようにリリースして10匹ほど水槽に入れて受け取ったベルフラウに手を差し出す。
「…この後は屋台でも見に行くか?腹減ったし。」
「…うん!」
同じようにマジックバック(生物可)に放り込んだベルフラウの手を繋いで娯楽エリアから飲食コーナーへと繰り出したのだった…。
……。
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