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序章:ダンジョンに癒しを求めて。

休暇の冒険~気分は水族館~

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この日は観光ダンジョン“海の魔物水族館”のダンジョンに来ていた。

巨大な水槽に展示されたクラーケンや人食いシャークや毒フグを観賞するだけのダンジョンだ。

アーチ状になった水槽の下を潜り抜けて、メインホールの水槽にはクラーケンが。

 「はあー、凄いな…これもシャルが作ったんだろ?」
 「うん♪
…ここは流石に“遠い日の想い出”のように投影させているわけではないわね。」
 「…クラーケンって迫力あるなー」

全て魔力が動かしている、水槽内に空気を循環させる循環器や、透明なガラス窓はクリスタルを加工し、結界魔法を掛けたもの。
これによってクラーケンの魔法攻撃も見物客の魔法攻撃も霧散させる。
館内は屋内なので万が一破壊でもされたら…館内が大変な事になる。
浄化魔法を定期的に掛けてるので(水槽の仕様)水を交換しなくてもいい。
まるで、海の中を歩いている気分になれる。

 「ここは余り触れ合えないけど…泳いでいる魚を見てるのも楽しいわよ?クラーケンにちっさな魚で突撃してるのなんて普段は見れないもの」
 「確かにな。」

体長30mはある巨大なイカ──クラーケンに体長20㎝にも満たない小さなイワシみたいな魔物──ペペが群れで挑んでいる。

クラーケンの触手が鬱陶しそうに突撃してくるペペを払っているが、ペペは群れで連携して、クラーケンの目や鼻を重点に身体をぶつけている。

 「…なあ、これってクラーケンが勝つんじゃないか?」
 「集団戦になるとペペの方が分があるわよ──と言っても、クラーケンもペペも本気じゃないのよ」
 「…?あ、本当だ…」

見ると、クラーケンがペペの群れに指導するかのように触手を振っている。
右に左に旋回しろと言わんばかりだ。
水槽越しに声は届かないが…そんな風な様子だ。

 「…クラーケンの頭の上でウツボが寝ているな」
 「ええ、このダンジョンも海水に含まれる魔力マナが主食だから…クラーケンはまるで小魚達(魔物)の兄貴分ね」

自然界の法則を真っ向から否定するような光景が広がっている。
…弱肉強食?
なに、それ美味しいの?
そう固辞するように度々行われるのは、クラーケンによる小魚達への集団戦闘──の模擬戦。

 「…決着は着かないのが決着、かな」

因みに魔物肉(オーク×ミノタウロスのMIX)団子をおやつとしてあげるコーナーもある。

肉団子(おやつ)は別料金、そのコーナーでしか使えない。
これは普通に館内を見学したい客とふれあいたい客がぶつかってトラブルを避ける、と言う意味合いもある。

 「はあ~いいわね、落ち着く。」

少し薄暗い館内を練り歩く。

水槽の前には台座があってそこのボタンを押せばその水槽にいる水棲魔物の生態や分布図、体長や体重についての解説が自動で音声として流れる。
…弱点や対処法、剥ぎ取りにどこで売れば高く買い取られるかとかも流れるので、わりかしボタンを押す冒険者も多い。ボタン一回500ラピス。(銅貨500枚、銀貨だと5枚)

 「ギラギラした瞳でクラーケンを見ている奴もいるな…破壊できない水槽の向こうの獲物を見ても、なあ?」
 「そう言うのも楽しみ方の一つよ。…私なんてクラーケンの串焼きが食べたいな、と思っているのだから。」

海水中にある水産物からもこの世界と地球は類似する箇所がある。

例えば、珊瑚。色も形も分布も、地球のと大差ない。
これは海底に多く見られ、寄り付いているのが魚の魔物。
魔物ではない魚は淘汰される(餌になる)。
…海の世界も中々シビアだ。





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