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第一章:漸く?旅をする二人は

帰る二人

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そんな話のあと、杏樹は宙に浮かせた本とテーブルに置いた本を『アイテムボックス』に収納した。

 《!?持ち出しは禁止だぞ…借りるなら構わないが…》
 「分かってるわよ~、いいから、いいから♪」
 《窃盗…とかではないのだな?》
 「もちもち☆」
答えながらも、杏樹は宙に指を走らせる。
“何か”が見えているようにちょんと何も無い空間を突いている。

 「…複製開始コピースタート──うん、完了したようね」

スッと“メニュー画面”を閉じて、アイテムボックスから先ほど仕舞った本の全てを取り出す。

 「おぅ、終わったか?」
 「うん、もう用事は済んだからここには用はないわね」
 《何が終わったのだ?まだ本の検分はしてないだろう》

時間にして僅か10秒で再び現れた本にアデルは内心驚きつつもそう問い掛けた。

 「学校むこうはまだそんなに経っていないな…ただ、一度帰って時間軸の調整をした方がいいな」
 「うん、そうね」

時間軸?はて??
また知らない単語にアデルが首を傾げる。

 《ま、待て!待ってくれ…まさか、帰るつもりか!?》
 「うん、別にずっと向こうにいる訳じゃないよ?」
それに、と続ける杏樹の言葉を遮るようにして、錬夜があとを続ける。

 「“撲殺天使久美ん”が星巫女の召還術式を完全に壊してくれただろーしな」
 《──壊す?》
 「そそ。あの馬鹿そうな女はもう召還魔法は使えないよ♪ざまぁ!」
からからと笑う杏樹にアデルが一瞬身動みじろぐ。
嗤う杏樹の背後から黒いオーラが見えた気がした。
 「まー兎に角!本を戻して帰ろっ♪」
 「おぅ」

二人は立ち上がって本のタワーを宙に浮かせて、錬夜は手記と他二つの本を手に持ってタッチパネルのある辺りまで向かった。

手分けして二人は本を全て仕舞って図書館を出た。
最初の部屋─魔王アデルの寝室まで戻り錬夜が権象・異界移動を発動した。

 《いやいやいや、待って、待ってくれ──!?》

ブゥンッ!とアデルの絶叫が虚しく寝室に響くのだった…。




 「たっだいま~っ♪」
 「ああ、お帰り」
 「いきなり消えるとビビるわー」
 「本当にねー」
 「クエやらん?」
 「やるやる~♪」
 「俺も」
 「集会所で待ってるわー」
平然と部員達はパソコンPCの画面に向き直って何やらゲームのクエストを複数人で攻略しようとしていた。

 「…なんかやっぱりこっちの方が落ち着くわね」
 「同感」
寄り添って錬夜の胸板に背中を預けてソファーで寛ぐ二人。
ソファーの側にはソファーに合わせたテーブルがあり、その上に菓子とティーポットがある。

カップにポットの中身…アップルティーを注ぐと暖かな湯気を立てて甘い香りが部室内を漂った。
 
 「うん、やっぱり落ち着くわね…美味しい」
 「ああ、そうだな…杏樹」
 「なぁに、お兄ちゃん?」
 「何でもない」
 「なに、それ」
 「呼んだだけだ」
 「もう…お兄ちゃんのばかぁっ!」

いちゃつくバカップルの足元にコロン、とハニワが転がった。

スッと指を向けるとハニワが一人手に・・・・浮いて杏樹のバックがこれまた勝手に開いてハニワを収納するとチャックが仕舞った。

 「…なんかこう言うの見てるとテレビのマジックが馬鹿らしく思えてくるな…」
 「そお?まーあっちは“技術”でこっちは魔法・・似て非なるものよね」
弘輝の呟きにそう応える杏樹は今も尚兄の錬夜に抱き締められたままだ。

 「まったく、人がゲームの合間の小休止をしていたとゆーに…急に喚び出さないでほしいわ~」
 「まったくだ」
 「…それで必要以上にくっついてんのか?」

ゲーム部の部員は兼任を認めているし、いつも部室に居なければいけない、なんてルールも縛りもない。
弘輝や小夜、舞だってこの部の部員だ…ただ、舞だけはたまにしか来ないが。

皆何かしらの運動部や文化部の大会や試合やらでそっちに掛かりっきりの部員も珍しくない。

最低5人は部室に居るので今日はわりと多いほうだ。

 「?これくらいは普通よ?」
 「おぅ、いつもは二人だけの時もあるからな~」

フッと微笑わらってねっとりと視線を絡める二人…その雰囲気は妖しい。

 「ま、まさか─お前ら部室で…!?」

 「本番してないわよ?」
 「おぅ、さすがにそこまで非常識じゃない」
 「い、いやいやいや!!部室を何だと思ってる!?」
 「連れ込み宿?」
 「ご休憩スペース」
弘輝の突っ込みに二人がノリノリでボケをかます。
「…消臭はしてるから大丈夫よ?」
 「…っ!!冗談じゃなかったのか!?」
 「私、嘘つかないわよ」
 「いや、そーだけど!」
 「…騒がしいヤツだ」
 「誰のせい…!?」
 「はいはい、弘輝君、落ち着け。二人のペースに巻き込まれてるぞ?」
弘輝の口を押さえて静止するのは部長の秋人だ。
 「弘輝おまえも陸上部の大会あるだろ、ほら…親善試合の」
 「ぷはっ。あ、ああ…毎年の事だからな」
 「練習、しなくて良いのか?」
 「いーよ、去年も遣ったし。今年はほどほどにするつもりだ…新人優先で良いさ」
 「そうか…なら、何も言わん」
窓の外にははらはらと舞い散る桜の花びらが美しく風に拐われていた。
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