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序章:出会って数秒で帰る二人

学校での二人

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久美の入園式も終え、杏樹と錬夜にも新学期が始まった。

杏樹にとっては2回目・・・の入学式。

割り振られた教室へと向かう。

 「小夜、おはよう♪」
 「杏樹、おは~」
 「おはようございます、杏樹さん」
 「はよはよ~」
 「うん、みんなおはよう♪」

最初に声を掛けたのが小夜、次が何かと委員長になりそうな舞、チャラそうな言動とは裏腹に至極真面目な性格の男友達弘輝…みんな中学や小学校からの友人だ。

度々・・“神隠し”に遭う杏樹を気遣い、理解してくれた友人。

 「今年は・・・進級出来るといいねぇ~?」
 「ふふん、出来るに決まってるじゃない!」
 「杏樹…それ、フラグ…」
 「プラグ?」
 「…はぁ、知らねぇぞ?また留年・・する事になっても」

アホなボケを噛ます杏樹に弘輝は溜め息を溢す。

キーンコーカーンコーン…

予鈴が鳴り皆席へと戻る。
教師が入って取り敢えずの委員長や美化委員、図書委員、体育委員なんかを決めた。

 「委員長は久世くぜと田牧でいいな?意義ある人──はいないな」
 「久世さんと田牧君で良いと思いまーす」
 「「まーす」」

誰かの発言に呼応する別のクラスメイト達。

 「久世、取り敢えず今日は司会を勤めてくれ」
 「はい、分かりました」
すっと立ち上がった久世──舞は教壇の、担任の隣に立つ。

 「今日決めなくては行けないものは後、体育祭の参加する競技と応援団長を決めてくれ…練習はまだ始めないのでそんなに急がないが、な」
 「はい」

凛、と涼しい声が頷く。
久世舞──彼女の容姿は整っている。

切れ長の黒目に肩までの長さの黒髪は艶があって美しい。
ノンフレームの眼鏡を掛け、きっちりとボタンを留めて校則を守った正しい着方で前を向く舞の姿は『委員長然』としていた。

 「それでは先ず、体育祭の競技から決めます──」

担任から手渡された競技種目が書かれた用紙を見ながら黒板に書き出していく。
 
 「参加を決める者は─」

それぞれの競技で参加希望人数は()書きで人数が書かれている。
希望者が多いとじゃんけんで決めた。

障害物競争──杏樹、弘輝。
玉入れ──舞。
借り物競争──小夜、と杏樹達は決めた。

体育祭は5月で今は4月。
練習は明後日以降から始まる。
生徒会選挙も同時進行で行われる。
4月の末には候補者のポスターが張り出される。
5月の半ばで投票開始、末に開票。

 「うんうん、うちのクラスは優秀だな~」

担任は日誌に目を落として舞の名司会っぷりに満足そうに頷いた。

穏やかな気候の中、はらはらと桜の花びらが開け放たれた窓から教室に入ってくる。

 「─次、応援団長を決めます」
 「俺がやろうっ!」
 「坂田君?他に希望者は…いないなら坂田君で決定です」
 「よっしゃーーっっ!!」

なぜそんなに嬉しそうなのか?
坂田君は体育委員も率先して決めた。暑苦しい。

 「終わりました、先生」
 「ああ、ありがとう。戻って良いぞ」
 「はい」
淡々と返事を返して席へと戻った。

 「今日はもうこれで終わりだ。明日から授業が始まる…場所の確認はきちんとして行くように─委員長」
 「はい、起立─礼。」
 「ありがとうございました」
生徒達が揃って頭を下げる。
貰った大量の教科書や参考書を机にロッカーに仕舞って軽くなった学生鞄に部活申請用紙、授業参加の用紙、時間割り表、年間行事表、月間行事表を仕舞って立ち上がる。
 「杏樹、帰ろう♪」
 「うん、校門までね」
 「え~~っ」
 「ふふ、家族が待ってるんだ♪久々に外食なのよ~」
 「そっか~~」
 「なら、諦めるしか無いわね」
 「うん、舞──そうだ、日曜日に花見行かない?うちではその予定が進行中なのよ☆」
 「お花見!?行くーー!!」
 「俺も行くよ…和輝かずきも連れてきていいか?」

和輝──とは弘輝の3つ下の弟の名前だ。

 「いいけど、参加費(材料費)は請求するよ?現物(料理)でもいいけど」
 「なら、金出すぜ」
 「うん」

財布から三千円取り出して杏樹に渡す。

 「私は料理を持って行くわ」
 「舞が作るの?…ふふっ、楽しみにしてる」
 「ええ、これでもプロを目指しているのよ?楽しみにして頂戴」
舞はそう言うとにこりと微笑わらう。
 「うん、被っても問題ないよ!おかずが増えるのは嬉しいからね♪」
 「私はケーキ持ってくね」
 「既製品ね」
 「私に作れると思う?」
 「「思わない」」
 「「小夜にはムリ」」
 「ひっどーい~!!」

わははと笑う小夜に一同はうんうんと頷く。

話しながら歩くとあっという間に校舎を出ていた。
途中で弘輝と小夜が部活見学で離れ、舞と二人校門まで一緒に歩いた。

 「それじゃ、また明日。杏樹」
 「うん、またね~」
ひらひらと手を振って杏樹は錬夜の元に駆け寄った。
 「お兄ちゃん、待った?」
 「いや、今来た所だ」
 「そう…ふふっ」
ぎゅっと抱き付く杏樹の頭を優しく撫でながら、笑い掛ける錬夜の目線はどこまでも甘く優しいものだ。
 「おおぅ…なんか二人の雰囲気変わったな…」
 「ラブラブ~♪♪」
ヒューヒューと吹けもしない口笛を吹く母が二人に寄った。
 「お、お母さん…っ!?」
 「おぅ。杏樹は誰にも渡さん」
 「はぅっ!」
 「おおー、錬夜がシスコンだ~開き直ったね?」
 「ああ、我慢しない事にしたんだ」
 「──きゅう」
顔どころか耳、首まで真っ赤にして錬夜の胸元に顔を隠した。
 「あらら」
 「兎に角、一旦家に帰ってから着替えて店に行くぞ」
 「おぅ」
 「…」
悶絶している杏樹を放置してそう言葉を交わして豊城家の一行は車へと乗り込んだ。
……。



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