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序章:出会って数秒で帰る二人
出会って数秒で帰る二人
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「にししっ♪GET~☆( v^-゜)♪」
「おうおう、またずいぶんと盗ったな~?」
「ふふふ」
学校の帰り道、揃いの制服を着崩した少年と、さらさらの黒髪をポニーテールにした少女が戦利品(ゲーセンの景品)をしこたま両脇に抱える。
「兄さん、もう飽きたよ…」
「久美?どうした?楽しくないか」
とてて、と背の低い女の子が“兄”と呼んだ少年の足下にしがみつく。
「うん…人、多いから…こわい。」
「およ?くみんはまだ人混みが怖いんだね~」
「杏樹姉は…いつも、すごい…人、怖くないの?」
両手に店員が持たせてくれた紙袋には大きなぬいぐるみが二つ飛び出していた。
「うん、怖くないよ♪だってさ~いっぱい友達出来た方が楽しくない?」
「友達?…うー、ほしい、けど…話すの、怖い…」
KONAM○を出て、近くの喫茶店に入る。
「くみんはさ…まだ勇気がないだけだよ」
「勇気…?」
「そ。勇気。」
僅か300円で落とした彦に○んぬいぐるみ(大)二つ、仮面ライダー○イトフィギュア一体、アンパンマン各種(小)…を
ソツールになっているソファの中に仕舞う。
「私もお兄ちゃんも『勇気』を持てたから友達が出来たんだよ~?入園式まですぐだよ?普段通りに話せば大丈夫だって!」
「…ほんとう?」
「うん!お姉ちゃんが保証する!!」
ポンポンと優しく妹の頭を撫でる杏樹。
「──それ、一番安心出来ねぇのな」
「お兄ちゃんうるさい!」
「──うん(こくこく)」
「なんだと~?がお~~☆☆」
「きゃーやられる~~っ。(笑)」
隣に座った姉に横から抱き締められる妹・久美(5歳)は今年の春で幼稚園に入園する──と言っても1年間だけだが。
「一年間だけだったら、行かなくてもいい気がするがな、俺は。」
「そうだけどさ~うちもお兄ちゃんも高校があるじゃん?流石にサボるわけには行かないしさ~」
店員が注文したドリンクを持ってきた。
兄はコーヒー、杏樹はホットのロイヤルミルクティー、久美がオレンジジュースだ。
ずず…っ、とストローでオレンジの果汁を臙下していく。
「杏樹は意外にそーゆトコ、真面目だよな」
「皆勤賞狙ってますからっ!」
「──ほんと、かわいいやつだよ。杏樹は」
「?最後なんてー?」
最後の一言が小さく聞こえなかった杏樹が首を傾げると兄は
「なんでもねぇーよ」
とぶっきらぼうに呟いてコーヒーに逃げた。
「ん、んん~~??なんか誉められた気がするんだけど…」
兄はコーヒーに逃げて何も言わない。久美はもうオレンジジュースに夢中だ。
仕方ないので杏樹もカップに口を付けた。
豊城杏樹16歳、公立物部高等学校1年、
兄は同校の三年生で、末女の久美は諸事情で1年だけしか幼稚園に通えなかった。
なぜなら──
「“初めて”は目映い光だった。
俺達を襲ったのはショッ○ーだ。
」
「いやいや、お兄ちゃん今時ソレはないでしょ!ショ○カーなんて久々に聞いたよっ!」
「ふっ…」
きらん、と周囲にダイヤを飛ばす少年はやたらとキザったいポーズを取る。
「「「・・・」」」
シーン、と静まり返った玉座の前。
先程まで、喫茶店のソファに座っていたはずが、まったく知らない場所に立っているのだから。
「んで、あんたら誰?どこの大道芸さん?」
ジト目で兄は玉座に座る男を睨み付ける。
その男はRPGの王様のような出で立ちをしていた。
金髪の頭の上には王冠、素材が良さそうなローブで服の概要は知れないが、蒼い瞳は静かな知性を讃えていた。
「よくぞ、参られた異世界の勇者よ」
「異世界の勇者ぁ~?」
「私達が?」
低く静かな声が二人に向けられる。
「うむ。今この世界──ラスペリアは未曾有の危機に瀕している」
魔王の復活が近い──故に魔族の動きが活発化…魔物の凶暴化に魔力汚染…等かつてないほど進んでいるらしく
「──そこで古の盟約に従い異世界より勇者を召還する事となった」
「勇者よ、勝手だとは思うが」
「「断る!」」
二の句はそんな兄妹の言葉で遮られた。
・・・・・。
「「──はっ!?」」
宮廷魔導師長と文官が揃って目が点となって二人に目を向けた。
「ど、どどどどしうしてですか~!?」
ふわふわのピンク色の髪の少女が予想外の態度に狼狽えていた。
「いや、普通断るぞ」
「そそ。誘拐・拉致は犯罪だよ?この国は違うの?」
「うっ…」
言葉に詰まる10代前半の少女。
代わりに答えたのは──王様だった。
「うむ。確かにこの国でも誘拐・拉致は犯罪だな──但し異世界の人間に限り無罪放免だ」
「うっわ、さいて~~。
王様がそれ言うか?」
「どう言葉を飾ろうが変わらん。『召還者』と『召還された者』の距離は埋まらんからな」
「ふぅん…良く分かってるのな~王様?」
「私達が断る理由が分かった?分かったよね?」
「それでも私は“王”だ。民を、国を守らなければならぬ。」
「そんなに大事なら自分たちで倒せば?」
「出来ないからこうして召還だのだ」
王様は続けた。
曰く、魔族は強く凶暴化した魔物は一匹に付き一個師団で以てやっと倒せる強さで
曰く、魔術師なら上級以上の使い手100名で以て絶えず魔法を放ち続けないと勝てない。
加えて魔族の中でも魔王の直属の幹部四名にはまったく歯が立たないのだとか。
「だから?」
「断るよ、王様~?」
「──二度と故郷に帰れなくも、か?」
ほんの僅か眉間に皺を寄せた美中年の顔を眺めながら、杏樹は嗤った。
「あは、あはは…っ!!そ、それこちらに対抗策が無くて、そっちに対抗策がある時に成立するものだよ?」
パンパンと手を叩いて笑いを堪えながら杏樹はそう言った。
「ああ、事実だろう?こちらには切り札がある─」
王様の言葉を遮ったのは、兄の詠唱だった。
「権象・異界移動」
「はーい、んじゃね~♪」
「んなっ!?」
ブゥンッ…と機械が駆動したような音が響くと、五芒星の魔方陣が広がると、二人の姿は忽然と消えた。
「到・着☆喫茶店まで戻るぞ?杏樹」
「うん、お兄ちゃん」
二人は突然現れた周囲のざわめきを他所に駆け出す。
丁度ここは 喫茶店・シルアから目と鼻の先だった。
大通りを抜け、信号が青になるのを待ち、遊歩道を渡ると特徴的な茅葺き屋根の喫茶店が見えた。
カランカラン…
「いらっしゃいませ、お客様。何名様でしょうか?」
「いや、妹が先に来ているのだが…」
「ああ、お連れ様ですね。畏まりました」
そう言って店員の女性は会釈してカウンターの奥に引っ込んだ。
キョロキョロとすると、変わらず久美がオレンジジュースをストローでチューチューしていた。
「久美!」
「ごめん、驚いたよね!?」
「?んん、気にしないよ…杏樹姉と兄さんの事だから…どうせ、またどこかの異世界に召還されたんでしょ?慣れてる。」
「──“慣れてる”って最愛の妹に言われる件について。お兄ちゃん…」
「ああ、俺も同じだ…久美の器が大きすぎる件についてスレを立ち上げたい」
兄と杏樹は二人揃ってガックリと肩を落とした。
席に座りスマホを確認すると先程から僅か5分しか経っていなかった。
「──それで、どの異世界に召還れたの?」
「ラスペリア──とか、言ってたな」
「なんか偉そうに講釈垂れてたから帰ってきちゃった」
「…また知らない世界…神、殺す」
ビクゥッ!!?と何処かでとある神様が突然背中に悪寒を感じ怯えていたとかいないとか。
「あはは…流石にもう召還ないでしょ」
「甘い、甘いよ…杏樹姉。このオレンジジュース並みに甘いよ」
「…確かにこれまでの事を思えば…なぁ…」
そう言って兄──豊城錬夜18歳は当時を振り返っていた。
ある時はモンハンのような世界だった。
異界獣と呼ばれるモノの侵略者の親玉を倒せと言われたり、
どっかのTOFを模したような世界観で魔王を倒せと言われ、またまたある時は神の御遣いとして邪神を討て、と言われ…変態ビッチ姫に迫られたり、その時キレた杏樹によって城が半壊したり…兎に角、色々遭った。
「だから、異世界には関わらない…私もそのせいで入園式が遅れた。私の三年間を返せ、駄目神」
なぜなら──そう、その最初の“モンハン”のような世界観のグゼアで錬夜と杏樹に巻き込まれる形で久美も召還されてしまった。
当時まだ2歳。右も左も分からない所か──母親恋しい年齢の時にいきなりの異世界召還。
戸惑い、喚き散らして『かえして!』『おかあさんにあいたいよぉっ!!』『しらない、しらない!わたしたちをかえしてよぉ~~っ、うわあああああん!!!』等と感情の全てをぶつけたのだ、錬夜と杏樹に。
あの時だ、錬夜と杏樹の異世界の人間に対する態度は。
『絶対に従わない』と。
「──無いとは思うが、もう一度ラスペリアから接触があった場合はあの世界の人間全部殺そう…したら、神が出てくんだろ?」
「うんうん、神殺しの幼女・久美んがボコして終了だね♪」
「ん、任せて…駄目神の処分は私がするね」
ふふふ…と黒い笑みを浮かべながら三人は実に楽しそうにお茶を楽しんだ。
夜、両親が帰って来た。
「ただいまー」
「ただいまー杏樹、久美いい娘にしてた?」
「お帰り~ご飯出来てるよ♪」
「おぅ、ありがとう。」
ドタドタと賑やかにリビングに向かうとソファの上に座っていた久美を抱っこして四十代半ばの美中年は久美を見詰める。
「んん?また重くなったか?」
「…レディにそれは失礼…お父さん、お帰り」
「おぅ、ただいまーだ」
頬擦りすると若干嬉しそうに口元が弛んでいる。
「久美はお父さんにベッタリね~。お母さんだって久美の事愛してるんだから」
むぎゅ~っと反対側から抱き締められ、久美は
「お、お母さん…苦しい、苦しいよ…!?」
あわあわしていた。
「我が家は平和だな~」
トントンと二階の自室から降りてきた錬夜に杏樹は苦笑する。
「お兄ちゃん、それジジィ臭い…」
「そうか~?普通だと思うぞ。フツーフツー」
そう言いながら、茶碗にご飯をそれぞれよそってテーブルに置く。スープ皿に具沢山コンソメスープをよそって家族分置いていく。
「みんな、ご飯食べよう~?」
「うん、お腹すいた…」
「本当、いい匂いね♪」
「おぅ、そうだな」
親子のスキンシップを切り上げて席に着く三人。
「今日は和洋折衷だよー♪」
テーブルにはサラダ、ハンバーグ、酢豚に肉じゃが、鶏のからあげ、沢庵にお新香が置かれていた。
「いや、それ毎日だろ。」
「細かい事いいっこなしだよ♪お兄ちゃん☆」
杏樹は昔から食べる事が大好きだった。料理がプロ級に上達するのは必然と言えば必然だ。
けれど、夢はゲームクリエイター。
料理はあくまで趣味で特技なだけだ。
ファイファンのような作品を作りたい、と何かの折りに言っていた。
「「「いただきますまーす」」」
「「まーす」」
きっちり最後まで言ったのが父さん、母さん、お兄ちゃんで語尾だけなのが私と久美だ。
父さんはSEG○ Gamesのプログラマーで、母さんはそこの専属キャラクターデザイナーだ。
父さんが考えたプログラムに沿ったキャラクターのデザインを母さんがしている。
勿論他にも社員は居るし毎回父さんと母さんの意見が通るわけではない。
けれど、二人が中心になって作られたソフト『あえかなる夢の終わりに。』は至玉の名作である。
今はシリーズ化されて4まで販売させれている。
私の好きな作品の一つだ。
「んーー!!うっまーい♪♪」
「杏樹はいいお嫁さんになるよ」
「そかな?そうならいいな~」
チラッとお兄ちゃんを見る。
少し癖っ毛の黒髪に切れ長の瞳。
身長は175㎝、意外と細マッチョで私や久美にとても優しい。
「?どうした?杏樹」
じっと見られて、思わずドキッとした。
「な、ななんでもないよ…」
「風邪か?」
すっとお兄ちゃんの手が私の額に触れる。
私とお兄ちゃんはテーブルを挟んで真正面に座っている。
その為、普通なら届かない。
お兄ちゃんのスキル『空間から手』が発動し宙にお兄ちゃんの手が現れ触れる。
「はうっ」
「──熱はない、な…」
「お、おお兄ちゃん…っっ!?」
顔が…顔が!熱い…!!
「ほーら、錬夜…杏樹が困ってる事になってるから」
ぱしんっ、と母さんが軽くお兄ちゃんの頭をごつく。
「お、おぅ…分かった」
「ぁ……」
ちょっと勿体無いような…心臓に悪いからこれで良かったような…
スキルを解除したお兄ちゃんをぼーっと眺めてしまった。
「ふふ…錬夜は鈍感だから、もっと積極的に攻めないとだめよ?」
「──ッ!!?」
ばっと母さんを見る。
にやにやと笑みを浮かべた母さんの目と合った。
口パクで『知っているわよ』と言われ唖然とした。
「ご、ご飯食べよう、そうしよう…っ!」
「?変な杏樹だな~」
穏やかも和やかな食事の時間は過ぎていった…。
「おうおう、またずいぶんと盗ったな~?」
「ふふふ」
学校の帰り道、揃いの制服を着崩した少年と、さらさらの黒髪をポニーテールにした少女が戦利品(ゲーセンの景品)をしこたま両脇に抱える。
「兄さん、もう飽きたよ…」
「久美?どうした?楽しくないか」
とてて、と背の低い女の子が“兄”と呼んだ少年の足下にしがみつく。
「うん…人、多いから…こわい。」
「およ?くみんはまだ人混みが怖いんだね~」
「杏樹姉は…いつも、すごい…人、怖くないの?」
両手に店員が持たせてくれた紙袋には大きなぬいぐるみが二つ飛び出していた。
「うん、怖くないよ♪だってさ~いっぱい友達出来た方が楽しくない?」
「友達?…うー、ほしい、けど…話すの、怖い…」
KONAM○を出て、近くの喫茶店に入る。
「くみんはさ…まだ勇気がないだけだよ」
「勇気…?」
「そ。勇気。」
僅か300円で落とした彦に○んぬいぐるみ(大)二つ、仮面ライダー○イトフィギュア一体、アンパンマン各種(小)…を
ソツールになっているソファの中に仕舞う。
「私もお兄ちゃんも『勇気』を持てたから友達が出来たんだよ~?入園式まですぐだよ?普段通りに話せば大丈夫だって!」
「…ほんとう?」
「うん!お姉ちゃんが保証する!!」
ポンポンと優しく妹の頭を撫でる杏樹。
「──それ、一番安心出来ねぇのな」
「お兄ちゃんうるさい!」
「──うん(こくこく)」
「なんだと~?がお~~☆☆」
「きゃーやられる~~っ。(笑)」
隣に座った姉に横から抱き締められる妹・久美(5歳)は今年の春で幼稚園に入園する──と言っても1年間だけだが。
「一年間だけだったら、行かなくてもいい気がするがな、俺は。」
「そうだけどさ~うちもお兄ちゃんも高校があるじゃん?流石にサボるわけには行かないしさ~」
店員が注文したドリンクを持ってきた。
兄はコーヒー、杏樹はホットのロイヤルミルクティー、久美がオレンジジュースだ。
ずず…っ、とストローでオレンジの果汁を臙下していく。
「杏樹は意外にそーゆトコ、真面目だよな」
「皆勤賞狙ってますからっ!」
「──ほんと、かわいいやつだよ。杏樹は」
「?最後なんてー?」
最後の一言が小さく聞こえなかった杏樹が首を傾げると兄は
「なんでもねぇーよ」
とぶっきらぼうに呟いてコーヒーに逃げた。
「ん、んん~~??なんか誉められた気がするんだけど…」
兄はコーヒーに逃げて何も言わない。久美はもうオレンジジュースに夢中だ。
仕方ないので杏樹もカップに口を付けた。
豊城杏樹16歳、公立物部高等学校1年、
兄は同校の三年生で、末女の久美は諸事情で1年だけしか幼稚園に通えなかった。
なぜなら──
「“初めて”は目映い光だった。
俺達を襲ったのはショッ○ーだ。
」
「いやいや、お兄ちゃん今時ソレはないでしょ!ショ○カーなんて久々に聞いたよっ!」
「ふっ…」
きらん、と周囲にダイヤを飛ばす少年はやたらとキザったいポーズを取る。
「「「・・・」」」
シーン、と静まり返った玉座の前。
先程まで、喫茶店のソファに座っていたはずが、まったく知らない場所に立っているのだから。
「んで、あんたら誰?どこの大道芸さん?」
ジト目で兄は玉座に座る男を睨み付ける。
その男はRPGの王様のような出で立ちをしていた。
金髪の頭の上には王冠、素材が良さそうなローブで服の概要は知れないが、蒼い瞳は静かな知性を讃えていた。
「よくぞ、参られた異世界の勇者よ」
「異世界の勇者ぁ~?」
「私達が?」
低く静かな声が二人に向けられる。
「うむ。今この世界──ラスペリアは未曾有の危機に瀕している」
魔王の復活が近い──故に魔族の動きが活発化…魔物の凶暴化に魔力汚染…等かつてないほど進んでいるらしく
「──そこで古の盟約に従い異世界より勇者を召還する事となった」
「勇者よ、勝手だとは思うが」
「「断る!」」
二の句はそんな兄妹の言葉で遮られた。
・・・・・。
「「──はっ!?」」
宮廷魔導師長と文官が揃って目が点となって二人に目を向けた。
「ど、どどどどしうしてですか~!?」
ふわふわのピンク色の髪の少女が予想外の態度に狼狽えていた。
「いや、普通断るぞ」
「そそ。誘拐・拉致は犯罪だよ?この国は違うの?」
「うっ…」
言葉に詰まる10代前半の少女。
代わりに答えたのは──王様だった。
「うむ。確かにこの国でも誘拐・拉致は犯罪だな──但し異世界の人間に限り無罪放免だ」
「うっわ、さいて~~。
王様がそれ言うか?」
「どう言葉を飾ろうが変わらん。『召還者』と『召還された者』の距離は埋まらんからな」
「ふぅん…良く分かってるのな~王様?」
「私達が断る理由が分かった?分かったよね?」
「それでも私は“王”だ。民を、国を守らなければならぬ。」
「そんなに大事なら自分たちで倒せば?」
「出来ないからこうして召還だのだ」
王様は続けた。
曰く、魔族は強く凶暴化した魔物は一匹に付き一個師団で以てやっと倒せる強さで
曰く、魔術師なら上級以上の使い手100名で以て絶えず魔法を放ち続けないと勝てない。
加えて魔族の中でも魔王の直属の幹部四名にはまったく歯が立たないのだとか。
「だから?」
「断るよ、王様~?」
「──二度と故郷に帰れなくも、か?」
ほんの僅か眉間に皺を寄せた美中年の顔を眺めながら、杏樹は嗤った。
「あは、あはは…っ!!そ、それこちらに対抗策が無くて、そっちに対抗策がある時に成立するものだよ?」
パンパンと手を叩いて笑いを堪えながら杏樹はそう言った。
「ああ、事実だろう?こちらには切り札がある─」
王様の言葉を遮ったのは、兄の詠唱だった。
「権象・異界移動」
「はーい、んじゃね~♪」
「んなっ!?」
ブゥンッ…と機械が駆動したような音が響くと、五芒星の魔方陣が広がると、二人の姿は忽然と消えた。
「到・着☆喫茶店まで戻るぞ?杏樹」
「うん、お兄ちゃん」
二人は突然現れた周囲のざわめきを他所に駆け出す。
丁度ここは 喫茶店・シルアから目と鼻の先だった。
大通りを抜け、信号が青になるのを待ち、遊歩道を渡ると特徴的な茅葺き屋根の喫茶店が見えた。
カランカラン…
「いらっしゃいませ、お客様。何名様でしょうか?」
「いや、妹が先に来ているのだが…」
「ああ、お連れ様ですね。畏まりました」
そう言って店員の女性は会釈してカウンターの奥に引っ込んだ。
キョロキョロとすると、変わらず久美がオレンジジュースをストローでチューチューしていた。
「久美!」
「ごめん、驚いたよね!?」
「?んん、気にしないよ…杏樹姉と兄さんの事だから…どうせ、またどこかの異世界に召還されたんでしょ?慣れてる。」
「──“慣れてる”って最愛の妹に言われる件について。お兄ちゃん…」
「ああ、俺も同じだ…久美の器が大きすぎる件についてスレを立ち上げたい」
兄と杏樹は二人揃ってガックリと肩を落とした。
席に座りスマホを確認すると先程から僅か5分しか経っていなかった。
「──それで、どの異世界に召還れたの?」
「ラスペリア──とか、言ってたな」
「なんか偉そうに講釈垂れてたから帰ってきちゃった」
「…また知らない世界…神、殺す」
ビクゥッ!!?と何処かでとある神様が突然背中に悪寒を感じ怯えていたとかいないとか。
「あはは…流石にもう召還ないでしょ」
「甘い、甘いよ…杏樹姉。このオレンジジュース並みに甘いよ」
「…確かにこれまでの事を思えば…なぁ…」
そう言って兄──豊城錬夜18歳は当時を振り返っていた。
ある時はモンハンのような世界だった。
異界獣と呼ばれるモノの侵略者の親玉を倒せと言われたり、
どっかのTOFを模したような世界観で魔王を倒せと言われ、またまたある時は神の御遣いとして邪神を討て、と言われ…変態ビッチ姫に迫られたり、その時キレた杏樹によって城が半壊したり…兎に角、色々遭った。
「だから、異世界には関わらない…私もそのせいで入園式が遅れた。私の三年間を返せ、駄目神」
なぜなら──そう、その最初の“モンハン”のような世界観のグゼアで錬夜と杏樹に巻き込まれる形で久美も召還されてしまった。
当時まだ2歳。右も左も分からない所か──母親恋しい年齢の時にいきなりの異世界召還。
戸惑い、喚き散らして『かえして!』『おかあさんにあいたいよぉっ!!』『しらない、しらない!わたしたちをかえしてよぉ~~っ、うわあああああん!!!』等と感情の全てをぶつけたのだ、錬夜と杏樹に。
あの時だ、錬夜と杏樹の異世界の人間に対する態度は。
『絶対に従わない』と。
「──無いとは思うが、もう一度ラスペリアから接触があった場合はあの世界の人間全部殺そう…したら、神が出てくんだろ?」
「うんうん、神殺しの幼女・久美んがボコして終了だね♪」
「ん、任せて…駄目神の処分は私がするね」
ふふふ…と黒い笑みを浮かべながら三人は実に楽しそうにお茶を楽しんだ。
夜、両親が帰って来た。
「ただいまー」
「ただいまー杏樹、久美いい娘にしてた?」
「お帰り~ご飯出来てるよ♪」
「おぅ、ありがとう。」
ドタドタと賑やかにリビングに向かうとソファの上に座っていた久美を抱っこして四十代半ばの美中年は久美を見詰める。
「んん?また重くなったか?」
「…レディにそれは失礼…お父さん、お帰り」
「おぅ、ただいまーだ」
頬擦りすると若干嬉しそうに口元が弛んでいる。
「久美はお父さんにベッタリね~。お母さんだって久美の事愛してるんだから」
むぎゅ~っと反対側から抱き締められ、久美は
「お、お母さん…苦しい、苦しいよ…!?」
あわあわしていた。
「我が家は平和だな~」
トントンと二階の自室から降りてきた錬夜に杏樹は苦笑する。
「お兄ちゃん、それジジィ臭い…」
「そうか~?普通だと思うぞ。フツーフツー」
そう言いながら、茶碗にご飯をそれぞれよそってテーブルに置く。スープ皿に具沢山コンソメスープをよそって家族分置いていく。
「みんな、ご飯食べよう~?」
「うん、お腹すいた…」
「本当、いい匂いね♪」
「おぅ、そうだな」
親子のスキンシップを切り上げて席に着く三人。
「今日は和洋折衷だよー♪」
テーブルにはサラダ、ハンバーグ、酢豚に肉じゃが、鶏のからあげ、沢庵にお新香が置かれていた。
「いや、それ毎日だろ。」
「細かい事いいっこなしだよ♪お兄ちゃん☆」
杏樹は昔から食べる事が大好きだった。料理がプロ級に上達するのは必然と言えば必然だ。
けれど、夢はゲームクリエイター。
料理はあくまで趣味で特技なだけだ。
ファイファンのような作品を作りたい、と何かの折りに言っていた。
「「「いただきますまーす」」」
「「まーす」」
きっちり最後まで言ったのが父さん、母さん、お兄ちゃんで語尾だけなのが私と久美だ。
父さんはSEG○ Gamesのプログラマーで、母さんはそこの専属キャラクターデザイナーだ。
父さんが考えたプログラムに沿ったキャラクターのデザインを母さんがしている。
勿論他にも社員は居るし毎回父さんと母さんの意見が通るわけではない。
けれど、二人が中心になって作られたソフト『あえかなる夢の終わりに。』は至玉の名作である。
今はシリーズ化されて4まで販売させれている。
私の好きな作品の一つだ。
「んーー!!うっまーい♪♪」
「杏樹はいいお嫁さんになるよ」
「そかな?そうならいいな~」
チラッとお兄ちゃんを見る。
少し癖っ毛の黒髪に切れ長の瞳。
身長は175㎝、意外と細マッチョで私や久美にとても優しい。
「?どうした?杏樹」
じっと見られて、思わずドキッとした。
「な、ななんでもないよ…」
「風邪か?」
すっとお兄ちゃんの手が私の額に触れる。
私とお兄ちゃんはテーブルを挟んで真正面に座っている。
その為、普通なら届かない。
お兄ちゃんのスキル『空間から手』が発動し宙にお兄ちゃんの手が現れ触れる。
「はうっ」
「──熱はない、な…」
「お、おお兄ちゃん…っっ!?」
顔が…顔が!熱い…!!
「ほーら、錬夜…杏樹が困ってる事になってるから」
ぱしんっ、と母さんが軽くお兄ちゃんの頭をごつく。
「お、おぅ…分かった」
「ぁ……」
ちょっと勿体無いような…心臓に悪いからこれで良かったような…
スキルを解除したお兄ちゃんをぼーっと眺めてしまった。
「ふふ…錬夜は鈍感だから、もっと積極的に攻めないとだめよ?」
「──ッ!!?」
ばっと母さんを見る。
にやにやと笑みを浮かべた母さんの目と合った。
口パクで『知っているわよ』と言われ唖然とした。
「ご、ご飯食べよう、そうしよう…っ!」
「?変な杏樹だな~」
穏やかも和やかな食事の時間は過ぎていった…。
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