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第一章:ナヌカ族の村「ヒダ村」に間借り暮らしする。

砂の中で錬金術師が一人呑気な日光浴

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 「フンフンフーン~♪自由っていいなぁ~♪♪ラグリアより空気が美味しい気がする~!…現状砂しか見えないけど。」

へたくそな鼻歌を唄いながら、砂漠に分厚いローブ、ブラジャーとパンティー、黒のハイソックス、編み上げブーツの──ちょっとローブを脱いだら目のやり場に困る下着姿で上機嫌にずっと歩き続けている。

…疲れないのだろうか?

“彼女”を関しているとある神2が天より首を傾げていると──

 「…よし!この辺りで一度休憩しましょ…!!」

と言って…パラソル付テーブルセットとキンキンに冷えたサングリア…それに──ん?あれは……。

 「はぁい、おはよう♪メルルゥ♪これ、お昼ね」
 「ワウワウ♪♪」

その傍らにはの上に乗る…体長80㎝くらいの白いもふもふ──神狼フェンリルの縮んだ姿──が居た。

嬉しそうに差し出された銀の餌皿には“肉チャーハン”がもりもりと盛られていた。

バクバクバクバクと尻尾を振って餌にがっつく白いもふもふ──じゃない!神狼…!!
えっ、コイツ…神狼を従魔にしているのか…っ!?

すみませんすみません…うちの子は規格外なんです…!

…どこかのとある神3の頭を下げ申し訳なさそうにしている姿が思い浮かんだ…良いのか、神がそんなに低姿勢で。

 「はい、メルルゥ♪お水も用意したよ~♪メルルゥはコーラが好きだったよね?」
と、タイミングを見計らって餌皿の隣に新たな壺を置いて…そこに黒茶の液体──炭酸飲料、コーラだが──をキンキンの状態に保つ壺(瞬間冷却瓶持続型)を置く。
 「ワゥッ!」
元気良く返答するとそのまま顔から突っ込んでごきゅごきゅ喉を鳴らしながら冷たい炭酸飲料に舌鼓を打っている。

 「ウンウン、暑いよねー」

そう言う問題ではない。

犬に──や、神狼は厳密には動物ではないのだけど──炭酸飲料やら、肉チャーハン(味濃いめ)を餌として与えるのもどうかと思う──と言うか、神狼にプライドはないのか?

餌皿に食事…って。

神狼──とは神の御遣いにして、神の代理に派遣したその惑星ほしの“派遣社員”のような存在モノ──つまり、が出来るはずなのだが…。

……。

 「ワウワウッ♪ごきゅごきゅ…プハーーッ!!」

良く冷えたコーラは旨いか、神狼よ…。

非常に満足そうなが飛んでくる。

とある神2はガックリと項垂れた。

とても晴れ晴れとした笑顔を浮かべて砂の上に仰向けになる中型犬サイズの神狼…威厳もプライドもあったものではなかった。

 「美味しかった?フフッ、神狼であるメルルゥにはこの温度も気にならないようね♪ちょっと羨ましく思うわ」
 空になった餌皿に清潔クリーン魔法を掛けてアイテムボックスに仕舞っていく。
冷たいボードもアイテムボックスに繋がる亜空間に放り込むとちらり、と神狼メルルゥを見遣ってから…再び椅子に腰掛けた。
 「ワウワウッ!ワゥ~ッ♪」
 「…や、言語まで手放されると…ちょっと…分からないんだけど…。メルルゥ、普通に話してくんない?」
 「…なんだ、主よ。我は休暇を満喫しているのであるぞ?」
 「うん、相変わらず凄いギャップだわね」
 「……む?ここは──ラグリアではないな…?」
 「…寝転んだまま言うのね…まあ、いいか。」

良いのか──とある神2は呆れを通り越し無の境地でジト目を送っていた。

 「そう──ここは、地球アースよ。久遠星ラグリアとは3千億光年離れた位置に存在するわ」
 「…そうか。…まあ、良い」
 「うん」
 「我への貢ぎ物──コーラと主の手料理さえあればいくらでも力になろう。」
 「はいはい」

──とする人間の手料理とコーラで絆されとる…っ!!

二人?の気安い態度にが通常のこの二人の決まったやり取りのようだ。

…そして、そのまま目を瞑った──えっ、寝てるぅぅ!?

主に力を貸す、とか言った口で──ええっ!!?

 「メルルゥ…あちゃー、寝ちゃったか…。仕方ない起きるまでこうしてよう」

──もう、訳が分からなかった。

どちらが従魔でどちらが主なのだろう──?

 「…にしても、天気が良いわね~。はぁ、素晴らしい…ラグリアもいいけど異世界の空もいいものがあるわ…それに魔物が居ないなんて…バカンスし放題じゃないの…!?」

…“し放題”ではない。

他人ひと様の惑星ほしに勝手にお邪魔している手前──イリスは今尚もとある神2の監視下に置かれているのだ──本人にその自覚はないが。

 「…はあ~、良いわね…このゆったりとした時間…。研究も魔道具作りも好きだけど…こうしてなんも考えない時間もいいものね~」

キンキンに冷えたサングリアの甘い香りと味を堪能しながら、テーブルに頬杖を付く。

イリス16歳──異世界の砂漠の真ん中で日光浴をする…、かしらね?

小説にするならそんな書き出しで─…や、書かないけど。自分書くより読み専なので。

とばかりにサマーベッドも取り出してパラソルを移動させる。

 「えいや!」

…掛け声は必要ないだろう…何をやっているのだ…。

ふわっと浮かび上がったパラソルは寝そべるイリスの全身を日射しから守っている。

…凄い。才能の無駄遣い…!

パラソルを浮かせる、ただ…と思うだろう?

違う…違うのだよ。キミ。

考えても見てくれ?

地球に──

それを…それを…あの子イリスは…!!


…こほん、取り乱した。

例えるなら…そう、だな…。

ガソリンがないのにガソリンでしか動かない軽自動車を自力の燃料魔力だけで無理矢理動かしている──と言えばいいか?

は大気中にある魔素マナに自身の魔力を混ぜて発動するのが、魔法…ひいては魔術の原理である。
人類(エルフや人間、獣人を含む)が魔法や魔術を行使できるのはその大気中にある魔素に自身の魔力を混ぜ、して発動させるのだ。

その為ラグリアでは──神信仰の他に精霊を信仰する宗派も各地域に一定数いるのだ。

精霊は多種多様で…形のないモノから人や獣の形を取る上位精霊と…様々だが、彼らとの親和性が最も高いのがエルフと言われている。

…因みに、イリスの身体には少ないがエルフの血も流れているのである。
何世代か前の王配にエルフの青年がいる。
…今は隠居して、イリスの機関に多額の資金を出資している出資者の一人。
帝国の生き地引き──隠我の賢人、と。

ん?地球の有名人と同じ名前…って?

“彼”がと…─誰が言った?
そう思われただけ──ああ、地球の「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は人の腹から産まれた…、と…。

──転生魔法と言う言葉を知っているか?

ラグリア出身エルフの「レオナルド・ダ・ヴィンチ」はほんの気まぐれで地球へと渡航、その際人間へと転生魔法で転生した。

…ただ、一つだけ問題があった。

転生魔法は──成功したが、

エルフとしての何もかもを失くした──失敗。

…まあ、彼は人間として充実した人生を送ったようだから…人として死ぬ間際──エルフとしての記憶と本来の姿を取り戻したレオナルドは…「人間としての」自身の死を偽造してラグリアへと帰還した。

…今思えば彼の行動力も大概だな。

“出来るから”と実際に遣るのと、“出来るから”と思っても、思い留まるのでは──大分違う。

神としては是非とも思い留まって欲しかったが…。
…。

なるほど。
イリスはあのエルフの血縁か…なら、仕方ないか。
……。

 「はぁ~、いい天気ねぇ…。」

瞼を閉じる…聞こえてくるのは虫の息遣いと…遠くの獣の嘶き…。
どこまでもゆったりとした時間が流れている…。

………………………………。
…………………………。
………………。
………。

 「……zzz…。」

サンベッドの上で…イリスもいつの間にか寝転けていた。
…。
…いや、なに寛いでんの…!?
とある神2の嘆き(突っ込み)は誰にも知られる事なく流れていくのであった…。[完]

…いや!?終わらないよ…ッ!

…分厚いローブ…あれ?脱いでる…。

下着姿で何を……。
や、寝てるのは分かるんだけど…。

そうじゃなくて……なんで?なんで…コイツは…こんな所で無防備に寝られるの……??

俺が可笑しいのか…?

とある神2は答える者がいない疑問に頭を悩ませる…神をも恐れぬ所業──寝ているだけなのだが。

 「むにゃむにゃ…うへへ…♡もう、食べれないよぉ~。メルルゥ…美味しいなぁ…♡♡」

!?何て言う夢を…っ!
夢の中ではどうなっているのか…。
とある神2は気になって気になって仕方ないようだ…。


オレンジ色の腰までの直毛に蒼い瞳の少女…白ローブを畳んでサンベットに仰向けのまま眠りこけるその瞳が開く事はないが…整った姿形に内包する魔力量は帝国随一。
その身に獣人、エルフ、精霊種の血に人間の血が混ざった混ざりもの──帝国皇室では珍しくもない──は、現皇帝陛下の瞳の色と同じ輝きを持ち、皇后陛下の幼い頃にそっくりな顔立ちと体型…そのオレンジ色の髪色は皇后陛下と同色。
眠りこける少女を皇帝が溺愛しない筈がない、のである。
…まあ、“ヴァルハラ機関”設立はそんな彼の親バカが発揮された──理由わけではない──きっと。たぶん。

140㎝の身長、バストはBカップの68㎝。ウエスト42㎝、ヒップ45㎝…と、ちんくしゃである。

良く言えば──スレンダー体型。
悪く言えば──貧乳&子供体型。
…まあ、容姿は整っているし、左耳の上辺りに着けた蝶のシルエットを象った黒色の髪飾りがトレードマークになっている愛らしい少女ではあるが。

少し甘い高めの声も愛らしさに拍車を掛ける。
帝国大学を飛び級で卒業してからはずっと研究室と皇城を行ったり来たり。
研究と発明と公務はほとんどまわされないのを良いことに好きなことに全力投球の16歳。
頭脳明晰で容姿端麗なのに残念。残念である。
魔術と魔法の適性を持つイリスは家族からも親戚縁者に至るまで──研究バカと知られている。
無論、友人や幼馴染みにも。
…その幼馴染みもと思うだろう。
ラグリアどころか──次元すらも越えた場所に「休暇し」に来ているとは。

反対に帝国では──

 「!?今イリスの筈が魔力反応が消えたぞ…ッ!どう言うことだ…っ!?イリス、イリスゥゥ~~!!(泣)」
 「落ち着いて、あなた」
 「…ッ!!イザベラ…」
 「そんな泣きそうな顔──って、泣いたわ、この人…ハァ」
 「母上」
 「ん?」
 「は病気なので仕方ありません」
 「レオン…そう、ね…。」
 「!?レオン…ッ!イリスの魔力反応が…ッ!!」
 「父上…どうどう」
 「レオン…あなた…マントはそうやって使うものではないわ」
 「ご安心下さい…外交官として隣国の文化聖牛の突進カウナーデの準優勝したこの牛捌きを見てください…ハッ!ハッ!」
ドドド…
赤いマントをヒラヒラと振る愛息子に夫が突進している……ナニ、コレ?
私…こんな…こんな変人を量産した覚えはな──ありまくりだったわ。
 「……ハッ!?(゜ロ゜)!?」
…あ、戻ってきたわ。
そのまま飛ばしていれば良いのに。1ヶ月ほど。
 「そうだ!今すぐ捜索隊を派遣しよう!」
 「…ダンジョンに籠っているだけじゃない?」
 「あ」
 「お?」
 「それだ…!!」
ダンジョン…それは稀なる神から人類への試練の場。
地下へと降りていく洞窟型から、塔のように上へ上へと登って行くタイプの2パターンのそこは魔物と罠と宝が待っている修練場。
危険だが──その恩恵は大きい。
内部は幾重にも張り巡らされ、深度も難易度も場所によりけり…世界中にあるこれらダンジョンは人類に恩恵をもたらすと共に未熟な者が幾人も犠牲になっている場所でもある。
それでも──中で手に入る知識や、魔道具、武器防具…金銀財宝は国としても“いざ”と言う時の備えとして備蓄される。
食料も調味料も出るダンジョンもあったりするので…騎士や軍の遠征地としても確保されているダンジョンもあるくらいだ。

──そして“ダンジョン”に入れば外界からは遮断される。
人間が作った魔道具や察知サーチ魔法では反応は探れない。当然念話や魂の端末機も“圏外”を差す。

 「…ダンジョンに行った形跡は御座いません、我が主」
スッ、と影のように夫の背後に立った黒装束の男は…
 「…うおっ!?な、なんだ…さんじゃない」
陰──とは、夫専属の公にはされない間諜の事。
皇族に最低1人は着いている、陰の護衛。
当然私にも子供達一人一人にも着いている。
 「…畏れながら、イリス様はこの世界ラグリアから完全に消えていると具申します」
 「…!?そ、そそそそれは…っ!」
 「はい、ご安心下さい。既にマティカ様にもツェペリ様にもご報告しております。今場所の特定をしてもらっています…我が主には健やかに吉報をお待ち頂ければ…と」
 「!そ、それでは…ッ!」
 「はい。お待ちください」
 「ああ!流石は私の陰だ…!!ありがとう、ありがとう…ッ!!」
……。
…うっざ…っ!
少々鬱陶し──こほん。まあ、そんな所もかわいいと思えるくらいにはこの人との付き合いも長いのだけれど…まあ、末娘であるイリスのみならず子煩悩な旦那を…幼馴染みであり、昔からの許嫁である私は少なからずとも憎からず想っているわ。
何と言っても添い遂げようと想った相手だし…。
 「ああ!ああ…!!俺のイリスゥゥ~~ッ!!」
…。
少々──いや、だいぶウザイけれど。
……。









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