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プロローグ[婚約破棄と引き換えに失った王国の損失]

許可が出たので、皇太子殿下夫妻と共に帰ります。

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 「では、帰りましょう。」
 「おぅ。…いや、なんでお前が仕切ってんだ?」
 「アズさんアズさん」
 「?なんだ…?」
 「そんな事よりも早く退出しましょう。最後まで居なくても良いのだから。…ね、ね、ね!?」
 「うおっ!?近い近い!!わーった、分かったから!!」
……。
こほん。
アズーリアはわざとらしい咳払いをすると、ユリエラに命じた。
 「──ユリエラ・エンドハイム侯爵家令嬢、そなたの今までの献身、私は努々ゆめゆめ胸に刻み私なりの覇道を歩みたく思う。…今暫くは帝国で留学生として楽しく過ごそう。──新学期からまた宜しくな!ユリ、エリー、アリサ、ルイス」
 「…アズーリア第一王子殿下…ええ、新学期に学園でまた会いましょ。」
…それは“命令”と言うより親しい友人へのごくありふれた〝再会の約束〟だ。
ニッと快活に笑ったアズーリアは年相応の少年のような実に明るいものだ。
 「ええ、またね」
 「ああ、その時はまた手合わせに付き合ってやる。アズーリア殿下」
 「…私は侍女ですので…その、再会を楽しみにしておりますね、アズーリア様。」
僅かな別れの挨拶もそこまで大袈裟なものではない。
アズーリア、エリーゼ、ユリエラ、ルイス、アリサ…5人を見守る美男美女カップル…、帝国の皇太子夫妻が微笑ましそうに微笑んで成り行きを見守っている。

 「あの5人はまるで昔の私達のようだな」
 「ええ、エルの言うとおりね。うふふ」
にこやかに何処か過去を懐かしむような黒髪赤目の青年──エルウィン・フォン・ヴァルバロッサ皇太子(24)と伸ばしたら腰まである豊かな金の髪をシニヨンにし纏め花や蝶を象ったヘアアクセで飾った色香溢れる人妻の危うい色気を振り撒く美女、アンジェリカ・フォン・ヴァルバロッサ皇太子妃。
…因みにアズーリアは留学先の学園でそのヤンチャっぷりと傍若無人っぷりに孤児相手に割かし本気の殴り愛をしょっちゅうしていた為にその話を聞いていた上級生の口から“まるで皇太子の再来だな”と言われ始めたのが切っ掛けだ。…因みに最近の取っ組み合いは一昨日である。理由は“目玉焼きには醤油を掛けるか?”と言う至極どうでもいい…,下らないこと。
因みにエルウィンは醤油、アンジェリカは塩、ユリエラは焼き肉のたれ、アズーリアは醤油、ルイスはお好み焼きソース、アリサは一味唐辛子派である。
…それでその孤児は掛けない派でアズーリアが掛ける派。至極下らない論評で殴り愛の取っ組み合いに発展…したのだと。
……で、わりと学園生の頃にエルウィンも同じ事をしては皇帝陛下から直々に拳骨を賜っていた。
……そう言う所だけ隔世遺伝?したのか、と。
……。
…いや、この皇太子(笑)ならするか。今では学園中がアズーリアの事を「皇太子」なんて言うものだから何度か帝国の影の人が探りに来ていたな…。はあ~。

 「なんだよ、溜め息なんか吐いて。幸せが逃げるぞ?」
 「ご心配なく。幸せは追い掛けるものではなくものですから。」
当然その当時何度もあった訪問者(影の人)に同じ説明をしていたのは何故かユリエラだった…何故だ?神はこの世に居ないと言うのか。理不尽だ、あんまりだと皇太子妃様に嘆き泣き付いてどうにかを止めて貰った。…本当に何故だ?!影の人、仕事しろー!
…因みに原因は事態を面白がった皇帝陛下の弟君が正しい情報を訪問者(影の人)に行かないよう情報を遮断していた…と言う。知った時ユリエラは皇帝陛下の弟君に“常に水虫”の呪いを掛けたほどだ。…因みに今も水虫に苦しんでいる皇帝陛下の弟君。原因も回復魔法も効かない事から無事呪いは発動された模様。フッ、ざまぁ♪

 「…ユリならあり得そうだな」
 「はい、幸運は私捕まえる派ですので。…逃がしませんよ?」
キラリ、と光る緑の瞳にたじろぐアズーリア。
クスクスと楽しそうに観覧する皇女殿下…、ビトシアはユリエラと同い年だ。学園の普通科に在籍している。将来はパティシエール…お菓子作りの達人になりたいのだとか。ピンクイエローのポニーテールに婚約者の洋菓子店店主からプレゼントされた鳥籠(鳥無し)のイヤリングを着けている。…因みにドレスはその洋菓子店店主…エドワード・ブロッサム氏(35)の髪色…藍色のAラインドレスで谷間は隠されているデザイン。前からだと肩は少し出ているが後ろは全面隠されている。拳一つ分から手の甲までを飾り袖が隠し同色のレース手袋で完全ガード。だが、スカート丈は前が膝小僧が丸々見える小憎らしい演出。後ろは足下まで隠す鉄壁ガード。
 「因みに太ももから伸びるガーターベルト、それで固定された純白のストッキングがまた良い味を出している…ハアハア♡」
 「……うおっ!?ど、どっから湧いた…っ!?この変態…ッ!!」
……全面的に同意します。
ビクッと初めて水に触れた猫のように飛び上がって驚くような勢いでソファから腰を上げたアズーリア。
それに答える形でキリッとした変態…じゃない、藍色の肩までの長髪を後ろで一つに束ねた端正な顔立ちの美丈夫、件のビトシアの婚約者エドワード・ブロッサム氏だ。すらりとした180㎝の長身、ほどよく鍛え抜かれた筋肉、細身の御仁は洋菓子店店主でありながらダンジョンに自ら“材料調達”に出掛ける“戦えるパティシエール”である。
これでもAランク冒険者である。洋菓子店は彼が一代で築いた帝都でも予約の取れない“帝室御用達ロイヤルヴァランティン”を開業僅か3年で貰った超人気店。
元々甘いものが好きで冒険者になったのは自ら材料調達が出来るから…と言う理由で冒険者になった。
 「ビシア~♡君の為に美味しいケーキを作って来たんだぁ~♡」
 「まぁ…♡エド様ったら。うふふ…嬉しい。私の愛しいエド様♡」
そう言って差し出された皿(12号サイズは余裕で置ける大きさ)を受け取りうっとり笑む清楚可憐な面立ちの美少女…いや、恋する乙女は何時だって美しい…とは良く言うけれど。
…王宮の祝賀会、それも他国の厨房凸したのか、この御仁。
…………。
…うん、二人とも二人っきりの世界に旅立ったみたいですね。放置しよ。
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みんなの感想(1件)

penpen
2023.08.22 penpen

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