誰が為に聖女は眠らない

バサッ…バサッ…パリーンッ!

“何か”が羽ばたく音…ともすれば鳥類の上位種より力強いその羽ばたき。

煌めく白銀の鱗、爬虫類が如き雄々しく立派で巨大な体躯──蒼銀色の蛇のように吊り上がった瞳。

ワニのように勇ましい顏…爪も牙も先端に行くほど鋭く尖っている。

…それは古竜と言われる今では伝説にもなった幻棲種。

雄々しく立派な竜の背からヒラリ、と一人の少女がお城のバルコニーに降り立った。

前代未聞な登城の仕方に王妃も王もあんぐりと口をポカーンと開けています。

…まるで少女の家の庭先の池に飼っている鯉が水面にパクパクと酸素を補給しているように間抜け面を晒しています。

王太子も、王子も王女も…それから集まった諸侯も。

皆、呆然と立ち尽くすばかりです。

少女は一言。

「王子──いえ、“勇者様”?あなたを魔王様の贄にするべく不承、この“聖女”が直々に迎えに来て差し上げました。感謝なさい!」

は?

なんと、“聖女”は人類──ああ、“あくまでも”この王国限定ですよ?──の敵である「魔王」を“様付け”で不躾な宣言をしました。
…………。


これは第2王子である「勇者」に公爵令嬢である「聖女」が婚約破棄されると幼少期に領地の森で出逢った“古竜”に予言されてからの10年間を山に谷に籠り修行をしてから10年後の16歳の誕生日であり、
婚約披露パーティーに堂々と古竜と共に「勇者、魔王の贄にする」宣言をしに王城へと凱旋を果たした所から始まる──浚われのお姫さ──王子様と公爵令嬢の魔王城へと連行される物語である。
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