9 / 11
第一話:公爵家は今日も平和です。
領都の1日~昼~
しおりを挟む
昼──会食と言う名の会談と懇談、新規事業の進捗状態の報告。
…折角の美味しい料理も仕事の話で美味しさは半減だ…まぁ、そうは言っても領地と領民の明日のおまんまの話だ。
領地は日進月歩。領民も日進月歩。
日々移り行く田畑の状況、風が吹けば飛んでいく稲穂…ああ、そう……渓谷からふる偏西風で折角の収穫期も…気が抜けないのだ。
この偏西風をどうにか──する事は無理だが──田畑を護る結界の維持に毎年竜種規模の魔石を毎年7月に1ヶ月ほど掛けて渓谷に棲むとされる血気盛んなレッドドラゴンとの根比べ━━いや、仕合いをドラゴン側は冒険者が用意した普通の宝石…ダイヤモンドだとか、水晶や、ルビーと言った“宝石”を持参。
反対にドラゴン側はその身の全てを報酬に差し出す━━ん?それも道徳的にいいのか……って?
……。
アリエルが幼少の頃には…もっと言うなら──アリエルの祖父が子供の頃には既にあった慣習だ。
「…今年の収穫期も乗り越えられると良いのですが…。」
「ええ。偏西風は風の精霊の戯れ…アレでいて秋の収穫を言祝いでいらっしゃるので……強くは言っても…伝わらないのですわ。
まあ、悪気がないだけに…私も、父も困るのですが。」
「うむ。秋の収穫に浮かれている風の精霊らを見ていると…なぁ、ギレアン街長?」
「…はは…本当、困りますよねぇぇ……。」
精霊。
それは…この世界の普通の人間には視えない自然が具現化した存在。
全にして個、個にして全。
世界に魔素を魔力へと変換・循環・放出する特別な種族。
精霊がいる地は特殊な土地になりがちだ。
例えば──…、年中マグマが燃え盛る活火山、“レグマ山”は火の精霊が多く、彼らは戦いと辛いものが好きだ。
…その為活火山の近くには、当然の如くハバネロやジョロキア、青唐辛子、赤唐辛子、胡椒…と香辛料の多くが採れたりする。
賑やかなのが好きで戦いが好きで陽気な性格の精霊。
大きくは四つに分類──、地水火風…これに時天幻無闇光(又は聖)の属性の精霊が存在するとされている。
取り分け──風の精霊達は楽天的で気まぐれで自由な生き物だ。
他人の噂話も大好き、人々の笑顔も大好き。取り分け秋の収穫期の人々の生き生きとした笑顔…今年の冬も飢えずに済むと言った人々の安堵した表情も…そんな中で開かれる『収穫祭』の雰囲気も大好き。
だから余計に──風を吹かしてしまうのだ。
その偏西風は何も折角収穫に適した野菜を飛ばしてしまうだけではない──一応は遠く肥沃な大地の栄養ある土をも運んでくるので…野菜が飛ばされる以外は領地に益を齎すので─…収穫を待つだけの田畑に結界を張ることでその風を横に反らし、肥沃な大地の土は…中央の“祭壇”に集めている──土の精霊達の助力で。
土の精霊はマイペースでのんびり屋。大地に根差しているだけあって、その地に立つ全ての生きとし生けるものに寛容で寛大だ。
…具体的には、手順を守り、正しく土を整え、種を植え、水を与える…と言った農業に必要最低限度の手順を踏まえて作られた作物は例え麻薬でも繁盛させてしまうのだ。
無論、各国で取り締まりはしているのだが──如何せんねずみ講みたく…。
…叩いても叩いても次から次へと現れるのだ。
下請けの下請けの運び屋の仲介人の仲介人のこれまた一般の末端売人──と、いたちごっこになっているのが現状だ。
…下請けの下請けの運び屋まで辿り着いても……その先の幹部だとか、“元締め”だとかは…なかなか捕まらないのがこの手の犯罪者集団だ。
……と。話が逸れた。
…兎に角。土の精霊達にはその見分けは付かない──と言うか、大地の化身たる土の精霊にとっては──…『全て同じ植物達』であり、人間が猫の赤子を愛でるように、土の精霊もまた全ての植物の成長を見守るのだ。…それはもう溺愛と言われるほどに。
……。
その「精霊」がマスノイア公爵家の領地には四大精霊の他に闇と光属性の精霊が領地に棲み憑いた。
…それが、祖父の子供の頃には当たり前に見られるようになっていた…と言うのだから…。
相当古い時代から精霊達が住み着いていたのだろう。
渓谷の竜達は…まあ、“命懸けの闘争”と「賭け事」が同時に出来る7月の“根比べ”は毎年かなりの盛り上がりを見せる。
腕に覚えのある「冒険者」と騎士やら傭兵が集まって…始まるのだ。
人間側は…ほら、一度限りの身代わり人形を持って挑むのだ。
因みにその“身代わり人形”…は、魔道具で職人が1体1体心と魔力を込めて作られた力作だ。
各ギルド──冒険者ギルド、商業ギルド、傭兵ギルド、魔術師ギルド──に【魔女の家】より無償で貸し出され、期間終了後に魔道具店【魔女の家】へと返還される…。
その時の差額がギルド、ギルドから個人へと支払いを求められる。
因みに銀貨4枚…4000ガルド。
…そんなに高くない?ノンノン。
“竜との根比べ”参加者の証でもあるため、山へと赴く者は見える位置に“これ”を着ける必要があるのだ。
サイズは…ちょうど縦幅5㎝×横幅3㎝×厚み2.5㎝ぐらいの人形の人形…所有者の魔力と血で登録される為、偽造も譲渡も転売も…不可能である。
最低でも火竜を相手取れる、冒険者ならC~Aランクの冒険者パーティー限定、傭兵や騎士も…一時的に冒険者ギルドで測定した“暫定冒険者ランク”で決められた水準の者限定で“応募者”から絞り込む。
…因みにこうしてのんびりしている今も山では…『竜との根比べ』が行われている。
冒険者ランクS級のアリエルは出禁だ。
無論他のSランク冒険者も、だが。
一応ギルドとしては後続を育てると言う意味合いがあって…竜側もまた必要以上に同朋が狩られ過ぎるのは…種族保存の観点であまりに強すぎる人間に狩られまくるのは感化できない。
火竜の上の炎竜王が公爵との話し合いで決まった規則だ。
炎竜王クラスになると…人化出来るうえ、竜の状態でも意志疎通出来る知恵者。
…マスノイア公爵領地の冒険者は強すぎて困っている…らしい。
炎竜王視点だと…どのくらい昔の「公爵」かは知らないが…。
少なくとも2000年以上前から今日まで続いてきた…ラーマズ渓谷の夏の風習?“恒例行事”?である。
無論、冒険者の宝石持参は義務だ。
「…そういや今は“根比べ”の時期ですねぇ。」
「ああ、そうだな。…最終日までには目処が立つといいのだが…」
「どうでしょうね?こればかりは。」
「自然が相手ですものね、ギレアン街長」
「自然…自然…、なのか?マンドラゴラァの品種改良は……」
「………。」
「………。」
父の言葉にギレアン街長と娘(アリエル)は沈黙した。
…折角の美味しい料理も仕事の話で美味しさは半減だ…まぁ、そうは言っても領地と領民の明日のおまんまの話だ。
領地は日進月歩。領民も日進月歩。
日々移り行く田畑の状況、風が吹けば飛んでいく稲穂…ああ、そう……渓谷からふる偏西風で折角の収穫期も…気が抜けないのだ。
この偏西風をどうにか──する事は無理だが──田畑を護る結界の維持に毎年竜種規模の魔石を毎年7月に1ヶ月ほど掛けて渓谷に棲むとされる血気盛んなレッドドラゴンとの根比べ━━いや、仕合いをドラゴン側は冒険者が用意した普通の宝石…ダイヤモンドだとか、水晶や、ルビーと言った“宝石”を持参。
反対にドラゴン側はその身の全てを報酬に差し出す━━ん?それも道徳的にいいのか……って?
……。
アリエルが幼少の頃には…もっと言うなら──アリエルの祖父が子供の頃には既にあった慣習だ。
「…今年の収穫期も乗り越えられると良いのですが…。」
「ええ。偏西風は風の精霊の戯れ…アレでいて秋の収穫を言祝いでいらっしゃるので……強くは言っても…伝わらないのですわ。
まあ、悪気がないだけに…私も、父も困るのですが。」
「うむ。秋の収穫に浮かれている風の精霊らを見ていると…なぁ、ギレアン街長?」
「…はは…本当、困りますよねぇぇ……。」
精霊。
それは…この世界の普通の人間には視えない自然が具現化した存在。
全にして個、個にして全。
世界に魔素を魔力へと変換・循環・放出する特別な種族。
精霊がいる地は特殊な土地になりがちだ。
例えば──…、年中マグマが燃え盛る活火山、“レグマ山”は火の精霊が多く、彼らは戦いと辛いものが好きだ。
…その為活火山の近くには、当然の如くハバネロやジョロキア、青唐辛子、赤唐辛子、胡椒…と香辛料の多くが採れたりする。
賑やかなのが好きで戦いが好きで陽気な性格の精霊。
大きくは四つに分類──、地水火風…これに時天幻無闇光(又は聖)の属性の精霊が存在するとされている。
取り分け──風の精霊達は楽天的で気まぐれで自由な生き物だ。
他人の噂話も大好き、人々の笑顔も大好き。取り分け秋の収穫期の人々の生き生きとした笑顔…今年の冬も飢えずに済むと言った人々の安堵した表情も…そんな中で開かれる『収穫祭』の雰囲気も大好き。
だから余計に──風を吹かしてしまうのだ。
その偏西風は何も折角収穫に適した野菜を飛ばしてしまうだけではない──一応は遠く肥沃な大地の栄養ある土をも運んでくるので…野菜が飛ばされる以外は領地に益を齎すので─…収穫を待つだけの田畑に結界を張ることでその風を横に反らし、肥沃な大地の土は…中央の“祭壇”に集めている──土の精霊達の助力で。
土の精霊はマイペースでのんびり屋。大地に根差しているだけあって、その地に立つ全ての生きとし生けるものに寛容で寛大だ。
…具体的には、手順を守り、正しく土を整え、種を植え、水を与える…と言った農業に必要最低限度の手順を踏まえて作られた作物は例え麻薬でも繁盛させてしまうのだ。
無論、各国で取り締まりはしているのだが──如何せんねずみ講みたく…。
…叩いても叩いても次から次へと現れるのだ。
下請けの下請けの運び屋の仲介人の仲介人のこれまた一般の末端売人──と、いたちごっこになっているのが現状だ。
…下請けの下請けの運び屋まで辿り着いても……その先の幹部だとか、“元締め”だとかは…なかなか捕まらないのがこの手の犯罪者集団だ。
……と。話が逸れた。
…兎に角。土の精霊達にはその見分けは付かない──と言うか、大地の化身たる土の精霊にとっては──…『全て同じ植物達』であり、人間が猫の赤子を愛でるように、土の精霊もまた全ての植物の成長を見守るのだ。…それはもう溺愛と言われるほどに。
……。
その「精霊」がマスノイア公爵家の領地には四大精霊の他に闇と光属性の精霊が領地に棲み憑いた。
…それが、祖父の子供の頃には当たり前に見られるようになっていた…と言うのだから…。
相当古い時代から精霊達が住み着いていたのだろう。
渓谷の竜達は…まあ、“命懸けの闘争”と「賭け事」が同時に出来る7月の“根比べ”は毎年かなりの盛り上がりを見せる。
腕に覚えのある「冒険者」と騎士やら傭兵が集まって…始まるのだ。
人間側は…ほら、一度限りの身代わり人形を持って挑むのだ。
因みにその“身代わり人形”…は、魔道具で職人が1体1体心と魔力を込めて作られた力作だ。
各ギルド──冒険者ギルド、商業ギルド、傭兵ギルド、魔術師ギルド──に【魔女の家】より無償で貸し出され、期間終了後に魔道具店【魔女の家】へと返還される…。
その時の差額がギルド、ギルドから個人へと支払いを求められる。
因みに銀貨4枚…4000ガルド。
…そんなに高くない?ノンノン。
“竜との根比べ”参加者の証でもあるため、山へと赴く者は見える位置に“これ”を着ける必要があるのだ。
サイズは…ちょうど縦幅5㎝×横幅3㎝×厚み2.5㎝ぐらいの人形の人形…所有者の魔力と血で登録される為、偽造も譲渡も転売も…不可能である。
最低でも火竜を相手取れる、冒険者ならC~Aランクの冒険者パーティー限定、傭兵や騎士も…一時的に冒険者ギルドで測定した“暫定冒険者ランク”で決められた水準の者限定で“応募者”から絞り込む。
…因みにこうしてのんびりしている今も山では…『竜との根比べ』が行われている。
冒険者ランクS級のアリエルは出禁だ。
無論他のSランク冒険者も、だが。
一応ギルドとしては後続を育てると言う意味合いがあって…竜側もまた必要以上に同朋が狩られ過ぎるのは…種族保存の観点であまりに強すぎる人間に狩られまくるのは感化できない。
火竜の上の炎竜王が公爵との話し合いで決まった規則だ。
炎竜王クラスになると…人化出来るうえ、竜の状態でも意志疎通出来る知恵者。
…マスノイア公爵領地の冒険者は強すぎて困っている…らしい。
炎竜王視点だと…どのくらい昔の「公爵」かは知らないが…。
少なくとも2000年以上前から今日まで続いてきた…ラーマズ渓谷の夏の風習?“恒例行事”?である。
無論、冒険者の宝石持参は義務だ。
「…そういや今は“根比べ”の時期ですねぇ。」
「ああ、そうだな。…最終日までには目処が立つといいのだが…」
「どうでしょうね?こればかりは。」
「自然が相手ですものね、ギレアン街長」
「自然…自然…、なのか?マンドラゴラァの品種改良は……」
「………。」
「………。」
父の言葉にギレアン街長と娘(アリエル)は沈黙した。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる