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第一章:「抱かれる」と言うことの日常
「情報」と言う売り物、扱うのは異世界に限らず万国共通
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「…私の客ではないけれど──No.3のアイリーンの常連客よ。それもここ最近の」
「アイリーン嬢…ああ、あのエルフの」
「ええ、そうよ。もう何年この店に居るか分からないけど──金髪&碧眼の麗しい方よ」
シャイナは脳内でアイリーンの姿を思い描く。
金髪&碧眼の少し垂れ目がちな優しそうな女性…。
シャイナが連れてこられた6歳の頃から既に“姐さん”として売り上げ上位を誇っていた女性。
豊満な胸と括れた腰、すらりと伸びた183㎝の高身長と合わせてとても人目を惹く女性だ。
おっとりとした口調でいつも笑っているような人…それが彼女のイメージ。
「…噂でしかないけれどーー○○○○侯爵、自領で人身売買を行っているそうよ…まあ、噂であって確証がある訳ではないのだけど…」
そのアイリーンから又聞きした「噂」の内容を反芻しながら口にする。
なんでも地下施設があって選ばれた者のみにある日『招待状』が贈られてきて──後日、招待状に記された場所に記された通りに『合言葉』を受付に言えば地下へと通される…。
そこで開かれるのは世にも珍しい種族──天翼族が『商品』として並ぶこともあるのだとか。
…噂と思っていたこの話に信憑性が出たのは──アイリーンとの情事の時うっかり服に着いた天翼族の羽根が室内の床に落ちたと気付かずに翌朝そのまま会計したから、だろう。
「…それで、これ預かってきたの。何かに役立つと良いのだけれど」
この世界、鑑定スキルも鑑定魔法もあるファンタジー世界。
然るべき所に出せば羽根一枚からも『これは天翼族の誰それだ』と出てくる。
更に言えば神からの加護なんかも普通にあるのだ…当然、シャイナにもベリルにもあるし、あの侍女の双子sにもある。…ない人も居るが。
秩序と天秤の神、シグムントの加護持ちは国で見付かれば法務省預りの、将来の裁判官としてしっかり学ぶ為、王立学園の特殊枠で入学&入寮が決定される。
鑑定スキルや鑑定魔法持ちで加護持ちであれば──裁判の場で秩序と天秤の神、シグムントに宣誓してから双方の主張を聞くのだ。
『秩序と天秤の神の真名に於いて、公平正大に審議を執り行うと誓う』
…確か、そう言う文言でこの世界の何処の国でも裁判所は審議を開始する。
シグムントの加護持ち『審議官』は清廉潔白でなければ忽ちに加護を取り消され、鑑定のスキルも封じられ犯罪者のレッテルを張られる──まあ、詐欺とか偽証とか殺人とかしていなければ取り上げられずにそのまま、だけど。
この世界、『加護持ち』は優遇される──と言っても、成長しない者に神々の加護は力を失くす。
「最初は」穢れなき魂でも…成長するにつれ、大人になるにつれどんどんと醜く汚くなるのは人の常。
だから──大人になっても加護を持ち続けられる者は優遇されるし、重用される。
「…ありがとう、礼を言う。これで○○○○を失脚出来そうだ」
「どういたしまして。…もう出るの?少し遅いけれど──昼食、食べて行く?」
「ああ、貰って行こう」
「良かった。──ちょっと待ってね」
チリン、と壁の埋め込み式の飾り棚に置かれた金色の鈴を鳴らす──これは、「侍女」の双子sを呼ぶときの合図だ。
「お呼びなのです?」
「姐さん、終わりました?」
「ええ、ベッドメイキングをお願いね」
「はい、なのです!」
「任せてください!」
元気な双子の獣人二人は清潔魔法でさっと事後の汚れを落とし、ピシッと真っ直ぐにシーツの皺を無くしていく。
ものの数分で寝室を片付け、一礼して退出していく。
その間にキッチン兼リビングに移動したシャイナが冷蔵庫から食材と調味料を取り出す。
手を洗い、手際よくまな板と包丁を取り出して野菜と肉を切っていく…。
…この世界、魔法やダンジョンなんかがあるため、最初から美味しいものが比較的簡単に手に入る為か…“素材そのまま”の味がいい。故に有効に──具体的には塩以外の味が欠如している。甘味が欲しければ果物を丸かじり、酸味も…果物や野菜そのもので代用。
それらを組み合わせて『料理しよう』なんて気概が端からないのだ。
肉も魚も野菜も──焼いただけの焼き肉スタイルがスタンダード。
…折角、塩以外にも胡椒や黒胡椒、クミン、ナツメグ、ウコン、高麗人参、八角、山椒に山葵、ガラムマサラ、唐辛子に青唐辛子、タバスコやハバネロ、ジョロキア…それからバジルやローリエ、その他薬草から何かまで前世と遜色ない品揃えを見せるのに──誰も「正しくは」扱えていない。
と言うか、薬師ギルドの薬種として使われている。
所謂漢方薬とか、そう言うやつ。
…それが一番衝撃的だった。
焼いただけの肉に塩を振っただけ……いや、美味しいよ?美味しいけど──もっと『美味しいもの』を知っている前世日本人としての性か…どーしても納得出来なかった!
──故に、『華桜』に来て最初に行った改革は「食の改善」であった。
“焼く”以外に茹でる、だとか煮る以外に──蒸し料理や揚げ物料理を水の都全域に一大ブームになるまで披露して披露して披露してまわった!
「侍女」から見事「料理番」の職をも捥ぎ取ったシャイナの作る料理は…最初側付きをしていたアイリーンからアイリーンの顧客(主に高位貴族)の目に止まり、舌を唸らせた。
…そしていつしか市井にもレシピが広まり、各種便利道具や魔道具の開発で個人口座を持つに至る。
『水の都』たるアウローラの街は中央に位置する噴水広場から四方八方を湖の上に建てられた街だ。
移動は小舟を経由するか桟橋を渡るかのどちらか。
比較的大人しい渓流の街は…交易路としても栄えており、気候は年中一定の温度で陸地が見えない以外は比較的治安もいいし、暮らしやすい。
トントントン…軽快な音が響く。
リビングのソファに腰掛けたベリルの傍らにノインが淹れたコーヒーの湯気が漂う。
「どうぞ、です。ベリル様」
「ブラックでいいのです?」
「ああ、ありがとう。」
こくり、と一口飲み干せばほろ苦く甘味と酸味が広がる。
コーヒーを美味しく淹れられる“獣人の侍女”も珍しいが──此処が娼館であることが一番不思議でならない味だ。
「コーヒーはニーカさんから教わりましたっ、ですっ!」
「ニーカ…ここの人気No.2の…」
「はいっ!ニーカ姐さんは商家の産まれだったそうで…売り物であった“リアナ豆”の、珈琲豆の美味しい淹れ方を熟知されておられるのです。私とノインは他にも紅茶、緑茶、番茶、烏龍茶の淹れ方も他の姐さんの下教えられてるのですよ」
ですから何でも仰有って下さいねっ!と笑顔で元気よく告げる侍女にベリルは微笑ましくも苦笑を浮かべた。
「…つくづく俺の侍女に欲しいな、二人とも」
「!ベリル様…嬉しいですぅ。そのように喜んで頂けるとは…!」
「私達、獣人を忌み嫌う人間も多いとか。…なのに、ここの姐さん達もそうですが──“お客様”も私達を一人の人間として見てくれます…それがとても嬉しいのです。」
…人間の街で他種族は忌み嫌われる対象になりやすい。
それもまた、人間の浅ましくも臆病な心根だろう。
人間は人間と違うものに厳しい──それは世界を違えても尚変わらないのだと…シャイナは思う。
3人の会話を聞き流しながらも料理の手は止めない。
…ベリルはハンバーグを好んでいた事を以前に知っている。
ハンバーグとサラダとコンソメスープ、それから朝採れのリンゴ。これをデザートにしよう。
ベリル・アランドールと言う男はお子様舌である。
幼い子供が好きそうなものなら大概好き。
ハンバーグオムライス唐揚げ。
無論、これだけでは栄養が偏るので具沢山のコンソメスープとサラダは必須だ。
ドレッシングも塩のみの従来のアウローラで出回っていたものではなく果実を搾ったものも加え酢とサラダ油も加えた特別製。
主食はご飯。
(東月からの輸入品をこの国も栽培を開始しており、早くも今年の秋に第一収穫期を迎える)
ジュゥゥ~~ッッ。
とてもいい匂いと音がダイレクトにお腹を直撃するな。
手際よく盛り付けられたハンバーグ…付け合わせのブロッコリーを乗せ、デミグラスソースを掛けて寄ってきた双子sに配膳を任せる。
ご飯とスープも盛って…
「お待たせ。さ、熱いうちにどうぞ」
「ああ、頂こう」
「…貴女達は食堂で食べてきなさい」
「ぅぅ~~っ!食べたいのです~~っ!姐さんの手料理…とても美味しそう」
「ノイン、ダメよ」
「諦めろ、これは俺のものだ。…そもそも金を払っている俺の権利だぞ?」
「むぅ~」
「むぅ~」
「そんな顔してもダメなものはダメよ。…ほら、散りなさい」
シッシッと部屋の外へと双子を追い出して鍵を閉める。
時刻は13:15…少しズレた時間に昼食なのは──…シャイナと“ねんごろ”だったから…だが。
時間の使い方、配分は客に任されている。
ただ“抜く”だけの人もいるから、その時は次の人との時間までは休憩時間となる。
10分で店を出る人や、食事込みの3時間滞在や、夜9時ぐらいに訪ねて翌朝9時まで長期滞在する者もいるのだ。
──それでも「1日換算」で客は一律銀貨3枚~金貨4枚。
銀貨の妓は『水揚げ』されたばかりの娼婦としての経験が浅い者の1回の値段だ。
人気No.1のシャイナだと、金貨4枚が1回の売り上げ…これに加えて手料理を付けるオプションを付けると──金貨5枚。ベリルは支払う事になる。
因みに金貨1枚もあれば平民四人が1ヶ月無事に過ごせる金額だ。
「…ああ、美味いな。流石はシャイナの料理だ…芳醇なデミグラスソースの香りが肉を優しく包んでマリアージュしている……とても美味い。」
うっとりと婉然に微笑む美丈夫…、いや、普通に食べてくれませんかね?
ベリル・アランドール…この人、いちいち解説?実況しないと食べれないのか…と言いたくなるほど毎回、多分に弁舌になる。
「このサラダのドレッシングも…まるで初恋の少女とのキスを思い出す──」
……。
…いや、本当。黙って食え。
いちいちエロイし、いちいち歯の浮くような蕩けた言い回し──正直、この人の奥さんは大変だろうな、と思う。
……。
…と言うか、本当に止まらんな…?
「アイリーン嬢…ああ、あのエルフの」
「ええ、そうよ。もう何年この店に居るか分からないけど──金髪&碧眼の麗しい方よ」
シャイナは脳内でアイリーンの姿を思い描く。
金髪&碧眼の少し垂れ目がちな優しそうな女性…。
シャイナが連れてこられた6歳の頃から既に“姐さん”として売り上げ上位を誇っていた女性。
豊満な胸と括れた腰、すらりと伸びた183㎝の高身長と合わせてとても人目を惹く女性だ。
おっとりとした口調でいつも笑っているような人…それが彼女のイメージ。
「…噂でしかないけれどーー○○○○侯爵、自領で人身売買を行っているそうよ…まあ、噂であって確証がある訳ではないのだけど…」
そのアイリーンから又聞きした「噂」の内容を反芻しながら口にする。
なんでも地下施設があって選ばれた者のみにある日『招待状』が贈られてきて──後日、招待状に記された場所に記された通りに『合言葉』を受付に言えば地下へと通される…。
そこで開かれるのは世にも珍しい種族──天翼族が『商品』として並ぶこともあるのだとか。
…噂と思っていたこの話に信憑性が出たのは──アイリーンとの情事の時うっかり服に着いた天翼族の羽根が室内の床に落ちたと気付かずに翌朝そのまま会計したから、だろう。
「…それで、これ預かってきたの。何かに役立つと良いのだけれど」
この世界、鑑定スキルも鑑定魔法もあるファンタジー世界。
然るべき所に出せば羽根一枚からも『これは天翼族の誰それだ』と出てくる。
更に言えば神からの加護なんかも普通にあるのだ…当然、シャイナにもベリルにもあるし、あの侍女の双子sにもある。…ない人も居るが。
秩序と天秤の神、シグムントの加護持ちは国で見付かれば法務省預りの、将来の裁判官としてしっかり学ぶ為、王立学園の特殊枠で入学&入寮が決定される。
鑑定スキルや鑑定魔法持ちで加護持ちであれば──裁判の場で秩序と天秤の神、シグムントに宣誓してから双方の主張を聞くのだ。
『秩序と天秤の神の真名に於いて、公平正大に審議を執り行うと誓う』
…確か、そう言う文言でこの世界の何処の国でも裁判所は審議を開始する。
シグムントの加護持ち『審議官』は清廉潔白でなければ忽ちに加護を取り消され、鑑定のスキルも封じられ犯罪者のレッテルを張られる──まあ、詐欺とか偽証とか殺人とかしていなければ取り上げられずにそのまま、だけど。
この世界、『加護持ち』は優遇される──と言っても、成長しない者に神々の加護は力を失くす。
「最初は」穢れなき魂でも…成長するにつれ、大人になるにつれどんどんと醜く汚くなるのは人の常。
だから──大人になっても加護を持ち続けられる者は優遇されるし、重用される。
「…ありがとう、礼を言う。これで○○○○を失脚出来そうだ」
「どういたしまして。…もう出るの?少し遅いけれど──昼食、食べて行く?」
「ああ、貰って行こう」
「良かった。──ちょっと待ってね」
チリン、と壁の埋め込み式の飾り棚に置かれた金色の鈴を鳴らす──これは、「侍女」の双子sを呼ぶときの合図だ。
「お呼びなのです?」
「姐さん、終わりました?」
「ええ、ベッドメイキングをお願いね」
「はい、なのです!」
「任せてください!」
元気な双子の獣人二人は清潔魔法でさっと事後の汚れを落とし、ピシッと真っ直ぐにシーツの皺を無くしていく。
ものの数分で寝室を片付け、一礼して退出していく。
その間にキッチン兼リビングに移動したシャイナが冷蔵庫から食材と調味料を取り出す。
手を洗い、手際よくまな板と包丁を取り出して野菜と肉を切っていく…。
…この世界、魔法やダンジョンなんかがあるため、最初から美味しいものが比較的簡単に手に入る為か…“素材そのまま”の味がいい。故に有効に──具体的には塩以外の味が欠如している。甘味が欲しければ果物を丸かじり、酸味も…果物や野菜そのもので代用。
それらを組み合わせて『料理しよう』なんて気概が端からないのだ。
肉も魚も野菜も──焼いただけの焼き肉スタイルがスタンダード。
…折角、塩以外にも胡椒や黒胡椒、クミン、ナツメグ、ウコン、高麗人参、八角、山椒に山葵、ガラムマサラ、唐辛子に青唐辛子、タバスコやハバネロ、ジョロキア…それからバジルやローリエ、その他薬草から何かまで前世と遜色ない品揃えを見せるのに──誰も「正しくは」扱えていない。
と言うか、薬師ギルドの薬種として使われている。
所謂漢方薬とか、そう言うやつ。
…それが一番衝撃的だった。
焼いただけの肉に塩を振っただけ……いや、美味しいよ?美味しいけど──もっと『美味しいもの』を知っている前世日本人としての性か…どーしても納得出来なかった!
──故に、『華桜』に来て最初に行った改革は「食の改善」であった。
“焼く”以外に茹でる、だとか煮る以外に──蒸し料理や揚げ物料理を水の都全域に一大ブームになるまで披露して披露して披露してまわった!
「侍女」から見事「料理番」の職をも捥ぎ取ったシャイナの作る料理は…最初側付きをしていたアイリーンからアイリーンの顧客(主に高位貴族)の目に止まり、舌を唸らせた。
…そしていつしか市井にもレシピが広まり、各種便利道具や魔道具の開発で個人口座を持つに至る。
『水の都』たるアウローラの街は中央に位置する噴水広場から四方八方を湖の上に建てられた街だ。
移動は小舟を経由するか桟橋を渡るかのどちらか。
比較的大人しい渓流の街は…交易路としても栄えており、気候は年中一定の温度で陸地が見えない以外は比較的治安もいいし、暮らしやすい。
トントントン…軽快な音が響く。
リビングのソファに腰掛けたベリルの傍らにノインが淹れたコーヒーの湯気が漂う。
「どうぞ、です。ベリル様」
「ブラックでいいのです?」
「ああ、ありがとう。」
こくり、と一口飲み干せばほろ苦く甘味と酸味が広がる。
コーヒーを美味しく淹れられる“獣人の侍女”も珍しいが──此処が娼館であることが一番不思議でならない味だ。
「コーヒーはニーカさんから教わりましたっ、ですっ!」
「ニーカ…ここの人気No.2の…」
「はいっ!ニーカ姐さんは商家の産まれだったそうで…売り物であった“リアナ豆”の、珈琲豆の美味しい淹れ方を熟知されておられるのです。私とノインは他にも紅茶、緑茶、番茶、烏龍茶の淹れ方も他の姐さんの下教えられてるのですよ」
ですから何でも仰有って下さいねっ!と笑顔で元気よく告げる侍女にベリルは微笑ましくも苦笑を浮かべた。
「…つくづく俺の侍女に欲しいな、二人とも」
「!ベリル様…嬉しいですぅ。そのように喜んで頂けるとは…!」
「私達、獣人を忌み嫌う人間も多いとか。…なのに、ここの姐さん達もそうですが──“お客様”も私達を一人の人間として見てくれます…それがとても嬉しいのです。」
…人間の街で他種族は忌み嫌われる対象になりやすい。
それもまた、人間の浅ましくも臆病な心根だろう。
人間は人間と違うものに厳しい──それは世界を違えても尚変わらないのだと…シャイナは思う。
3人の会話を聞き流しながらも料理の手は止めない。
…ベリルはハンバーグを好んでいた事を以前に知っている。
ハンバーグとサラダとコンソメスープ、それから朝採れのリンゴ。これをデザートにしよう。
ベリル・アランドールと言う男はお子様舌である。
幼い子供が好きそうなものなら大概好き。
ハンバーグオムライス唐揚げ。
無論、これだけでは栄養が偏るので具沢山のコンソメスープとサラダは必須だ。
ドレッシングも塩のみの従来のアウローラで出回っていたものではなく果実を搾ったものも加え酢とサラダ油も加えた特別製。
主食はご飯。
(東月からの輸入品をこの国も栽培を開始しており、早くも今年の秋に第一収穫期を迎える)
ジュゥゥ~~ッッ。
とてもいい匂いと音がダイレクトにお腹を直撃するな。
手際よく盛り付けられたハンバーグ…付け合わせのブロッコリーを乗せ、デミグラスソースを掛けて寄ってきた双子sに配膳を任せる。
ご飯とスープも盛って…
「お待たせ。さ、熱いうちにどうぞ」
「ああ、頂こう」
「…貴女達は食堂で食べてきなさい」
「ぅぅ~~っ!食べたいのです~~っ!姐さんの手料理…とても美味しそう」
「ノイン、ダメよ」
「諦めろ、これは俺のものだ。…そもそも金を払っている俺の権利だぞ?」
「むぅ~」
「むぅ~」
「そんな顔してもダメなものはダメよ。…ほら、散りなさい」
シッシッと部屋の外へと双子を追い出して鍵を閉める。
時刻は13:15…少しズレた時間に昼食なのは──…シャイナと“ねんごろ”だったから…だが。
時間の使い方、配分は客に任されている。
ただ“抜く”だけの人もいるから、その時は次の人との時間までは休憩時間となる。
10分で店を出る人や、食事込みの3時間滞在や、夜9時ぐらいに訪ねて翌朝9時まで長期滞在する者もいるのだ。
──それでも「1日換算」で客は一律銀貨3枚~金貨4枚。
銀貨の妓は『水揚げ』されたばかりの娼婦としての経験が浅い者の1回の値段だ。
人気No.1のシャイナだと、金貨4枚が1回の売り上げ…これに加えて手料理を付けるオプションを付けると──金貨5枚。ベリルは支払う事になる。
因みに金貨1枚もあれば平民四人が1ヶ月無事に過ごせる金額だ。
「…ああ、美味いな。流石はシャイナの料理だ…芳醇なデミグラスソースの香りが肉を優しく包んでマリアージュしている……とても美味い。」
うっとりと婉然に微笑む美丈夫…、いや、普通に食べてくれませんかね?
ベリル・アランドール…この人、いちいち解説?実況しないと食べれないのか…と言いたくなるほど毎回、多分に弁舌になる。
「このサラダのドレッシングも…まるで初恋の少女とのキスを思い出す──」
……。
…いや、本当。黙って食え。
いちいちエロイし、いちいち歯の浮くような蕩けた言い回し──正直、この人の奥さんは大変だろうな、と思う。
……。
…と言うか、本当に止まらんな…?
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