７月の流星群～時の砂と星屑ロケット～

第二話:

「運命」に選ばれた日

 【ぼくと契約して魔法少女になってよ！そして異界からの招かれざる客──冥獣アビスと戦って欲しいんだ。時坂亜矢…そう、君が人類の最後の“希望”なんだ】

…私は放課後いつもの街並み、桜並木の街路樹の一角で奇妙な現象に見舞われた。

 「…ぇ!?」

…そう。空も雲も、何もかもが止まっていた。
まるでテレビの録画を一時停止したように、周り全てが“止まっていた”。

白い体毛に大きな赤目の仔猫…だが、その背には体型に合わせた白く小さな翼が生え宙に制止していた。

【やぁ、はじめまして。ぼくの名前はニャルラト──んんっ、「ホテプ」。君達魔法少女のサポート役兼牽引係さ】

前脚を器用に動かし人間のように振る舞うふわもこな仔猫…いや、脳に直接響くこの声といい、未だ街はテレビの静止画のように止まったままだと言う状況から鑑みてこの現象はこの仔猫…「ホテプ」が起こした現象ことらしい。

 「…今起きているこれは貴方の仕業？なのかしら。」

 【そうだね。…君が「うん」と言うまでいつまでも語り合おっか♪】

……。

見た目はゆるキャラとそうは変わらないのに…なかなか酷い事を平気で言うのね、この仔猫は。

 「…冥獣アビスと戦って私にメリットは？」

 【…!?ああ!!それそれ！忘れてたや。…そうそう、そうだよね…人間ってば打算がないと動かない下等種族だったものね！あはは♪ぼくってばうっかりしてたよ！】

テヘペロとする体毛は真っ白仔猫、が瞳の色は魔性を秘めた「赤」だ。
…何処か信用に欠ける胡散臭い笑顔のマスコットにジトッとした眼差しを向け閉口する亜矢。

 「…それで？あるの、メリット。」

 【あるよ、勿論。】

 「どんな？」

 【魔法少女になるのならどんな願いも一つだけ叶えてあげる。勿論この世界に入り込んだ全ての冥獣アビスを倒した後にも願いを一つだけ叶えてあげる。】

 「…どんな願いでも？」

 【ああ。…君が父親から暴力を受けている事も全てなかった事に出来るよ？】

 「…!?」

 【お♪好感触？勿論記憶だけでなくその身体も暴力を受けた痕跡そのものを無くす事も可能だ。】

 「…お父さんの記憶も消してくれるの？」

 【勿論】

 「…ッ、私…魔法少女になるわ」

 【契約成立だ、時坂亜矢──いや、魔法少女アヤリール！】

ポンッ☆

…軽快な音と共に世界が変わる音がした。

…その瞬間から私の中から父に関わる何もかもが消えてなくなったんだ。

…ブレザーの制服から上は詰め襟の黒軍服…だろうか？飾緒や飾り釦、袖縁は黄金色。下は赤の襞スカート、丈は膝小僧の上スレスレで背には膝嵩しっかまで隠れる外套マント。外套は表は黒だが裏地は赤の格好良い感じだ。絶対領域を守った黒のニーズソックス、黒の編み上げブーツ。
腰まで伸びた銀髪は金髪に、瞳は青から赤へと変化した。腰には一振りの刀を佩いている。

 「…魔法少女要素何処に？」

 【あるじゃん☆衣装チェンジ】

 「……。」

…こうして私は──魔法少女アヤリールとなったのだ。

因みに契約するまでの記憶はない。

ただ漠然と──願いは叶えられたのだと私自身が感じている事だ。
もう苦しまなくて良い、と…そう私時坂亜矢は気分を新たにこの後訪れる冥獣アビスとの死闘に身を投じる事になるのたった───…。