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待ちに待った外出
アイシャーナの勧誘
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「ふふ、ふふふふふ…ええわかったわ、ちゃーんとお礼をしないとね…」
普通に町を探索するために髪の色も変えて来てるのに…さあて、どうお礼すればいいかしら…
「…アイシャ、他の客も怯えてるの知ってる?」
近くで万年筆を選んでいたレイ兄様はこちらを振り向いて、呆れ顔でそう声をかけてくる。私はそんなレイ兄様を憎し気に睨みつけた。
「まあ意外、今まで困っていた妹を見て見ぬふりしていたレイ兄様が他を心配するなんて! なんて心が広い兄なんでしょうね? ええ??」
どうやら私を裏切ったという自覚はあるらしく、レイ兄様は気まずそうに目をそらした。
レイ兄様は店員に言いくるめられたから私を助けられなかっただけで、これは完全に八つ当たりなのはわかってるけど…でも、見てみなさいよ! 私が店員の口車にのせられて買ってしまった物の数を! パーツの位置がおかしいコアラの人形に、よくわからない香りの香水。『人間は愚かで憎い』なんてタイトルの絵本も……えっ? これ絵本よね? 子供が読むのよね? これ教育的に大丈夫なのかしら? ……こっちの世界の教育方針はよくわからないわ…
ふぅ、この3つの買ってしまった物は、お父様へのお礼にしましょう。
◇◇◇
「はあ…もう二度と貴族令嬢としてお買い物はしたくないわ…」
私たちはようやく雑貨屋(?)らしき店から出られ、近くのベンチに座った。
「ははっ、来てすぐに疲れちゃったね。次はどうする? どこかでお茶でもして休憩する?」
レイ兄様は男の子だからなのか、それとも年上だからなのか、私と違って座らずにいるにもかかわらず疲れている様子が全くない。
「いいえ! まずは服を買わないと! どこかの誰かさんのせいで、このままじゃゆっくりできそうにないもの。私についてきて!」
恐らくだけれど、お父様のせいでこの街の皆が私の来訪を知っているのだろう。そしてきっと護衛もグルだ。
どこにどの店があるかは、大体どの街も似てるから、道を聞かなくてもすぐに見つけられそうね。前世の記憶はこうやって役に立つのよ!
「ああ、それもそうだけど、諦めた方が――」
「ふふ、必ず味方につけなくちゃ!」
「…諦めを知らないのか」
◇◇◇
「よ、ようこそいらっしゃいました…こ、高貴なお方のご期待に添えるかは分かりませんが、必要なものがあればなんなりと申し付けください…」
貴族は訪れないような、質素な仕立て屋に来てみたけど…この反応を見るに、私が誰だか知っているようだから、やっぱり護衛もグルね。
「…いきなり来た私たちを歓迎してくれてありがとうございます。ところで、早速頼みたいことがあるのですけど、耳を貸してくれますか?」
優雅な笑みを貼り付け、頬に片手をあてると、元から怯えていた店員はうさぎのように肩を跳ね上がらせる。きっとわかったのだろう。私が表の表情とは真反対の感情を抱いていることと、『お願い』ではなく『頼み』と言った意図を。
「も、もちろんでございます。ああ、どうか敬語を使わないでください。わたしどもが恐縮してしまいます…」
はあ、これだから身分を明かすのは嫌なのよ…
「…ええ、わかったわ。私も頼んでいる立場だものね。そちらの願いも聞いてあげないと」
私に頼まれた店員は断れるはずもなく、恐る恐るしゃがみ、私の身長に合わせた。
「~~して、~~ほしいんだけど…あと~~も…」
「え? そ、そんなことならば今すぐにでも!」
「うん、よろしく」
店員は「失礼します!」と言い残し、ドタドタと音をたてて店の奥に走っていった。
「…いったい、何を頼まれると思っていたらあんなに喜ぶのかしらね…」
「はは、アイシャ。君の笑顔はそれだけ怖いんだよ」
「え? それはどういうことかしら、レイ兄様?」
「…そういうとこだって。…いや、なんでもない」
私が笑みを更に深めると、レイ兄様は顔をひきつらせた。
「…それで? 何を頼んだわけ?」
「うーん、ネズミ捕り?」
「……」
私の答えを聞いたレイ兄様は、その場で絶句する。
「レイ兄様?」
確かに曖昧に言いはしたけど、絶句するほどじゃないわよね? あっ! なるほど、私が本当にネズミ捕りを使うと思っているのね! 酷いわレイ兄様、私はちゃんとした(?) 作戦を立てているというのに。
「…さすがに私も人にネズミ捕りを使うほど最低じゃないわ…」
「…そんなこと思ってないって。どこでそんな言葉を覚えてきたのか気になっただけ」
「え? いや、それは…」
前世の記憶があるからとは言えないし…
「ま、今に始まったことじゃないし今更か。それに子供っぽすぎるところもあるし…どこで教育を間違えたんだか」
「……」
余計なお世話よ!
くっ…勘づかれると困るから、ここで反論出来ないのが悔やまれる…! こうなったら話を逸らすわよ!
「レイ兄様! 周りに気を使われるのが疲れると思ったことはない? 何もかもつまらない思ったことは?」
「…何かの勧誘かな?」
「一人になりたくてもなれないなんてことは? 身分を気にせずに過ごしたいと思ったことは?」
「うん、ちょっと待って、話が急すぎてついていけないんだけど。…それで? 何が言いたいの?」
お? レイ兄様が興味を示してる!
「つまり、護衛をまこうってこと!」
「はあ? ダメだよ。危険すぎる」
私が大声で宣言すると、レイ兄様は一瞬の迷いもなく即答する。
「…やっぱりそう言うと思ったわ。はーあ、私に勧誘の才能はないみたい」
「勧誘だったんだ…」
しばらく雑談して時間を潰していると、ドタドタっという足音が店員の声と一緒に聞こえてくる。
「準備が出来ました!」
レイ兄様はちらりと店員を見やると、私に小声で声をかける。
「で、本当の狙いは?」
「んー? まあ私に任せて!」
パチンとレイ兄様にだけ見えるようにウインクをすると、レイ兄様は溜め息をついた。
「…我が妹ながら恐ろしいよ」
普通に町を探索するために髪の色も変えて来てるのに…さあて、どうお礼すればいいかしら…
「…アイシャ、他の客も怯えてるの知ってる?」
近くで万年筆を選んでいたレイ兄様はこちらを振り向いて、呆れ顔でそう声をかけてくる。私はそんなレイ兄様を憎し気に睨みつけた。
「まあ意外、今まで困っていた妹を見て見ぬふりしていたレイ兄様が他を心配するなんて! なんて心が広い兄なんでしょうね? ええ??」
どうやら私を裏切ったという自覚はあるらしく、レイ兄様は気まずそうに目をそらした。
レイ兄様は店員に言いくるめられたから私を助けられなかっただけで、これは完全に八つ当たりなのはわかってるけど…でも、見てみなさいよ! 私が店員の口車にのせられて買ってしまった物の数を! パーツの位置がおかしいコアラの人形に、よくわからない香りの香水。『人間は愚かで憎い』なんてタイトルの絵本も……えっ? これ絵本よね? 子供が読むのよね? これ教育的に大丈夫なのかしら? ……こっちの世界の教育方針はよくわからないわ…
ふぅ、この3つの買ってしまった物は、お父様へのお礼にしましょう。
◇◇◇
「はあ…もう二度と貴族令嬢としてお買い物はしたくないわ…」
私たちはようやく雑貨屋(?)らしき店から出られ、近くのベンチに座った。
「ははっ、来てすぐに疲れちゃったね。次はどうする? どこかでお茶でもして休憩する?」
レイ兄様は男の子だからなのか、それとも年上だからなのか、私と違って座らずにいるにもかかわらず疲れている様子が全くない。
「いいえ! まずは服を買わないと! どこかの誰かさんのせいで、このままじゃゆっくりできそうにないもの。私についてきて!」
恐らくだけれど、お父様のせいでこの街の皆が私の来訪を知っているのだろう。そしてきっと護衛もグルだ。
どこにどの店があるかは、大体どの街も似てるから、道を聞かなくてもすぐに見つけられそうね。前世の記憶はこうやって役に立つのよ!
「ああ、それもそうだけど、諦めた方が――」
「ふふ、必ず味方につけなくちゃ!」
「…諦めを知らないのか」
◇◇◇
「よ、ようこそいらっしゃいました…こ、高貴なお方のご期待に添えるかは分かりませんが、必要なものがあればなんなりと申し付けください…」
貴族は訪れないような、質素な仕立て屋に来てみたけど…この反応を見るに、私が誰だか知っているようだから、やっぱり護衛もグルね。
「…いきなり来た私たちを歓迎してくれてありがとうございます。ところで、早速頼みたいことがあるのですけど、耳を貸してくれますか?」
優雅な笑みを貼り付け、頬に片手をあてると、元から怯えていた店員はうさぎのように肩を跳ね上がらせる。きっとわかったのだろう。私が表の表情とは真反対の感情を抱いていることと、『お願い』ではなく『頼み』と言った意図を。
「も、もちろんでございます。ああ、どうか敬語を使わないでください。わたしどもが恐縮してしまいます…」
はあ、これだから身分を明かすのは嫌なのよ…
「…ええ、わかったわ。私も頼んでいる立場だものね。そちらの願いも聞いてあげないと」
私に頼まれた店員は断れるはずもなく、恐る恐るしゃがみ、私の身長に合わせた。
「~~して、~~ほしいんだけど…あと~~も…」
「え? そ、そんなことならば今すぐにでも!」
「うん、よろしく」
店員は「失礼します!」と言い残し、ドタドタと音をたてて店の奥に走っていった。
「…いったい、何を頼まれると思っていたらあんなに喜ぶのかしらね…」
「はは、アイシャ。君の笑顔はそれだけ怖いんだよ」
「え? それはどういうことかしら、レイ兄様?」
「…そういうとこだって。…いや、なんでもない」
私が笑みを更に深めると、レイ兄様は顔をひきつらせた。
「…それで? 何を頼んだわけ?」
「うーん、ネズミ捕り?」
「……」
私の答えを聞いたレイ兄様は、その場で絶句する。
「レイ兄様?」
確かに曖昧に言いはしたけど、絶句するほどじゃないわよね? あっ! なるほど、私が本当にネズミ捕りを使うと思っているのね! 酷いわレイ兄様、私はちゃんとした(?) 作戦を立てているというのに。
「…さすがに私も人にネズミ捕りを使うほど最低じゃないわ…」
「…そんなこと思ってないって。どこでそんな言葉を覚えてきたのか気になっただけ」
「え? いや、それは…」
前世の記憶があるからとは言えないし…
「ま、今に始まったことじゃないし今更か。それに子供っぽすぎるところもあるし…どこで教育を間違えたんだか」
「……」
余計なお世話よ!
くっ…勘づかれると困るから、ここで反論出来ないのが悔やまれる…! こうなったら話を逸らすわよ!
「レイ兄様! 周りに気を使われるのが疲れると思ったことはない? 何もかもつまらない思ったことは?」
「…何かの勧誘かな?」
「一人になりたくてもなれないなんてことは? 身分を気にせずに過ごしたいと思ったことは?」
「うん、ちょっと待って、話が急すぎてついていけないんだけど。…それで? 何が言いたいの?」
お? レイ兄様が興味を示してる!
「つまり、護衛をまこうってこと!」
「はあ? ダメだよ。危険すぎる」
私が大声で宣言すると、レイ兄様は一瞬の迷いもなく即答する。
「…やっぱりそう言うと思ったわ。はーあ、私に勧誘の才能はないみたい」
「勧誘だったんだ…」
しばらく雑談して時間を潰していると、ドタドタっという足音が店員の声と一緒に聞こえてくる。
「準備が出来ました!」
レイ兄様はちらりと店員を見やると、私に小声で声をかける。
「で、本当の狙いは?」
「んー? まあ私に任せて!」
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「…我が妹ながら恐ろしいよ」
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