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女神の愛し子
ハーレン伯爵令嬢
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今年だけで2人も(表向きの)鑑定具を壊す子供が現れるなんて、神殿も大変ね…
これから忙しくなるであろう神官達に同情していると、他人事に考えている場合ではないことに気づく。
まって、私は世間には神具を壊した公爵令嬢だと思われているのよね? 貴族という肩書があると、きっと世間は壊れた原因を負に考えるはずよ。
例えば…欲張りすぎて神に見捨てられたから、八つ当たりした使用人に呪われたから、とかね。
顔良しで文武両道、公爵位を持つお父様は色々な意味で敵が多いもの…変に噂される予感しかしないわ。さらに私以外にも鑑定具を壊した人が出た。それも私と一緒で貴族令嬢…これは「貴族だから」という理由に信憑性が高くなってしまうのでは?
はあ…どうしてこうなってしまったのかしら…
このままではどうしようもないと思い、これからすべき対策に考えを思い巡らせていると、神官長が報告をしにきた神官と共に扉から出ていった。恐らく詳細の報告を受けているのだろう。
とりあえず周囲の反応を把握するために周りの様子を窺うと、案の定ほとんどが混乱しているようだ。
「ああアイシャ、戻ってきたのか」
そう声をかけてきたのは、難しい顔をしたお父様だった。
「ええ、しっかり軽食を頼んでおいたわ。あと少ししたらエリーが持ってきてくれるはずよ」
硬い空気を和ませるつもりで軽食の話をすると、そんな私が食べ物しか目にない子供に見えたのか、お父様に顔をしかめられる。
…おかしいわ。食べ物の話をすれば喜ぶと思ったのに、全く喜んでいる気配を感じない…いや、でもでも! 野菜は嫌だと子供みたいにケチまでもを付けたお父様よ!? 何かの誤解がない限り(正解)喜ばないなんてありえないわ! ええ、きっとあれね、お父様は普段は感情が表に出ないタイプなんだわ。
しかし、ここでこの話題を続けても意味はないと思い至った私は、気になっていたことを問うことにした。
「ねえお父様、ハーレン伯爵令嬢って誰なの? あのお茶会には来てなかったはずだけど…それに反応を見るに、私以外の皆は元からその令嬢を知っている様子だったわ」
あの神官がハーレン伯爵令嬢の名前が出た瞬間、その場のほとんどの人が反応を示していた。きっと平民も知っているほどその令嬢は有名なのだろう。
ハーレン伯爵は知っている。何と言っても、ハーレン伯爵がお父様をバカにしているのを偶然知った私は、彼をちょっぴり懲らしめたことがある。けれど彼に娘がいるという話は聞いたことがない。
「…ハーレン伯爵が先日養子にとった令嬢だよ。出身は平民らしい」
「えっ? ハーレン伯爵が養子を?」
いくら私が懲らしめたとはいえ、彼の性格が改善したとは思えないのだけど…とすると、何かに利用するためかしら?
お父様は私の疑問が分かったらしく、首を縦に振る。
「ああ、私も怪しいと思って調べてみたんだが…」
そこまで言いかけてグッと押し黙ると、お父様は眉間にしわを寄せた。
「…何の情報も得られなかったんだ。ハーレン伯爵に引き取られる前の令嬢は、まるで初めから存在しなかったかのように目撃情報が皆無なんだよ。そして唯一分かっているのが…」
「分かっているのが?」
「…何故か、お前と外見が瓜二つらしい」
お父様はそう言って、心底頭が痛いとばかりに頭を抱えた。
「…ふぅん、お父様の隠し子なの?」
「まさか! 私はベル一筋だよ! 信じてくれ!」
「でも、誰でも誤ちを犯してしまうものよ…」
わざとらしく落ち込んでいる素振りをすると、お父様は大慌てで否定した。
「違う! 本当に違うんだ! 例えこの王国が滅びようとも、私は確実にお前たちを選ぶ!」
必死で弁解しているお父様を、私は真顔で見つめた。決してお父様を疑っているからなのではなく、笑いそうになるのを堪えるためだ。しばらく見つめていると、お父様が捨てられそうになる犬のような目をするもので、とうとう我慢できなくなった。
「ぷっ、あははっ、ごめんなさいお父様。ちょっとからかいすぎたわ」
うっすら涙を浮かべながら笑う私を見て、お父様はようやく自分がからかわれていたのを理解したのか、微妙な顔をしてこちらを見つめてくる。
「……アイシャ」
「ごめんなさい、必死なお父様を見て出来心でつい…大丈夫よお父様、私は端から疑っていなかったわ」
「…はぁ…信頼されていることに喜ぶべきなのか、それとも弄ばれたことに怒るべきなのか…」
「えへへ、本当にごめんなさい」
――それにしても、どうもハーレン伯爵令嬢のことが引っかかる。
ハーレン伯爵はお父様を目の敵にしていて、令嬢は私に似ている、それに鑑定具を壊すほどの力を持っているなんて、何かがある気がしてならない。それでも今の私では何も出来ないから、ここはお父様に任せておいて、しばらく様子を見よう。
元平民の伯爵令嬢、か…いつか会えたら仲良くなれるといいな。私もいきなり公爵令嬢になったから、平民から伯爵令嬢になったハーレン伯爵令嬢の力になれるかもしれないわ。
これから忙しくなるであろう神官達に同情していると、他人事に考えている場合ではないことに気づく。
まって、私は世間には神具を壊した公爵令嬢だと思われているのよね? 貴族という肩書があると、きっと世間は壊れた原因を負に考えるはずよ。
例えば…欲張りすぎて神に見捨てられたから、八つ当たりした使用人に呪われたから、とかね。
顔良しで文武両道、公爵位を持つお父様は色々な意味で敵が多いもの…変に噂される予感しかしないわ。さらに私以外にも鑑定具を壊した人が出た。それも私と一緒で貴族令嬢…これは「貴族だから」という理由に信憑性が高くなってしまうのでは?
はあ…どうしてこうなってしまったのかしら…
このままではどうしようもないと思い、これからすべき対策に考えを思い巡らせていると、神官長が報告をしにきた神官と共に扉から出ていった。恐らく詳細の報告を受けているのだろう。
とりあえず周囲の反応を把握するために周りの様子を窺うと、案の定ほとんどが混乱しているようだ。
「ああアイシャ、戻ってきたのか」
そう声をかけてきたのは、難しい顔をしたお父様だった。
「ええ、しっかり軽食を頼んでおいたわ。あと少ししたらエリーが持ってきてくれるはずよ」
硬い空気を和ませるつもりで軽食の話をすると、そんな私が食べ物しか目にない子供に見えたのか、お父様に顔をしかめられる。
…おかしいわ。食べ物の話をすれば喜ぶと思ったのに、全く喜んでいる気配を感じない…いや、でもでも! 野菜は嫌だと子供みたいにケチまでもを付けたお父様よ!? 何かの誤解がない限り(正解)喜ばないなんてありえないわ! ええ、きっとあれね、お父様は普段は感情が表に出ないタイプなんだわ。
しかし、ここでこの話題を続けても意味はないと思い至った私は、気になっていたことを問うことにした。
「ねえお父様、ハーレン伯爵令嬢って誰なの? あのお茶会には来てなかったはずだけど…それに反応を見るに、私以外の皆は元からその令嬢を知っている様子だったわ」
あの神官がハーレン伯爵令嬢の名前が出た瞬間、その場のほとんどの人が反応を示していた。きっと平民も知っているほどその令嬢は有名なのだろう。
ハーレン伯爵は知っている。何と言っても、ハーレン伯爵がお父様をバカにしているのを偶然知った私は、彼をちょっぴり懲らしめたことがある。けれど彼に娘がいるという話は聞いたことがない。
「…ハーレン伯爵が先日養子にとった令嬢だよ。出身は平民らしい」
「えっ? ハーレン伯爵が養子を?」
いくら私が懲らしめたとはいえ、彼の性格が改善したとは思えないのだけど…とすると、何かに利用するためかしら?
お父様は私の疑問が分かったらしく、首を縦に振る。
「ああ、私も怪しいと思って調べてみたんだが…」
そこまで言いかけてグッと押し黙ると、お父様は眉間にしわを寄せた。
「…何の情報も得られなかったんだ。ハーレン伯爵に引き取られる前の令嬢は、まるで初めから存在しなかったかのように目撃情報が皆無なんだよ。そして唯一分かっているのが…」
「分かっているのが?」
「…何故か、お前と外見が瓜二つらしい」
お父様はそう言って、心底頭が痛いとばかりに頭を抱えた。
「…ふぅん、お父様の隠し子なの?」
「まさか! 私はベル一筋だよ! 信じてくれ!」
「でも、誰でも誤ちを犯してしまうものよ…」
わざとらしく落ち込んでいる素振りをすると、お父様は大慌てで否定した。
「違う! 本当に違うんだ! 例えこの王国が滅びようとも、私は確実にお前たちを選ぶ!」
必死で弁解しているお父様を、私は真顔で見つめた。決してお父様を疑っているからなのではなく、笑いそうになるのを堪えるためだ。しばらく見つめていると、お父様が捨てられそうになる犬のような目をするもので、とうとう我慢できなくなった。
「ぷっ、あははっ、ごめんなさいお父様。ちょっとからかいすぎたわ」
うっすら涙を浮かべながら笑う私を見て、お父様はようやく自分がからかわれていたのを理解したのか、微妙な顔をしてこちらを見つめてくる。
「……アイシャ」
「ごめんなさい、必死なお父様を見て出来心でつい…大丈夫よお父様、私は端から疑っていなかったわ」
「…はぁ…信頼されていることに喜ぶべきなのか、それとも弄ばれたことに怒るべきなのか…」
「えへへ、本当にごめんなさい」
――それにしても、どうもハーレン伯爵令嬢のことが引っかかる。
ハーレン伯爵はお父様を目の敵にしていて、令嬢は私に似ている、それに鑑定具を壊すほどの力を持っているなんて、何かがある気がしてならない。それでも今の私では何も出来ないから、ここはお父様に任せておいて、しばらく様子を見よう。
元平民の伯爵令嬢、か…いつか会えたら仲良くなれるといいな。私もいきなり公爵令嬢になったから、平民から伯爵令嬢になったハーレン伯爵令嬢の力になれるかもしれないわ。
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