無自覚な少女は、今日も華麗に周りを振り回す。

ユズ

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魔術師団の見学へ!

何を望む?

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「ひぃぃぃぃ!す、すすす、すみませんでしたー!!」

まあ、予想よりも長く持ったわね。

「ふぅん?それは何に対してあやまっているの?」

「も、もちろん令嬢に…!」

はぁぁ…ここまで言っているのにまだ理解できないなんて。

私がため息をついたのを見て己が発言を間違えたことに気づいたのか、彼の顔色は真っ青になっている。
フォード先生は「だからアイシャーナ様を怒らせてはいけないと…」などと呟いていて、全く審判としての役目を果たしていない。

「本当に?私はひがいをうけていないわ。それなのにけがをした人じゃなく私にあやまるの?」

「謝る!お前らには謝るよ!!」

先程メイエド魔術師団長に踏みつけられていた男の子は、暴力を受けた本人にあっさりと謝られ、何とも言えない表情を顔に浮かべた。

ふぅ…取り敢えずはここまでにしておこうかな。正直に言うとまだ物足りない気もするけれど、これ以上は私の評判が落ちてしまうかもしれない。家族にまで迷惑はかけたくない。

メイエド魔術師団長の実力に呆れていたのは序盤だけ。その後は水魔法で水をかけたり風魔法であちこちへ飛ばしたり(たまに脅したりしたのは内緒)…そこまでしたのに、彼はこの瞬間まで負けを認めなかった。意地だけは人一倍強いらしい。

「負けをみとめたのだし、私の勝ちね!じゃあ1つ命令するわ」

元気いっぱいでそう言うと、観衆の皆は興味津々だというばかりにこちらをキラキラと目を光らせて見詰めている。にも関わらず、フォード先生は心底げんなりした様子だ。

メイエド魔術師団長なら分かるけれど、当事者でもないフォード先生がそんな顔をするのは理解できない。

私の言葉に誰も返事をくれなかったので、言葉を続ける。

「身分を隠し、平民として生活するの」

「はあ!?」

とメイエド魔術師団長が反応し、すぐさまフォード先生がキッと睨む。

「…あ、いえ、その、すみません。驚いてしまってついこのような反応をしてしまいまして…」

どうやら私をこれ以上怒らせたくはないらしく、彼は即座に態度を改める。案外に取り繕うのは得意なのかもしれない。

「もちろん永遠じゃないわ。だけど、もしも身分を感づかれるようなことがあった場合には、さらに1ヶ月ずつきかんを増やすから、覚悟しておいてちょうだい」

観衆たちからは感心する声が様々な方向から聞こえるけれど、メイエド魔術師団長は「え、いや、それは…」と戸惑いの声を上げている。

「一週に一度はもどっても良いわ。仕事にかんしては私がなんとかしておくから、そこは安心してね」

「一週に一度…?その時以外は平民の生活をしろと!?」

そりゃあ受け入れ難いだろう。なにせ、散々馬鹿にしていた平民の生活を強要されているのだから。

でも約束は約束だから、ね?

「あなたは魔術師団長なのに、人をきずつけたのだから、罰はひつようでしょう?」

「い、いや、あれは、えっと…訓練でして…」

なんとか言い訳をしようとしているメイエド魔術師団長を、私は冷たい目で睨んだ。

「まだ入団もしていないのに?顔に火傷までさせて?」

「しかしこれはあんまりです…!」

「あら?勝ったら1つだけ言うことを聞くってやくそくしたわよね?」

何のために決闘を人の目が集まりやすい場所で始めたと思っているの?逃げ道を無くすために決まっているじゃない。

◇◇◇

「…甘すぎやしないかい?私だったら不敬罪で投獄しているところだというのに」

そう問うてきたお父様は、とても不満そうだ。

「それも考えたのけど、あの人が平民をさべつしているとしても、子供っぽかったんだもの」

すると突然、隣に立っているフォード先生が咳き込んでしまった。

「ゲホッゲホッ……失礼しました」

まあ、風邪をひいてしまったのかしらね?フォード先生に水をかけた覚えはないのだけど…ああもしかしたら、私が知らないうちにかけてしまったのかもしれないわ!

「ごめんなさい、フォード先生…」

「…それは、何故僕が謝罪されているのか理解しかねます」

んまあ、ここにも優しすぎる人がいたわ!水を浴びさせてしまったことをなかったことにしてくれるなんて!

などと自分の幸運さに驚いていると、お父様が話を戻す。

「で、子供っぽいだって?あのメイエド魔術師団長が??」

「そうなのよお父様。だって、何も考えていないような人に見えたし、きっとただ投獄するだけじゃあの性根は治らないと思うのよ」

「…つまり馬鹿だということだね」

あらお父様、わざとオブラートに包んで言ったというのに、それでは台無しだわ。

「…そうとも言うわね。でも、かんしもつけるつもりだから、簡単には平民生活から抜け出せないはずよ。だからそれでもう十分だと思ったの」

「ああアイシャ!なんて心優しいんだ!」

お父様が立ち上がってぎゅっと私を抱きしめると、その様子を見ていたフォード先生が何かを呟いた。

「…それは優しいのではなく、ただ最善策を選んだだけのようですが…」

「何か言ったかい?」

「いえ何でもありません」

即答したわね。そういうのは余計怪しまれるものなのよ、フォード先生。

そうは思うものの、重要なことを思い出したのでそちらを優先させる。

「そうだわ!お父様、メイエド伯爵の仕事は私が引き受けようと思うの」

「..........すまない、空耳が聞こえたようだから、もう一度言ってくれないかい?」

「メイエド伯爵の仕事を私が引き受けようと思うの!」

「…フォード伯爵、どうやら私は二度も同じ空耳が聞こえるほど年を取ったらしい」

お父様がそんな風にフォード先生へ問いかけると、フォード先生は無表情で答えた。
  
「失礼ながら、メイエド伯の仕事を引き受ける、と聞こえたのでしたら空耳ではないかと」

そういえばいつしか、フォード先生は見た目よりも年を取っていると思ったことがあるような?
子供の私にこの会話の意味はわからないけれど、もしかしたらフォード先生の実年齢に関しての話かもしれないわね。

でも、私がこの話題を振ったというのに、その当の本人の私が会話に入れていないというのはどういうことだろう。
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