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11.生徒会長は森に夢を見る
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「いや、忘れてた訳じゃないんだ。忘れてた訳じゃ」
昼休みの特別棟の屋上。
以前メインに使ってたランチスポットは中央達と遭遇した為、普段は施錠しているこの屋上を風紀委員長の特権で開けた幹春は、上総の前で縮こまっていた。
「忘れてた訳じゃないんだったら、肥後がその相手だって事も分かってて黙ってたの?」
「いや、それは違う」
朝食時に橘高から聞いた、衝撃の肥後幼少期の『ぼくのなつやすみ~妖怪みーくんとぼく編~』だったが、予想通りと言うか何と言うか…“みーくん”は現在、七三ダサ眼鏡で風紀委員長をしていた。
「同い年の子と会うのなんて初めてだったから、忘れる訳は無いんだ。あと大人たちにめっちゃ怒られたし」
幹春にとってのあの日は、肥後と同じく、楽しくも苦い思い出として刻み込まれていた。
「じゃあ何で今までそんな話しなかったんだよ」
ちょっと怒ってる様な言い方になってしまう上総だったが、仕方がない。
(突然の幼馴染フラグ登場とか!!こんな楽しい隠し玉持ってたなんて、ひどいよミッキー!!萌えがひどい!!!)
脳内はこれ位大騒ぎなのだから、抑えている方なのだ。
「いやだって…俺、“そーちゃん”って女の子だと思ってたし…」
「え」
幹春の記憶の中の『あの日』は、見た事も無い様な真っ白な服を着て、真っ白な肌にサラサラの黒髪、こぼれそうなほど大きな目を涙で潤ませた子を、いつもの遊び場だった山の中で見つけた所から始まる。
◇◇◇◇◇
「え…あ、あんまりいたくなくなった」
「な!」
「すごい。ここもすごくキレイなところだね」
「そうだろ?おれのおきにいりなんだ!
おまえどっからきたの?しまのこじゃないよね?」
「うん、そーちゃんおかあさんたちと、むしをみにきたの」
自分の事を「そーちゃん」と呼ぶ女の子・・・は、そう言ってさっきまで泣いてた目をキラキラさせた。
「そーちゃんっていうんだ。おれはみきはる」
「じゃあ、みーくんだね!」
「むしがみたいの?じゃあとっておきのばしょにつれてってやるよ!」
◇◇◇◇◇◇
幼い子にありがちな、母親などから呼ばれる名前が一人称になるやつだ。
しかも話に聞く限り、肥後少年は幼少期は部屋に閉じこもりきりだったそうだから、家族以外との交流も少ない為、そうなりえる。
「だって俺よりちっちゃくて真っ白で細っこくて弱い“そーちゃん”だぞ!?
誰があのデカブツ書記と同一人物だと思うよ!?」
生徒会書記 肥後 蒼士
身長185cm
短く刈られた黒髪に、意志の強そうな黒目
寡黙でいて実直。
あの後、従兄弟の橘高から聞いた話を付け加えるなら
空手三段・剣道初段・柔道二段・合気道二段
それも納得の十分な筋肉を備えた、屈強な身体を持つ男。
「うん。それは多分向こうもそう思うと思うがな」
風紀委員長 東海林 幹春
身長178㎝
キッチリ七三ヘアーに、クソダサ眼鏡。
しなやかな筋肉は常に長袖服に隠され、田舎者のボロを出さない様に口数は少なめでクソ真面目。交友関係も狭め。
思わずここに来て主人公紹介を挟んでしまうくらい、肥後の『みーくん』とは別人であろう。
お互いがお互い、大きく強く成長し過ぎて相手に気付かないというすれ違いで既に(実は)再会してから2年以上の月日が流れているときた。
「うう~ん、ここに来て幼馴染み枠の本命彼氏候補が出るとは……ミッキー、他に俺に秘密にしてる事は無いよね?」
「…っ」
前半は幹春には聞こえない様に言った後、確かめる様に問いかけた上総に、幹春の体が明らかに固まった。漫画的表現をするならば、絶対後ろに『ギクッ』って出てた。
「…ミッキー?」
「うぅ…だって怒る…」
目を逸らして縮こまる幹春は、なかなかの可愛さだったが、上総は追及の手を緩めない。2年も幹春の傍で萌えを観察していたのに、そんな自分が知らない隠れフラグなんて許されない。
「ミッキー、俺に秘密なんて許さないぞ」
「ぁうう…」
いつにない真剣な上総の視線に(萌えの為)、唯一の親友で理解者である相手を失う訳にはいかない幹春がすぐに白旗を上げた。
「実は入学して間もない頃…」
・
・
・
「生徒会長に飛びゲリした~~~~~!!???」
上総の驚愕の悲鳴が山にこだました。
「ちょ、声が大きい!!」
「あ、悪い」
立ち入り禁止の屋上と言っても、あまり大声を出せば下の階まで聞こえるかもしれない。しかも内容が内容だ。
「それで、1年の時のミッキーは何をして新北に飛びゲリをする事になったんだよ」
「それはえっと…入学してすぐだから俺もまだ…そのぉ…山が恋しくて……」
◇◇◇◇◇
父親の斜め上の善意により鶯実学園に入学をした幹春(15歳)は震えていた。
恐怖にではない、喜びにだ。
白亜の豪華な校舎もやたら設備の整った寮も置いておいて、周囲の見渡す限りの木々たちにだ。
島を出てからの半年ほどは都会の一等地で過ごしたため、こんなに視界いっぱいに緑が広がる事は無かった。山と海に囲まれて育った幹春には、それが無意識のうちにストレスになっていたらしく、山中の清涼な空気と相まって、この地は幹春に安穏をもたらしてくれた。
木々たちのざわめき、草の匂い、そして生命の気配・・。
(きっとこの森には沢山の獲物・・がいるに違いない…!)
幹春(15歳)は興奮していた。
しかしそれで我を忘れる様な事はしない。今は道具も無いし、狩れても解体するのが難しい。いや違う。
半年前の同級生たちの蔑みの目を思い出せ。心がヒヤッとして冷静になれた。
とは言っても、森の探索くらいなら良いだろう。見るだけ、見るだけ、と幹春は森に足を踏み入れた。
ちなみにこの時はまだ上総に正体はバレておらず、数々の諸注意を受ける前であったと明記しておこう。いや本当だってば。だから怒らないで。
そして日が暮れるまで森の中を跳び…走り回ってある程度満足した幹春(15歳)は、既に七三に揃えた髪はぼさぼさになっている事にも気付かず、寮に戻ろうとした。
そんな時、木から飛び降りた折に偶然にも運悪く、鳥が飛び立ちしなった木の枝が眼鏡に当たり、弾け飛んだ。
それを視線で追ってしまった幹春(15歳)は気付かなかった。木の下に人がいた事を。
◇◇◇◇◇
「それが…新北だったと…」
コクリ、と幹春が神妙に頷く。
「それで、どうしたの?」
「とりあえず息はあったし、ケガは無かったと思うけど失神してたから、一応保健室に運んでから寮に帰った」
「そうか」
上総は頭を抱えた。
どうしようこれ。ちょっと昔の少女漫画だ。と。
野性味あふれるヒロインと最悪な出会いをする王子的ヒーローそして再会してからも険悪ながら惹かれあう2人とか王道が過ぎるじゃないですかヤダー(ワンブレス)
「ん?でも新北とミッキーって、1、2年の時そんな交流あったっけ?」
「いや、無い。向こうは俺の顔を見てなかったみたいだから、なるべく関わらない様にしていた」
「あぁ~…」
フラグ建築1級なのに職業フラグクラッシャーなのか…。
そしてふと思い出す。1年時の幹春を。
入学したての幹春の身長は160㎝ちょっとで、素顔はまだ幼く、今本人が気にしている切れ長の目も、多少ツリ目でアーモンドの様にクリッとしていて可愛げがあった。
(その姿を新北が見ていたとしたら…?)
目の前の七三ダサ眼鏡の178㎝の男を見る。
(結びつかないだろうな~~~~)
1・2年時の幹春はなるべく目立たない様に、下手な事しない様に大体隅っこで気配を消しているか上総の影に隠れていた。それを見つけれて、尚且つ引っ張り出せたのは2年前の風紀委員長くらいだったので、常に人の中心にいた新北との接点も無かったと思われる。
(惜しいな~。これが途中でバレてたら、完全にミッキーが王道主人公ポジションだったのにな~~~)
時の流れの残酷さと、ヒーロー枠たちの鈍感さに上総は溜息を吐いた。
◇◇◇◇◇
(と、思ってた時代が俺にもありました)
美化委員長として、オリエンテーション後の学内清掃の書類を生徒会に提出しに行った時、上総は聞いてしまった。
「なぁ直人。お前さ、1~2歳上の従兄弟か兄貴いないか?」
「え?いないけど」
今日も今日とて当たり前の様に生徒会室にいる中央に、件の新北が真剣な顔をして尋ねていたのを。
「そうか…」
「どうかした?」
落胆した様子の新北に、中央も気になったのか追って尋ねるも、返事は別の場所から返ってきた。
「出たよ、新北の“森の妖精探し”」
ケラケラと笑う南雲に、新北はムッとした顔をして「余計な事言うな」と言うも、中央が「何なに?」と南雲にターゲットを変えて迫る。もちろん南雲はすぐに吐露した。
「新北のやつさ、入学してすぐに裏の森で迷子になった時に、妖精に会ったんだってさ」
「妖精?そんなのいるのか、この森」
「いないよ~。もう、直ちんはカワイイな~」
「さわんな。それで?どんな妖精だったんだ?」
「妖精じゃないよ、うちの生徒。
迷子になった新北が、上の方から音がしたと思って見上げたらね、うちの制服着た美少年が降って来たんだってさ」
「はぁ?」
南雲は新北の話を信じているのかいないのか、クスクス笑いながら続きを話す。
「でも新北はその後意識がなくなって、気が付いたら保健室で寝てたそうだ」
「何で意識なくなってんの?」
新北の方を振り返って訊く中央に、若干ぶすくれたまま新北は答えた。
「…それが記憶に無いんだ」
(それ確実にその相手から飛びゲリいれられたせいじゃない!?)
「保険医の話では、小柄なうちの生徒が運んでくれたそうなんだけど、いくら探してもいなくて…」
「これだけ探してもいないんですから、おそらく上級生でもう卒業したと思われるんですがね」
補足事項として西条も口出ししてきた。
「それをロマンティックなかいちょーは、もしかしたら妖精だったんじゃないのかって思ってんだよねー」
「ねー」
宮前双子ツインズの付け足しに、中央も含め皆に笑われ、新北は顔を真っ赤にしていた。
「うるさいっ!もういい!!
って、いつまでいる気だ上総!!用が済んだなら出て行け!あとこの話を外で言うんじゃないぞ!!」
「はいはい」
上総は内心の興奮を抑えて、何でも無い風を装い生徒会室を後にした。
そしてすぐに、LINEグループ『腐男子同盟+1』を起動させたのだった。
昼休みの特別棟の屋上。
以前メインに使ってたランチスポットは中央達と遭遇した為、普段は施錠しているこの屋上を風紀委員長の特権で開けた幹春は、上総の前で縮こまっていた。
「忘れてた訳じゃないんだったら、肥後がその相手だって事も分かってて黙ってたの?」
「いや、それは違う」
朝食時に橘高から聞いた、衝撃の肥後幼少期の『ぼくのなつやすみ~妖怪みーくんとぼく編~』だったが、予想通りと言うか何と言うか…“みーくん”は現在、七三ダサ眼鏡で風紀委員長をしていた。
「同い年の子と会うのなんて初めてだったから、忘れる訳は無いんだ。あと大人たちにめっちゃ怒られたし」
幹春にとってのあの日は、肥後と同じく、楽しくも苦い思い出として刻み込まれていた。
「じゃあ何で今までそんな話しなかったんだよ」
ちょっと怒ってる様な言い方になってしまう上総だったが、仕方がない。
(突然の幼馴染フラグ登場とか!!こんな楽しい隠し玉持ってたなんて、ひどいよミッキー!!萌えがひどい!!!)
脳内はこれ位大騒ぎなのだから、抑えている方なのだ。
「いやだって…俺、“そーちゃん”って女の子だと思ってたし…」
「え」
幹春の記憶の中の『あの日』は、見た事も無い様な真っ白な服を着て、真っ白な肌にサラサラの黒髪、こぼれそうなほど大きな目を涙で潤ませた子を、いつもの遊び場だった山の中で見つけた所から始まる。
◇◇◇◇◇
「え…あ、あんまりいたくなくなった」
「な!」
「すごい。ここもすごくキレイなところだね」
「そうだろ?おれのおきにいりなんだ!
おまえどっからきたの?しまのこじゃないよね?」
「うん、そーちゃんおかあさんたちと、むしをみにきたの」
自分の事を「そーちゃん」と呼ぶ女の子・・・は、そう言ってさっきまで泣いてた目をキラキラさせた。
「そーちゃんっていうんだ。おれはみきはる」
「じゃあ、みーくんだね!」
「むしがみたいの?じゃあとっておきのばしょにつれてってやるよ!」
◇◇◇◇◇◇
幼い子にありがちな、母親などから呼ばれる名前が一人称になるやつだ。
しかも話に聞く限り、肥後少年は幼少期は部屋に閉じこもりきりだったそうだから、家族以外との交流も少ない為、そうなりえる。
「だって俺よりちっちゃくて真っ白で細っこくて弱い“そーちゃん”だぞ!?
誰があのデカブツ書記と同一人物だと思うよ!?」
生徒会書記 肥後 蒼士
身長185cm
短く刈られた黒髪に、意志の強そうな黒目
寡黙でいて実直。
あの後、従兄弟の橘高から聞いた話を付け加えるなら
空手三段・剣道初段・柔道二段・合気道二段
それも納得の十分な筋肉を備えた、屈強な身体を持つ男。
「うん。それは多分向こうもそう思うと思うがな」
風紀委員長 東海林 幹春
身長178㎝
キッチリ七三ヘアーに、クソダサ眼鏡。
しなやかな筋肉は常に長袖服に隠され、田舎者のボロを出さない様に口数は少なめでクソ真面目。交友関係も狭め。
思わずここに来て主人公紹介を挟んでしまうくらい、肥後の『みーくん』とは別人であろう。
お互いがお互い、大きく強く成長し過ぎて相手に気付かないというすれ違いで既に(実は)再会してから2年以上の月日が流れているときた。
「うう~ん、ここに来て幼馴染み枠の本命彼氏候補が出るとは……ミッキー、他に俺に秘密にしてる事は無いよね?」
「…っ」
前半は幹春には聞こえない様に言った後、確かめる様に問いかけた上総に、幹春の体が明らかに固まった。漫画的表現をするならば、絶対後ろに『ギクッ』って出てた。
「…ミッキー?」
「うぅ…だって怒る…」
目を逸らして縮こまる幹春は、なかなかの可愛さだったが、上総は追及の手を緩めない。2年も幹春の傍で萌えを観察していたのに、そんな自分が知らない隠れフラグなんて許されない。
「ミッキー、俺に秘密なんて許さないぞ」
「ぁうう…」
いつにない真剣な上総の視線に(萌えの為)、唯一の親友で理解者である相手を失う訳にはいかない幹春がすぐに白旗を上げた。
「実は入学して間もない頃…」
・
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・
「生徒会長に飛びゲリした~~~~~!!???」
上総の驚愕の悲鳴が山にこだました。
「ちょ、声が大きい!!」
「あ、悪い」
立ち入り禁止の屋上と言っても、あまり大声を出せば下の階まで聞こえるかもしれない。しかも内容が内容だ。
「それで、1年の時のミッキーは何をして新北に飛びゲリをする事になったんだよ」
「それはえっと…入学してすぐだから俺もまだ…そのぉ…山が恋しくて……」
◇◇◇◇◇
父親の斜め上の善意により鶯実学園に入学をした幹春(15歳)は震えていた。
恐怖にではない、喜びにだ。
白亜の豪華な校舎もやたら設備の整った寮も置いておいて、周囲の見渡す限りの木々たちにだ。
島を出てからの半年ほどは都会の一等地で過ごしたため、こんなに視界いっぱいに緑が広がる事は無かった。山と海に囲まれて育った幹春には、それが無意識のうちにストレスになっていたらしく、山中の清涼な空気と相まって、この地は幹春に安穏をもたらしてくれた。
木々たちのざわめき、草の匂い、そして生命の気配・・。
(きっとこの森には沢山の獲物・・がいるに違いない…!)
幹春(15歳)は興奮していた。
しかしそれで我を忘れる様な事はしない。今は道具も無いし、狩れても解体するのが難しい。いや違う。
半年前の同級生たちの蔑みの目を思い出せ。心がヒヤッとして冷静になれた。
とは言っても、森の探索くらいなら良いだろう。見るだけ、見るだけ、と幹春は森に足を踏み入れた。
ちなみにこの時はまだ上総に正体はバレておらず、数々の諸注意を受ける前であったと明記しておこう。いや本当だってば。だから怒らないで。
そして日が暮れるまで森の中を跳び…走り回ってある程度満足した幹春(15歳)は、既に七三に揃えた髪はぼさぼさになっている事にも気付かず、寮に戻ろうとした。
そんな時、木から飛び降りた折に偶然にも運悪く、鳥が飛び立ちしなった木の枝が眼鏡に当たり、弾け飛んだ。
それを視線で追ってしまった幹春(15歳)は気付かなかった。木の下に人がいた事を。
◇◇◇◇◇
「それが…新北だったと…」
コクリ、と幹春が神妙に頷く。
「それで、どうしたの?」
「とりあえず息はあったし、ケガは無かったと思うけど失神してたから、一応保健室に運んでから寮に帰った」
「そうか」
上総は頭を抱えた。
どうしようこれ。ちょっと昔の少女漫画だ。と。
野性味あふれるヒロインと最悪な出会いをする王子的ヒーローそして再会してからも険悪ながら惹かれあう2人とか王道が過ぎるじゃないですかヤダー(ワンブレス)
「ん?でも新北とミッキーって、1、2年の時そんな交流あったっけ?」
「いや、無い。向こうは俺の顔を見てなかったみたいだから、なるべく関わらない様にしていた」
「あぁ~…」
フラグ建築1級なのに職業フラグクラッシャーなのか…。
そしてふと思い出す。1年時の幹春を。
入学したての幹春の身長は160㎝ちょっとで、素顔はまだ幼く、今本人が気にしている切れ長の目も、多少ツリ目でアーモンドの様にクリッとしていて可愛げがあった。
(その姿を新北が見ていたとしたら…?)
目の前の七三ダサ眼鏡の178㎝の男を見る。
(結びつかないだろうな~~~~)
1・2年時の幹春はなるべく目立たない様に、下手な事しない様に大体隅っこで気配を消しているか上総の影に隠れていた。それを見つけれて、尚且つ引っ張り出せたのは2年前の風紀委員長くらいだったので、常に人の中心にいた新北との接点も無かったと思われる。
(惜しいな~。これが途中でバレてたら、完全にミッキーが王道主人公ポジションだったのにな~~~)
時の流れの残酷さと、ヒーロー枠たちの鈍感さに上総は溜息を吐いた。
◇◇◇◇◇
(と、思ってた時代が俺にもありました)
美化委員長として、オリエンテーション後の学内清掃の書類を生徒会に提出しに行った時、上総は聞いてしまった。
「なぁ直人。お前さ、1~2歳上の従兄弟か兄貴いないか?」
「え?いないけど」
今日も今日とて当たり前の様に生徒会室にいる中央に、件の新北が真剣な顔をして尋ねていたのを。
「そうか…」
「どうかした?」
落胆した様子の新北に、中央も気になったのか追って尋ねるも、返事は別の場所から返ってきた。
「出たよ、新北の“森の妖精探し”」
ケラケラと笑う南雲に、新北はムッとした顔をして「余計な事言うな」と言うも、中央が「何なに?」と南雲にターゲットを変えて迫る。もちろん南雲はすぐに吐露した。
「新北のやつさ、入学してすぐに裏の森で迷子になった時に、妖精に会ったんだってさ」
「妖精?そんなのいるのか、この森」
「いないよ~。もう、直ちんはカワイイな~」
「さわんな。それで?どんな妖精だったんだ?」
「妖精じゃないよ、うちの生徒。
迷子になった新北が、上の方から音がしたと思って見上げたらね、うちの制服着た美少年が降って来たんだってさ」
「はぁ?」
南雲は新北の話を信じているのかいないのか、クスクス笑いながら続きを話す。
「でも新北はその後意識がなくなって、気が付いたら保健室で寝てたそうだ」
「何で意識なくなってんの?」
新北の方を振り返って訊く中央に、若干ぶすくれたまま新北は答えた。
「…それが記憶に無いんだ」
(それ確実にその相手から飛びゲリいれられたせいじゃない!?)
「保険医の話では、小柄なうちの生徒が運んでくれたそうなんだけど、いくら探してもいなくて…」
「これだけ探してもいないんですから、おそらく上級生でもう卒業したと思われるんですがね」
補足事項として西条も口出ししてきた。
「それをロマンティックなかいちょーは、もしかしたら妖精だったんじゃないのかって思ってんだよねー」
「ねー」
宮前双子ツインズの付け足しに、中央も含め皆に笑われ、新北は顔を真っ赤にしていた。
「うるさいっ!もういい!!
って、いつまでいる気だ上総!!用が済んだなら出て行け!あとこの話を外で言うんじゃないぞ!!」
「はいはい」
上総は内心の興奮を抑えて、何でも無い風を装い生徒会室を後にした。
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